アスリートの魂「折れない心を トライアスロン 佐藤優香」 2015.10.29


オリンピック競技の中で最も過酷といわれるトライアスロン。
スイム1.5キロバイク40キロラン10キロを続けて行います。
この競技日本人初のオリンピックのメダル獲得を期待されている選手がいます。
(実況)佐藤優香初優勝!ユースオリンピックで世界一に輝いた日本の若きエースです。
武器は171センチの日本人離れした体格。
そして並外れた筋力。
この2つが生み出すスピードで相手を抜き去ります。
しかし今世界のトップ選手たちの分厚い壁に直面しています。
(解説)えっとこれは日本選手のようですね。
(実況)佐藤優香です。
百戦錬磨の選手たちとの激しいつばぜり合い。
浮かび上がったのは自らの心の弱さ。
今求められるのは決してあきらめない強い心。
限界まで自分を追い込みます。
リオのメダルを目指して。
佐藤選手苦闘の記録です。
おはようございます。
佐藤選手はリオデジャネイロ・オリンピックの代表選考レースを1か月後に控え合宿を組んでいました。
はいこの1本目5を割らないように。
1本よ〜いゴー!朝7時まずはスイムの練習です。
チームメートは7人。
2人のオリンピック経験者が所属する日本でトップレベルのチームです。
全日本のコーチも務める…日本人プロ第1号でこの世界の草分け的存在です。
トライアスロンの練習は持久力を徹底的に鍛えます。
僅かな休憩を挟んだだけで試合の3倍4.5キロを泳ぎ込みました。
午後からはバイク。
一日に走る距離は試合とほぼ同じ30キロから50キロ。
1周ごとにタイムを計ります。
はいストップ。
1時間半の休憩を取っただけで最後のランへ。
疲れはピーク。
試合と同じ10キロを走り込みます。
練習は毎日8時間に及びます。
(取材者)お疲れさまでした。
よく体力続きますね。
絞り出してる感じです。
タイムとか落ちちゃったら監督から一声浴びてしまうんでここを押すんだって言われてもうひたすら頑張るしかないので頭ん中何もないです。
食事もトライアスロンに合わせた特別メニューです。
一日に摂取するのは4,500キロカロリー。
成人男性のおよそ2倍です。
スイムのためにはたくさん食べて筋肉をつけなくてはなりません。
ところがランでは体重が軽い方が有利です。
そこで馬刺し焼き魚赤身の牛肉など脂肪分の少ない肉や魚を選びます。
(取材者)ちなみに好きなものって何ですか?ハンバーグです。
(取材者)ハンバーグですか。
大好きな甘いものも一切封印しています。
(ノック)
(取材者)お邪魔してもいいですか?はいどうぞ。
夜寝ている間もトレーニングの時間です。
(取材者)これは何ですか?これはこの2台は低酸素テントっていう一式の機械のもので…。
酸素が20%薄い状態を作り出す低酸素テント。
毎日この中で寝れば筋肉により多くの酸素が運ばれるようになり持久力が高まるといいます。
(取材者)熟睡できるんですか?熟睡できる時と体が本当に疲れてきてる時はもう苦しくて起きちゃいます。
夢のオリンピックに出場するために一日の全てをささげています。
佐藤選手の強さの秘密は海外の選手に引けを取らない体格が生み出すスピードです。
国立スポーツ科学センターではあらゆる競技のトップアスリートの体格を分析しています。
その中でも佐藤選手の体格はスイムバイクラン全てに有利だと言います。
佐藤選手の身長はトライアスロンの女子日本代表の中で最も高い171センチ。
腕の長さは代表選手の平均を2センチ上回ります。
脚は4センチも長いといいます。
更に長い脚を動かす筋力も並外れています。
背骨と太ももの骨を結ぶ大腰筋。
脚を前に引き上げる筋肉です。
佐藤選手はこの大腰筋が代表選手の平均より20%も太い事が分かりました。
長い手で大きく水をかき大腰筋が生み出すキック力でリードを奪います。
バイクではペダルを力強く引き上げスピードにのります。
スイムとバイクで先行して逃げきるのが必勝パターンです。
18歳の時ユースオリンピックで金メダル。
そして去年世界トップレベルの国際大会で4位入賞。
日本人初のオリンピックのメダル獲得へ大きな期待が寄せられています。
佐藤選手が所属するチームの寮。
この日は週に一度の休日です。
いきますか?いいよ。
頑張れ〜!
