平成27年度 NHK新人落語大賞 2015.10.31


は雨が降るでしょう。
北海道の北部は雪の降る所がありそうです。

(田代)厳しい予選を勝ち抜いた本戦出場者5人をご紹介します!以上5人の皆さんです。
NHK新人落語大賞司会の林家たい平です。
アナウンサーの田代杏子です。
皆さん最後までどうぞよろしくお願い致します。
よろしくお願いします。
さあNHK新人落語大賞若手落語家の日本一を決める祭典がたい平さんいよいよ始まりましたね。
僕も22年前このステージに立ちましてその時の事がですね昨日の事のように思い出されます。
優秀賞受賞された時…。
そうなんですね。
師匠方も今同じような気持ちでですね審査員の皆さんも今こちらにいて下さってると思います。
はい皆さんそれぞれ若手の頃を思い出しながら…。
そうですねはい。
では皆さん準備の方お願い致します!よろしくお願いします頑張って!ではここで今日審査をして頂く皆さんをご紹介します。
よろしくお願い致します。
落語家の桂文珍さん。
文珍師匠よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
ありがとう。
どうも。
権太楼師匠。
はいこんにちは。
どうぞよろしくお願いします。
支配人よろしくお願いします。
よろしくどうぞ。
会長毎年ありがとうございます。
よろしくどうぞお願い致します。
お願いします。
女性の視点から今日は是非よろしくお願いします。
部長よろしくお願い致します。
さてここでこのNHK新人落語大賞の出場資格を説明させて頂きます。
まずプロの落語家でいらっしゃる事。
そして東京の落語家なら前座二ツ目真打ちのうち二ツ目の方。
大阪にはそうした制度がありませんのでこの二ツ目に相当するキャリアの方。
そして入門から15年未満の方とさせて頂きます。
決勝で披露して頂く落語の持ち時間は11分となっております。
これ12分を過ぎてしまうともうそこで失格という事になってしまうので気を付けて頂きたいと思います。
平成27年度NHK新人落語大賞。
まずはこちらの方からです。
去年本選に出場するも大賞には届かなかった。
その答えを求めてべ瓶は海を渡った。
壁の向こうにはベ瓶にしか見えない景色が広がる。

(出囃子)
(拍手)ありがとうございます。
まずは私べ瓶の方でおつきあい頂きますけれども。
大阪の上方落語っぽいといいましょうかね大坂城を舞台にした豊臣秀吉が主人公の噺を聞いて頂こうと思ってるんですけれどもね。
豊臣秀吉というのは皆さんご存じのとおり太閤殿下といわれておりましてね正一位という関白の位をおとりになった方でございます。
なので当時の方というのは誰ひとり文句を言えなかったんやそうでございます。
イエスマンばっかりがそろっとったんやそうでございますけどもこの中に一人物申す人がおったんやそうです。
その方が誰かと申しますと堺に住んでおりました刀の鞘師曽呂利新左衛門という方なんやそうですね。
刀が鞘にそろりと納まりますから曽呂利という名前が付いたんやそうですけれども。
この曽呂利新左衛門だけは秀吉さんに文句を言えたゆうそうですよ。
なぜかと申しますと非常にとんち頓才が利いたんやそうですね。
頭がいいんでございます。
秀吉さんがある日ですね「おい新左衛門。
何でも好きなもんを言うてみ」と言いますとね普通やったら「お米くれ」「金くれ」「屋敷くれ」とこう言うんですけどもさすが頭の切れる新左衛門。
「殿下のお耳の匂いを嗅がして下さい」とこう言うんですね。
秀吉さんは何の事か分かりませんから「おおそんなんいつでも嗅ぎに来たらええがな」と許可をします。
大名連中が大坂城に挨拶に上がってきた時に新左衛門は太閤殿下の耳の匂いを嗅ぎに行く訳ですね。
するとこの挨拶に来た大名連中は僕の噂私の噂をこの男はしてるんじゃないかと勘ぐってしまいましてね。
その時は賄賂とか横領というのは結構あったそうですから「あの時の横領がばれたんかしら」というのに心配しましてね後々新左衛門のうちに行ってお金や進物と一緒に「すまんけどあのコチョコチョ話はやめてくれ」とこう言う訳ですね。
それでばく大な富を築いたといわれるぐらい頭の賢い方でございます。
ですので秀吉さんもやっぱり隅には置けない存在やったそうですけれどもね。
「新左。
新左はおらぬか」。
「ははっ」。
「世にはこびへつらうという事があると聞くがそれはまことか」。
「ははっ申し上げます。
世間にへつらうという事は下世話で申しますと喉元に入るいわゆるおべんちゃらでございますな。
これはあしき事。
武士と致しましては最も忌むべき事にござりまする」。
「おおそうか。
では新左はへつらわんな?」。
「へつらいません」。
「そうか。
世間では余の顔が猿に似ておると言うておるそうじゃがそれはまことか?」。
さあさすがの新左衛門もこればか正直にね「何を今更!そっくりそっくり」とは言えませんからね。
ここは頭のいい新左衛門。
「ははっ。
申し上げます。
殿下が猿に似ているのではございません。
猿幸いをもって殿下に似たものと存じます」。
「おおなるほど。
余が猿に似たのではなく猿が余に…。
ちょっと待ておんなじこっちゃないか!」とつっこんだかどうかは分かりませんけれども物の言いようでございます。
「うん面白い。
そうか分かった。
では新左余にそっくりの猿を探してまいれ」。
「ははあ!」。
君命でございます。
さあ大変なのは曽呂利新左衛門。
猿はどの猿引っ張ってきても顔は似てるんですよ。
ところが体つきまでそっくりの猿といいますとなかなかおりません。
一生懸命探しておりますと丹波の山奥に住んでおりましたお百姓さんが飼うとりました飼い猿。
この猿が体つきもそっくりそのまま。
真っ白けっけの猿でございますけどもねそっくりでございます。
この猿を3百両という大金であがない求めまして殿下のお目通り。
「ホッホッホッホ。
こやつが余に似た猿と申すか。
おおかわいいやつじゃ。
ういやつじゃ。
おおかわいいやつじゃのう。
おおそうかそうか。
よし皆の者よいか?今からこの猿に余と同じような扱いをして余と同じようなものを着させよ。
余と同じような飯を食わせい。
よいな?」。
「ははあ!」。
「ほらほらほら利休!何をしておる。
早うこの猿に茶を出さんか」。
「ああははあ!」。
大変でございます。
早速お召し替えが下りてまいりましてお着替えでございますね。
白羽二重の着物に紫の踏込そして金色の羽織でございます。
これを着ますともうどっちが猿でどっちが太閤殿下や分からん。
「ほんによう似ておるな。
かわいいやつじゃ。
よしこの猿を武村三左衛門宅へ預ける」。
「ははあ!」。
大変なのは家来の武村三左衛門でございます。
人間やったらまだしも猿ですからね。
もしこの猿に何ぞの事があれば切腹は間違いなしでございます。
早速一部屋にオリというようなものを作りましてその前には見張りを3人立たせましてね隣の部屋には獣医を5人常駐させまして何があってもいいように致します。
毎日のように大坂城に上がっては太閤殿下とお遊びになっておりますんでだんだんこの猿も調子に乗ってまいりましてね。
「ちょっと武村さん。
武村さん!武ちゃん!武!」。
「武言うやつがあるかいな。
お前猿やのに物言うんか」。
「落語やから何でもいいんです。
落語というのはそういうもんです」。
「何を言うてんのやお前は。
ええ?何を言うてんのや」。
「あのねもうね大将んとこでね毎日ごっつぉばっかり呼ばれてありがたいんですけどね最近胃ぃがもたれてもたれてかないまへんのやがな。
どうでっしゃろな。
今晩辺り久しぶりにトカゲとドングリ…」。
「バカな事を申すな。
殿下に見つかっては腹を切らねばならぬではないか」。
怒られております。
毎日のように上がっておりますけれどもね。
あの日の事太閤殿下大坂城のお廊下をばス〜ッとお歩きになります。
大坂城中千畳敷と申しまして1,000畳の畳を敷き詰めましてもまだ余ったというぐらいの大きなお廊下があったそうです。
そこをチョコチョコチョコとお歩きになる。
その後ろを同じ格好をした猿がソロソロソロ〜ッと歩く。
大名連中そんな事知りませんからね「おっ殿下が来られた。
ははあ!」。
「あ〜よう来たなよう来たな。
お主らに言うておくぞ。
後ろから来るのは猿じゃ。
よく見ておけ」。
「これが殿下ご寵愛の猿でござりまするか。
そっくりでございますな」。
「ほんにほんに」。
「そっくりでございますな」ってな事を言うております。
これを7日ほど続けまして8日目。
今度は太閤殿下歩く順番を変えましてね先に猿をチョコチョコチョコ〜と歩かして殿下は後ろからついていく。
大名連中はそんな事知りませんから「おお殿下が来られた。
ははあ!」。
