ねえ見て見てこのあいだの写真できたよ!うわっ私目つぶってるし!
(車内アナウンス)「次は日の出坂上日の出坂上でございます」
(チャイム)バイバーイ!バイバーイ!
(車のクラクション)
(クラクション)
(川村冴子)やだ…どうしちゃったんだろう?ちょっと…!
(クラクション)
(吉見正造)おい何やってんだよ!ちゃんと運転しろよ!
(クラクション)
(正造)危ない!
(山寺元直)ちょっと!運転手さん!運転手さん!
(正造)運転手眠ってんじゃねえのか!?
(元直)運転手さん!ダメだ!この人死んでる!運転手は死んでる!えーっ!?
(八木順一)どうすんだ!?サイドブレーキ!サイドブレーキかけて!サイドブレーキ…。
サイドブレーキ…。
くっ!
(正造)サイドブレーキ頼むよ!
(元直)ダメだ!サイドが利かない!
(順一)あーっ!坂だ!あっ!下り坂だ!ダメだ!ダメだーっ!おい!なんとかしてくれ!
(正造)ダメだ!危ない!危ないダメだーっ!!
(パトカーのサイレン)
(パトカーのサイレン)
(西谷刑事)発見された時付近には誰もいなかった…。
はい。
あなたがここへ来るまでにすれ違った人見かけた不審な人物はいませんでしたか?
(山路刑事)それにしても高いんだろこのバッグ。
相当高そうですね。
(大上刑事)八木ひとみ18歳。
高校の3年生です。
高校生?
(大上)バッグの中にこれが。
高校の学生証です。
高校生…。
(大上)死因はご覧のとおりで後頭部を鈍器状のもので殴られたための脳挫傷のようです。
凶器はまだ見つかってません。
死亡推定時刻は昨夜10月8日の午後9時頃から午前0時頃にかけてだそうです。
乱暴された形跡もないし物取りの犯行でもなさそうだな。
(山路)明らかに物取りじゃないね。
財布の中には現金が約13万円。
そのうえこれだ。
ピン札で10枚10万円。
(西谷)すっげえ…。
そんなに金持ってたんですかこの被害者。
まだ高校生でしょ?
それがこの事件と私の出会いでした
18歳の1人の少女の死がこのあとどれほど多くの人を巻き込みどれほど多くの人の運命を狂わせていくかその時私はまだそんな事にはまったく気づいていませんでした
お嬢さんに間違いありませんか?いつか…いつかこんなことになるんじゃないかって危惧してました。
中学生の頃はごく普通の娘でした。
それが…。
お客様!娘さんがこういう態度なら警察呼びますよ!あっ…ほんとに申し訳ありません!
(順一の声)万引き暴力行為恐喝援助交際…。
警察のお世話になることも何度かありました。
ひとみ待ちなさいって。
どんなに叱っても…どんなに諭してもダメでした。
最近はますますひどくなる一方で…。
八木さんは銀行へお勤めだそうですね。
はあ…あすか銀行の代々木支店におります。
ご家族はひとみさんの他には?家内とひとみの下に15歳になる次女と10歳の長男がおります。
ひとみさんは昨日の夜の9時頃から午前0時頃の間にかけて殺害されたと思われるんですが昨日のひとみさんの行動をお話し願えますか?…わかりません。
え?実は私ども一昨日から家族で野尻湖のほうへ行っておりまして。
野尻湖といいますと信州のあの?そうです。
家内の実家なんですが父親が入院したというものですから家族揃ってお見舞いに…。
仕事の都合で私だけひと足先に帰ってきた次第です。
じゃあひとみさんは野尻湖へは行かず昨日は1人で自宅にいらしたわけですね?そうだと思います。
ひとみさんは携帯電話お持ちでしたか?持っていました。
携帯が現場では見当たらなかったんですがご自宅にあるということは?いえそれはないと思います。
どこへ行くにも必ず持っていってましたから。
そうですか…。
それからひとみさんは財布の中に現金約13万。
それから…これ。
10万あるんですが合わせて23万ほどの現金を所持してらしたんですがこれはお父さんがお与えになったものですか?いいえ私どもはそんな大金渡していません。
つまりひとみさんにはそういう物を買ったり現金をくれたりする人物がいた…。
そういうことですか?そうだと思います。
その人物について心当たりおありですか?ありません。
聞いても言いませんでした。
おつらい時に申し訳ないんですがひとみさんの部屋を見せていただきたいんですが…。
犯人につながる何かが残されてる可能性も考えられますので。
これは…。
ひと月ほど前ひとみがたばこを吸ってたんで叱ったんです。
そしたら…。
(八木ひとみ)うぜえんだよ出てけよ。
たばことライターを渡しなさい。
じゃなきゃお父さんはこの部屋から出ていかない!あっそう。
じゃあ出ていけるようにしてやるよ。
何やってんだ!
(ひとみ)燃えろ!燃えちゃえばいいんだこんな家!燃やしてやる…。
何もかも全部燃やしてやる!
(笑い声)万引きに暴力行為恐喝に援助交際。
あげくの果てが放火…。
ずいぶんつらい思いしたんじゃないですかね親もきょうだいも。
警視庁捜査一課の那須警部も参加し本格的な捜査は翌日から始まりました
(坂本課長)携帯電話だけがなくなっていたことから考えると犯人はガイシャと交友関係があり携帯に自分の情報が入っていたためにそれだけを持ち去った…そう考えていいと思う。
それからガイシャのバッグの中にあった現金10万だが封筒からも1万円札からもかなり鮮明な指紋が検出されている。
だが今のところ該当者は出ていない。
(那須警部)被害者の八木ひとみについては先ほど牛尾さんから説明があったとおりかなりの問題児だったことは間違いありません。
しかしだからといって殺されていいということはない。
ご両親やまだ小さいきょうだいたちのためにも1日も早い犯人逮捕を目指したいと思います。
よろしく!すみませんこのへんでこの人見たことあります?
(山路)すみません。
はい。
どうしました?
(山路)10月8日の夜なんですがこの写真の女性…。
(中谷ミキ)この方です。
(大上)間違いありませんか?はい。
お店へいらした時はお化粧も濃くて服装も派手な感じでしたけどこの人に間違いありません。
(大上)1人でしたかそれとも…。
いえ男性の方とご一緒でした。
女性の方がこの時計を選んで支払いは男性の方が。
その男の名前を教えてください。
それはわかりませんけど…。
カードで買ったんじゃないんですか?いえ現金でお買いあげいただきました。
36万の時計現金でですか?
(ミキ)はい。
その男はどんな感じの男でしたか?どんなって…。
例えば背が高かったとか太ってたとか…。
どんなことでも構いません。
何か…。
背は…高かったと思います。
上品でおしゃれな感じの中年の方でした。
年齢は47〜48の…。
あっ!何か?もしかしたらあの方お医者様かも!医者?女性の方がその男の方のことドクターって。
ドクター。
(ボーイ)ええ。
確かにこの女の人です。
中年の男の方とご一緒にこのロビーで。
(ボーイ)何かちょっと口論をしてらっしゃるような感じでした。
ガイシャが目撃されたのは10月8日午後9時半頃。
場所は現場の公園に隣接する新宿のラフレホテルのロビーです。
で素性はわかったのか?その男の。
いえ今のところそれはまだ。
背の高い上品な感じの中年の男というだけで。
ドクター…!どうした?ガイシャが所持していた時計を買ってやった人物と人相風体が一致します。
ガイシャはその男のことをドクターと呼んでいたそうですからおそらく医者じゃないかと。
医者か…。
36万もする時計を現金で購入してガイシャにやってますし例の10万もそのドクターが渡した可能性が高いですね。
10万の現金口論。
場所がホテルのロビーとなると…。
その金でガイシャをホテルの部屋に連れ込む予定だった。
ホテルに部屋を取っていた可能性が高いですね。
輪郭からいきます。
わかりました。
(ボーイ)あっもうちょっと細面な感じです。
あっ!髪形はこんな感じです。
目撃者立ち会いのもとにドクターのモンタージュ作成が進められ1人の男の顔が浮上しました
これです!この人で間違いありません!
(パトカーのアナウンス)「こちらは妙高警察署…」ああ編集長?川村です。
こっちに来たついでにもう一度取材を申し入れてみようと思うんです。
あれから半年ちょっと経ってるわけですから「あれからの3人」といった感じで。
…そうなんですよ。
運命に何か変化があればおもしろい記事に…。
「名前は吉見音松さん。
年齢は…」吉見?吉見音松って…。
「身長は170センチくらい体重は80キロほどで…」やだ…。
あのおじいちゃん?