(一同)アハハハ!優しい先輩です。
ですごいかっこいいです。
調子が悪かったりすると「大丈夫だよ」って「私もそんな時期あったよ」って声をかけてくれたりします。
趣味は5歳から習っているピアノ。
お気に入りのグループの曲を聴くのが一番の楽しみです。
(取材者)中でも誰のファンですか?今市さんです。
かっこいい。
(取材者)どんなところが好き?もう顔と性格と歌ですねはい。
(取材者)甘い声で?はいアハハハ!かっこいいです。
(取材者)彼氏っていうのはいるんですか?いないです。
そういう時間がないですねはい。
欲しいとも思わなくなっちゃいましたはい。
(取材者)もうトライアスロン?そうですね。
トライアスロン…大好きですハハハハ。
恋人はトライアスロン。
もう15年近くつきあってきました。
トライアスロンを始めたのは9歳の夏。
母に勧められて小学生の大会に出たのがきっかけでした。
決して体は大きくありませんでしたが勝ちたいという気持ちは人並み以上。
転んで腕の骨を折った時もあきらめずに走り続けました。
一番になれなかったレースは本当にずっと泣いていましたし何かもうすごい気が強かったです。
中学生になると急激に身長が伸びその体格は大きな武器になっていきました。
毎年全国大会に出場し必ずと言っていいほど優勝してきました。
ところが中学3年生の時母の栄子さんは家の壁に大きな穴を見つけます。
大会で優勝を逃した日の事でした。
自分の成績もちょっとうまくいかないとかいう時もあったんで何かガッてやっちゃったみたいですよ。
そのころ佐藤選手の潜在能力の高さにほれ込んだ飯島監督がスカウト。
チームの寮に入り高校に通いながら指導を受けてきました。
(飯島)海外の選手対抗するのには非常にその手足の長い日本人にはなかなかない体形の選手。
佐藤が27〜28ん時ってのはこのまま続けてくれたら面白いんじゃないかってのはその時は感じてましたね。
しかしジュニアを卒業し世界トップレベルの大会に出るようになると高い壁が立ちはだかりました。
3年前二十歳の時に出場した国際大会。
ロンドンオリンピックの代表選考を兼ねていました。
30位と完敗。
オリンピックの出場を逃しました。
その後も国際大会に出続けていますが成績は安定せず大きく負ける事も少なくありません。
この2年間の大会の種目ごとの順位です。
試合の傾向を見ると武器のスピードが生かせるスイムとバイクでは上位に入るもののもっとも持久力を要求されるランで大きく順位を下げています。
更に得意のバイクも不振に陥る出来事がありました。
去年10月の国際大会。
(解説)えっとこれは日本選手のようですね。
(実況)佐藤優香です。
レースナンバー21番。
カーブ手前の競り合いで前の選手と接触し転倒。
以来カーブでスピードを出すのをためらうようになってしまいました。
以前のように勝てなくなる中で勝負への執念は次第に影を潜めていきました。
7月末。
オリンピックの最初の選考レースが間近に迫り2度目の強化合宿が行われました。
日本代表に選ばれるのは3人だけ。
来年4月までの5試合のいずれかで8位以内に入る事が最低条件です。
佐藤選手は監督と共に戦略を立てました。
1つ目は得意のスイムでより大きなリードを稼ぐ事。
スイムではバトルと呼ばれる激しい体のぶつけ合いが繰り広げられます。
時には殴られたり水中で足を引っ張られたりする事もあります。
このバトルに競り勝って順位を上げようと考えました。
ライバルたちを寄せつけない泳ぎ方を身につけます。
普通の泳ぎ方は速く泳ぐために腕をコンパクトに折り曲げて素早く回転させます。
これに比べると佐藤選手は腕を大きく横に伸ばしているのが分かります。
こうして腕を振る範囲を広げほかの選手が近づきにくくするのです。