「あ〜こりゃこりゃこりゃこりゃ何をしておる。
そちらは猿じゃ。
余は後ろじゃ」。
「これは失礼つかまつりました」。
「ハッハッハッハ。
2度もおじぎをしよったハッハッハ。
面白い」。
大層喜んでおります。
こんな遊びを続けとったんですがこれもそのうち飽きてしまう。
今度は太閤殿下何を考えましたかと申しますと猿にこのね袋竹刀を持たせます。
この袋竹刀でもって人間の首筋…これをパチンッと打つ。
これを教えます。
猿の人まねと申しますように猿も知恵がございますからすぐにこの遊びを覚えてしまいます。
最初はその辺の家来連中の首筋をたたいとったんですがこれだけではおもろない。
大名の首筋をぶちたいという欲望に変わってまいりましてね。
ちょうどその時に間んの悪い事にやってまいりましたのが家来の大大名加藤清正公でございまして。
「加藤清正にござりまする。
殿下には麗しきご尊顔の体を拝し恐悦至極に…」。
「おお虎之助か。
よう来たのう。
もそっと近うもそっと近う」。
「ははっ」。
「もそっと近う」。
パ〜ン!「痛い!何じゃお前は。
何を考えとる!首筋をぶつとは何じゃ!何じゃ?何殿下ご寵愛の猿?こやつか?ははあ!」。
さあこれが面白い。
そのあとに上がってまいりましたのが同じく家来の大大名福島正則公でして。
「福島正則にござりまする。
殿下には麗しきご尊顔…」。
「おお市松か。
よう来たのう。
もそっと近う」。
「ははっ」。
「もそっと近うもそっと近う。
フフフフッ…」。
チョコチョコチョコ…パ〜ン!「痛い!お主は何を考えておる!人の首筋…!何じゃ清正?何?殿下ご寵愛の猿?こやつがそうか?よくぞおとどめ下さった。
よくぞおとどめ下さった。
う〜ん…ははあ!」。
さあ殿下ご寵愛というだけで誰も文句を言う事ができません。
このあと上がってまいりました加藤清正がパ〜ン!石田三成がパ〜ン!黒田長政がパ〜ン!片桐且元がパ〜ン!加藤嘉明がパ〜ン!皆をパ〜ンパ〜ンパ〜ンでございます。
当時は米が主食ですけどもパ〜ンでございます。
(笑い)ここで笑わないともう笑うところはないと思います。
さあこの噂がですね大坂から遠く離れました奥州仙台は伊達政宗公の耳に入ります。
伊達政宗永禄10年1567年の生まれでございまして生まれた頃というのは織田信長が34歳豊臣秀吉32歳。
まさに京都上洛寸前でございます。
もし政宗が30年早う生まれておったら天下統一は政宗がしたであろうといわれるぐらいの名君でございますね。
7歳の頃に眼病を患いまして目を失明しております。
独眼竜政宗でございます。
この政宗の耳に入る訳でございます。
「う〜ん。
いかに殿下の言いつけとはいえ猿が大名をぶつというのはまことにもってけしからん。
余が一度いさめてしんぜよう」。
さあ政宗が遠く離れた大坂までやって参りましてね。
「武村殿。
武村殿はおられるか?」。
「あっこれはこれは伊達のお殿様にござりまするか。
なぜかような所へ?」。
「いやいや実はな余は明日大坂城へ登城する事になっておっての。
その前にちと猿にご挨拶をと思うての」。
「いやいや猿にもしもの事があっては私腹を切らねば…」。
「分かっておる分かっておる。
おいこれ何をしておる?早う武村殿に菓子折を渡さんか。
何をしておる?早う渡さんか」。
これほんまは菓子折やない。
中には5百両という大金が入ってございます。
中を確かめました三左衛門。
「オリはこちらでございます。
そしてこれがオリの合鍵でございます」。
もうしっかりと贈収賄が成立を致しました。
オリへ案内されまして鍵を開けますと猿は何にも知りませんからチョコチョコチョコと出てきよる。
この首筋を政宗つかみよって。
「おいお前か。
大名の首筋をぶつ猿というのは。
こっちへ来い」。
和室へ連れていきますとこの鼻っ柱を畳の縁でもってゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ〜とこすりよった。
もうお尻だけやない。
鼻っ柱まで真っ赤っかにしてしまいよって。
「おい。
余は明日大坂城に登城する事になっておってのもしお前が余の首筋をぶつとあらば容赦はせんぞ。
その場において引き裂いてくれる!よいな。
この顔をよう覚えておれ。
よいな。
分かったならオリへ入っておれ!」。
パ〜ン!入れ込んでしまいます。
さあ明くる朝伊達政宗が大坂城へ登城してまいりまして。
「伊達殿のお着き〜!」。
(太鼓の音)「伊達政宗にござりまする。
太閤殿下におかれましては麗しきご尊顔の体を拝しこの政宗恐悦至極に存じ奉ります」。
「おおこれはこれは伊達殿か。
よう来られた」。
さあさすがの太閤殿下も伊達政宗には「伊達殿か」と丁寧語をお使いになる。
正則や清正は虎之助市松と幼名で言えますけどもねさすがは伊達殿でございます。
「殿」という言葉をお使いになる。
ところが相手の格が上がれば上がるほど首筋をぶちたいという欲望も上がりに上がる訳でございましてここで利害を一致を致しました。
「政宗殿もそっと近う」。
「ははっ」。
「もそっと近う」。
(笑い)チョコチョコチョコ…。
グ〜ッとしますと独眼竜の目でもってギロッ!「あかん!こいつ昨日来たやつや!こいつの目はちょっと違うかってんほかのやつと。
怖い怖い!こいつは無理や!引き裂くっちゅうてたな。
引き裂くっちゅうてたな。
こいつはほんまにやりかねんわ。
こいつは無理です無理です!」。
チョコチョコチョコ…戻ってまいります。
「何をしてるんじゃ?早う行かんか早う行かんか」。
「ああ無理無理無理!う〜んもう一回いったる!う〜ん…」。
ギロッ!「あかん!やっぱりこいつはあかんわ!無理無理無理!」。
ポ〜ンと袋竹刀を投げ出しますというと逃げてしもた。
「あっこらこらほらほらほら!猿どこへ行く?どこへ行く?なぜ逃げるのじゃ?なぜ逃げるのじゃ?」。
「う〜んだって…だって
(伊達)怖いんだもん!」。
「しょうもないシャレを申すな!しょうもないシャレを申すな!どこへ行く?どこへ行く?」。
「あ〜こらこらこら!もうよいもうよいもうよい」。
「なぜでございます?」。
「相手は猿じゃ。
去る者は追わずじゃ」。
(拍手)トップバッター熱演でした。
最初ですからねかなり緊張したと思いますけど。
もうムチャクチャ緊張しました。
それでもね格調高い落語で…。
ありがとうございます。
では審査員の方にお話伺います。
桂文珍さんお願い致します。
去年に続いてでございましたですけどトップバッターという事で緊張が勝ったようでしたけどね。
どうしてもこういった噺は素話の地の部分の語りがどうしても多くなりまして落語の会話のとこが少のうなるんですけどそれを一生懸命「だって」とか言いながら無理やりギャグを入れてくれました。
ご苦労さんでございました。
本当に緊張しましたけど。
けど本当お客様のおかげで楽しくやらせて頂きました。
ありがとうございました。
(2人)ありがとうございました。
笑福亭べ瓶さんでした。
(拍手)では続いてはこちらの方です。
涼やかな表情とは裏腹に芸への熱い思いを秘める。
長唄や舞踊など芸事の稽古も欠かさない。
やっとつかんだ本選への切符。
所作の一つ一つに魂を込める。

(出囃子)
(拍手)え〜しばらくおつきあいを頂きますが。
落語にはちょいちょいと幇間という商売が出てまいります。
なかなか難しいもんやったんやそうでございまして。
アホではできません。
でもちょっとアホ気なところもないとかわいい事ございませんね。
芸ができなあかんのですけどやり過ぎたらあかんのです。
お客さんをほったらかしにして1時間2時間歌いっ放し。
こういう方は向いておりません。
男前は具合が悪いですね。
お客さんがやきもちやきますので男前はあかんのですけどかというてぞっとするような顔でも具合が悪いという。
頃合いが難しいんですが。
ここにございました京都の旦那。
今日はひとつ愛宕山へ登ろうという訳で芸者舞妓お茶屋の女将さんから仲居さんそれに大坂から流れてまいりました一八に繁八という2人の幇間を連れましてやってまいります。
その道中の陽気なこと!「おじい!ちょっと待ったげなはれ!おなご連中遅れてまんねん旦那。
先々行きなはんな!早ういなはれ!早ういなはれや!」。
「もうそない先々行かれたらついていかれへんえ」。
「はあもっとゆっくり歩いておくんなはれなあ」。
これ舞妓さんのビラビラのかんざしでございまして。
「早ういなはれ!早ういなはれ!旦那今日どこ行きまんねん?」。
「分からんとついてきてんのんかいな。
今日は愛宕山へ登んねん」。
「あ山行きでやすか!」。
「あ〜こらかわいそうな事したな。
おまはんら大坂者にはよう登らんかも分からんな」。
「むかつきまんな。
わたいらかて登れまっせ!」。
「あそうか。
ほな行こうか」。