(鈴の音)いかがでしょうか?
(八木節子)存じあげませんこのような方。
そうですか…。
(節子)中学の時の写真なんですあの写真…。
お化粧してない写真は…あれしかなくて…。
あの子にはほんとにつらい思いをさせられました。
電話が鳴るたびに警察からなんじゃないかとかご近所からの苦情じゃないかとか。
もう…電話に出るのも怖くなってしまって…。
(節子)自分の娘なのにあの子が鬼に思えて…。
怖くて…怖くて…。
でも…あの写真を見るとようやく戻ってきてくれたんだなって。
ひとみなんだなって…。
(八木順)お母さん!ケーキ買ってきたよ。
お父さんとお母さんとまさみ姉ちゃんと僕とで4つ。
みんなで…。
(節子)息子の順です。
お姉ちゃんのこと調べてくれてる刑事さんたちよ。
ごあいさつなさい。
(順)こんにちは!こんにちは。
そうか…今日日曜日だったね。
すっかり忘れてたなあ。
どうも。
お邪魔しております。
いえ…。
何か?実はお嬢さんと親しかったと思われる男性が1人浮かびあがりその男のモンタージュができたものですからお心当たりはないかと…。
知りませんねこんな男…。
この男が犯人なんですか?いえそれはまだ…。
なかなかいいご報告ができなくて申し訳なく思っております。
いえこちらのほうこそ休みの日まですみません。
ねえお父さん。
早くケーキ食べようよ。
ああ…。
申し訳ありません。
ケーキを食べたらサッカーの相手をしてやるって約束したものですから。
そうですか。
それじゃあ我々はこれで。
(遮断機の警告音)なんでなんだろう…。
どうしてなんだろう…。
(牛尾澄枝)あなたがブツブツ独り言言い出したら捜査が行き詰まってるって証拠。
だから元気出してまた明日から新たな気持ちで頑張ってもらうためのおまけの1本。
独り言なんか言ってたか?俺。
うん言ってたわよ。
どうしてなんだろう…なんでなんだろう…って。
帰ってからずっとよ。
そうか…。
なあ澄枝。
ん?世間でよく言うじゃないかできの悪い子ほどかわいいって。
あれってほんとなのかね?それとも違うのかね?さあ…どうかしら?そういう人もいるけどでもそれって昔の話じゃない?昔の話?うん。
引きこもりとか家庭内暴力とかそういうのがなかった時代の話。
まあそういう子をできが悪いって言っちゃいけないんだろうけどでもそういう子を持った親って少なくともつらい思いをしてるっていうことは確かだわ。
この辺りでもね結構いるのよそういう親御さんたち。
親と子の関係ってなんかおかしくなってきてるみたいね最近。
私なんかうらやましがられるもの。
いいわねおたくはお子さんがいなくってって。
なんでなんだろう…。
(緒方浩平)あ〜っ無理無理無理無理無理!お前さんが行ってダメなものは俺が行ったって無理だ。
肩書き一緒なんだからさ俺たちは。
そうよね。
『週刊トピックス』の記者か『週刊エピソード』の記者かの違いだけだもんね我々は。
2人で行ったところでけんもほろろよね。
で何がそんなに気になってんだよ。
そのおそ松だか音松だかっていうじいさんの。
やっぱり頼むしかないか牛尾さんに。
牛尾さん?そうしよう!それしかないわ!じゃあ!おい…ちょっと待てよ!あのおっさんだって結構忙しいんだからさそんなこと頼むなっつうの!おい!なんだよ…。
なんかあんのかね?そのじいさんと。
行方不明?81歳のおじいちゃんなんですけど突然いなくなっちゃったみたいなんです。
気になったもんだから所轄署に行ってみたんですけど事件じゃないしプライベートなことは記者には話せないってけんもほろろ。
家族はいないんですか?息子さんが1人いるんですけどそっちのほうもけんもほろろで。
え?私その息子さんに嫌われてるんです。
もうだいぶ前になるけど取材を申し込みに行って断られたんです。
でもそんな簡単には諦められないスッポンの冴子さんでしょ。
でちょっと粘ったら…しつこい女だ二度と来るなって。
音松じいさんとはその時…。
あっ。
吉見音松っていうんですそのおじいちゃん。
音松さんは昔は農業をやっていたそうなんですけど農業に見切りをつけて喫茶店とか居酒屋とかパチンコ店なんかを始めてそれが結構当たって今じゃ中金持ちになったって。
中金持ち?
(吉見音松)そう中金持ち。
大金持ちって言うと嘘になるしまあ…小金持ちというとこれまたね嘘で正直じゃない。
まあ1杯どうだい。
あっはい。
はい…。
おきれいな方だねえ…。
あの…中金持ち。
これが一番正しい言い方だね。
で私はねどこ行っても中金持ち中金持ちと言ってんです。
ふ〜ん中金持ち。
うん。
あんたにはね迷惑は一切おかけしませんよ。
ん?このショップ…店アンド土地全部譲る。
あんたにあげる。
ん?めんこいねえ…。
あげるからねえ…だからわしの…私の連れあいになってちょうだい。
(冴子の声)なんだか頑固だけどすごく楽しそうなおじいちゃんだったから私もついのっちゃって…。
だばあ音松つぁん私ら結婚すんべ?
(冴子の声)もちろんその場のノリでほんとに結婚する気なんてなかったわ。
でも…。
なんだか気になるし心配なので所轄署へ行って様子を聞いてきてほしい。
そういうことですね。
お願いします!お忙しい牛尾さんにこんなことお願いするの本当に…本当に気が引けるんですけど…。
さっき冴子さんは息子さんに取材を申し込んだっておっしゃってましたけど何か事件絡みだったんですか?ああ。
あれは半年ほど前に起きたバス事故のことだったんです。
バス事故?牛尾さん覚えてません?乗客を乗せて走行中のバスの運転手さんが突然くも膜下出血を起こして急死してしまいバスが暴走したっていう事件。
ああ…ありましたねそんなこと。
確か乗客の1人がブレーキを踏んで大事故になるのは避けられたって。
そうですその事故。
実は私もあのバスに乗り合わせていて暴走し始めるもう本当に直前あのバスを降りたんです。
そうだったんですか…。
残った乗客は3人でその中の1人が吉見正造さん。
音松さんの息子さんだったんです。
そのことの取材ですか?そうなんです。
まったく見知らぬ赤の他人がたまたまあのバスに乗り合わせたことで3人は一種の運命共同体みたいになったわけでしょ?その辺りがおもしろいって思ったもんだから3人の座談会を企画したんです。
でも3人ともにあっさり…。
そういえば…八木さんの娘さん殺されたのはこの公園でしたよね?八木さんの娘さんって…。
冴子さん八木ひとみの父親ご存じなんですか?八木さんもあのバスに乗り合わせた乗客の1人だったんです。
え?乗客は吉見正造さん八木順一さん。
それから…なんていったかな?あっそうそう!山寺さん。
山寺元直さんのこの3人で。
バスを止めたのが…。
冴子さん。
どこですか?その所轄は。
私たちはその地妙高高原に向かいました
たった3人しか乗り合わせていなかった乗客のうち相次いで2人の乗客の家族を襲った不幸
殺人と失踪…気になっていました
(杉本刑事)捜索願が出てますから一応捜査はしてますが正直言いますと家族も我々も街の人たちもまったく心配はしてません。
(杉本)何しろ3度目ですからあのじいさんの家出騒ぎは。
そうなんですか。
最初はそれはもう我々も必死になって捜し回りましたよ。
そしたらひと月後にけろっとした顔で出てきて…。
音松さんはどこにいたんですか?半月は温泉めぐり。
あとの半月は温泉で仲良くなった未亡人のうちに転がり込んでたとかでツヤツヤした顔でニヤニヤ笑っていや〜いい思いさせてもらったよって…。
ほんと食えないじいさんですよあのじいさんは。
バカみたい!心配して損した。
でもよかったですよ事件じゃなくて。
それはそうですけど…。
あらやだお休み?ここも音松さんのお店なんです。
またあんたか。
なんでそう八十過ぎのじいさんに興味持つかね?八十過ぎの人が行方不明って聞いたら誰だって心配するんじゃありません?私なんか心配しすぎて東京から刑事さんまで呼んじゃって。
え?こちら東京は新宿西署の牛尾さんっておっしゃる刑事さんです。
牛尾と申します。
冴子さんから事情を聞いてちょっと気になったもんですから。
そのためだけにわざわざ?ええまあ…。
ご心配ですね。
心配なんかしてませんよ。
あの親父のことだからまたどこかで女口説いてますよ。
あんなじいさんでも金持ってるとなると目の色変える女もいますからね。
じゃあ。
はい!?失礼しちゃうわね何あの言い方!あれじゃまるで私が財産でも狙ってるみたいな言い方じゃない。
何よまったく…!
