第1回 伊勢大貴の視線 前編
この世界に心惹かれて、北の地から東京へ。
芸能事務所所属を目指し養成所へ。
初オーディションで役を射止め、特撮作品の主題歌も歌う。
ひとつ、ひとつ、与えられた機会に考えて、考えて、考えて、挑む。
彼は自分の困難から、決して目をそらさない。
伊勢大貴 いせ・だいき
1991年5月15日、北海道出身のO型。現在、23歳。
2011年 ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン 氷帝学園中等部男子テニス部の日吉 若役として俳優デビュー。2014年現在も演じ続ける。
2013年、劇場版『獣電戦隊キョウリュウジャー ソングアルバム ガブリンチョ・オブ・ミュージック』劇中歌『カミツキ・ブレイブ』で歌手デビュー。
2014年には烈車戦隊トッキュウジャーオープニング主題歌『烈車戦隊トッキュウジャー』主題歌歌手に。
この、9月10日には初のファーストアルバム『BE A HERO』(日本コロムビア)をリリース。
伊勢大貴オフィシャルブログ「ISE-Diary」
伊勢大貴Twitter @isedai0515
ミュージカル『テニスの王子様』公式サイト
烈車戦隊トッキュウジャー 主題歌特設サイト | 日本コロムビア
伊勢大貴さんによる、告知動画はこちら!
http://youtu.be/UciNImrcNA8
・サイン入りポラロイド写真プレゼント。
たくさんの応募、ありがとうございました!
発表は発送をもって変えさせていただきます。
言葉を選び、言葉を紡ぐ。
北海道の片隅で
芸能界に憧れていました
――この世界を目指したキッカケを伺います。
伊勢:幼い頃からテレビを観るのが大好きで、芸能界に憧れていて。高校生になって進路を意識したときに、なにか音楽関係のことをやりたいと思ったのが具体的に考え出した最初です。なので、音楽療法士という心理的な介護を音楽で行う仕事を目指す、ってずっと嘘を付いていたんです(笑)。
――嘘ですか?
伊勢:はい。僕は北海道、根室の出身で、根室というか尾岱沼(おだいとう)というちっちゃい街の生まれで。北海道の右の右にある、北方領土の見えるくびれてる所に実家があるんですが、そこで生まれて育って、いったいどうやったら音楽の道に進めるのか見当も付かなくて。でも高校で札幌に進学して、三年間一人暮らしをしながらも音楽はやりたいけど……やっぱり難しいよなあ、と悩んでいて。だったら音大に行けばハクが付くんじゃないかとか、すっごいすっごい考えました。
両親はもともと東京に進学することは賛成していて、むしろやりたいことをやればいいし、外で経験してくることは大事なことだという考えだったので……。
――だとしたら嘘を付くことなく、最初からこの世界を目指してもよかったのでは。
伊勢:いえ、それが、子どもながらに、やっぱりちょっと無理じゃないかという、自分の中に壁があって。僕の生まれ育った街は本当になにもないので、そんな所から自分が芸能界に行くことなんて想像がつかなくて。
どうしたらいいのか、なにをするべきなのかもわからなくて、でもとにかく東京に出れば機会はあると思っていたので、一生懸命考えたのが「音楽療法士を目指す」だったんです。
――でも、本当は芸能界に入りたかった。
伊勢:そうです。本格的に考えるようになったのは、高校の合唱部に入ったときに、その音楽の先生が声楽を習っていた方で、芸能の道というか歌うことで生計を立てていたと聞いて。まさか自分の身近にそんな人がいるなんて思わなかったからすごいなあと思ったし、歌って生活ができると知っていろいろ相談したんです。
そうしたら「まずは事務所に入ることを目指せばいいよ。そのための情報誌があるよ」と教わって。だったら、やっぱり東京に行かないと! ってなりました。それで、調べたら、事務所に入るためには養成所に行けばいいと知り、オーディションを受けたんです。実は養成所ってわりと誰でも入れるものなんですが、合格の知らせをもらったときはすごく嬉しくて! で、両親にも快く送り出してもらえるよう大学も受かって、自分なりに気持ちも環境も整えて上京しました。とはいえ、結局、大学は途中で辞めちゃったんですけどね(笑)。
――実に計画的です! では、今の所属事務所にはご縁があって?