「あんたらと一緒に登ってられますかいな。
あんさんらはねぼ〜ちぼ〜ちぼ〜ちぼ〜ちゆ〜っくり登らはったらよろしい。
ええ加減登らはったなと思うたら『よろしいか?行きまっせ!』ピシュッ上がっていきまっさかいな」。
「ほんまかいな。
ん?こない言うてるさかい皆先行こうか」。
「へえ一八っつぁんお先。
繁八っつぁんお先。
ゴージャゴジャ。
ゴージャのあとに誰がつく」。
「は〜やっぱり京の人間ちゅうのは偉いもんやな。
千鳥にツッツッツ〜ッと上がっていきよった」。
「ほっとけほっとけ。
ほんまにしょうもない。
何でこんな事せなあかんねん?」。
「おい聞こえたらどないすんねん!」。
「構へんがなほんまの事やから。
しょうもない。
何でこんなせな…。
え?旦那?いえいえ!何も言うてまへん何も言うてまへん!はい楽しいですええ!空気もおいしいし。
ヘヘヘヘヘヘ〜。
フンしょうもない」。
「どんな性格やねん!」。
「冗談シャレやがな。
旦那かて分かってんねん。
さあさあ行こ行こう!へ〜旦那お待っ遠さんで」。
「やっと上がってきたんかいな」。
「さっぱりわやですわ。
旦那も一服ですか?ちょっと向こうに茶店がおますさかい聞いてきまっさ。
おばん邪魔するで」。
「はいはいお越しやす」。
「いや〜ちょっとな一服さしてもらおと思…。
お?何や?素焼きの土器がぎょうさん積んであるな。
酒でも飲ますんか?え?」。
「いやいやこらお酒を飲む土器じゃありゃせん。
土器投げの土器じゃ」。
「土器投げ?」。
「おお一八も繁八も知らんか?」。
「あ旦那」。
「土器投げ懐かしいな。
ちょっと久しぶりにやってみよう。
5枚だけもろとこうか。
うん。
さあ皆こっち出てきなはれや」。
「は〜こっから谷が見下ろせまんねやなあ。
へえ〜。
えらい高いとこまで上がってましたんやな」。
「お〜あんまりのぞき込んだら危ないで。
ほれ下を見てみぃ。
四角い仕切りがこしらえたる。
あの中へ打ち込むねん。
ちょっと見てなはれや。
まずはな風の流れを調べるさかいな。
それ!はあはあはあはあ。
なるほど分かった分かった。
うん。
ほたら初めはな天人の舞というのを見せるさかいな。
天人が風に乗って舞を舞うがごとくあの中へ入る。
見てなはれや。
それ!ほ〜れどうじゃ?天人が風に乗って舞を舞うようにしてあの中へ…それ入った!どうじゃ?ん?今度はなお染久松夫婦投げ。
2枚いっぺんに放るで。
それ!それ!ほ〜れどうじゃ?2枚の土器が一本の糸でつながれたようにおんなじように後をついて…それ入った!そ〜れ入った!どうじゃ?ん?最後は獅子の洞入り。
まっすぐにあの中へ打ち込む。
実はこれが一番難しい。
見てなはれや。
それっ!そ〜れ入った!どうじゃ?」。
「しょうもな!子どもでっしゃないかいな!『そ〜れそ〜れ』。
誰でもできまんがな。
おばん!こっちももろとこ5枚な。
わたいかてできまっせ。
え〜っとまずはね風の流れを調べまっせ。
風の流れをね。
風の流れ〜!スト〜ンと落ちていったな。
風あれへんな」。
「おまはんな土器をあおむけにほったら落ちてしまうわい。
うつ伏せにするさかい風に乗る」。
「あ…あ〜分かってます〜。
わざとやってまんねんわざとね。
風の流れは最前見たさかい分かってまんねん。
ほなら初めはね天人の舞というのを見てもらいまっせ。
風に乗って舞を舞うがごとく入りますさかい見てなはれや。
そ〜ら…どっか行ってしもうた。
舞も何にも舞えへんがな。
ずぼらな天人やな。
え〜今度はねお染久松夫婦投げ。
2枚放りまっせ。
この2枚の土器が一本の糸でつながれたようにおんなじ…あ〜糸切れた!右と左にシュ〜ッと行きよったなあ。
仲ようせえよ〜。
ヘヘッ。
今度はねゴチャゴチャなし。
獅子の洞入り。
まっすぐにあの中へ打ち込みますさかい見てなはれや。
難しおまっせ!そ〜ら!茶店に入った!」。
「何をすんねん!おばんに当たったんと違うか?」。
「アハハ。
おばん!ごめん。
フフフ。
へっ!しょうもない。
何だんねんこんなもん。
大体ね京の人間っちゅうのはしみたれてますさかいなこんな土器みたいなもんほって喜んでまんねん。
大坂の人間の気質ならねお金ほりまんな」。
「ほう。
大坂のお方ならお金をほって遊ぶか。
そんな事聞いたら負けてられへんな。
実は今日はこういうものを持ってきたんや」。
「何です?」。
「見てみい。
小判20枚」。
「小判20枚!えらい値打ちもんや〜。
一財産やがな。
えっ?遊んで暮らせまっせ。
どないしまんの?」。
「今からほってみようと思うとる」。
「えっ!小判…。
ああそやか。
どうぞどうぞ。
いやそら大坂さんでもそこまではほられしまへん」。
「何を言うてんねん。
ほるっちゅうたらほる」。
「いやそらあんさんはほる気ぃかもしれまへんけど手ぇが言う事を聞きまへんで」。
「何を言うてんねん。
こないしてほったらええんやがな」。
「あ〜っ!ほった!ほった!ほった!」。
「やかましいな。
ほれ皆見てみなされや。
松の緑に黄金色がキラキラ輝いて一代の見物じゃな。
胸がす〜っとしたな。
ハハッ。
さあ行こか」。
「『行こか』って旦那!小判!」。
「小判はほった」。
「『ほった』って誰かが拾いまっせ!」。
「拾うたら拾うた者のもんや」。
「えっ?拾うたら拾うた者のもん?わたいが拾うたら?」。
「お前のもんや」。
「あっさようか。
ありがたい。
あっ届かん」。
「当たり前や。
届かんさかい散財や。
行こ」。
「いやちょっと待っとくなはれ!見えたはんねんからほんまに。
下りていく手だて何にもないのんかいの?茶店の前に大きな傘があるやないか!おい!おばん!おばん!おばん!」。
「何でございますかいな?」。
「当たってたん?堪忍してくれ。
このな大きな傘借りていくで!これだけあったら大丈夫やろ…。
皆さんどうです?こんな傘が手回りましたで。
私フワフワッと降りていってね皆持ってきまっせ。
『後で1枚おくんなはれ』情けない事言いなはんなや。
…高いな。
飛びますさかいな。
目つむって行こか。
そ〜れ!後ろへ飛んでどうすんねんな。
なんとかこれが飛べんかいな〜!」。
「繁八。
一八の背中後ろからドン!突いたれ」。
「構しまへんか?」。
「一八…。
飛びたいか…?」。
「飛びたいな〜」。
「飛びたけりゃ…そ〜れ飛べ!」。
「飛びよった…。
飛びよった…!お〜い!一八〜!」。
「一八にいさ〜ん!」。
「けがはないか〜?」。
「けが…け…」。
「飛びました〜!」。
「やっと気が付きよったやな。
金はあるか〜?」。
「金…あっ!そやそやそや!金や金や!落ちてる落ちてる。
ここにもあるここにもある…」。
「ひいふうみいよ…まだ足らんまだ足らん。
うん!うん!うん!」。
ピンピロピ〜ン。
「そ〜れ!」。
チョンチョロリ〜ン。
「20枚ございました〜!」。
「それ皆お前にやるぞ〜!」。
「おおきに。
ありがとう!」。
「どないして上がんのんじゃ〜?」。
「あ〜っ!」。
「オオカミにでも食われてしまえ〜!ほなさいなら〜」。
「うわ〜!待っとくんなはれ!」。
さあ人間苦し紛れというのは知恵の出るもんでございましてツ〜ッと着物を脱ぎますと下着が別染めの長じゅばん。
横糸をツ〜ッと外しますと…ツ〜ツ〜ツ〜。
細こう裂きだしてこれで縄をないだした。
「ちょっと待っといとくんなはれや〜!今じきに行きますさかいな〜!」。
のうてはつなぎつないではない長い長い絹糸の縄。
先に手ごろな石をくくりつけますと頭の上でビュ〜ンビュ〜ンビュ〜ン。
竹1本目がけてシュ〜ッ!クルクルクルクル!「じきに行きますさかいな〜!ふん!ふん!ふん!うん…うん…うん…くっ…。
はあ…。
う〜ん!」。
十分にたわめといて足を1つト〜ンとつきますというとツ…ツ…ツ…ツツツ…!「へい。
旦那ただいま」。
「上がってきよった!えらい男やな〜!ほんで金は?」。
「忘れてきた〜!」。
(拍手)お疲れさまでした。
ありがとうございました。
熱演でした。
(2人)ありがとうございました。
では審査員の方に伺います。
やまだりよこさんお願い致します。
すごく長いネタなのに大きいネタなのにうまい事まとめられてそれでも本当に要所要所面白いところがちゃんと伝わって見えるようでしたね。
すごく最後のあの絹糸のよった縄が何かずっとピンと張り詰めた感じまで見えたのですごくよかったです。
ありがとうございます。
ありがとうございました。
出場資格で言うともしかしたら今年…。
ラストイヤーです。
そうか。
なるほどね。
手応えは?精いっぱい…今までで一番よかったです。
ありがとうございます。
桂佐ん吉さんでした。
(拍手)では続いてこちらの方です。
自らストーリーを作る新作落語が彼のスタイル。
自作の落語は50以上。
唯一無二の世界に自ら浸る。

(出囃子)
(拍手)うほほ〜い!
