木曜時代劇 ぼんくら2(2)「信じる心」 2015.10.29


本所深川見廻り方同心井筒平四郎がひいきにしている煮売り屋お徳の商売敵が夜逃げをした頃…
(お六)キャ〜!あっ!あっ!あ〜っ!
植木職の佐吉が実の母である葵を殺したという知らせが届いた
(平四郎)でもってその葵を佐吉が…殺した?
(弓之助)はい。
葵は湊屋総右衛門の愛人であり佐吉を捨てた過去があった。
押っ取り刀で駆けつけた平四郎の前に総右衛門の片腕久兵衛が現れる
堅い挨拶は抜きだ。
もう一度聞く。
あんた一体何しに来た?
(久兵衛)すまないねお六。
いいえ。
親分。
(八助)へい。
さっき俺がここに来た時に家の中をうろついてたようだが何か調べ物でもあったかい?広い家でございますからね。
勝手を知りてえと思っただけでござんす。
そうかい。
だったら構わねえよ。
続けてくんな。
お気遣いありがとうござんす。
親分さん。
佐伯様のお顔を潰す事を案じておられるのでしたらご心配はいりません。
もう既に主の総右衛門と佐伯様の間でお話がついてる頃合いでしょうから。
話はついてる?
(久兵衛)本日も葵様の亡骸を検められた後佐伯様はすぐに湊屋へおいでになりました。
抜かりはねえという訳だ。
はい。
…で?私がこちらに参りましたのは葵様の亡骸をお寺に移す算段をするためでございます。
湊屋の菩提寺。
…な訳ねえか。
しかるべきお寺には既に話がついております。
その事全て佐伯殿も承知してるって事だ。
はい。
ふざけろ!…って事はお前たちは佐吉が葵を殺したもんだと頭から決めてかかってるって事じゃねえか。
言っとくがなまだ事情は何も分かってねえはずだ。
なのに佐吉がやったと決めつける。
何でそんな乱暴な事ができるんだ。
湊屋ならいざ知らずあんたそれでいいのかい?久兵衛さん。
あんたそういう人だったのかい?親分さん。
へっ?こういう次第でございますから佐吉を見張っては頂けませんか?今夜一晩でようございます。
明日には佐伯様に湊屋の名代としてお目通りを願って万事滞りなく致しますので。
さようですか。
じゃあそうしましょう。
あっしは番屋に詰めておりますんで…。
ごめんなすって。
内済で済ませりゃ懐も潤う。
足取りも軽やかなもんだぜ。
井筒様。
佐吉は必ずお恵のもとに帰します。
今後も何の差し障りもないよう金も惜しまず念入りに取り計らいます。
この皺首に懸けましてもそれはお約束致します。
ですから…。
そうじゃねえんだって。
俺はな佐吉が葵を殺したとは思ってねえ。
いや金輪際ないとは言い切れねえ。
佐吉と葵の間には込み入った事情がある。
だからやむにやまれず葵を手にかけてしまう事があるかもしれねえ。
けどなまだ何も分かってねえから佐吉を下手人だと決めつけるなと言ってる。
井筒様。
こらえて下さいまし。
このとおりでございます。
だから…。
ご勘弁下さいまし。
お願いでございます。
とどのつまり平四郎は折れた
葵様がいなくなったら私たちここを出ていかなきゃならないね。
なんとかなるよ。
今までもそうだったろ?あっお帰りでございますか?あんたの子かい?はい。
ゆきにみちです。
ご挨拶は?ゆきでございます。
みちでございます。
あいよ。
年子だな。
そりゃ大変だ。
けどまあ後の事はこの久兵衛に任せておけばいい。
あんじょうしてくれるはずだ。
なあ?井筒様にはご足労おかけ致しました。
また来る。
お六。
井筒様の言うとおり後の事はきちんと面倒を見ますから安心していなさい。
ありがとう存じます。
ただしあのお方には余計な事はしゃべらないように。
それが葵様のためなんだからね。
…はい。
決して。
(烏の鳴き声)うわ〜!
(鳴き声)お徳さんこんにゃくあるかい?
(お徳)あるよ〜!ここのこんにゃくおいしいんだよ〜。
ここ入れとくね。
毎度。
あいよ。
お徳さんお徳さん!にらんでるよ。
えっ?ほらほら。
ほっときゃいいのさ。
毎度。
ありがとよ。
入れとくね。
この2人お徳の店の商売敵であったおかず屋の小女である
何だい?
