第2回 池田純矢の心 後編
池田純矢 いけだ・じゅんや
1992年10月27日、大阪府生まれのA型。現在22歳。
2006年、第19回ジュノンボーイコンテストで準グランプリを受賞し、この世界へ。2007年、ドラマ『わたしたちの教科書』でドラマデビュー。ドラマ『 花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜』などに出演。2008年映画『DIVE!!』で映画デビュー。2011年6月から『海賊戦隊ゴーカイジャー』にてゴーカイシルバーこと伊狩鎧(いかり・がい)役で話題を呼ぶ。
2013年、『牙狼-GARO- 〜闇を照らす者〜』 炎刃騎士ゼンこと蛇崩猛竜役を熱演。来年2015年1月上演のミュージカル『薄桜鬼』藤堂平助 篇で初主演、座長を務める。
池田純矢オフィシャルブログ
池田純矢Twitter @junya_ikeda2710
海賊戦隊ゴーカイジャー(テレビ朝日)http://www.tv-asahi.co.jp/go-kai/
牙狼ーGAROー〜闇を照らす者〜 http://garo-project.jp/TV3/index.html#/top/
銀河機攻隊マジェスティックプリンス http://mjp-anime.jp/
舞台×映画「メサイア」 http://www.clie.asia/messiah/
矢崎広×中屋敷法仁=『なかやざき』 http://nakayazaki.com/
二番目、だけれど
全部できる存在に
——『牙狼ーGAROー〜闇を照らす者〜』では、ど派手なアクションシーンも数多く登場します。
池田:「これくらいまでできます」とか「こういうこともできます」といった、すべてを全力で出せた役でした。吹き替え無しでやらせてもらえたことも多かったし。でも、すごく叱られたことがあって、気付かされたことも多かった。
——どんなことでしょう。
池田:バク宙しながら塀の向こうから飛び出すというシーンがあって。
——吹き替えではなくて?
池田:はい。バク宙は得意な技だから大丈夫、できる、って思っていたんです。でも、いざ撮影に入ったら、予定よりちょっと塀が高くなっていて、ミニトラ(アクション用の小さいトランポリン)を使った、いわゆるトラジャンプだったんです。
地面から踏み込む場合とトランポリンで跳ねる場合って足の感覚がちがうし、僕、ちょっとミニトラが苦手で失敗しちゃったんです。そうしたら横山監督に「できるって言ったじゃないか!」って叱られて。「すみません。でもトランポリンがあるって知らなくて、僕、トランポリン苦手なんです」と説明したら、「言い訳すんな!」と余計に叱られて……。
——なかなかハードな現場です。
池田:最終的にはできましたが、監督の言うことはもっともだな、とも思ったんです。
——なんと言われたのでしょう。
池田:「自分ができる技だけやりたいときにやって『やったー! できた』って喜んでるだけだろう」って。「そんなんでアクションできるとか言ってんじゃねー!」って怒鳴られました。
——正論ですが、なかなかに厳しいです。
池田:いえ、本当に正しいですよ。だって、他のスタントマンやアクションに命懸けてる方々たちは毎日毎日練習して、ともすれば退屈な基礎練習も欠かさず続けて、ひとつずつ技を増やしていって……それでも脚光を浴びるのはほんの一握りで。
そういった方々を近くで見てきたのに、役者のなかではちょっとひねって跳べるとかで「すごいね」って言ってもらえていることに自惚れていたことに気付かされたというか。僕ができることなんて、実際にアクションマンの世界から見たら大したことじゃないし、足元にも及ばないわけで。それが、なにを得意になっていたのかと目が覚めた思いでした。
——そこで凹むのではなく己の低さに気付くことに、視点の位置が高い印象があります。
池田:そうでしょうか。ただ、周りを見渡せばおのずとわかることだから……なにより単純にまあ、自分は一番じゃないということはとっくに知っているので。
——最初に背負った十字架はなかなかに重そうです。