伊勢:はい。あの……自分で言うのもおこがましいんですが、わりと成績優秀者だったんです。養成所卒業前にいろいろな事務所の方を招いて、何百人という生徒が1分間のパフォーマンスを発表して面接をするんですが、その中で僕、数十社から二次面接に呼んでいただけたんです。
そのなかで今の事務所にお世話になろうと決めたのは、呼ばれたのが僕ひとりだけだったから。実はマネージャーさんもそれが初仕事で、最初に僕を選んでくれたんです。
かくして、新人俳優と新人マネージャーは二人三脚で歩み始める。
初オーディションで射止めた
日吉 若という大役
――2011年から活動開始、7月にはミュージカル『テニスの王子様』青学vs氷帝 で、氷帝学園中等部男子テニス部の日吉 若(ひよし・わかし)役に決まります。
伊勢:ちょうど事務所との契約書をちゃんと交わそうというときにオーディションの話があって、マネージャーさんも僕も初めてだから、一度、受けてみようと行きました。なので、まさか受かるとは思っていなくて……。
――「下剋上」を信条とし、家が古武術の道場のため、ラケットを極端に引いて構え武術のような動きで挑む「演武テニス」を得意とする役ですが、スポーツの経験は?
伊勢:スピードスケートと野球かな。
――スピードスケート!?
伊勢:はい、スピードスケートをやってました。たぶんキャリアとしては野球が一番長くて、小学校から高校まで草野球をやっていて。その前に幼稚園から小学校5年生までスピードスケートの少年団に入っていて、大会で優勝したこともありますし、新記録も出したことあります。
――さらっと、意外な経歴が出てきて驚きました(笑)。
伊勢:確かにちょっと変わってますよね(笑)。出演者の中でスピードスケート経験者はもしかしたら僕だけかもしれません。でも、運動神経自体はさほど良くないと思うんです。だから初舞台はものすごく苦労したし、毎回、ひーひー言ってました。
舞台で対戦相手となる、主演の越前リョーマ役の小越勇輝くんがとにかくすごくて、試合だけでなくいろいろな点で全然勝てなかったんです。
――DVD収録の大千秋楽公演では、カーテンコールの後に号泣していました。
伊勢:あー! してましたねぇ。はい。みんなに「あいつ泣きすぎだよ」って言われました(笑)。まあ変な話、プロ意識の無さなんでしょうけれど……僕の感覚としてはもう、芝居というより大会だと思っていたんですよね、たぶん。
――本当の試合だと思っていた?
伊勢:意識的には……今はちがいますが、あのときは本当に芝居もしたこともないし、舞台というものを観てきたわけでもなく、ましてや自分が立つということがどういうことかもわからなくて。だから感覚としては本当にスポーツに取り組むような気持ちで挑んでいました。
誰よりも大きい声を出して、誰よりも速く走って、誰よりもスイングを速くすればカッコいいというか、そういうものだと思ってたんですよね。だけどもちろんちがうし、それだけだと芝居としても、キャラとしても成り立たないと気付くのはもっと後で……そのときは、とにかく走って、とにかく飛んで、みたいな気持ちでやっていて、一個の大会が終わったくらいの気持ちでいたので、最後まで役として演じ切る前に感情が爆発して泣いちゃった。ただ、一回だけそれとはまったく別に自分の意志とは関係なく号泣したことがあって。
――それは、どういう状況だったのでしょう。
伊勢:最初の方の公演で、舞台から袖にはける瞬間に泣き崩れてしまうという事件が起きて。自分でもちょっとびっくりしちゃったんですよ。そのとき初めて役になるってこういうことなのかなって思いながら……涙が止まらなくて。
――共演の方々も驚いたのでは?