おかず屋のおかみが夜逃げをしてお徳を恨んでいる節があった
話があるなら言ってみたらいいだろう!文句があるならじかに言うもんだ!そんな所でにらんだまんまじゃ何が何だか分かんないだろう!
(おさん)な…何よ!だから「何だい?」って言ってんだよ!あんたが…あんたがおかみさんを…。
私があんたのおかみさんを…何だって!?だ…だから…だから!だから何だって言うんだよ!?もういっぺん言ってみな!おかみさんを…!えっ!?ああ〜ん!おかみさんが…。
おかみさんが…。
ちょいと!泣くのやめて!立ちなさいよ。
あんたらこれからどうすんのさ?頼りにする当てあんのかい?私たち…私たち…どうしていいか分かんない。
えっ?助けて…助けて…。
はい!こっちだろ?こっち。
はい!あっ!ハハハ…!
(杢太郎)弓太郎!旦那のお迎えだぜ。
おお!これはどうも。
あっ井筒の旦那さんお帰り。
うん。
親分すまなかったな。
とんでもねえ。
この子のおかげで佐吉は大助かりでしょうよ。
俺たちの嫌みを聞かされずに済んだんですから。
ハハハ…!佐吉。
やったかやってないかはさておきお前はすぐ帰れる。
帰ったら話そう。
兄さん!兄さんを頼みます!八助さん!親分!ああ!任しときな。
兄さ〜ん!ああ〜ん!兄さ〜ん!兄さ〜ん!兄さ〜ん!ああ〜ん!兄さ〜ん!ああ〜ん!兄さ〜ん!もういいよ。
お前のうそ泣きは絶品だな。
ありがとうございます。
久兵衛さんがいらしたとお聞きしました。
お元気でしたか?ああ。
相変わらず湊屋に関わりのある所で働いてるようだ。
湊屋さんが久兵衛さんのような忠実なお方を手放す訳がありません。
それで叔父上…。
何で佐吉が葵の住んでる所を知っていたのか。
いやそれ以前にどうして葵が生きてると知ったのか。
…だろ?はい。
鉄瓶長屋の跡地におふじの寮が建ったのは知ってるな?
鉄瓶長屋とは総右衛門の女房おふじと愛人の葵との因縁がある土地に建っていた長屋なのだがあれやこれやの騒ぎのあと取り壊され…
今はおふじが一人暮らす寮が建っていた
(久兵衛)最初はおふじ様のひと言からでした。
おふじがどうしたって?今年の春でしたか庭の手入れを佐吉に頼みたいと言いだしたらしゅうございます。
おふじが?旦那様はおふじ様が何度もおねだりになるのでそれならと植木屋としてひいきにしてやれとお許しになったそうでございます。
聞いてねえな佐吉からは…。
佐吉にも思うところがあったのでございましょう。
ところがその佐吉におふじ様が打ち明けたそうなのです。
何を?葵様は佐吉を置いて出奔したのではない。
死んでいるのだと。
それが事の発端でございます。
そういう訳だ。
だから佐吉が戻ってくるまで大島のお恵のもとに張り付いてくれねえか?
(小平次)張り付くので?帰ってきたらこっちに必ず連れてこい。
承知致しました。
坊ちゃんをお送りしてから大島まで足を伸ばします。
あっちょっと家に帰って女房にその事伝えてきます。
ああ。
どうした?どうしておふじさんは「葵さんは死んでいる」などと過去を蒸し返すような事を言ったのかと思いまして。
おふじは葵を殺し亡骸を埋めたと信じ込んでる。
その場所鉄瓶長屋の跡地に建てた屋敷に住んでるんだ。
毎夜毎夜葵の亡霊が…。
(せきこみ)どちらにしてもだ。
おふじにその話を聞かされた佐吉は総右衛門の所に行った。
…らしい。
そして何があったか知らねえがとうとう総右衛門から本当の事を聞き出した。
…らしい。
葵さんが芋洗坂の屋敷で生きてると?ああ。
総右衛門の野郎今までおふじから葵を守るためにうそにうそを重ねてきたくせによ肝心要な時に何でうそをつき通さねえ。
ふざけろ!ですがこのままうやむやになっては…。
だからこそ俺たちがなんとかしなきゃならんのだ。
はい。
佐吉さんが帰ってきてからですね。
ああ。
弓之助。
お前本当に佐吉が…。
えっ?えっ?…いやいや何でもねえ。
食え。
あ…はい。

(志乃)ただいま戻りました。
どうしたのですか?怖い顔して…。
そうか。
怖い顔をしているか。
ああそれよりもだ。
弓之助の人転がしは手妻遣い顔負けだ。
あっちへころころこっちへころころ。
また訳の分からない事を。
あっちへころころ。
こっちへころころ。
…といえばほら昔旦那様が入れ揚げた浅草の女水芸人がいましたが何という名前でしたでしょうか。
えっ?叔父上が入れ揚げたのでございますか?そうなのです。
確か白蓮斎何とか。
貞州だ。
さあ〜!ほい!