(ピアノ)老人ホームですか。
持ってるお店全部処分して自分が入る老人ホームを作る資金にしたいってそう言ってたんです音松さん。
いい土地があればすぐにでも欲しいって。
そのことで息子の正造さんともめてたみたい。
じゃあ反対だったんですか?息子さんは老人ホームを作るのが。
そりゃそうですよ!だって音松さんは命令するだけで実質的にお店を取り仕切ってるのは正造さんだもん。
そのお店を全部処分されたら正造さんの働く場所はなくなっちゃうわけだし受け継ぐはずだった財産も残らない。
反対するのも無理ないと思うわ。
どの家もいろんな問題抱えてるんですね。
あっ…。
どうぞお好きなものを。
遠くまで来ていただいたせめてものお詫びです。
まだ時間ありますね。
どっかでお茶でも…。
あれ?あの人…。
やっぱりそうだ山寺さんだ。
山寺さんって例のバスの?ええ3人目の乗客。
バスを止めた人。
山寺さーん!ちょっと…山寺…!あ〜もう!行っちゃったドクター…。
ドクターって…山寺さんお医者さんなんですか?そうですけど?江南医大病院の。
違うな〜。
違う?ええ。
全然違います。
山寺さんとはまるで別人。
そうですか…。
じゃあドクター違いだ。
ジョージ…。
(ジョージ)あら…モーさんじゃない。
お前なんでこんなところに?よかったね〜ひとみちゃん。
ひと月経ってようやく人が来てくれた。
刑事さんだけどいいわよね?お花持ってきてくれたみたいだし枯れ木も山のにぎわいよね。
ジョージどうして…。
おかしな子だった…あの子。
(ひとみ)ねえ。
あんたのこと時々ここで見かけた。
あんたってなんかすごいよね。
え?私あんたのこと尊敬してんの。
憧れてんの。
あんたみたいになりたいってそう思ってんの。
私のこと尊敬してるって?バカにすんじゃないわよ…。
バカになんかしてないよ!だって…あんたって何者でもないじゃない。
それどういう意味よ?男でもない女でもない。
なんかさ人間超えちゃってるって感じでさ。
私なんかなんかやるたびに…あんたは女の子でしょ。
あんたはお姉ちゃんでしょ。
あんたはまだ高校生でしょ。
あんたは八木家の長女でしょ。
あんたはあんたはあんたは…。
うざったいよもう。
だから…私あんたみたいになりたい。
何者でもない存在に。
(ジョージの声)それからはここで会うとなんとなく話すようになって…。
ああいう子だから…嫌な思いをさせられたり迷惑をかけられたりした人たちはたくさんいると思う。
だからといって殺されていいってことなんてない。
絶対にない…!あの子まだ18よ…。
たったの18…!それが…あの日の朝…。
(ジョージの声)これからじゃないの…あの子の人生。
モーさん…犯人を捕まえて。
絶対に捕まえて!もし…犯人を捕まえられなかったら私モーさんのこと能なし刑事って呼ぶからね。
絶交しちゃうから!…わかった?絶対よ。
お願い!
(すすり泣き)モーさん。
今度来る時は白い花持ってきてやって。
あの子白い花が好きだって…そう言ってたから…。
叫んだ…。
え?赤の他人の…しかもあのジョージが…。
牛尾さん…それどういう?直接聞くしかないか。
(改装工事の音)直してるみたいですねガイシャの部屋。
それに車も替えたみたいです。
(改装工事の音)ごめんください!
(改装工事の音)ごめんください!
(改装工事の音)
(八木まさみ)ねえいいでしょ?行っても!
(順)ねえ僕行きたい!野尻湖にわかさぎ釣り行きたい行きたい行きたい!
(節子)お母さんも行きたいけどお父さん次第ね。
どうする?お父さん。
(順一)よし!じゃあ決まりだ。
今年の冬は家族揃って野尻湖へわかさぎ釣りだ!
(まさみ)やったーっ!
(順)やったーっ!やったーっ!捜査対象者を広げるべき?はい。
どういうことだ?それ。
モーさん。
本犯人はドクターではない…ということですか?いえそういうことじゃないんです。
ただ今回の捜査は捜査初日にドクターという人物が浮かびあがったことでドクターばかりに目を向け絞りすぎてるんじゃないかって。
他にも捜査の対象とすべき人物はいるような気がするんです。
どういう人物ですか?例えば両親。
特に父親です。
根拠を話していただけますか?牛尾さんがそうお考えになる根拠を。
叫びです。
叫び?私はこれまで子供が殺害された事件を何件も扱ってきました。
子供を殺害された親は一様に皆同じことを口にします。
刑事さん犯人は一体誰なんですか?なぜうちの子が殺されなければならなかったんですか?必ず…必ず犯人を捕らえてください!それはもう…無念と怒りと悲しみの叫びです。
子供が殺害された場合我々は親のそういう叫びを胸に刻み込んで捜査にあたってきました。
ですが八木ひとみの両親からは一切そういう言葉は聞かれません。
八木ひとみは八木家にとっては厄介者だったんだと思います。
その厄介者がいなくなったんです。
家族がホッと胸をなで下ろし笑顔で暮らし始めたとしてもそれは責められることではありません。
ですがそれと叫びとは別なんじゃないでしょうか?
(坂本)けどモーさん。
あの両親にはアリバイがあったんじゃなかったのかな?ガイシャが殺された日は確か奥さんの実家の野尻湖へ行ってたって…。
ですがまだウラは取っておりません。
(山路)ウラは取ってないって…。
じゃあモーさんは両親がアリバイ工作をしたうえで実の娘を殺したってそう言うのか?いやそんな事言ってない。
だがたとえ両親であろうときちんと調べるべきだってそう言ってるんだ。
モーさんには子供がいないからわかんないんだよ親の気持ちなんか。
…え?
(山路)どんなにできが悪くてもどんなに厄介者でもどんなにブスでも…我が子は我が子なんだよ。
かわいいんだよ。
育ててきた重みってもんがあるんだよ。
そんな我が子をアリバイ工作をしたうえで実の親が殺すなんてことは絶対…。
(遮断機の警告音)
(山路の声)モーさんには子供がいないからわかんないんだよ親の気持ちなんか。
澄枝。
はい。
時刻表どこだったかな?
私は休みを取って野尻湖に向かいました
実の親がアリバイ工作をしたうえで自分の娘を殺害する…
そんなことは考えたくありませんでした
でもどうしても気になっていたのです
なぜあの父親には叫びがないのか
でも…
じゃあ間違いなく来てらしたわけですね八木さんご一家は。
(内田里子)ええ来てましたよ。
八木さんも妹も10月7日の昼過ぎに車で来て…。
(まさみ)こんにちは!
(順)おばさん!ああいらっしゃい!よく来たね。
ただいま!
(里子の声)八木さんだけは仕事の都合で9日の朝早く東京へ戻りましたけど。
8日の夜も皆さんと一緒にこちらで過ごされたわけですね?奥さんも八木さんも。
ええそうですけど。
勘が外れたことにホッとし喜んでる自分がいました
こんなことは初めてでした
ついでに妙高の吉見音松さんを訪ねてみることにしました
いろいろ参考になりました。
ありがとうございました。
冴子さん!牛尾さん!あっありがとうございました。
ちょっと近くまで来たもんですから。
音松さんもうそろそろ帰ってきてるんじゃないかと思って。
私もそう思って来てみたんですけどまだ帰ってきてないみたいなんです。
まだ?ええ。
そうですか…。
でももうひと月ですよね。
心配じゃないんですかね?息子さん。
正造さんにしてみれば音松じいさんなんか帰ってこないほうがいいんじゃないのかしら。
え?この前お話しした老人ホームの問題。
ああ…。
息子さんは反対でもめてたって言ってましたね。
音松さんが帰ってきたら当然その話がまた再燃するわけだし正造さんにしてみれば目の上のタンコブなんですよ音松さんは。
消えてほしい存在…。
牛尾さん…私一瞬だけどもしかしたらってそう思ったんです。
何がです?もしかしたら音松さんは息子の正造さんに殺されたんじゃないかって。
え?
