<ドラマ制作から知るTOYOTAのマーケティング哲学>マーケティングはデザインなどのクリエイティブ分野には立ち入らない
貴島誠一郎[TBSテレビ制作局担当局長/ドラマプロデューサー]
2014年3月、TOYOTA自動車の創業者・豊田喜一郎を主人公にした「LEADERS」というドラマを制作しました。TOYOTAの新入社員が全て研修で行く鞍ヶ池(くらがいけ)記念館には脚本家や主演の佐藤浩市さんを含めた一行で4回訪れました。
実質は豊田喜一郎(佐吉氏の長男)記念館ですが。そうは言わないところがTOYOTAの奥ゆかしさです。喜一郎氏(東京帝国大学法学部)の学生時代のノートも展示されている記念館は、天才の足跡が展示されているパワースポットです。訪れるたびにゾクッとします。
ところで、私のパワースポットは、小田原城を凝視できる一夜城といわれた石垣城。相模湾には毛利水軍が集結し、秀吉がまさにここに仁王立ち。
それから故郷・鹿児島市の桜島を見渡す城山の西郷隆盛終焉の洞窟。西郷の最期の言葉は「もう、よか…」 石垣城跡と西郷洞窟と鞍ヶ池記念館が私の三大パワースポットです。判断基準は背筋。ゾクッが来るかどうかです。
「LEADERS」制作にあたっては鞍ヶ池記念館の館長をできるくらい勉強しましたが、もう半分は忘れてしまいました。受験勉強の知識のようなものようです
制作の過程で次のようなTOYOTAのマーケティング哲学を知りました。
「マーケティングはデザインなどのクリエイティブ分野には立ち入らない」
つまり、リッターあたり何キロとか馬力とか回転数とか、販促の費用対効果とか,数値化が可能なものはマーケティングの対象ですが、過去のデータから数値化できないジャンルにはマーケティングの限界がある、というもの。
何もかもがマーケティングで判断されるべきものではない。そう考える私は、広告代理店がやっているタレントの潜在視聴率とか、好感度調査は信じてないことになります。効果として数値化できないデータを出してるのは、数年で交代するサラリーマンのための働いているアリバイのためにやる調査だろう、くらいにしか思えないのです。
広告は良しとしても制作にマーケティングを持ち出す素人が多いのは本当に疲れます。
TOYOTAのドラマをやっていたら、HONDAのデザイナーとも知りあいました。
HONDAの哲学は「プロジェクトをスタートさせたら役員は結果が出ていなくても止めてはならない」ということ。プロジェクトは熟慮してスタートさせるもので、現場がギブアップするまで辛抱せよ、ということ。
サントリーの「やってみなはれ」精神は有名だが、実は正確に言うと創業者の鳥井信治郎は「やってみなはれ。やらなわからしまへんで」と言っています。困難な課題に対して、細心に細心を重ね、起こり得るあらゆる事態を想像し、決意したら雑音を気にせずやりとげるまでやりとおせ、という意味です。
ドラマづくりでも、ネットの評判がどうとか、個人視聴率とか、ウラ番組との兼ね合いがどうとか、言っている場合じゃないんですよ!
結局自分の信ずるところをやるしかないのです。
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