2つ目の戦略は苦手なランの強化。
よ〜いはい!レース直前にもかかわらずほぼ毎日10キロを走り込みました。
持久力を高めスイムとバイクで稼いだリードをランで守る戦略。
何としてもオリンピックへの切符をつかむつもりです。
1年後のオリンピックと同じコースで代表選考を兼ねた大会が開かれました。
目指すは8位以内。
(スタートの合図の音)70人が一斉にスタート。
集団になって泳ぐうちバトルが始まりました。
平常心を失った佐藤選手。
練習の成果が出せず24位と大きく出遅れました。
次のバイクで巻き返しを図ります。
第1集団は総勢27人。
トップ集団に遮られなかなか前に出る事ができません。
順位を上げる唯一のチャンスはこの下り坂のカーブ。
加速して前へ出たいところです。
しかし…。
スピードを出せません。
かつてのカーブでの転倒が拭い難い恐怖として残っていました。
最後のラン。
攻める気持ちが影をひそめていました。
最後の競り合いでも粘る事ができず抜かれてしまいました。
16位。
この大会オリンピックへの切符はつかめませんでした。
足りないのは最後まで勝負をあきらめない心。
試合後飯島監督はそう指摘しました。
一秒だろうが負けは負けっていうとこのシビアな部分っていうのはもっともっと彼女は持った方がいいですね。
それは日々の練習から。
次の選考レースまで1か月。
じゃあ予定どおり。
飯島監督は佐藤選手の心を徹底的に鍛える事にしました。
バイクでのターン。
恐怖心を克服するための特訓です。
スピードを落とさないようにブレーキはギリギリまで遅らせます。
転倒のイメージと闘いながらのターン。
連日2時間の練習を続けました。
3秒よ〜いドン!そしてランでも折れない心を鍛えます。
飯島監督は1キロを3分30秒のペースで走らせました。
ふだんより10秒も早いタイムです。
その結果は…。
佐藤選手がクリアできたのは最初だけ。
徐々にペースが落ちていました。
45…6秒7!ラストファイト!30!1…。
33!3秒フラッ!
(一同)ありがとうございました。
苦しいゾーンを押していくという今日最後の練習でやはり俺から言わせれば甘さの残る本当に。
それで本当に世界とかメダルとかって言っていいのかって本当に俺は思うよ正直言って。
練習で押せないものは絶対レースでは押せない。
ほかの国の今トップでいるランキング10番までの選手浮かべてやってみろよ。
本当に勝ちたいならもっと自分を追い込め。
もがく佐藤選手にあるメッセージが届きました。
あこれです。
それは母栄子さんからの言葉でした。
「優香は小学生のころ絶対に勝ってやる!どんなときも優勝!って頑張ってたけど今はそういう気持ちが薄れて優しくなってる」。
当時の映像も添えられていました。
「あのころを思い出して敵を睨み返すくらいの気持ちになりなさい」。
体は小さくても決して勝負をあきらめなかったあのころ。
佐藤選手の原点です。
気付いたら性格もだんだんトゲトゲしていたものがま〜るくなっていって何か昔のような何が何でも絶対負けないっていうようなトゲトゲした気持ちがなくなっていますね。
昔のような気持ちがあればまたもう一段自分のレベルが上がると思うんですけど。
最後まで決してあきらめない。
合宿の疲れはピーク。
それでも限界まで自分を追い込みます。
ハァハァハァハァ…。
はいラスト!ハァハァハァハァハァ…。
リオへの切符は絶対につかんでみせる。
日本代表を決める2つ目の国際大会。
佐藤選手は5人の日本人選手と共に挑みました。
大会のコースです。
スイムは湖を2周。
バイクは市街地を9周。
ターンは45回もあります。
最後にランを4周。
カーブの多い世界でも難しいコースです。
(場内アナウンス)ジョーゲンセン!