伊勢:みんなびっくりしてました。俺自身もびっくりしてたし、何があったんだろうと思って。でもたぶん、勝手に役に入っちゃっていたのかもしれません。部長の跡部景吾役のつね(青木玄徳)くんが、ものすごい試合をしたのに、その後で俺があっさり負けちゃったから、日吉として悔しくて泣いてしまったのかなあ、と……今考えたら、ですけど。
ただ、当時は芝居の計算とか全然無くてとにかく全力だったのでたぶん見栄えは良くないんだけど、今観ても我ながらすごく熱がこもっているように感じます。
そして、新たな舞台に向かう。
お気に入りの眼鏡、で。
歌手「伊勢大貴」へと
つながった一年間
――2011年7月からミュージカル『テニスの王子様』青学vs氷帝、11月には『Dream Live 2011』、年末から翌2012年2月にかけて、ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン 青学vs六角 と続けて出演します。
伊勢:青学vs六角に出演している時点で2013年夏の、全国大会 青学vs氷帝まで約一年間、空くことがわかっていて。僕は続けて日吉を演じるんだと思っていたので、今の自分になにが足りないのか考えたときに、圧倒的に経験が足りないと思ったんです。
舞台というものをもっと知るために、とにかく出なければと思ったので「月イチで舞台に出たいんです」とマネージャーさんにお願いしました。なかでも、日吉の演武テニスのためには、少なからず刀を持って演じてみるべきだと思って、TUFF STUFF HYBRID PROJECT Vol.8『Nouvell Vague』という舞台で初めて殺陣を経験しました。そのときにいろんなことがわかった気がして、すごくいい経験をさせてもらいました。
――あくまでも現場で学びたかった?
伊勢:はい。現場主義というか、人前で演じる方に価値がある気がしていたんです。最近はひとりで集中して稽古することと人に観てもらうことの両方でバランスを取ろうと思っているんですが、その時はとにかく準備する時間が惜しくて、一本でも多く舞台に立ちたかったんです。
――そのひとつが、歌手という仕事へとつながります。
伊勢:2012年9月にニコニコミュージカル第9弾『5王子とさすらいの花嫁~ニコニコニーコ・due~』という舞台にオーディションで受かって出演したんです。その舞台を日本コロムビアのプロデューサーさんがご覧になっていて「来年(2013年)の戦隊『獣電戦隊キョウリュウジャー』の主題歌オーディションを受けませんか」と誘っていただいたんです。
実はそのとき、別の出演者の方を観にこられていたようなんですが、ありがたいことに僕も呼んでいただき……もちろんずっと歌もやりたかったし、機会を与えてもらって大喜びで受けに行って。結果、オーディションは落ちて、先輩の鎌田章吾さんが歌われることになり。でも、その後、再度、劇中歌のオーディションがあって『カミツキ・ブレイブ』を歌うことになりました。
――実力です!
伊勢:ミュージカルに出演することも目指していましたが、歌もやるし芝居もやるというのが理想だったので、ものすごく嬉しかったですね。いずれは自分のCDも出したかったし、自分で作った曲もあったので、ものすごくプラスになるし。なにより、まさか戦隊作品の歌を歌う機会が与えられるとは思ってもみませんでした。
――そして、今年『烈車戦隊トッキュウジャー』の主題歌を歌うことに。ミュージカル『テニスの王子様』でダブルスを組んだ、向日岳人(むかひ・がくと)を演じた志尊淳さんが主演のトッキュウ1号ことライトを演じています。
伊勢:実はお互い決まるまで言えなくて、知らなかったんです。ただ「俺は今、なんかそういうオーディションを受けてるよ」って話したときに、あいつがなんか「ん?」みたいな反応をしていて、それが気になっていたら、あるとき「実はね……僕も」と打ち明けられて。ふたりでものすごく驚いて。
だって、同じ舞台にダブルスを組んで出演しているふたりが主題歌歌手と主演だなんて、ちょっと信じられなくて「俺、すごいがんばるから!!!」って言って。
――結果、ともにみごと、その座を射止めます。
伊勢:本当に不思議です。だって、どちらもその年の戦隊作品にとって唯一無二の存在じゃないですか。僕は歌で、彼は芝居で同じ作品に参加するという事実にすごいものを感じました。
歌うことと、演じること。
その両方を志した少年は一歩一歩、前に進む。
ときに、笑顔。
優しい眼差しが届く。
再び挑んだ
日吉 若という存在
――その志尊 淳さんと共演した、2013年のミュージカル『テニスの王子様』 全国大会 青学vs氷帝 について伺います。いろいろと経験を積んで臨んだ舞台はいかがでしたか?