(笑い)盛り上がってるよ新人落語大賞。
本当に盛り上がってる?盛り上がってるよ新人落語大賞。
盛り上がってるよ。
舞台も派手だよ。
目チカチカするよ。
でも盛り上がってるよ。
でもグズグズ…グズグズしてたら終わっちゃうよ。
終わっちゃう終わっちゃうその前に!「俺ほめてけ。
いつものように俺ほめてけ。
うまくほめる事ができた暁にはそうもう分かってるな?光り輝く色とりどりの金平糖がお前たちを待ってるよ。
いいか?俺ほめたら金平糖もらえる。
これだけ」。
(笑い)「ピンと来てないみたいだからもう一度言う」。
(笑い)「俺ほめたら金平糖もらえる。
これだけ。
深く考えるな。
それが楽しく生きるコツ!さあ誰からだ!?誰からだ!?」。
「はい。
まーちゃんオシャレ」。
「こいつ…母ちゃん買ってきたの着てるだけだぞ。
次」。
「まーちゃんお肌きれい」。
「あっそう?何もしてないけどね」。
「まーちゃんまつげが長い」。
「見逃さないねえ」。
「まーちゃんナイスヘアスタイル」。
「床屋に言えバカたれ!」。
「まーちゃん歯並びが…」。
「待て待て待て待てお前たち。
いやいいよいい。
いい。
とってもとってもいいんだけど…素直すぎるなほめが。
直線的って言うかな。
よしヒントやる!頭に何かつけろ」。
「どんな?」。
「個性的とか唯一無二とか独特とか頭につけろ。
俺そういうの好きだから!」。
「はいはい」。
「ほい来た」。
「個性的で唯一無二で独特な歯並び」。
(笑い)「矯正しなきゃ…。
ヒント忘れてヒント忘れて。
もうないか?もうないか?俺のいいとこまだまだあるよ。
絞り出して。
アハハッ。
もうこっちから指名しちゃう。
お前」。
「ああっ!肘が曲がる」。
「大体のやつがな!」。
「足が臭くない」。
「今日一番いいね」。
(笑い)「言い切ったもんね。
ほれ金平糖」。
「わ〜ほらほら」。
「しかしお前たちとってもいいとってもいいんだけど…もっと内面ないか!?内面!外見は作れるから。
俺の内側のもっとキラキラしたやつないか?お前たち」。
「まーちゃん優しい」。
「俺優しいの?うんと?」。
「うんと優しい」。
「そこまではないでしょさすがに!イエローの金平糖」。
「イエローきれい」。
「次」。
「まーちゃん。
まーちゃん人の気持ちが分かる」。
「う〜ん…。
自分ではそうは思わないけどお前が言うならそうなんでしょ!フフッ具体的には?」。
「えっ具体的?」。
「いつどこでどんなふうに俺人の気持ち分かってた?」。
「そこまではちょっと…」。
「うそ駄目!うそ駄目!そういううそ駄目!傷ついたよ…。
深手だよ。
俺そういううそには人一倍敏感なんだからうそ駄目。
いいか?お前たち!うそは絶対駄目!次!」。
「まーちゃんセンスがいい」。
「お前は…うそつけないな〜!」。
(笑い)「好き。
よしお前にはどデカ金平糖を…」。
「やだよ。
どデカやだよ。
金平糖は小粒だからいいんだよ」。
「慎み深いな。
ほれ。
しかしお前たちとってもいいとってもいい。
面と向かって言うのはてれくさいからきっと第4位くらいの言ってるんだろうけどそれもまたいいよお前たち!お前たちぐんぐん伸びてる!ぐんぐん伸びてるんだけどもっと俺の内側をえぐるような…。
『えっそんな事言われたの初めて!考えもしなかった!』みたいな感動すら覚えるようなのないか!?お前たち!」。
「まーちゃんパーフェクト」。
「そうなんだけどさ」。
(笑い)「それ言っちゃうともうみんな何も言えなくなる訳。
分かる?ほめの独占禁止法。
みんなで長〜く楽しもう。
次」。
「まーちゃん何だか分かんないけどとにかくすんごい」。
「いいね!『すんごい』って言葉すんごい好き!それよりも『何だか分かんないけど』ってのがもっといい。
何だか分からない。
つまりお前たちの物差しでは測れないって事だろ!?理解を想像を超えてるって訳だろ!いいね!」。
「だからうまく言葉にできない」。
「理屈じゃないもの!ほれ。
次」。
「まーちゃん言葉の端々に知性と品性を感じる」。
「な〜いない。
それはない」。
「あるある。
それがある」。
「な〜いない。
言葉の端々に知性と品性…。
あな〜いない」。
「あるある」。
「な〜いない。
だって出さないようにしてるから。
あえて。
嫌みになるから」。
「隠し切れてない」。
「漏れてるの?参ったな〜もう。
まだまだ修業が足りないね。
ブルーは初めてだろう?あっこれ病気の妹にも。
いやいいからいいから。
何でもない何でもない。
次は?」。
「まーちゃんいなせ」。
「いなせ?粋でいなせでおなじみのいなせ?」。
「粋ではない」。
「いなせのみ!?いいわ〜。
粋ではないとはっきり言うところがいいわ。
だっていなせなのは本当な感じがするもの。
いいわ〜。
いなせ…」。
「じゅわ〜」。
「いなせ!」。
「ハッ!」。
「いなせ!」。
「フッ!」。
「いなせ!」。
「ホッ!」。
「いなっせなっせなっせなっせ」。
「ハッフッホッ。
いいわ〜」。
「いなせ!」。
「ハッ!」。
「いなせ!」。
「フッ!」。
「いなせ!」。
「あっもういい。
しつこいといなせから遠ざかるから。
あといなせって何?次」。
「まーちゃん!まーちゃん器がデカい」。
「具体的にあるの?」。
「ある!僕この間空き地で特大ホームランかっ飛ばしたろ?そのホームランボールが雷おやじんちの窓ガラスに直撃してパリンて割れたろ?そこをたまたま通りかかったまーちゃんが…」。
「覚えてないな〜。
あったか?そんな事」。
「またまたとぼけちゃって。
全く関係のないまーちゃんが『私がやりました』って身代わりになってくれてさ!」。
「覚えてないな〜」。
「またまた器デカいエピソード覚えてないなんて覚えてないフリするなんてまーちゃんまたまた器デカい。
僕あの時本当に…あっこれよっちゃんだ…」。
「バカヤローお前何間違えてんだ!見ろよまーちゃんプルプルしてんぞ!」。
「別に…気にしてねえよ…」。
「取っとけよ」。
「あっ器デカいエピソード人違いしたこんな僕にも金平糖くれるなんてまーちゃんやっぱり器デカい。
ありがとう!真っ黒な金平糖…」。
「次!おおどうした?どうした?元気ないな」。
「うん昨日進路面談があってね」。
「まあまあまあいいじゃないかいいじゃないか。
聞いてやろうそれで?」。
「うん先生が言うんだ。
『将来何になりたいんだ』って」。
「うん」。
「だから僕言ったんだ。
『大きくなったらまーちゃんになりたい』って」。
「あ〜…」。
「そしたら先生が怒って言うんだ。
『高望みはよせ』って」。
「あっ…先生の分。
次」。
「まーちゃんちょっとこっち来ていいからまーちゃんちょっとこっち来てみ。
こっち来てみ」。
「嗅いでみ?」。
「臭い!何する!」。
「フフッ誰にでも嗅がせる訳じゃないんだからね」。
「うん…次」。
「ブイ〜ン。
まーちゃん」。
「えっ何誰?」。
「30年後のまーちゃんも悪くないぜ。
ブイ〜ン」。
「未来人?未来人なの!?未来人までもう…時空超えてけ金平糖!」。
「人づてに伝わるといいなって思ってたんだけどいつまでたっても伝わらないから直接言います」。
「いいね」。
「まとってる空気が心地いい」。
「あれまっ」。
「人の話を穏やかに聞いてくれるからホッとする」。
「頂きました!ほめのフルコース頂きました!見つけた!ほめの天才見つけた」。
「うれしい。
ほかの誰よりもまーちゃんにほめられるのが一番うれしい」。
「デザートまで美味!その上ハンサム。
おみやまで…」。
「やっぱ外見がうれしいわ〜。
ちょっと横になっていい?ちょっと横になって…。
もういいもういい満腹満腹!これ以上ほめて俺をどうする気だお前たち!ほめも過ぎると凶器だよ?はいはいはいはい分かった分かった。
じゃあ最後にあと7つだけ!」。
「え〜…」。
「『え〜』って何だおい!『え〜』って何だ!『え〜』って何だ!」。
「たった7つ…」。
「ん〜まっ!愛してるぜお前たちお前たち!」。
(拍手)いや〜何か面白かったです。
それじゃあね審査員の皆さんに聞いてみましょう。
桂文珍さんお願い致します。
いや〜もうね概念をね壊されましたよ。
(笑い)なおかつ変態チックでねもういってますね。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
では松倉久幸さんお願い致します。
やはり鯉八ワールドというか自分の世界に入っていったっていう今日またすばらしい出来でした。
これからもこの勢いで伸ばしていって下さい。
期待してます!