(拍手と歓声)さあ〜!ほい!
(拍手と歓声)ほい!そのいかれぶりが組屋敷中の評判になったのです。
それでどうしたのでございますか?新しい小袖を買って頂きました。
ああ…なるほど。
河合屋の父も浮気をすると母によく小袖を買ってまいります。
いやいやあのなそういうんじゃなくて…。
恐らくその白蓮斎何とかという人は私の若い時に似ていたのでしょう。
ねっ?あなた。
ハハハ…!それからしばらくしてな貞州の水芸がおとがめを食らって消えて無くなった。
風のうわさじゃ病で死んだって話だ。
水芸は体が冷えるのかもしれませんわねえ。
ハハハ…。
おい。
はあ…はあ…。
えっ?呪ったんじゃねえかと俺は思ってる。
ああ…机が…ああ…!叔父上!あっ!あっ!行ってこい行ってこい。
坊ちゃん帰りますよ。
…ってあれ?坊ちゃんは?うへぇ。
うへぇ〜。

(いびき)
(佐吉)お恵…。
(お恵)申し訳ありません。
お使い立てしちゃって。
いいんですよ。
そのために来てるんですから。
長坊。
ちゃんと手伝うんだよ。
あいあい。
ヘヘヘ。
よっと…。
う〜ん。
おっと。
よしっと…。
よっと…。
よし。
ごめんなさい。
佐吉さんなら帰ってきます。
今日は無理でも明日には。
もうすぐです。
…はい。
湊屋は佐吉がやったと思ってる。
だが表沙汰にはせず葵は病死という事にでもして佐吉も放免される事になるだろう。
まあそんなところでしょうね。
どこの大店でもやっかいな事が起きればそうやって始末します。
ご不満なんでしょう?旦那は…。
大人気ねえがな。
やったかやってねえかは分からねえ。
佐吉にじかに聞くしかねえと思ってる。
それがようござんしょう。
話はそれからです。
ああ。
けど葵もとんでもねえ置き土産を置いてったもんだぜ。
おふじといい葵といいつくづく女ってのはやっかいな生き物だ。
くわばらくわばら。
あなた。
はい。
政五郎にお茶を。
ああ…。
どうぞ。
ああ恐れ入りやす。
何やってんだほら。
いいんですかい?それじゃ。
(友兵衛)ちょいとお嬢さん。
(おとよ)あっはい。
どうかしなすったのかね?幸兵衛長屋という所を探しているんですの。
それならここを行って…。
あっ…?おい。
(おしま)へい。
ああ!旦那旦那。
お徳どうした?おかず屋ですよ。
あ…?向こうで商売してんです。
えっ?ほ〜れ旦那。
えっ?あれ〜?あんたどうしたんだい?あ…何だか戻ってきてしまいました。
戻ってきてしまいましたってあんた。
ちょいちょい!ちょい!鍋を焦がしちまうなんてなあ!ハッハッハ…!笑い事じゃありませんよ!もう大変な騒ぎだったんですから!おかみさんがいなくなってこの子たちが泣くわ騒ぐわ立往生するわで何か手がかりがないかと探してたんですよ!お徳さん!鍋焦げてるよ!ほれ!ほれ!お徳さん!早く早く!あ〜っ!ああ〜っ!早く早く!ハッハッハ…!だから!笑い事じゃないんだってば旦那!いやすまんすまん。
こっちが風上だったのがお徳の一生の不覚ってやつだ。
けどよおせっかいに夢中になっててめえの手元がお留守になるなんてえのはお徳らしいぜ。
あ〜ん。
なあ?おっ幸兵衛!