(携帯電話のメールの着信音)それじゃあ私たち夫婦の疑いは晴れたということですね。
はい。
ほんとに…ほんとに申し訳ないと。
義姉からの電話で家内はショックを受けてまた寝込んでしまいました。
なんで私たちが疑われるの?世間の人たちはみんなそう思ってるの?って…。
私たちは十分に苦しみました。
被害者だっていうのにマスコミの人たちが押しかけてきて朝から晩まで門の前で待ち構えてて…。
家内も子供たちもようやくまた笑えるようになったんです。
それを…。
疑いが晴れたならそれはそれで結構です。
ですが私も家内も牛尾さんにお目にかかることはもう一切ありません。
今日はそのことを伝えに来ました。
じゃあ。
それじゃあ捜査から外されちゃったのか?牛尾さん。
外されたわけじゃないみたいだけど少なくとも自分勝手には動き回れないみたい。
あ〜。
でも足で事件解決していくタイプだからなあの人は。
一番つらいんじゃないか?動き回れねえのは。
でもいくらなんでもひどすぎるわよ牛尾さん。
実の両親を疑うなんて…。
そうか?子殺しなんてごまんとあるぞ。
去年だって確か百何十人っていう子供は実の親に殺されてんだよ?きっと今年も…。
子殺しがあれば親殺しもある…。
何?牛尾さんのこととやかく言えないわ私は。
私だってほんの一瞬だけど親殺しを疑ったんだから。
親殺し?
(物音)
(叫び声)
(山寺詩子)やめて!やめてちょうだい敬一!お願い…やめて!
(山寺敬一)うるせえ!詩子!大丈夫か!?大丈夫…。
(叫び声)敬一…朝っぱらからずいぶん元気がいいな。
そんなに元気があるなら父さんと…。
うるせえ!てめえなんかぶっ殺してやる!ぶっ殺すか…。
でも父さんは今お前に殺されるわけにはいかないんだ。
山に…。
だったらその山の中でぶっ殺してやるよ!今日があんたの命日だ…。
俺があんたの命日にしてやる!敬一…。
似てます。
(山路)似てる!?前にうちにいた先生なんですけど。
名前と住所教えてもらえるかな?そのドクターの。
失礼ですが秋吉先生ですね?
(秋吉勝敏)そうですけど…。
新宿西署の山路といいます。
西谷です。
ちょっとお話をお伺いしたいんですがよろしいですか?
(山路)ちょっと…!おい!公務執行妨害現行犯逮捕!10月8日の夜あんたは新宿のラフレホテルで八木ひとみに会った。
そうなんだろ?偽名でスイートの部屋を取り八木ひとみと楽しむつもりだった。
ところが口論になりカッとなったあんたは八木ひとみを殺してしまった。
そうだろ?
(山路)黙秘を続けてますがブティックの店員それにホテルのベルボーイもガイシャと口論してたのは秋吉に間違いないと証言してます。
となるとあとは指紋だな。
バッグの中にあった封筒入りの10万。
あれに残された指紋だ。
そうです。
(西谷)当たりです!封筒に残されていた指紋及び1万円札に残されていた指紋は秋吉の指紋と一致しました。
よっしゃ!この10万は秋吉がガイシャにやったものと考えて間違いないと思います。
だとしたらどうしてなんだ?秋吉の犯行だとしたら彼はガイシャの携帯持ち去ってるわけですよね。
だったらなぜ10万の金は取り返さずそのまま現場に残しておくようなことをしたんでしょうか?封筒にも札にも指紋がついてることを秋吉だってわかっていたはずです。
なのになぜ金だけ置いたままで…。
口論のあげくにカッとなって殴り殺したわけですから金のことは忘れていたんじゃないでしょうか?でも携帯を持ち去る冷静さはあったはずだ。
なのになぜあの金だけ?そんなことはあとで奴に聞けばいい。
とにかく奴ですよ。
複数の目撃証言口論をしてたという動機指紋の一致と三拍子揃ったうえ逃げようとしあげくの果ては黙秘ですよ。
あとはもう自供を待つだけ!これにて一件落着。
めでたしめでたし。
ヘヘヘッ。
だが秋吉勝敏は一切口を開こうとしませんでした
吉見音松も帰宅しないまま八木ひとみの四十九日も過ぎもう12月に入ろうとしていました
(雷鳴)
(雷鳴)
(テレビ)「昨日の早朝新潟県妙高市の妙高山系神奈山の山中で男性の死体が埋められているのが発見されました」「埋められていたのは都内目黒区在住の医師山寺元直さん51歳で…」山寺って…!「山寺さんは11月21日の朝妙高へ行くと家族に告げて自宅を出たまま行方がわからなくなっており…」3人目だ。
3人目…。
3人目?だから3人目なんですって!3人目!
(川合刑事)死因は窒息死。
殺害されたのは行方がわからなくなった当日11月21日の夕方から夜にかけてじゃないかと思われます。
(牛尾の声)山寺さんって例のバスの?
(冴子の声)ええ3人目の乗客。
バスを止めた人。
(川合)牛尾さんそろそろ話していただけませんか?新宿西署の牛尾さんがなぜこんな遠いところまでわざわざいらっしゃったのか。
まだはっきりした確証はありません。
ですが3人目なんです山寺さん。
3人目?なるほどね。
本当なんですね?今の話。
本当に間違いありません?間違いないわよ!はっきり聞いたもん私。
そうですか…。
(詩子)あのバスの事故のことでしたら主人は別に何も言ってませんでしたけど…。
ひどい目に遭った死ぬかと思ったってそのぐらいでしたけど。
(川合)そのあと…バス事故のあと山寺さんはあとの2人の乗客八木さんと吉見さんですがそのお二人とはお付き合いはあったんですか?
(詩子)いいえなかったと思います。
そんなことは聞いてませんから。
奥さん。
私はひと月ほど前妙高高原駅で山寺さんをお見かけしたことがあるんです。
山寺さんは休みの日には必ず妙高へ行かれてたそうですけど山歩きがご趣味だったんですか?いいえ。
今まではそんなことはなかったんですけどなんだか急に山を歩きたくなったって言ってそれで…。
いつ頃ですか?それは。
10月の半ば過ぎ…20日頃だったと思います。
じゃあ私がお見かけした頃からですね。
妙高へ通われるようになったのは。
はいたぶん。
そうですか。
(川合)最後に妙高へお出かけになった日のこと。
11月21日なんですがその日のことについてお尋ねしたいんですが何かいつもと変わっていたというようなことはありませんでしたか?
(詩子)いいえ別に。
いつもと同じでした。
あの…どうしてバス事故のことや山歩きのことをお聞きになるんでしょうか?先日はお金や時計それに携帯なんかもなくなっていたからお金目当ての強盗に殺されたんだろうってそう。
(川合)そのことなんですが実はちょっと状況が変わってきまして…。
え?行きずりの犯行ではなく顔見知りによる計画的な犯行の可能性が出てきたんです。
家族は3人ですね。
ガイシャの山寺さんと奥さん。
それに大学生の敬一君という息子さんの。
川合さんは息子さんにお会いになりましたか?いえ会ってません。
体の具合が悪いとかで遺体の確認も奥さん一人で妙高へ来ましたから。
(敬一の声)今日があんたの命日だ…。
俺があんたの命日にしてやる!