(鯉八)ありがとうございます。
鶴太郎師匠いかがだったでしょうか?独特な世界でグイグイ引っ張られましたね。
やっぱり落語っていうものは当時江戸時代も新しい事やってた訳ですからね今現在の話をこのようにして頂けたっていう事がとっても私はうれしくてだから鯉八さんのもっと違うネタももっともっと聞いてみたいなと思いましたね。
本当に師匠よりいいですよ!僕もねそう思ってました。
あなた合格!という事で鯉八さんでした。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
瀧川鯉八さんでした。
あっどうぞそのまま。
では続いてこちらの方です。
高校中退後16歳で落語家を志した小痴楽。
学校嫌いだった少年も落語のためならとひたすら学んだ。
落語家の父痴楽が残した言葉を愚直に貫く。

(出囃子)
(拍手)ご来場でありがたく御礼を申し上げます。
続きまして柳亭小痴楽の一席でおつきあいを願いますけども「小児は白き糸のごとし」という言葉がございましてねこれは入門して初めて習った言葉でございまして噺の前に落語の前についてくる言葉でございましてとても習った時は意味の分からない何か横文字かなと思ったんですけどもね意味を聞いてみるとこれ面白いものでね子どもというものは生まれた時は真っ白い糸のようだ。
それからいろんな仲間に会ってそれでもっていろんな社会を経験して個性というそういった自分の色というものを身につけていくという意味なんだそうでね。
いい言葉だなと。
私の小さい子どもの時分というのがね3つ上の兄貴がいましてね。
今もうほとんどなくなってしまいましたけども夕方はテレビをつけますとプロレスをやってましてねそれでもって兄弟とそれを見てプロレスごっこってのよくやってたんですよ。
兄貴が僕の首を絞めてね「痛いだろ!これがチョークスリーパーってんだぞ」って首を絞めてくるんですよ。
「痛いよ痛いよ!」なんて事で遊んでるんですけどもちょっとギュッと力が入りますとねギュッと締まりますから「痛えじゃねえかコノヤロー!」というのでこれでケンカになってしまったりしてね。
犬が1匹いたんですよ。
それがね若い男の子がワアワアやってますから入ってくるんですね。
仲間になりたいんですかね?人間のつもりなんですかね?「ワンワンワンワンワン」ってずっと入ってくるんですよ。
うっとうしいぐらいに「ワンワン」って。
何なんですかね?あれね。
レフェリーのつもりなのかね?「ワンワンワンワンワン」ってずっと入ってくるんですよ。
レフェリーならレフェリーでいいんですけどねカウントをツースリーフォーって上げてもらいたいんですけどなかなかワンから上がらないという嫌なレフェリーがいたなという思い出がいくらかございますけども子どもの出てくるお噺でございますが…。
「お〜い金坊!金坊何やってんだい!火鉢をガラガラかき回すんじゃないよお前は。
子どもが火遊びするんじゃないってんだ。
いいから向こうへ行きな!」。
「ヘッヘ違うよお父っつぁん。
あたいね火遊びしようってんじゃないんだ。
あたい今ね火をおこして湯沸かしてねそれでお父っつぁんにねお茶の一杯をいれてさしあげてやろうかななんてな事を思ってね」。
「さしあげる?気味が悪いな。
いいよ。
お父っつぁん喉渇いてないからお茶要らないよ」。
「そうかい。
じゃあ肩もんでやろうか?」。
「いいよ。
肩凝っちゃいないよ」。
「そう。
じゃあ何かお使いねえかね?お使い」。
「うるさいねお前は。
何にもないよ」。
「邪険にする事ねえじゃねえか。
いやあたいはね何かお父っつぁんにね親孝行のまね事なんという事をしてみたいななんて思ってみたりなんかしてね」。
「日本語大丈夫か?お前は。
親孝行がしたいの?ああそう。
いい心がけだ。
そう思ったらね表に遊びに行ってきな。
いいから表へ行くんだよ。
家の中からいなくなるの。
お父っつぁんの前からいなくなるの。
ねえ。
それがお前にできる一番の親孝行だから」。
「そんな事言わねえでよ。
なあお父っつぁんお父っつぁん」。
「うるさいね何だ?」。
「お父っつぁんがそうやって仕事をしてるそばでさあたいが何かグチグチ言ってるってえとうるせえだろ?」。
「うるさいよ」。
「そうだろ?仕事がはかどらねえな?」。
「はかどらないよ」。
「そうだろ?分かったよ。
いいよいいよ。
じゃあねあたいは表に遊びに行ってこようかな」。
「そうしろそうしろ。
それがなお前にできる一番の親孝行だ」。
「そう?それがあたいにできる一番の親孝行?分かったよ。
じゃ表へ遊びに行ってくるからさお父っつぁん行きいいようにしてくれねえかな?」。
「何?その行きいいようにするってのは?」。
「ほら分かるでしょ。
子どもはね持つもの持たないってえとね表に遊びに行きにくいんだよお父っつぁん。
なあ?頂戴」。
「何を?」。
「何をって分かるでしょう?お父っつぁんだって子どもの時分あったんだ。
身に覚えがあるはずだよ。
あれだよあれ。
おくれ」。
「何を?」。
「何をってさ皆まで言わせるなってんだよ。
子どもの口からあの2文字3文字言わせるの?野暮だお父っつぁん。
出せ」。
「コノヤロー何だいその出せってのは。
男だろうお前は!はっきし言いなはっきし。
何が欲しいんだよ!」。
「意地が悪いんだからさ。
だからさおあし頂戴!」。
「始まったよ小遣いの催促だ。
そんなこったろうと思ったい。
それでもって何だろう。
お前さっきから肩もむだ何だ言ってやがったんだ。
それがお前は子どもらしくないっていうんだ。
駄目だよ。
お父っつぁんねお前みたいにそういってな親の事を屁とも思わないやつにねお父っつぁん小遣いやらないよ」。
「そんな事言わないで。
ねえお父っつぁんお父っつぁん!分かったよ!これから屁と思うから頂戴!」。
「コノヤロー。
改めて思われてたまるかチクショー。
やらないって!向こうへ行きな」。
「どうしてもくれねえの?分かったよ。
じゃあお金くれとかそういう事言わねえ。
子どもらしくするよ。
なあお父っつぁん一生のお願い聞いてくれる?一生のお願い。
ありがと。
ちょっとね立ち上がって立ち上がって。
そうそうそう。
立ち上がってくれた?じゃあちょっと両手をこう広げて。
でねなるべく大きく高くちょっと跳んでみて」。
「立ち上がって両手を大きく広げて大きく高く?」。
ピョン。
チャリン。
「やめろバカヤローお前は!どこで覚えてくるんだい!やらねえ!向こうへ行け!」。
「何だ。
どうしてもくれねえの?じゃあいいよ。
あたいおっ母さんにもらってくるから」。
「バカだな。
それがお前はまぬけだってえの。
いいかい?おっ母がもってる銭あれはなお父っつぁんが一生懸命働いた銭を預けてあるんだよ。
だからね俺が野郎に小遣いやっちゃいけねえぞったらねおっ母は一銭だってお前に小遣いやらねえんだよ。
そんな事も分からねえのか?お前は」。
「ハッハハハ…。
あそう。
何?お父っつぁんそれ本気で思ってるの?あそう!ハハハハハ…。
ぬるいな」。
「何だと!?コノヤロー。
何がぬるい!?」。
「何がぬるいったってさあたいがおっ母さんにおあし頂戴って言うでしょ?そしたらお父っつぁんに止められてるから駄目だよってくんねえんだよ。
どうしてもくんねえの?だったらいいよ。
こないだねお父っつぁんの留守にねおっ母さんのところへよそのおじさんが訪ねてきた。
あの時の事をみんなお父っつぁんにしゃべっちゃうからねったらねおっ母さん顔色変えちゃってね『お待ちお待ちお待ち!あれはお父っつぁんに言っちゃいけませんよ。
おあしだったらあげるからねお父っつぁんには黙ってなさい』ってんでねあたいにおあしをくれる事になってんだよ!」。
「じゃあちょいと私はこれで失礼を」。
「待てお前!いいから座れ。
いいからじっとしてろお前!うちへじっとしてろ!それが子どもだから。
いいから。
何だ?こないだお父っつぁんの留守におっ母さんのところへよそのおじさんが来たの?」。