池田:そんなに悲壮な感じでもないんですけど(笑)。やっぱり、どこを見ても自分は一番じゃないという、当たり前のことを知っているだけで。常に上には上がいる、って実は当然のことだから。
——そこを認め、受け入れて努力できることが尊いです。
池田:ありがとうございます。でも、認めて受け入れないと発展はできないから。だって、役者の中で比べたとしても、僕は一番アクションができるわけではないんです。どこまでも事実は事実として「僕は、一番です」と胸を張って言えることが何もない。
でも、そう簡単に何かで一番になれる世界でもないし、仮にひとつに絞って一番になれたからといって勝てるほど甘い世界でもない。だから、二番になろう、けれど、なんでもできる二番目の存在になろうと決めたんです。それは「一番になれないから二番でいい」ということではなくて。仮に僕が今、7だとしたら、10の人は絶対いる。でも、100個項目があったとして、その100個全部が7の人はそうそういないと思うんです。
——アベレージ7割を常にキープする。
池田:はい。何やらせてもすごい、何をやっていても観た人が「わっ!」と思うくらいのレベルに行く。一番じゃなくてもいいから。
——そう決めたのはいつでしょう。
池田:5、6年前ですね。16歳のころ。
——かなり若い、というか、早い時期の決意です。
池田:そうかもしれません。でも、いちいち悔しがる自分がイヤだったんです。負けず嫌いだから、一番になれないと悔しくて。たとえばオーディションに落ちる僕がいて、一番を取る誰かがいるわけで。その度にいちいち悔しがっていても前には進めないし。
それよりも、何がダメだったのか考えるべきだし、ただ考えるだけじゃダメだし、次はそれがダメじゃないようになるべきだし……となったときに、ああ、どれかひとつで一番になることでは、僕の夢は叶わないんだな、って思っちゃった。だからやりたいことをやるためには人より特化していなければならないけれど、それはひとつのことだけで一番になることじゃないんだな、って思えたんです。
——今、言葉にした「夢」とはなんでしょう。
池田:ひと言で言うと、死ぬまで役者でいたいんです。じゃあ、死ぬまで役者でいるためにどこで役者をやるのかというと……どこでもやっていたいんです。テレビでも、映画でも、舞台でも。
もともとは映画を観てこの世界を目指して、映画にいろんな思いをもらって、映画で気付かされて、映画でここにずっといようと決めたから、映画でいろんなことを返したいと思っています。でも、優劣を付けているわけではなく、全部好きで、でも抱く感情が違うんです。
役者と監督とスタッフとで役にぎゅーっと集中した日々を過ごし、編集にいっぱい時間をかけて、やっと一本の映画ができて、そのエンドロールを観る瞬間の喜びがあるとしたら、舞台はまたちょっと異なるアプローチで。生の芝居だから二度と同じものはないし、目の前に観客がいて、そこで偶然生まれるものもあって、カーテンコールで照明が客席を一瞬照らしたときにお客さんの顔が視界に入ってぐっとくる、その瞬間がたまらなく好きとか。どの媒体でも「好き」は絶対にある。だから、どこでも芝居ができることがうれしいし、変わりないんだけど、最初に映画俳優としての勝新太郎さんや三船敏郎さんに憧れたから、同じ場所を目指したいんです。
ひとつ、ひとつ、丁寧に言葉を選び。
観てくれた人の心が
動けばいいと思った
——今年(2014年)7月にはシアターサンモールで、矢崎広×中屋敷法仁 相思相愛ユニットなかやざき『フランダースの負け犬』に出演しました。300人ほどの劇場で10日間の公演でしたが、とても濃厚な舞台でした。
池田:まるで線香花火みたいな公演でした、一瞬で煌めき燃えて、燃え尽きた後、何事もなかったようにシーンとして……。
——第一次世界大戦のドイツ軍の物語でした。実直な者、無器用な者、狡猾な者、あるいは壊れる者とさまざまな人間がいるなかで、ご自身は最高権力者である諜報参謀リヒャルト・ヘンチュを演じました。こちらは役ノートを作りましたか?