(拍手と歓声)今シーズン最大の国際大会。
世界ランク上位の強豪が集結しました。
(場内アナウンス)フロムジャパンユカ・サトウ!
(歓声)今度は攻め続けると決めていました。
(場内アナウンス)オンユアマーク!
(スタートの合図の音)ライバルたちが前を塞ぎにかかります。
大きく腕を振る泳ぎ。
その腕で何人もの体を押さえつけ乗り越えていきます。
攻撃的な泳ぎで先頭集団につけます。
スイムを終えて15位。
バイクに乗り換え更に上位を目指します。
課題のターン。
佐藤選手は練習どおりスピードを落とさずに回っていきます。
積極的な走りで11位まで追い上げます。
ところが5周目の事でした。
緑のウエアの選手が突然声を荒げました。
「佐藤!」って怒鳴られて「ちょっとコーナーを攻めすぎなんじゃないか」みたいな感じで怒鳴られてしまって…。
今まではここで消極的になっていた佐藤選手。
攻め続けます。
そして前方に2大会連続でオリンピックに出場したベテラン井出樹里選手の姿が見えてきました。
先輩には絶対譲れない。
譲りたくないっていう気持ちがあったんです。
ターンでの勝負。
ブレーキをどちらが長く我慢できるか。
ここで井出選手がブレーキ。
この時佐藤選手はまだブレーキを握っていません。
ギリギリまで我慢して…ここでブレーキ。
転倒のリスクをかえりみずスピードを落とさない走り。
追い抜きました。
佐藤選手は45回のターンを徹底的に攻め抜きました。
この結果8位で最後のランへ。
攻める気持ちで競り合いを制しました。
ところが…。
全力でターンとダッシュを繰り返した事で足に予想以上の負担がかかっていました。
次々に抜かれていきます。
いつもなら攻める気持ちを失ってしまう場面。
それでもあきらめません。
31位。
オリンピック出場をこの大会で決める事はできませんでした。
それでも最後まであきらめず全ての力を使い切りました。
折れない心。
その手応えをつかんだ佐藤選手。
帰国2日後に練習を再開しました。
5秒45秒4。
国内でオリンピックの代表に選ばれた選手はまだいません。
佐藤選手は既に次の選考レースを見据えていました。
もう後がない状態だと思ってるので強い気持ちを持って表彰台に立つ意識を持って日々のトレーニングを積み上げていく中で自分の強さというものを得ていくしかないなと思います。
佐藤優香選手23歳。
目指すは日本人初のオリンピックのメダル。
限界まで己を追い込みつかみ取る覚悟です。
2015/10/29(木) 01:30〜02:15
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「折れない心を トライアスロン 佐藤優香」[字]

トライアスロンで五輪メダル候補と期待される佐藤優香選手。小学生から競技を始めた生え抜き。リオの代表を目指し激しい競り合いに勝つため特訓を続ける。挑戦の日々に密着

詳細情報
番組内容
水泳1.5km、自転車40km、マラソン10kmを1日で行い、最も過酷な競技といわれるトライアスロン。佐藤選手は18歳で参加したユース五輪で金メダルを獲得。ところがロンドン五輪予選では、トップ選手たちがライバルを脱落させようと繰り広げるしれつな競り合いに遭遇し惨敗した。9月のシカゴ大会でライバルとの競り合いに勝ち抜く強さを発揮できるのか。そして五輪代表をつかむことができるのか、佐藤選手の苦闘に迫る
出演者
【語り】萩原聖人

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – マラソン・陸上・水泳

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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