(幸兵衛)あっこ…これは旦那。
お見廻りご苦労さまでございます。
またかい?差配さん。
私ゃねよんどころない事情でもってこっちのかまどと鍋借りてるだけで寝泊まりや何だかんだは向こうでしてるんだから2軒分の店賃出せって言われたって無理だよ!そんな算段してたのか幸兵衛。
めっそうもない。
そんな事…。
アッハッハ…!いやではごめんくださいまし。
はいはい…。
…ったくもうごうつくばりの差配なんだから〜。
ああ〜鉄瓶長屋の久兵衛さんとは大違いだ。
久兵衛ねえ。
えっ?久兵衛さんどうかしたんですか?会ったんですか!?どこで?いやいやいや。
そういや弓之助坊ちゃんとおでこさんが昨日大慌てで走っていったけど何かあったんですか?何もねえよ。
うん…うん?やっぱり塩っ辛いかい?いやうまい事はうまいんだが…。
煮汁はあらかた持ってきたんだけどね。
もうすくってこして大騒ぎさ。
けど鍋が変わると煮汁もよそ行きの味になるんだね。
お徳の鍋はそのままかじったって味がするってもんだからな。
そういう事。
(おもん)アハハ…!何笑ってんのさ。
本当なんだからね。
鍋釜だってね長い事大事に使ってりゃこっちの味を覚えてくれるんだよ。
は〜い。
あら!何だい?これ。
ハッハッハ!おかみさんはあんたたちに一体何を教えてたんだろうね。
ただいま。
よう。
お徳に面倒見てもらってんだってな。
はい。
おとよじゃねえか!叔父上様。
ははあ。
ありがとう。
あなたのおかげで助かりましたわ。
このお嬢さんたら友兵衛さんにちゃんと教えてもらってるのに道を迷って木戸口に戻ってたんですって。
そうなんですの。
お鍋がポカンとお口を開けているようですわね。
「おらに穴を開けるたあなんて事すんだい」ってか?ウフフ…。
ハハハ…。
…で何だい?今日は。
弓之助さんが叔父上様にこれをお渡し下さいと言づかってまいりました。
昨日の夜書いたそうですの。
中身は何だい?よくは分かりませんが番屋でのやり取りを残さず思い出して書いたものだとお伝えすれば分かるはずだと。
そうかい。
けど何だって弓之助が来ない?それは…。
えっ?具合でも悪いのか?そうではなく…。
弓之助さんはおねしょをしたとかでしかも大おねしょでお布団が乾かなくて…。
ああ〜ん。
(おとよ)今日は一日押し込めなんですの。
(弓之助)何でおねしょなんか…。
ハッハッハ…!そいつはすげえや。
この陽気で乾かないならよっぽどの寝小便だな。
ハハハ…!そんなに笑わないで下さいまし。
弓之助さんは大層しおれておられます。
それはそれは恐ろしい夢を見たらしくて。
恐ろしい夢か…。
そうか。
そうだよな〜。
おっ何だい?
(彦一)あっ…旦那。
お徳さんは?お徳の客かい?へい。
お徳ならあの店だ。
かまどの前で仁王様みたいに立ってるからよ。
だってあの店は…。
いろいろあってな。
まあ行ってみりゃ分かる。
ああ…さいですか。
お役目ご苦労さんです。
うん。
叔父上様。
ああ?何だい?私お見合いをしましたの。
ふ〜ん…そりゃよかった。
…でどうだった?紅屋の若旦那だっけか?好いたらしい男だったか?とても恥ずかしがり屋の人でしたの。
お前さんより恥ずかしがり屋じゃお前大変だったろ?おとよさんの手はこの菓子よりもどんな花よりも美しいですね。
えっ…。
私の手がきれいだって褒めてくれましたの。
私うれしくてうれしくて。
うん。
おとよの手は観音菩薩の手のようにきれいだからな。
どうだい?人を好きになるって気持ち少しは分かったかい?そうかい。
若旦那との話おとよにとって一番幸せなように進むといいな。
ありがとう。
叔父上様。
ああ。
おさん。
(おさん)はい。
はい。
おいどうした?えっ?いやこの人がねここで働きたいって言うんだよ。
あっ?私は彦一と申します。
石和屋って店で料理人をしてたんですがお徳さんの煮物の味にほれ込んじゃいましてね。
お徳さんがここでおかず屋やるなら是非私に手伝わせてほしいって。
ああ…石和屋は確かもらい火で焼けたんだっけな。
へい。
ですから普請が終わるまでは暇なんです。
あっ蓄えだってあるからてめえの口ぐらい養えます。
お徳さんからびた一文もらおうなんて思っちゃいねえ。
だからね買いかぶりなんだってば。
フフフ…。
何笑ってんですか旦那。
いいじゃねえかやってみたら。
えっ?ちょいと旦那。
はい味見。
俺もな考えてたんだ。
お前は商売がうまい。
素っ町人相手の煮売り屋だけじゃなくてこの近くの地主や武家の下屋敷相手に仕出し屋や弁当屋をやったらどうかってな。
駄目だよ!私はね鍋一つかまど一つの煮売り屋でもう精いっぱい。
鍋一つかまど一つじゃおさんとおもんの給金が払えねえぞ。
よし!決まりだ!ハハハ!