池田:かなり作りました。実在する人物だったのに文献が全然残っていなくて、どう作ったらいいのか悩みました。まあ、結局、全部作り込んじゃったんですが。
——ゲイというかオカマで、偏執的な人物で苛烈な大演説をぶつ、という印象的な役でした。
池田:でも、僕のキャラクターは、上演時間1時間50分で開始から1時間、出てこないんですね。じゃあ、後半出ずっぱりかというとそうでもなくて、ちゃんとしゃべっているのが実は2シーンだけなんです。
——それでも「うわー!」となりました。
池田:うわーって思ってもらえたなら、よかったです。そうでなければ、あそこにいる意味がなかったから。上官として状況を説明するために登場して、偉そうに説明するだけして、結局「ここはもう負けるから」と宣告するための存在でした。
でも、ただの説明で終わったらなんの印象にも残らないし、存在する意味がなくなってしまうので、観てくださった方が気持ち悪いとか、怖いとか、うるさいとか……なんだろう、どんな形でも何かを感じてくれたらいいなと思って、やっていました。彼の言葉がすべて本音かというと多分、嘘で。じゃあ、彼がどこまで上を見ていて、何を思って下に話しているのかはわからない。もちろん僕の中での解釈は作りましたが、そこを語るのは野暮なので言いませんが、ただ感じてほしかった。
——登場人物8名が8名とも異なる方向に進みます。
池田:ある種、仮想「国ってこんなもんだよ」という話だと理解していて、打っても響かねえし、今、自分たちがどこにいるかもわかんないし、互いの言ってることがわかんない。けれど、とにかくうねりながら動いていくんだということだけ、表現できればよかった。
あえてくどい芝居にしたので、その結果、嫌われてもいいと思ったし、それを観て「いやだな」とか「おまえ、邪魔だよ!」って思われてもいいから、何かそういうことが大きく届け! って思って演じてました。だから、ぱっと輝いて散る、線香花火みたいだったなって。
「仲間の意思を継ぐ」
——来年(2015年)1月上演のミュージカル『薄桜鬼』では初主演を務めます。これは、原作ゲーム『薄桜鬼』の舞台化で、各キャラクターのルートに沿って2012年に「斎藤 一 篇」、2013年に「沖田総司 篇」と「土方歳三 篇」、今年(2014年)は「HAKU-MYU LIVE」、「風間千景篇」と続き、ついにご自身が演じる「藤堂平助篇」の上演が決定しました。
池田:決まったときは「おおおおー!」という感じでしたが、今、僕自身が事務所に所属せずフリーなので、お話をいただいたとき、というか「藤堂篇をやります」と聞いたときに「本当にやれるのかな?」という不安は正直、ありました。これほどの大きな舞台に、フリーの身で主演として立てるのか? と。
——初演から藤堂平助として舞台に立ち、信用と実績を蓄積した結果の主演で、座長公演かと。
池田:そこは本当にありがたいです。今、正式に発表されて改めて、ああ主演公演なんだとしみじみ感じていますが……でも、真ん中に立つという柄ではないんです。
だって、5作続いてきたミュージカル『薄桜鬼』という物語のなかでいろんな人たちが、みんな同じように生きているから。誰が偉いとかじゃなく、全員が生きていて、毎回、カメラがどこを撮るかのちがいだけなんです。だから「斎藤 一 篇」なら、斎藤の正面にカメラがあって、斎藤にフォーカスが当たっていた。でも、今回は、その後ろにいた平助にフォーカスが当たって、映っている……その角度の差だけであって、主演だから、脇だからというのは、この作品では絶対考えちゃいけないことだと思ってやってきたんです。
俺が主演だから余計にがんばるとか、今までやりたかったことを特別にやるんだとかそういうことではなく、純粋にむしろ今までと変わらず全力でやることが大切で。そこを変えてしまったら、今まで観てきてくれた方々を裏切ることになってしまうから。
それに、今回、「藤堂篇」の上演が決まり、僕は出させてもらえますが、初演の「斎藤篇」の時はまさか続くとは思いも寄らなかったし。「沖田篇」の上演が決まったときもうれしいけど、自分が出られるのかどうかはわからなかった。常に状況は変わるものだし、絶対なんてないから、新たに次作の話がでるたびに「僕は藤堂役で出られるの?」って毎回、思っていました。実は「HAKU-MYU LIVE」のときに「もうこれで卒業だ、終わるんだ」って本気で思っていたから、千秋楽の幕が下りたあとに仲間同士で「離れたくないよー!」って泣いて。でも、「風間篇」が決まり出る事ができた……だから、これまでずっと、藤堂平助という役が僕のために用意されていたわけじゃないんです……そのことだけは言いたいです。
今回、僕が舞台に立てることは、ものすごい奇跡と押し上げてくれたたくさんの方々のおかげです。心から感謝しています。そしてキャストが変わる可能性はどの役も同じで、だからこそ変わることは必然で、受け入れていきたいし、受け入れてほしいと思うんです。
——これまでもキャスト変更はあり、今回も新たなキャストを迎えます。
池田:その度にそれぞれの役者が作りあげていったデカい骨は舞台の上に残っていくんです。それは客席からも見えるだろうし、さらに新しく入る役者が作る骨も増えて、血肉も足されていくだろうし。
この舞台は「仲間の意志を継ぐ」という台詞がよく出てくるんですが、その言葉通り、役者たちが残していったものはしっかり受け取り、次に繋げていこうと思っていて。そうして舞台が続くことで、歴史を刻んでいってほしい……そのために全力を尽くします。
——このシリーズは毎回、ヒロイン、雪村千鶴役が新たに登場するので、今回も藤堂平助の相手役としての千鶴を初参加の田上真里奈さんが演じます。
池田:そこはすごくうれしいですよね。前回の「風間篇」に歴代の千鶴たちが一緒に観にきてくれて。楽屋でも同じ舞台に立った仲間として「久しぶりだね! 観に来てくれてありがとう」って盛り上がるんだけど、やっぱりそれぞれの相手役と話している空気がちょっと特別な感じがして。
それは恋愛関係とかじゃなくて、一緒にひとつの舞台を作りあげた大黒柱同士としてのぶっとい絆みたいなもので、役者として「うらやましいな」と思っていたから。さらに「恋愛」という大きなパーツが、藤堂の骨の部分に増えることもいいな、って。ただ、藤堂って今までも千鶴に恋愛しては必ずふられていたので(笑)、今回、初めて成就するかもしれないっていうのはすごくうれしいことですよね。
——そして、初の京都公演です!