(秋吉)確かに…あの日の夜私は八木ひとみに会いました。
ホテルのロビーで口論していたのも私です。
(秋吉の声)彼女が約束破ったんでひどく腹がたってそれで…。
(秋吉)なあ!金返せ!あんた私がいくつだか知ってるよね?そう未成年。
その未成年にいろんなことしてくれたよねあんた。
あんなこともこんなこともされましたって泣きながら警察へ駆け込もうか?ちょっと…。
そうなったら10万ぽっちじゃすまないことぐらいあんただってよくわかってんだろ?だけどそれは…。
何が制服のままでさせろだよ。
何が約束しただよ。
この変態おやじ!ちょっと…!わかったらさっさと帰んな。
この10万は今までの慰謝料としてもらっといてやる。
じゃあね。
(山路)彼女とはそこで別れただと?いい加減なことを言うな!ドクターさあ…。
ほんとです。
嘘じゃない。
その後の私のことを証明してくれる人もいるんです。
15歳ですよ15歳!どうかしてますよこの国は!ガイシャと別れて歌舞伎町をぶらぶらしてたらナンパされたって言うんです。
15歳の女の子2人に。
で結局3人で朝までラブホテル。
女の子たちも認めたそうです。
一緒にいたって。
(西谷)黙秘するわけだよ15歳が相手じゃ。
淫行条例に引っかかって即逮捕だもん。
これでまた振り出しに戻ったってわけだ。
一から出直し!振り出しには戻ってませんよ。
そのために牛尾さんに妙高まで行ってもらったんですから。
詳しく聞く必要がありそうですね。
牛尾さんが引っかかっているというバス事故のことを。
申し訳ありませんがもう少し詰めさせていただけないでしょうか?確かにバスの暴走事故のことは引っかかっています。
ですが本件と絡んでいるかどうかはまだ…。
私はこの前自分勝手な推測に走って本部にも那須警部や課長にもご迷惑をおかけしました。
傷つけてしまった人たちもたくさんいます。
はっきりした確証がつかめるまでもうしばらく待っていただけないでしょうか。
お願いします。
なんか妙なことになってきましたねぇ。
週刊誌の見出し風に言えば偶然乗り合わせた3人の乗客。
その乗客と家族を次々と襲う不幸。
1人目は殺人2人目は失踪そして3人目までもが…。
となるとですよその2人目の音松じいさんってのももしかしたらもう…。
その可能性が強いと思ってます。
どっかで殺されてる。
牛尾さん私音松さんはやっぱり家出だってそう思ってるんです。
いやいやいや。
そう思いたいのはわかるよ。
牛尾さんは八木ひとみの殺害音松さんの失踪それから山寺さん殺しはそれぞれバラバラの事件ではなくすべては3月に起きたバス暴走事故に端を発している。
そう思ってらっしゃるわけですよね?はっきりした確証はありませんがその可能性は強いと思ってます。
私も最初はそう思いました。
でも違う。
違う?山寺家はすごい爆弾を抱えていたってことがわかったんです。
なんだよ?その爆弾っていうのは。
もしかしたらひとり息子の敬一君のことですか?おそらく家庭内暴力を振るっている。
やだ…もう知ってたんだ牛尾さん。
そうなんです。
山寺さんも奥さんもその息子のことで相当苦しんでたみたいなんです。
とりあえず大学には入ったらしいんだけど最近は学校にも行ってないみたいで2階の自分の部屋に閉じこもった状態で。
近所の人も怒鳴り声は聞こえるけど姿はほとんど見かけないって。
その爆弾が爆発しちゃったんです。
あの日の朝。
(敬一)うるせえ!てめえなんかぶっ殺してやる!
(元直)ぶっ殺すか…。
(元直)でも父さんは今お前に殺されるわけにはいかないんだ。
(元直)山に…。
(敬一)だったらその山の中でぶっ殺してやるよ!今日があんたの命日だ…。
俺があんたの命日にしてやる!俺があんたの命日にしてやるよ…ねえ。
それが?11月21日の朝。
山寺さんが行方不明になった日であり殺された日。
まさにそのとおりになったってわけ。
つまり山寺さんを殺したのは実の息子でありバスの事故とは関係がない。
したがって3つの事件はバラバラに起きた事件であり一つの繋がった事件じゃないってことか?そう。
親殺しは吉見家ではなく山寺家で起きてたってわけ。
(緒方)なるほど。
残念だけど今回は牛尾さんの推理は…。
ん?あっ!やださすが牛尾さん。
もう逮捕しに行っちゃった。
モーさんだからな。
違います。
あの子じゃありません。
あの子はそんなことを…。
お母さんに聞いてるんじゃない。
敬一君に聞いてるんです。
ですから敬一はそんなことは。
敬一君聞いてますね?君がお父さんを殺すって言った時お父さんはまだ殺されるわけにはいかない。
山に…ってそう言ったんですよね?お父さんは山になんと言ったんですか?聞いてたら教えてください。
敬一君はお父さんが誰になんのために殺されなければならなかったのか知りたくありませんか?犯人はどこの誰だ。
なぜ殺したんだって叫びたくないですか?叫ばないまま知らないままで…。
敬一…敬一じゃないんですね?
(携帯電話)敬一!もしもし?え?雪?雪って言ったの?お父さん。
そう。
だったら下りてきて自分で…。
敬一!雪っておっしゃったんですか?山寺さん。
山に雪が来る前になんとかしなくてはいけないって。
そう言ったそうです。
山に雪が来る前になんとかしなくてはならない…。
山に雪が来る前に…。
雪が来る前に…。
牛尾さん!目撃者が出たそうですね。
そうなんです。
(川合)山寺さんをバスの運転手が覚えてたんですよ。
(運転手)それでは発車いたします。
(運転手)いつも同じ停留所で降りていましたよあの人。
(運転手)それがここです。
不動橋です。
(川合)おそらくあの山神奈山っていうんですがあの山に入ったんじゃないかと。
山寺さんはあの山でやらなければならないことがあった。
雪が来る前に。
え?音松さんを捜してたんだと思います。
音松さんの死体を。
(正造)いなくなった時の詳しい状況って言ったってまったくわからないですよ私は。
え?旅行へ行ってたんですあの日は。
商店会の旅行で2泊3日で北海道へ。
旅行ですか。
出かけたのが10月12日で帰ってきたのが14日の昼。
帰ってきたら親父がいなくなっててそれで警察へ。
13日の昼頃うちの店員がじいさん見かけたのが最後らしいんです。
そうですか。
旅行に。
実は私ども一昨日から家族で野尻湖のほうへ行っておりまして。
旅行…。
2人とも旅行…。
旅行中…。
正造さんにしてみれば目の上のタンコブなんですよ音松さんは。
消えてほしい存在…。
万引き暴力行為恐喝援助交際…。
警察のお世話になることも何度かありました。
山寺家はすごい爆弾を抱えていたってことがわかったんです。
八木家の厄介者。
吉見家の目の上のタンコブ。
山寺家の爆弾。
偶然あのバスに乗り合わせた3人。
八木家の厄介者。
吉見家の…。
まさか…!まさかそんなことって…。
(戸が開く音)
(正造)申し訳ありません。
店は5時半からで…。
刑事さん。
何度来られてもわかんないものはわかんないんで答えようが…。
いえお聞きしたいのはそのことじゃないんです。
え?八木さん。
少しだけお時間いただけないでしょうか?どうしてもお聞きしたいことが。
前にも言ったはずです。
あなたとは会うつもりも話すつもりもないって。
八木さんは吉見音松さんをご存じですか?バス事故で乗り合わせた吉見正造さんのお父さんで10月13日に…。
車を替えてる?それで冴子さんに調べてもらいたいことがあるんですけど…。
10月の13日のことになります。
できればVTR素材でチェックしていただけると大変助かるんですけれども。
信じられないこんなことって…。
その事故が起きたのは今年の3月16日午後8時40分頃のことです。
運転手が走行中に突然くも膜下出血を起こして急死してしまい乗客を乗せたままバスは暴走し始めたんです。
乗り合わせていた乗客は3人。
八木ひとみの父親八木順一。
吉見正造。
そして山寺元直の3人です。
3人は打撲傷ですんだんですがその3人の家族にのちになって次々と不幸が襲ったんです。
最初は我々の事件です。
10月8日八木順一の娘八木ひとみが新宿中央公園で殺害されその5日後の10月13日には吉見正造の父親吉見音松の行方がわからなくなりさらにはつい先日11月28日は乗客だった山寺元直自身が妙高の山中で他殺体で発見されたんです。
3つの事件は一見関係のないバラバラの事件のように見えます。
ですが3人があのバスに乗り合わせていた乗客だったということを考えると3つの家庭を襲った3つの悲劇はバラバラではなくなんらかの関連性を持っている。
つまり3つの事件は一本の線上にあり3月に起きたバスの暴走事故に端を発している。
そう考えざるを得ません。
バスの事故自体運転手の急死も不審な点はなく八木順一吉見正造山寺元直の3人もバスに乗る前は赤の他人でありバスに乗り合わせたのもまったくの偶然だったことははっきりしています。
ですが3人の乗客は一つだけ共通点がありました。
3人とも家庭内にトラブルを抱えていたんです。
八木順一は長女・ひとみの非行に悩み吉見正造は81になっても会社の実権と金の一切を握り頑として息子に譲ろうとしないワンマンで横暴な父親吉見音松との間で確執が絶えず。
山寺元直もまたひとり息子の家庭内暴力に苦しんでいました。