伊勢:全然ちがいました……以前の演武テニスは目的がないまま、とにかく演武っぽく打てばいいと思っていたんです。でも、それはまちがいで、演武テニスとしてスライスを打つのか、ロブを打つのか、スマッシュを決めるのか、相手に返させるように打つのか、といった自分の意思がなかったんです。
でも全国大会ではそういった部分をイメージできるようになったので、例えば球を打つときだけ演武っぽくするのではなくて、打つために移動する、球に追いつくまでの走りまで演武として動くことを考えるようになりました。
――進化です!
伊勢:さらに初代の日吉を演じられた河合龍之介さんのDVDを観たら、どちらかというと動きを削って削って……という演じ方だったので、ならば別のアプローチの方がお客様にはちがった楽しみを感じてもらえるかなと思って。むしろ僕は動きを乗せて乗せて乗せて……ちょっと引くくらいな感じでやっていて、振り付けの本山新之助さんからは「多いから一瞬、ちょっと減らして」と言われるくらいを心掛けていました。
――志尊さん演じる向日と日吉のダブルスは短期決戦を得意としていたのでとにかく展開が早く、アクロバティックな試合でした。
伊勢:組合せで動くことがちょっと苦手だったので、淳にはものすごく助けてもらいました。例えばあいつが僕の背を使って跳ぶところのタイミングとかが難しくて、たくさん話もしたし……毎回、全力で挑んでは、これ、どこまで体力が持つだろう、って思いながらやってました。ただ、改めて振り返るとものすごく楽しかったですね。
――演武テニスをやりきった……?
伊勢:はい。足りないところはないなっていうくらい詰めに詰めて自分でも納得できたし、前回公演で悔しかったことを全部ぶつけることができました。
――今年4月に開催されたミュージカルテニスの王子様『春の大運動会 2014』でのことです。障害物競走で同じ氷帝の鳳 長太郎役の白洲 迅さんがラムネをなかなか飲み終わらずにいたら、ぱっと手にとって代わりに飲んでいました。
伊勢:あー、あれは、見ていて日吉としてイライラしてたんです(笑)。だから鳳との関係性を考えたときに、日吉ならきっとそうするだろうと思ってやりました。午前と午後の2回公演で、鳳は午前中も飲むのが遅くて、日吉としても僕としても氷帝が遅いことがすごくイヤで。
だから、午後のレースが鳳と一緒だったので、また遅かったら絶対に俺が飲んでやると決めていました。でも、それは鳳を助けるというより、氷帝のためにです。でも、ラムネを飲むにはコツが必要で、結局、俺もうまく飲めなくて最後になっちゃったんですけど……。
――思わず、日吉として動いてしまった?
伊勢:たぶん、そうです。自分の素じゃなくて役作りの結果、自分の日吉像がそうだったというか。
――役者生活のなかで、いちばん長く付き合っている役だと思いますが、大きい存在ですか?
伊勢:日吉 若……大きいです。うん、やっぱり。ただ、以前は「日吉 若」という存在を、意識し過ぎじゃないかな? というくらい意識していたんですけど、最近は、あまり意識しなくなりました。馴染んできたというか。なんだろう……役に入るまでの時間が全然必要なくなりました。身体のアップはもちろんしますけど、あんまり境目がなくなってきました。
かくして、若き俳優はひとつの役を自身のものとする。
ふいに、真摯。
『舞台男子』第1回、伊勢大貴さん後編はこちらに。
撮影/為広麻里
ヘアメイク/BELLEZZE
編集・文/おーちようこ
2014年9月2日 講談社にて収録
・写真や記事の無断転載はおやめください。