「え?」。
「『え?』じゃなくてよ来たのかよ?」。
「どうしてそれを知ってるの?」。
「コノヤローお前が言ったんだろ!来たのかよ?」。
「来たのかよって…。
分かった話しするからさ頂戴」。
「コノヤロー商売に変わりやがったな。
ああいいよやるよ。
とりあえず話ししてから後でちゃんとおあしやるから」。
「そうはいかないよお父っつぁん。
それはそうだよ。
あたいが話ししたあとにさお父っつぁんが何だよ『今の話は面白くなかったからおあしはやらねえ』ったらさあたい『話返して』って訳にいかないでしょ。
それはそうだよお父っつぁん。
寄席とか落語会行った事ある?どのお客さんがあとになってお金置いてくの?そうでしょ?先にもらうから芸人さんいつもやりたい放題」。
「ばかお前やめろお前は。
大事な時なんだから。
そういう事言うんじゃないよお前。
何言ってんだ!やるよ分かった分かったほら。
持っていきな」。
「へえどうも。
あら?あららら…。
何だこれ?お父っつぁん見えるこれ?10銭だよ」。
「当たり前だお前。
子どもの小遣いだよ。
10銭もありゃ十分だよ」。
「しけてんだねこれは。
いいよいいよいいよ。
あたいも10銭分だけしゃべる」。
「コノヤロー。
お前の方がよっぽどしけてるだろ。
話せ!」。
「話すよ。
この間ねお父っつぁんさ町内のおじさんたちと成田山行ったでしょ。
あん時の留守なんだ。
あたいが表いたらね帽子かぶって眼鏡かけてねでもって白いお洋服を着てステッキ持ったおじさんが『いますか?』って来たの。
そしたらおっ母さんが中からね『まあいいところに来てくれたわね。
今ねうちのカボチャ野郎が留守なの』ってねお父っつぁん。
このカボチャ野郎って誰の事だと思う?はい正解。
お父っつぁんの事ですよ。
どうです?カボチャになった心境」。
「知らねえよそんな事は。
それからどうした?」。
「でねあたいじっとそこにいたの。
したらおっ母さんあたいなんて見もしないでねそのおじさんの手引っ張ってね『早いとこうち上がって下さいな』ってんでうち上げちゃったんだよ」。
「手引っ張ってうちへ上げた?うんそれから?」。
「それでねそこに2人で座ってお茶飲んでお話ししてたよ」。
「2人で茶飲んで話しして…。
うんそしたら?」。
「それから…おしまい!」。
「うそをつけお前。
おしまいって事はない。
続きあるだろ?」。
「あるんだ。
よく分かったね。
だけどもねここまでが10銭の切れ場なんだな。
この続きはもう20銭もらえねえとしゃべれねえんだ。
お父っつぁんさなあいいだろ?20銭出してさなあようよう。
お話の続きをさ聞いちゃいな」。
「やめろお前。
押すんじゃないよ。
20銭?しょうがねえな。
ほらほらいいから持ってきな」。
「持ってく。
ありがとうありがとう。
でねあたいがね一緒になって座ってたらねおっ母さんがねおあしくれてね『子どもはこんな所にいないで表に遊びに行ってきな』ってんでね『分かったよ』ってんであたい表に遊びに行っちゃったよ」。
「ばか野郎お前は!何やってんだ!?何でお前ピタッとくっついてねえかな。
お前何のために生まれてきたんだよ?」。
「落ち着いてお父っつぁん。
あたいが生まれてきた意味はほかにもあるよ。
そんな心細い事言わないで。
大丈夫だよ男同士味方だよ。
すぐに戻ってきて障子に穴開けて中のぞいた。
したらねおっ母さんがね寝巻きに着替えてお布団敷いて横になってんだよ。
でおじさんがねおっ母さんの体ベタベタ触ってんだよ。
見てらんなかったよ。
子ども心に見ちゃいけねえと思って目つぶったの。
そしたらねおっ母さんの声がよ〜く聞こえてくるの。
『あらまあ気持ちがいいわ。
あらまあ気持ちがいいわ。
あらまあ気持ちがいいわ』ってね。
お父っつぁん」。
「ああ〜!」。
「落ち着いて落ち着いて落ち着いて。
力入ってるね。
うんと力入ったところでお父っつぁんもう30銭」。
「やるかバカヤローお前。
何言ってんだお前。
駄目だもうおしまいだよ」。
「そんな事言わねえでこれ20銭の切れ場なんだよ。
いやあたいもしゃべりてえんだよ。
しゃべりてえけどもしゃべれねえんだよ。
違うんだこれは。
協会で決められてんだよ」。
「どんな協会だそれは?」。
「そんな事言ったってお父っつぁんいいだろう?なあどうしても駄目なの?あそう。
分かった分かった。
じゃあここまでにしよう。
その方がいいようん。
お父っつぁんにこの先はちょいと酷ってやつだな。
お父っつぁん強え方じゃねえからな。
ここまでにしようそうだな。
じゃあここまでという事でお父っつぁん行っちゃうよ。
ねえ行っちゃう…。
ねえお父っつぁんいいだろう?なあ。
駄目なの?しゃべりてえな。
しゃべりてえけどもしゃべれねえ。
もどかしいな。
カ〜ッ!金坊がっくし!」。
「何ががっくしだコノヤロー。
嫌なガキが多い世になっちゃったな。
お前これでちゃんとおしまいいくんだぞ?分かったな?持ってきな」。
「どうもありがとう。
でねお父っつぁん。
あたいが中のぞいたらね」。
「ああ」。
「中のぞいたらあのね」。
「ああ」。
「あのね横町のあんまさんがねおっ母さんの肩をもんでただけ。
じゃあね!どうもありがとう!」。
「おい待てこら!行っちゃったよおい。
冗談じゃねえなあの野郎。
あんまなら言えばいいじゃねえか本当に。
言いようが気に食わねえ本当に。
誰か帰ってきたな。
お?何だおっ母か。
いいからこっちへ来い。
何がじゃないよ。
今お前がうちん中いねえもんだからね金坊にある事ねえ事言われて銭持ってかれたよ」。
「あらまああの子ね口がうまいからね。
あそう。
何て言って持ってかれたの?」。
「何てってお前…この話聞きたいかい?だったらお前も10銭出しな」。
(拍手)お疲れさまでした。
ありがとうございました。
江戸っ子の風を感じる小痴楽ね。
勢いがありましたね。
さあそれでは審査員の皆さんに聞いてみましょう。
では柳家権太楼さんお願い致します。
1つだけ。
10銭分だけ話すってはなに言ってる事自体がもうネタばらしになるからこの噺においては。
この言葉を言った事によって話自体が膨らんでいかなくなる。
その辺だけは注意しときなさい。
はいありがとうございます。
あなたのお父さんに口調も似てるし話す時も似てるし。
なるべく直します。
非常にいいです。
口調はいいですから頑張ってこれからも少しは落語に精進するように。
ちょっとちょっとちょっと…。
公開小言だよ公開小言。
師匠後でお願いします。
では恩田雅和さんいかがだったでしょうか?子どもさんと父親との対話がずっと続くんですけれども2人の人物造形もねよくできてたと思います。
小痴楽さんは自分でどうだったですか?ちょっと覚えてないです。
無我夢中。
ちょっと緊張しちゃって…。
すいません。
後で番組終了後権太楼師匠が楽屋で待ってますんでね楽しみにしていて下さい。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
柳亭小痴楽さんでした。
(拍手)では続いてラストの方こちらの方です。
奔放な想像力で落語の可能性を広げ続ける。
昇々ワールドのためなら全身全霊をささげる。

(出囃子)
(拍手)え〜先ほど楽屋で文珍師匠に「リベンジ頑張ってね」というふうに言われたんですが初出場です。
よろしくお願いします。
春風亭昇々と申します。
よろしくお願いしたいなと思いますけれども。
まあ落語の方にはですね若旦那という登場人物がおりまして。
まあ落語の世界に出てくる若旦那ですからちゃんとしたのは出てまいりませんね。
フラフラフラフラ遊んでおりましてね旦那に「お前なんか出てけ!」なんて言われてね。
しょうがない。
そのうちに出入りをしている職人さんのうちの2階にやっかいになっているというところから落語が始まる訳でございまして。
「若旦那。
若旦那!幾日何十日うちにいて頂いても構いませんよ。
構いませんけどね。