暴走するバスの中で3人はある意味生死をともにしたわけです。
そこにひとつの連帯感が生まれたとしてもそれは不思議ではありません。
そしてその連帯感が一つの目的に向かって動き出したんだと思います。
お互いの家庭内のトラブルを解消する目的。
交換殺人です。
交換殺人はまず吉見正造と八木順一の間で行われました。
吉見正造が八木ひとみの殺害を実行し八木順一が吉見音松の殺害を実行したわけです。
吉見正造の父親吉見音松が行方不明になった10月13日は吉見正造は北海道に旅行に行っておりアリバイははっきりしています。
ですが…。
いえお聞きしたいのはそのことじゃないんです。
(正造)え?吉見さんは10月8日の夜はどちらにいらっしゃいましたか?10月8日?八木ひとみさんが殺害された日の…。
なんでそんなこと聞くんだよ。
それじゃあまるで俺が…。
どちらにいらっしゃいましたか?夜の9時頃から午前0時ぐらいの間。
いい加減にしてほしいよまったく。
あの日は家にいたよ。
店は休みだったから家に。
同じだ!八木順一も娘が殺された日は奥さんの実家の野尻湖へ行ってて。
じゃあモーさん八木もその音松っていうじいさんが行方不明になった日のアリバイはないのか?わからない。
だが…。
間違いありませんか?ええ。
間違いないですけど。
10月13日の午前10時頃ワイドショーのクルーと八木さん宅にお嬢さんのことで取材に行ったんです。
でも八木さんは留守で車もありませんでした。
さらに八木順一はその直後10月25日にその車を廃車にして新しい車を購入しています。
一昨年買ったばかりでまだ新しいとも言える車をです。
その車で吉見音松をどこかへ誘い出して殺した。
つまり車を廃車にすることで証拠隠滅をはかったわけだ。
犯罪を交換することで八木家と吉見家の家庭内のトラブルが解消されることになったわけです。
誰にも疑われずに。
(山路)だとすると山寺殺しは一体どういうことになるんだ?今度のことは3つの家族の3つの家庭内トラブルを解消するために行われた交換殺人だったんなら次に殺されるのは当然山寺家の暴力息子だったはずだ。
なのに殺されたのは山寺自身。
これは一体どう解釈すれば?山寺元直は音松さんの行方がわからなくなった直後の10月20日頃から突然妙高へ通いだし始めています。
山に雪が来る前にしなければならないことがある。
息子さんにそう言ったそうです。
(山路)山に雪が来る前に?死体だ。
山寺元直は吉見音松の死体を捜すために山へ入ったんじゃないか。
というのがモーさんと我々の推測だ。
なんのためにそんなことする必要があったんですか?それは私にもわかりません。
ですが八木順一と吉見正造の間で交換殺人が行われたことだけは間違いなしとそう思ってます。
でもこの犯罪を立証することはできません。
正確に言うと明日立証できるかもしれません。
でも永遠に立証できないかも…。
どうしてだよ。
そこまでわかってんだったら立証できないはずないじゃないか。
死体です。
吉見音松の死体。
死体がなければ殺人事件もないんです。
吉見音松の死体が出てこない限り我々は交換殺人どころか殺人を立証することすら。
そんなこと簡単じゃないですか。
八木と吉見を引っ張ってきて叩けばすぐ…。
なんの罪状で引っ張るんですか?決まってるじゃないですか交換殺人…。
カーッ!そうか死体がないんじゃ殺人罪は…。
だったら山狩りすればいいんじゃないんですか?山狩りして死体を見つけて…。
山のどこを捜索するんだ?山全体を掘り返すのか?突破口は一つしかありません。
吉見正造が八木ひとみ殺しの実行犯であるという証拠を見つけ出すことです。
この一角が崩れれば交換殺人というトリックもおのずと崩れるはずです。
えっ一週間も?でも珍しいわね。
一週間もまとめてお休みをとるなんて。
そうだな。
だったらこれが必要じゃない?いや今度の旅は時刻表は必要ないんだ。
どうして?目的地さえわからないんだから。
え?でも行かなければならない旅だ。
山に雪が来る前に。
川合さん。
那須警部と坂本課長からお電話をいただきまして。
え?水くさいですよ牛尾さん。
誘ってくださらないなんて。
いやでも…。
私も一週間休みもらいましたよ。
いかにも牛尾さんらしいねぇ。
何がなんでも見つけ出すってか。
何年…何十年かかってもね。
けど今度ばっかしはなぁ…。
おそらく土の中に埋められちゃってるだろうしそれにいくら神奈山だってあたりつけてもほんとにそこかどうかもわかんねえしな。
ちょっと難しいんじゃねえか?そういう人なのよね浩平さんって結局。
え?しょせん他人事。
ハハハッお前さんには言われたくないね。
大体今度の事件の発端だ…。
御見それしました。
(携帯電話)冴子さんがですか!?ええ牛尾さんだけには任しておけないそうですよ。
音松じいさんとは浅からぬ縁もあるしなんとしてでも自分が見つけ出すって言ってそっち向かいました。
無茶ですよそんなこと。
そろそろ雪が来るかもしれないっていうのに。
大丈夫大丈夫心配しないでも。
彼女には俺の知り合いの山の達人つけときましたから。
(本田剛)じゃあこのバス停から乗りましょう。
こちらですねはい。
(川合)牛尾さんできましたよ。
一日が過ぎ…
すいません!すいません!新宿西署の者です。
この男見覚えないですか?本田さ〜ん!あっ走らないで!揺れてる!揺れる揺れる!静かに!高いところダメなんですか?あっサラダサラダ!はいサラダよ。
あっ私やる。
二日が過ぎ…
よいしょよいしょ…。
そこ滑りますよ!どうよ?このマグロ。
すごい美味しい。
直江津から取り寄せたんだ。
三日…
牛尾さん!冴子さん。
そして四日…
(悲鳴)冴子さん!牛尾さんあそこ…!あそこ!どうしました?冴子さん!八木さんお嬢さんの八木ひとみさん殺害の件並びに吉見音松さんのことでお聞きしたいことがあります。
ご同行願えますね。
交換殺人?交換殺人はあなたと吉見正造の間で行われました。
あなたが吉見正造の父親吉見音松さんの殺害を実行し吉見正造があなたの娘ひとみさんを。
証拠があるんでしょうか?私が吉見さんのお父さんを殺したという証拠。
あります。
出てきたんです決定的な証拠が。
だったら見せていただきたいですねその証拠とやらを。
人殺しのくせに何びくびくしてんだ?え?殺し損ねたねぇ。
え?おまけに老人ホームに最適な場所があります。
このバカヤロー!
(音松)銀行屋さん確かに景色はいい。
けどここに老人ホームはなぁ…。
(音松)けど一体どういう風の吹き回しだ?いい土地があるから見てこいよ…。
あいつなんか企んでんじゃねえか…?あぁ…!
(音松)アーッ!
(水音)
(音松)あんなやわな殴り方で死ぬような俺じゃねえ。
中途半端なとこから落っことしやがって。
おいお前さん俺の息子に自分の娘を殺させたってのは本当か?本当かって聞いてんだ。
(音松)なんでだ?なんでそんなことをした!お前さんの娘だろうが。
自分の娘だろうが。
自分の娘を父親のお前が…なんでそんなことをするんだ?実の親が実の息子に…。
実の娘が実の父親に殺されなきゃいけねえんだ…。
おい!おい!!
(音松)はっきりしろ!なんでだ?
(山路)行きましょうね。
(山路)行きましょう。
(音松)おい!もっと聞きたいことがあるんだ。
おい!
(音松)聞きたいんだよ!離せ!音松さんは2日後に山菜を採りに来た谷村さんという人…その人ももう八十過ぎの老人ですがその人に助けられ谷村さんの家で一緒に暮らしていたそうです。
音松さんを見つけた時…。
(悲鳴)どうしました?冴子さん!あそこ…!生きてる…音松さん生きてる。
生きてる。
(牛尾の声)音松さんは自分を殺そうとしたのは息子であるということはわかってた。
だから自宅へ帰れば今度こそ…。
本当に殺されてしまうんではないかという恐怖感もあったそうです。
でもそれより何より帰ったら自分の息子を殺人犯として告発しなければならないという苦しみのほうが大きかったってそう言ってました。
出てきてくれる気持ちになったのは私たちが交換殺人のことを話したからです。
息子がそんなことをしたんだったら罪を償わせたい。
そう言って出てくる決心をしてくれたんですよ音松さんは。
確かに音松さんはワンマンで横暴で吉見にとっては我慢できない存在だったかもしれません。
でもやっぱり父親だったんですよ音松さんは。
ごく普通の父親。
正造。
(正造の笑い声)ほらだから言ったでしょ?親父は死んだりなんかしてないって。
冗談じゃないよまったく。
何が交換殺人だよ!何が八木さんちの娘を殺しただろだよ!親父はこのとおり殺されてなんか…。
誤魔化すんじゃない。
正造本当のことを言いなさい。
もし女の子を殺したんなら殺したと本当のことを。
それが本当なら罪を償うべきだ。
罰を受けるべきだ。
私も世間様に…。
(正造)世間様に謝る?わびる?てめえが謝んなきゃいけねえのはわびなきゃいけねえのはこの俺だろうが!ガキの頃は殴る蹴る。
大人になったら金鼻先にぶら下げてああしろこうしろ言うとおりにしろ。
他人に頼んだりしたのが間違いだった。
自分の手でやればよかったんだ!俺の人生めちゃめちゃにしやがったのはてめえじゃねえか…!俺が人殺しなら…。
(嗚咽)てめえだって人殺しじゃないか。
俺の人生…俺の人生殺しやがって。
正造…!