つかの間佐吉の事が忘れられた平四郎であった
お世話をかけました。
はあ。
佐伯の旦那に縄をほどけと言われたからそうするだけの話でして。
これを…。
杢太郎!へい。
ちゃんと送り届けんだぞ。
分かってやす。
さあ…。
佐吉さん。
全て忘れる事です。
いいですね?よろしくお願いします。
へい。
さあ…。
お恵さん!遅かったね。
心配かけたな。
(泣き声)じゃああっしはこれで。
ご苦労さまでした。
疲れてるでしょうから旦那のところには明日に…。
いえ。
これからすぐに井筒の旦那にお目にかかりたいです。
お恵。
はい。
すいません。
あっいや分かりました。
(お恵)私には本当の事だけ話してね。
本当にやってないんだよね?ええと!履物はどこだ?俺の事が信じられないなら別れたっていいんだ。
そんな事言ってない。
私…。
ご苦労だったな。
飯まだだろ?用意してやれ。
志乃!はい。
さあ小平次。
ありがとう存じます。
えらい目に遭ったな。
旦那…とんだご心配をおかけして…申し訳ありませんでした。
俺に頭なんざ下げる事はねえ。
頭上げろ。
いつもの半纏は着てこなかったのはもしかしてあれか?植半の親方に迷惑をかけたから辞めようって了見か?そいつは駄目だ。
軽はずみな事をしちゃあならねえ。
ついでに言うならお恵の事もだ。
お前離縁しようとしてるんじゃねえだろうな?小平次。
それとももう言っちまったか?俺と別れてくれとか何とか。
はい。
あのな…表向きにはもうあの事は片づいたんだ。
だからお前は帰ってこれた。
分かるな?湊屋が手を尽くしてもみ消した。
まあ葵は病死って事になるんだろう。
だがそれはひっくり返してみりゃ湊屋はお前が葵を殺したって信じたって事だ。
そうだよな?だが俺たちはそうじゃねえ。
納得してねえ。
まるで納得してねえ。
だから心配だし不安もある。
だからお前が帰ってきて話してくれるのを首を長くして待ってた。
つまり旦那も俺が…その…おふくろを手にかけちまったかもしれない。
そう思っておられるんですよね。
あのな…。
そりゃそうだ。
当たり前ですよね。
どう見たって俺は怪しい。
亡骸が転がってるその場でふん捕まっちまったんですから。
疑われたって言い訳できない。
そうですよ。
そりゃそうだ。
疑う事と不安に思うという事とは違うぞ。
佐吉。
何がどう違うんですか?俺もお恵もついでに言うなら弓之助ももしもお前が葵を手にかけてしまったとしても無理はねえと思ってる。
そういう意味ではお前を疑ってる。
うへぇ。
けどなもしそうならお前は正直に打ち明けてくれるって事も信じてる。
芋洗坂の連中や湊屋総右衛門や久兵衛には言えなくても俺たちには話してくれると信じてる。
この握った拳が開くようにお前が必ず話してくれる事を堅く堅く信じてる。
ひっくり返してもし葵を手にかけてない時もお前なら正直に話してくれる。
その事も同じように信じてる。
だから俺は待ってた。
お恵だってそうだ。
それとも何か?「お前は何があったって人を殺せるような男じゃない。
だから信じてる」とそう言った方がいいか?だがそれはまやかしだ。
お前が葵に…湊屋に…長い事だまされてきた事を俺たちは知ってる。
驚いて傷ついて苦しんだって事をな。
だからきれい事は言わない。
相手が葵なら…いや何なら湊屋総右衛門だっていい。
もしかしたらお前が手にかけてしまう事があっても無理はねえと考えちまう。
けどそれはお前を信じてない事じゃない。
何としても違うんだ。
お恵も俺も弓之助もお前を信じてる。
必ず本当の事を打ち明けてくれると信じてる。
お前が葵と会って葵を殺めてしまったとしてもだ。
お前がうそをついてそれを隠す事なんか絶対にないと信じてる。
それじゃあ駄目か?