そうやって一日中ゴロゴロゴロゴロしてたら何かこう仕事をしてみたいなというそういう気にはなりませんか?奉公してみようというそういう気には」。
「いいね奉公はね。
だって奉公行ったら安心してごはんが食べられるもんね」。
「ちょっと待って下さいよあんたええっ?そんな言い方したら私が食べさせてないみたいでしょ」。
「食べさせてもらってますよ。
死なない程度にちょっとだけ」。
「皮肉だねあんたいちいち。
何ですか?その死なない程度っていうのは」。
「お前は知らないんだな。
だって仕事に出かけちまうもんな!お前が出かけちまうとお前のかみさんと2人っきりになるんだよ。
2階に向かって叫んでくれますよ。
『若旦那ごはんですよ!』と腹が減ってしかたがない。
もう駄目だ死んでしまう。
もういいや死のうかな。
…という時にようやく『ごはんですよ』という声をかけてくれるんだな。
やったぜと思って2階から下りるとお前のかみさんがデ〜ンと座っているんだけれどもすぐにはよそっちゃくれません!お鉢があって丼があって丼に水が張ってあってしゃもじが浮かんでいるんだ。
そのしゃもじを取り出すといきなりだよ。
いきなりおまんまの上をペタペタペタペタ…たたくんだな。
たたき飯。
改めて湿りっ気を加えておいてギュギュギュギュ〜ッとのすんだ。
たたき飯ののし飯。
上っ側をすくうと茶わんの脇でキュッとこきます。
たたき飯ののし飯のそぎ飯のこき飯!ひょいとおわんに触るとたくさんあるように見えるんだけれどもそうじゃないんだよ。
中はがらんどうですよ。
お茶をかけるとガクッと陥没するんだ。
陥没飯!世間じゃお茶漬けサクサクッてあるけどお前のとこじゃお茶漬けサッでおしまい。
だから行こう死んでしまうから。
何かいい奉公先があるのかい?男妾の口か何かかな?」。
「あなたねよくそういうくだらない事がペラペラペラペラ出てきますね。
どうですかね?私の知り合いでもって日本橋の槇町で湯屋やってるんです。
銭湯お湯屋ね。
お湯屋奉公なんかどうですかね?」。
「お湯屋奉公なんていってそれちゃんと女湯あんの?」。
「そりゃ男湯も女湯もあるでしょ」。
「女湯があんのかい?じゃあ行こう」。
「じゃあ行こうなんておかしいもんですな。
ここに手紙を書いておきました。
これを持って向こうで見せるってえと今日から奉公ができます。
一生懸命やるんですよ。
一生懸命やってる姿が大旦那の耳に入れば勘当が容れるってやつですからね。
一生懸命働くんですよ」。
「ああありがとうありがとう。
お前には世話になったな。
かみさんが帰ってきたらよろしく言っておくれ。
だけど何だね…まさか私が今日からお湯屋で奉公する事になるとは思わなかったね。
ここだここだ。
煙突がある。
こっちが男湯。
こっちが女湯。
今日はいいんだよ。
手紙を持ってんだからね!女湯から入ってやろうじゃないか。
うん。
こんにちは!こんにちは!」「はいはいはいはいはい。
あなたいけませんよ。
こっちは女湯なんだから!もう見たら分かるでしょ。
本当にしょうがないな。
じゃ入ってしまったものはしかたがありませんから前が通れるようになっておりますんで回って頂いてはいはい何ですか?うん。
手紙を持ってきた?ああそうですか。
返事があるといけませんのでお掛けになってお待ち下さい。
はいはいうん…。
ああ熊さんのところの居候だ。
うちで働く?奉公するって…。
あんた大丈夫ですか?名代の道楽者だっていうじゃありませんか!」。
「いやそんな事ございません」。
「そんな事ないってね…。
あんた道楽者っていう脇に赤く線が引いてありますよ。
相当な道楽者。
一生懸命やる?本当かな…。
そうだ!ちょうどよかった。
実はね私おなかが減ってどうにもしかたがなかったんですよ。
私がごはん食べてくる間だけ…間だけで構いません。
座って頂けますか?何にもする事ございません。
座って頂くだけで結構でございますんでやって頂けますか?ありがとうございます。
じゃそちら下りますんで」。
「どうもありがとうございます。
親方ごゆっくりどうぞ!いや〜まさか初日から番台に上がれるとは思っていませんでしたよ。
一度でいいから一度でいいからここから女湯を眺めてみたいと思っていました!ええ女湯女湯!女湯!女湯〜!誰も入ってねえじゃねえか本当にもう!何のために上がったんだか分かりませんよ。
その点男湯入ってんね!えっ?ひいふうみいよいつむななや…8ケツ並んでるよ!また手前のおやじは汚えケツしてんな!ああいうのを不潔っていうんだろう」。
(笑い)「その隣もすごいね。
世の中神も仏もねえっていうのはああいう事をいうんだよな。
神様なんて優しいだけだと思ったらそうじゃありませんよ。
イタズラ好きだよな。
あんなにケツに毛が生えて頭に毛が一本もないんだから。
みっともないね。
男湯の方は出ちまったらくぎをバンバンバンバン打ちつけて女湯専門の銭湯にしよう!私なんかねいい男ですからここに座ってるってえとすぐになじみの女か何かができる。
どういう女がいいかね?昔から色は年増にとどめ刺すなんて事をいうから年増がいいね年増が!でも年増年増って言ったってね大年増はいけませんよ。
『先月から市バスがタダになりました。
ラッキー!』。
どうにもしょうがねえからな。
二十七八三十でこぼこって…素人はいけませんよ素人は。
別れる時になると生きるの死ぬなんて面倒でいけないね。
玄人お妾さん二号さん…。
夏場うちが近いからチョコチョコチョコチョコやって来ます。
一人じゃ危ないね。
女中のお清か何かを連れてやって来るんだけれども女の方はってえと派手な浴衣を羽織るってえと駒げたの甲の薄いの履いちゃってこんな感じ。
カラコロカラコロ…たまらないね!ガラガラガラッと表の戸が開いた途端ここはひとつ気取ろう!『ねえさん。
今度入った新入りの番頭です。
どうぞひとつごひいきに』。
女は流しの方に行っちまうってえとすぐに私のうわさを始めるよ。
『ねえお清。
お清お清見て見て見て!今度入った番頭さん見て!随分といい男じゃないかね』。
『そうですか?御新さん。
でもあの番頭さん顔に随分と険がありますわね』。
顔に剣とかピストルあるといけないからねにこにこにこにこ笑っとこう。
見てこの顔。
たまに堺雅人に似てるって言われるんだけど似てるかな?似てるかな?どうでもいいやそんな事。
そうじゃないそうじゃない。
笑ってるだけじゃ駄目なんだよ。
深くつながるという事ができないんだ。
こんな所にいいものがありました。
このせっけんをプレゼントしよう。
『ねえさんこの肌に優しい無添加の香料不使用のせっけんお使いなすっておくんなせえ』『ありがとうございます。
うちは近くですから遊びにいらして。
きっとですよ。
お待ちしておりますわ』。
ってんでせっけんが取り持つ縁でようやく会えるようになった。
これが弁護士用語の接見ってやつだね」。
(笑い)「休みの日女のうちの前を行ったり来たりどうしようかな…。
行ったり来たりするってえとすぐに女中のお清が見つけます。
『まあ〜そこにいるのはお湯屋のおにいさんじゃございませんの。
今日はどちらへ?まあおっかさんのお墓参り?若いのに感心ですこと。
今御新さんうちで一人っきりですの。
上がってったら喜びますよ。
ちょいとお待ちを。
御新さんお湯屋のおにいさんがお湯屋のおにいさんがお見えになりました!』この声が女の耳に入るってえともうふだんから待ち焦がれてた男が来たってんで居ても立ってもいられない。
畳の上を泳ぐようにして…『まあお湯屋のおにいさんじゃございませんの。
お湯屋のおにいさんじゃございませんの。
お湯屋のおにいさんじゃ…あこっちかこっちか。
おにいさんじゃございませんの。
今日はどちらへ?まあおっかさんのお墓参り?若いのに感心ですこと。
ねえおにいさん。
今私うちで一人っきりですの。
よかったらお上がりになって。
お上がり。
さっきのおじさんみたいに肩もんで。
お願い。
お上がり。