(パトカーのサイレン)もう死ぬ…。
そう思いましたあの時。
(車のクラクション)
(順一)あーっ!坂だ!
(正造)あっ!下り坂だ!
(順一の声)会ったこともなく名前も知らない2人の人たちと一緒にここで死んでいくんだなって。
(タイヤがきしむ音)
(タイヤがきしむ音)
(複数の車のクラクション)
(車のクラクション)
(車のクラクション)
(正造)あっ…止まった。
(順一)やった!
(正造)よかった!助かった。
(順一の声)不思議な連帯感がありました。
名前も知らない人たちなのにもう何十年も前から知ってる人たちみたいな。
一度一緒に飲みましょう。
そう約束してその約束が果たせたのは4月になってからでした。
(正造)ああだけどほんとびっくりしましたよあん時は。
今こうやって生きてられるのは山寺さんのおかげだ!いえいえ。
感謝感謝!ほんとそのとおりですよ。
バスをあの時止めてくれなかったらと思うとほんとゾッとします。
私あの時一瞬思ったんです。
名前も知らない人とここで死んでいくんだなって。
ああ私もそう思いました。
それがこうやって一緒に飲めるんですからね。
(正造)さあさあどんどん飲んでどんどん食べてくださいよ。
と言ってもわざわざこんな遠くまで来てもらったっていうのに酒も料理もこんな有様ですけど。
いえいえ。
(正造)親父の奴が持ってる店全部処分して老人ホーム作るなんて言い出して金回してくんないんですよ!恥ずかしい話仕入れの金にも困る有様で老人ホームなんて作られたら財産パーだ!大学へも行かせてくれず何十年も奴隷みたいにこき使われたあげくこの歳になって一文無しで放り出される。
こんな話ってありますか。
あいつは目の上のタンコブなんだ。
いなくなったらどんなにせいせいするか!アハハッすいません!とんでもない愚痴聞かせちゃって。
いやぁどこの家にも一人ぐらいはいるもんなんですかね厄介者は。
え?うちは娘なんですよ。
何もかも全部話しました。
話せたんです。
山寺さんと吉見さんには。
あの子が売春をしてるかもしれないというようなことまで。
(順一)家内はもちろん下の子供たちは最近はもうほとんど笑わなくなってしまいました。
地獄ですよ今の我が家は。
時々思うんです。
この子さえいなかったらって。
いや…正直しょっちゅう思ってます。
なんでいなくならないんだろうって。
わかるなぁ〜八木さんの気持ち。
一人そういう人物がいると家の中って地獄なんですよ。
俺なんて何度包丁握ったことか。
(3人の笑い声)でもやめました。
ぶっ殺してやったらさぞせいせいするだろうけどあんなクソ親父のためにこれ以上人生棒に振りたくありませんからね。
もっとも完全犯罪なんていうのがあれば話は別ですけどね!そんなのはあり得ないでしょ完全犯罪なんて。
科学捜査もすごいっていいますから。
ありますよそれ。
完全犯罪は一つだけ。
(正造・順一)え?犯罪を交換するんです。
犯罪を交換する?交換殺人です。
(正造・順一)え?例えば私が八木さんのお嬢さんをこの世から消してしまい八木さんが私の息子をこの世から消す。
息子って山寺さんちも?そうなんですか。
人が殺された時に警察が一番注目し調べるのは動機です。
その人物を殺さなければならない理由。
でも私は八木さんのお嬢さんをまったく知らないわけだから殺さなければならない動機はない。
八木さんの方もまたしかりだ。
したがって警察は私たちの存在にはまったく気づかないわけだから絶対に…。
(正造)捕まらない!
(順一)なるほど!どうですか?八木さん!え?のりませんか?悪くないですねのりましょう!じゃあ契約成立だ。
成立〜!2人だけで盛り上がらないでくださいよ。
私も参加。
交換殺人のトライアングル!
(3人の笑い声)かんぱい!あの時はもちろん冗談でした。
誰も本気でそんなことは考えていませんでした。
(順一)でも…あの日の夜。
(順一)何やってるんだ!
(ひとみ)燃えろ!
(ひとみ)燃えちゃえばいいんだこんな家!燃やしてやる…。
(順一の声)その時はっきり思ったんです。
この子はもう私の娘なんかじゃない。
悪魔なんだって。
娘のひとみはあの悪魔に心も体も食われてしまってもうどこにもいないんだって。
(順一)このままにしてたら私の家族もいつかあの悪魔に食われてしまうって。
その時思い出したんです。
あの時の山寺さんの言葉を。
でも山寺さんは…。
何言ってるんですか。
あの時のことは冗談だったはずです。
そのことは八木さんだってよく…。
でも…。
(元直)つらい気持ちはよくわかります。
私も協力します。
ですからそんなこと考えないでなんとか一緒に乗り切っていきましょう。
ね。
ひと月前だったらむしろ私のほうからお願いに行っていたかもしれません。
でもね八木さん。
(順一の声)私にはもう頑張れる気力なんて残ってなかった…。
(順一の声)それで…。
いいよ…俺はのっても。
本当ですか?本格的に老人ホームの土地探しだし始めてんだ親父の奴。
このままでいったら俺は…。
やるんなら今だ。
今やるしかねえ。
やろう八木さん。
(順一の声)でも一つだけ気になることがあったんです。
(順一)でも一つだけ気になることがあったんです。
山寺さんのことですね。
ひとみさんが殺害され音松さんも殺されたとなると山寺さんはあなたたちの交換殺人に気づいてしまう。
だから音松さんは家出ということで通した。
そういうことですね。
でも結局気づいてしまったんです山寺さんは…。
(順一の声)ひとみが殺害されたということがずっと気になってたそうなんです。
それで吉見さんに会いに行ってその時…。
(パトカーのアナウンス)「…行方がわからなくなりました」「名前は吉見音松さん。
年齢は…」
(順一の声)私たちは山寺さんに呼び出されました。
(元直)どうしてですか?どうしてそんなことをしたんですか?あなたたちは。
(正造)ですから誤解ですって山寺さん。
私たちはそんなことは…。
(元直)八木さん音松さんどこですか?どこで亡くなってるんですか?山寺さん私たちは本当に何も…。
私は今からあなたたちの共犯者になります。
(順一の声)音松さんの死亡診断書を書く。
そう言ったんです山寺さん。
(順一)自分は医者だから今からでも音松さんの死体をなんとかしてあげられるって。
どこかに放置されてたり土の中に埋められてたりしたら音松さんあまりにも可哀想だって。
どんなかたちであれ3人できちんと葬ってあげるべきだって。
心が動きました。
信じてください。
私は絶対あなたたちを裏切るようなことはしません。
音松さんどこですか?どこで眠ってるんですか?妙高です。
あんた何言ってんだ八木さん。
親父が死んでるわけなんてないじゃないか。
(正造)とにかくさ山寺さん。
あんた何を誤解してるのか知らないけど俺たちは本当に…。
だったら一人で捜します。
一人で捜して一人で弔います。
(元直)何年かかろうと何十年かかろうと必ず捜し出します。
それが私の償いです。
八木さんのお嬢さんに対しての音松さんに対してのそれから私が殺人犯にしてしまったあなたたち2人に対しての。
(順一の声)山寺さんは本気だった…。
(正造の声)やっと目の上のタンコブが消えてくれたと思ったらすぐさま2人目の目の上のタンコブだ。
あの人に生きてられちゃ俺たちは一生不安におびえて…。
だからやったんだよ。
(正造の声)親父の眠ってる場所に連れてくって騙して…。
ここですか?
(元直)あっ…。
(正造)死ね!