(すすり泣き)お恵が…。
お恵が…どうした?お恵が…おんなじ事を言ってくれました。
(お恵)そんな事言ってない。
私…。
何があったって私は佐吉さんの女房なんだから。
だから本当の事言ってほしいだけなの。
そしたらどんな事があったって耐えられる。
私…。
そうか…。
うん。
よく出来た女房だ。
俺は「信じられないなら別れりゃいい」。
そればっかりで…。
けどな佐吉。
考えてもみろ。
もしお恵が「あんたは人殺しなんかする人じゃない。
私はそう信じてる」な〜んて言ってもなお前は「何でそんな事が言える?お前が俺の何を信じるって言うんだ?」な〜んて怒ったに違いねえ。
旦那…。
…で佐吉よ。
お前は葵を手にかけたのか?いえ。
俺はやってません。
なら殺した下手人はほかにいる。
そいつを捜す。
捜す…?俺たちでやるんだ。
ほかに誰がいる?小平次!へい…へい!疲れてるとこすまねえが今から河合屋に行って弓之助を呼んでこい。
あいつに佐吉の話を聞き取りさせる。
でしたら本所元町にも声をかけた方がよくありませんか?こいつは驚いた。
お前は政五郎を使うのを嫌ってたはずじゃねえのか?事と次第によりますんで。
では今から行ってまいりやす。
佐吉さん。
へい。
お帰りなさい。
お帰りなさいか…。
いい言葉だ。
なあ?
(小声で)うへぇ。
佐吉さん…。
よかった!よかったです!佐吉さん!ああ〜ん!佐吉さん!分かった分かった分かった。
もういいからもういいから。
それより弓之助。
布団はもう乾いたのか?ああ〜ん!何で知ってんの?ハハハ…。
(佐吉)元は鉄瓶長屋があったあの場所に湊屋の旦那様がおふじ様のためにお屋敷をお建てなすった事はご存じですよね?ああ。
お前はそこに呼ばれたんだってな。
あれは藤の花が咲く頃でした。

(おふじ)おや佐吉。
久方ぶりだったねえ。
へい。
さてこの後おふじの屋敷で一体何が起こったのか。
おふじは佐吉に何をどう語ったのか。
佐吉はなぜ葵殺しの現場にいたのか。
その話はまた次回
(お六)子盗り鬼が出たんです。
この屋敷は化け物屋敷だ。
子盗り鬼が出るとか何とか言ってたが。
(お六)子を盗む鬼の事です。
(葵)私は幽霊なんだ。
子捨ての親でもあるんだよ。
一度葵を殺した女。
おふじ様が屋敷の庭で首をつろうとなさったんです。
(政五郎)おふじが首をくくったのは湊屋総右衛門に対する当てつけだと思ってらっしゃるんで?そんな何だか知らないけど…。
(くしゃみ)2015/10/29(木) 20:00〜20:43
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 ぼんくら2(2)「信じる心」[解][字]

宮部みゆきの時代劇ミステリー「ぼんくら」シリーズ第2弾。個性豊かなレギュラー陣に加え、新たなキャラクターも続々登場。ミステリー色も一層濃くなり、満足度倍増です。

詳細情報
番組内容
久兵衛(志賀廣太朗)の話では、すっかり佐吉(風間俊介)が葵(小西真奈美)殺しの下手人であることで話がついていた。しかし佐吉は、湊屋の計らいで、罰を受けず放免されることになる。佐吉は葵に捨てられた身。恨みを持っていてもおかしくは無い。しかし、佐吉が下手人だとは信じられない平四郎(岸谷五朗)や、おいの弓之助(加部亜門)らは、釈放された佐吉を訪ねて事の真相を聞きだそうとする。そこで語られたことは…。
出演者
【出演】岸谷五朗,奥貫薫,風間俊介,秋野太作,志賀廣太郎,遊井亮子,西尾まり,村川絵梨,黒川智花,螢雪次朗,嶋田久作,鶴見辰吾,大杉漣,松坂慶子,【語り】寺田農
原作・脚本
【原作】宮部みゆき,【脚本】尾西兼一
音楽
【音楽】沢田完

ジャンル :
ドラマ – 時代劇
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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