お上がり…お上がり!』」。
「番台見ろ番台。
お上がりお上がりって言うから俺たちかなと思ったらそうじゃねえぞあれ。
てめえでてめえの手引っ張ってお上がりお上がりっつってんだ。
それに男の声出したり女の声出したりしてよ。
何だか妙なやつ上がっちゃったからさちょっと洗うのやめて見てようじゃねえか」。
「上がるってえと酒さかなの支度ができてる。
『おにいさんご酒をひとつ』。
『へい少々頂きます』ってんで杯を出す。
キュッと飲み干して杯洗でゆすいでご返杯。
女の方もキュ〜ッと飲み干して杯洗でゆすいでご返杯。
やったり取ったり取ったりやったりしてるうちに女がすごい事言うね。
『おにいさんおにいさん…』。
『何でございましょうか?』『今のお杯ゆすがなかったの。
ご存じなの?ご存じなの?』『ななっ!弱ったなあ!』」。
「弱ってるあんチクショーおい!おい洗ってる場合じゃねえんだって。
こっち来て見なきゃ駄目だよ。
これから面白くなるんだからよ」。
「でもねえ長っ尻ってのはよくないね。
『この人もいいけれど随分と長っ尻。
こういう人嫌い。
ズドン』って難しいんだよなあ。
何かこう足止めないかな。
足止めがないかな。
あそうだ。
やらずの雨に降ってもらおう。
雨がさ〜っと降ってくる。
中禅寺湖の辺りから子雷コロコロコロコロコロ。
親雷ゴロゴロゴロゴロ!コロコロゴロゴロ!コロコロゴロゴロ!ピカッピキッド〜ン。
雨がザ〜雨がザ〜」。
「雨降らしてるあんチクショーおい」。
「女は雷様が怖いもんだから『雷様!雷様!お清蚊帳をつって線香たいておくれ!』女は蚊帳の中に入るってえとこういう形。
色っぽいね。
『おにいさん。
おにいさん入って。
お願い。
一緒に入りましょ。
チラチラ。
チラチラ。
ニャ〜』。
『猫だな!』どうしようか迷ってるうちに辺りに落雷。
カリカリカリカリピシ〜!…ってえと女は持ち前の癪でもって『あ〜!』ってんで目を回す。
しかたがないから蚊帳をまくって女の顔を見るってえと息も絶え絶え。
杯洗の水を飲ませようと思ったけれども受け付けない。
しかたがないからこちらの口へ含んでおいて口から口への口から口への口移しですよ。
いいところですねえ。
芝居か何かでやるとねえ男は市川團十郎女は中村福助だねえ」。
「『御新造お気が付かれましたか』『今の水のうまかったこと』『今の水がうめえとはそんなら今のは空癪か』『雷様は怖けれど2人がためには結ぶの神。
うれしゅうござんす番頭さん』」。
「あんにゃろ落っこっちゃったよおい」。
「『あたしゃお前に…』」。
「何か言いながら上がってくよ」。
(拍手)昇々さんでした。
ありがとうございました。
では審査員の方に伺いましょう。
はい。
片岡鶴太郎さんお願い致します。
あのやっぱりそのお顔から雰囲気から様子がいいじゃないですか。
なかなかね。
だから若旦那ネタなんかはすごく合ってんだろうなという事を感じましたよね。
師匠よりいいですよ。
ありがとうございます。
合格ですよ。
よかったですね。
もうひと方。
文珍師匠いかがだったでしょうか?何て言うのかな壊れ具合というかねそれがこう期待もあるんですけれど早めに直した方がいいようにも思う。
どっちなんですか。
分からないんですよ。
今も権太楼さんとね「う〜ん今の時代の人だねえ」なんてね話をしていたんですよ。
という事で楽しかったです。
どうもありがとうございました。
ありがとうございました。
春風亭昇々さんでした。
(拍手)では審査方法のご説明です。
皆さんには出場者それぞれに10点満点で点数をつけて頂きます。
一番多く点数を獲得した方が見事大賞に輝くという事になります。
では皆さん審査の方お願い致します。
審査員の皆さんよろしくお願いを致します。
10点満点でそれぞれに点数をお書き下さい。
ボードにですねそれぞれ今書き込んで下さっています。
考えながらもね…。
やっぱりあの皆さん今やり終えたあとはもうね…あとは審査員の皆さんどうなるかって事ですから。
さあ審査が整ったようです。
整いました。
では順番に皆さんがつけた点数を見てまいりたいと思います。
では桂文珍さんからお願い致します!佐ん吉さんと小痴楽さんに10点がついております。
ありがとうございます!
(拍手)では続いて柳家権太楼さんの点数です。
お願い致します。
小痴楽さんが10点獲得!満点つきました。
(拍手)では続いてまいりましょう。
恩田雅和さんの点数です。
お願いします!佐ん吉さんに満点10点がつきました。
松倉久幸さんの点数です。
お願い致します。
鯉八さんに10点満点!
(拍手)さあもう混とんとしてきましたね。
では続いてまいりましょう。
片岡鶴太郎さんの点数です。
どうぞお願いします!再び鯉八さん10点満点!
(拍手)やまだりよこさんの点数です。
お願い致します!さあ唯一の女性審査員。
佐ん吉さんと小痴楽さんに10点がついております。
ありがとうございます。
(拍手)そして山元部長の点数がこちらです。
佐ん吉さんと昇々さん10点満点!
(拍手)いやこれは私読み上げててもさっぱり分からないですね。
近い点数が多いですね。
もしかしたら接戦になるかもしれないです。
意外とこうばらけた感じで10点がそれぞれ皆さんね獲得したようです。
それでは審査が出そろいました。
ではたい平さん。
結果の方お願い致します!はい!平成27年度NHK新人落語大賞大賞は…。
桂佐ん吉さん大賞で〜す!
(拍手)
(2人)おめでとうございま〜す!おめでとう前へどうぞ。
前へどうぞ!大賞受賞された桂佐ん吉さんにはNHK大阪放送局局長の正籬聡より記念トロフィーが贈られます。
トロフィーの贈呈です。
(拍手)おめでとうございます!いやうれしいね〜おめでとう!いやこの接戦を制したのは桂佐ん吉さんでした。
改めておめでとう!ありがとうございます!いやもうね大接戦でした皆さん。
ちょっと集計結果発表してみたいと思います。
べ瓶さん61点佐ん吉さん66点鯉八さん63点小痴楽さん65点昇々さん60点という事で…。
2位の小痴楽さんが1点差なんですね。
接戦の中で大賞でした。
どうですか?今の気持ち。
今年は米朝師匠が亡くなられてうちの師匠吉朝の…丸10年になります亡くなって。
それを先に言おうと思ってたのにそんな事も忘れるぐらい真っ白でした。
よかったね。
ありがとうございます。
…という事で平成27年度NHK落語大賞大賞は桂佐ん吉さんでした!いま一度皆さん大きな拍手を!ありがとうございました!おめでとうございます。
2015/10/31(土) 15:05〜16:18
NHK総合1・神戸
平成27年度 NHK新人落語大賞[字]

NHK新人落語大賞は東西の若手落語家が一堂に会する唯一のテレビコンテスト。今回は予選会に106名が参加、勝ち抜いた5名が大賞を目指して熱い戦いを繰り広げる。

詳細情報
番組内容
NHK新人落語大賞は40年以上の歴史を持ち、東西の若手落語家が一堂に会する唯一のテレビコンテスト。東京と大阪で行われた予選会に106名(東京62名、大阪44名)が参加、勝ち抜いた5名が大賞を目指して熱い戦いを繰り広げる。出場するのは、桂佐ん吉、春風亭昇々、笑福亭べ瓶、瀧川鯉八、柳亭小痴楽。司会は林家たい平と田代杏子アナウンサー。堺市立美原文化会館にて収録。
出演者
【司会】林家たい平,田代杏子,【出演】桂佐ん吉,春風亭昇々,笑福亭べ瓶,瀧川鯉八,柳亭小痴楽,【審査員】桂文珍,柳家権太楼,恩田雅和,松倉久幸,片岡鶴太郎,やまだりよこ,【語り】藤田勇児

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
バラエティ – お笑い・コメディ
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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