(正造)死ね…。
(元直)うぅ…。
八木さん。
お嬢さんのことですが…。
ひとみがあの日の夜ラフレホテルで男と会う…。
そのことは友達との電話のやり取りで知っていました。
金だけもらったらけんかふっかけて逃げてやるってことも。
吉見さんに一つだけ頼みました。
あの子にも私たち家族にも一つだけチャンスを与えてほしいって。
わかった。
ホテルの前で待ってて声をかけても誘いに乗ってこなかったら計画は中止。
そういうことだな?必ず…必ず守ってください。
これは私たちにとってもあの子にとっても最後のチャンスなんです。
もう一度家族5人で暮らせるかどうかの最後のチャンス…。
(順一)どうしてそんなことを考えたのかよくわかりません。
でもあの子が吉見さんの誘いに乗らなかったら元のひとみに戻るんじゃないか…。
なぜだかそんな気がして…。
祈ってました。
(順一の声)誘いには乗らないでくれ…。
最後のチャンスをつかんでくれ…。
もう一度もう一度お父さんって呼んでくれって…。
それだけをずっとずっと祈ってました。
(携帯電話)
(携帯電話)はい…。
八木さんあの子チャンスつかめなかった。
(正造)「声をかけたらあの子のほうから誘ってきた」
(ひとみ)ねえ夜の公園お散歩コースっていうのはどう?もしかしたら何者でもない不思議なものに会えるかも。
お小遣いは3万…3万でいいわ。
吉見正造がひとみさんの携帯を持ち去ったのは付き合いのある人物の犯行と見せるため。
そういうことですね。
あの子が変わってしまってからずっと考えてました。
どうしてなんだろう…。
何がいけなかったんだろうって。
元どおりのあの子に戻ってほしかった…。
そのためにできることはなんだってやりました。
カウンセリングにも通い教育相談でも相談し嫌がるあの子を無理やり引っ張って病院へも行きました。
先生と称する人たちはみんな言うことが違ってました。
甘やかしてるからだという人。
厳しすぎるという人。
放っておきなさいという人。
もっと我が子と向き合うべきだという人。
もうどうすればいいかわからなくなって…。
でもその人たちにも一つだけ共通点がありました。
みんながみんな同じことを口にしたんです。
なんだかわかりますか?愛です。
愛…。
愛してあげなさい。
愛が欲しいんです。
愛情に飢えてるんです。
愛…愛…愛…。
あの子は私の娘だ!愛してるに決まってるじゃないか!かわいいに決まってるじゃないですか!それでも…それでもまだ足りないって言うんですか?家を焼かれ家族が殺されてもそれでも愛せと言うんですか?私はどうすればよかったんですか?どうすれば…。
愛では…愛では救えないものだってあるんです。
親殺しに子殺し…。
どうしてこんな世の中になっちゃったのかしら…。
家族とかさ家庭ってもんが崩壊しかけてるんだよ。
ほんと病んでるぜ今。
家庭とか家族っていうのは一番心安らげる場所じゃなくちゃいけないわけでしょ。
素のままの自分をさらけ出せる唯一の場所なんだから。
そこがなんだか一番怖い場所になっちゃってるみたいで…。
だから独り者が増えてるんじゃないか?家族なんか持たないで一人で生きていくことを選ぶ人間がさ。
まあこのままじゃいずれ滅びるねこの国は。
また他人事!あのね…。
俺ジャーナリストとして客観的にものを言ってんの。
ねえもしもよ…もしもあの時私がバスに乗ったままで乗客が3人じゃなくて4人だったとしたらこんなこと…。
今更こんなこと言ってもしょうがないわよね。
結局それがあの3人とその家族の運命だったってことなのかな…。
八木家と吉見家とそれから山寺家の…。
犯人の言葉などお聞きになりたくないかもしれません。
ですが八木順一も伝えてほしいと申してますし私自身もお話ししたいと思ったものですから。
それで今日…。
どうぞお上がりください。
いえ…今日はこちらで。
山寺さんが八木に交換殺人を持ちかけられそれを断ったっていうことはもうお話ししましたよね。
(詩子)はい…。
その時山寺さんは1か月前だったらむしろ自分の方から八木さんに交換殺人を持ちかけたかもしれないってそうおっしゃってたそうです。
1か月前…。
1か月前受け持ってた患者さんが亡くなったんです。
(元直の声)敬一と同じ年頃の大学生の青年でした。
親にもきょうだいにも愛され友達もたくさんいてつらい病気でしたが病気ともほんとに勇敢に闘って…。
その青年が…。
青年が息をひきとる前からずっと考えてました。
なぜ死んでいくのはこの青年でうちの敬一じゃないんだろうって…。
(元直の声)敬一が死んだって泣くのは家内と私ぐらいなもんです。
いや私の涙なんておざなりで本心はホッとして助かったって…。
これでようやくあの子から逃げられるって…。
もうあの子の暴言を聞かずにすむし暴力をふるわれて生傷が絶えない家内を見なくてもすむ。
敬一自身ももう苦しまなくてすむ。
(元直の声)あの子が死んでくれたら家族全員が救われるのになぜ死ぬのはあの青年で敬一じゃないんだろうって…。
ひどく理不尽だと思いました。
(元直の声)なんでだろう…なんでだろう…ってずっとそう思いながら家へ帰ったんです。
私の家は坂の上のほうにあります。
敬一が生まれた時に買った家で敬一には一番いい部屋を与えました。
2階の明るくて日当たりのいい部屋を。
敬一が小さい頃はあの子の部屋に明かりがついてると本当にうれしかった。
まだ起きてる。
帰ったら遊べるぞと思って坂道を駆け上がって家に帰りました。
(元直の声)明かりがついてないとガッカリしてああ今日はもう寝ちゃったんだ。
今晩は遊べないやって。
でもまあいいか…寝顔は見られるんだからってやっぱり早足になって…。
でもあの子が大きくなって暴力をふるうようになると明かりがついてると家に帰るのが怖かった。
また暴れてるんだ…また家内が殴られてるんだ…。
そう思うと足が動かなくなって逃げ出したくなって…。
ここ何年間は義務感で家へ帰ってたと思います。
帰らなければ家内が殺されてしまうような気がして…。
家内だけは守ってやらなければという思いだけで重たい気持ちを引きずって家へ帰ってました。
(元直の声)でもあの日あの青年が亡くなった夜…。
(元直の声)あの時わかったんです。
あの子が敬一が死んだらあの部屋に明かりがつくことはもうないんだってことが…。
永遠にないんだってことが…。
そうなったら私はどこへ帰ればいいのか…。
敬一の部屋の明かりは私にとっては灯台の明かりだったんです。
迷わず真っすぐ私の帰るべき場所を教えてくれる明かり…。
あの明かりは敬一そのものなんだと思った。
私の大切な…大切な息子なんだと。
(元直の声)あの日の夜玄関を開けた私は何年ぶりかの言葉を口にしてました。
ただいま。
今帰ったよ。
あの時なぜ山寺さんの言葉をちゃんと聞かなかったんだろうって…。
八木は泣いていました。
そうしていれば山寺さんも自分の娘も死ぬことはなかったって…。
山寺さんには本当に…本当に申し訳ないことをしたって。
(嗚咽)長々と申し訳ありませんでした。
ですがこれだけはどうしても奥さんと敬一君とに…。
そう思ったもんですから…。
敬一君…。
結局一度も会えませんでしたがいつか君と一緒に山寺さんのお墓へお参りすることができたらとそう思ってます。
(嗚咽)ありがとうございます。
それでは…。
(携帯電話)はい牛尾です。
もしもし?もしもし?「敬一です」敬一君…。
ありがとう…ございました。
灯
今日も家々に明かりがともります
その明かりの下には様々な喜びがあり悲しみがありそしてまた憎しみもあります
都会の公園と妙高の山の中で起きた交換殺人は3つの家族を巻き込みこうして幕を下ろしました
いってきますと出かけただいまと帰ってくる家
いってらっしゃいと送り出しおかえりなさいと迎えてくれる家族
その家庭がそして家族が壊れだし始めている
愛では救えないものだってあるんです
振り絞るような声でそう言った八木順一の言葉が私の胸に重く響いていました
もはや家庭には灯はなくなってしまったのでしょうか?
いえそのあたたかい灯こそ決して消してはならないもの
私にはそう思えるのです
(チャイム)はい!おかえりなさい。
ただいま。
2015/10/31(土) 12:00〜14:25
ABCテレビ1
終着駅の牛尾刑事VS事件記者冴子[再][字]
バス事故から生還した3人、新宿〜妙高高原に運命の連続殺人!?森村誠一の“灯”
詳細情報
◇番組内容
新宿中央公園で女子高校生・八木ひとみの死体が発見され、牛尾刑事ら新宿西署の捜査員が現場に急行する!!一方、週刊誌記者の川村冴子は、以前取材の折に知り合った吉見音松という老人が行方不明になっていることを知るが!!人気シリーズ第8弾!
◇出演者
片岡鶴太郎、水野真紀、岡江久美子、船越英一郎、辰巳琢郎、秋野太作、東根作寿英、杉本哲太、あめくみちこ、小木茂光、六平直政 ほか
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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