池田:新選組の演目を京都で……感慨深いものがあります。僕らが京都公演をやらせてもらえることはすごく大きなことだと思う。ミュージカル『薄桜鬼』があって、それ以前に原作のゲームがあって、元を辿ると新選組という実在した人たちがいて。それらすべてを自分の中に取り込んで、いろんな気持ちを重ねて僕らも演じてきたから。
それこそ初演の頃に京都へは墓参にも行って、壬生寺や八木邸とか新選組周りの場所はほとんど通いました。その後もひとりでふらっと出かけては、ゆかりの人を訪ね、話を伺ったりしていたので京都で演じられることが心から幸せです。
——改めて、役を作るということに関して真摯です。
池田:僕らは、舞台の上で生きてないといけないので。
ただ、物語だからリアルなんてひとつもないんですけど。まず台本があって、音楽付けて、照明当てて、お客さまにエンターテイメントとして見せる……でも全部、フィクションだから。けれど、そのフィクションをちゃんと感じでもらうためにはやっぱり僕らが本物を作らないと意味がない。だから「役を作る」っていうことはちゃんと本当に生きてなきゃいけないんだな、って思ってます。
なのでミュージカル『薄桜鬼』を知らない人も、例えばこの記事で初めて知ってくれた人も、この機会にぜひ観てください、と言います。誰が観ても楽しめる作品になるはずで、そうすることが僕らの仕事で。うん。そこは自信を持ってお届けできると思っているので。楽しみにしていてくださる方はもちろん、たくさんの方に観てほしいです。
押し上げてくれる方々のために
——今日はたくさんの話を伺いました。
池田:たくさん自分の話をして、たくさん新しい発見もしました。
やっぱり役者をやるっていうことは、誰かに何かを届けられる人でなければいけないと思っていて、それが芝居だけでなく、どんなものでも「僕」というフィルターを通して物語を届ける人たちがいて。で、その、届いた人たちに響いたら応援してもらえる。そういった方々が押し上げてくれるからこそ次がある、と改めて感じました。
そういった方々がいてくれることを、僕は一時も忘れていないつもりだし、ずっと感じているつもりなので、今日はそんな方々に向けて精一杯、話しました。お芝居とは違うけれど、今日、話したことで何かを感じてもらえたらうれしいですし、これからも僕はいろんな形で心を返す……じゃないですけど、もっと楽しませてやる、と思っているので待っていてほしいです。
……なんだろう、まあ言っちゃえば娯楽なんでね、芝居を観ることって。別に人生に必ずしも必要のないことかもしれないけど、でも観る前と後だったら絶対、後の方が豊かになるんですよ、とも思っていて。そんな娯楽だけれど、それでも必要としてくれる人たちにもっといろんな気持ちを届けたい。もっともっといろんな感情を持ってほしいし、新しい発見をしてほしい。それをずっと続けていくのでこれからも観ていてほしい、と思います。
——いただいた言葉ごと、記事にまとめさせていただきます。そして、来年もたくさん会えるでしょうか?
池田:はい、あえて言います。多分いろんなところでお会いできると思います。そして近況をひとつ。演じる事に対して今までやってきた「声を意識する」ことを自分の中から捨てさるところから、新たな現場に挑んでいます!
——ありがとうございました。
池田純矢は生きていく、板の上で、カメラの前で。
撮影/江藤 はんな (SHERPA+)
ヘア&メイク/今井純子(BELLEZZE)
編集・文/おーちようこ
2014年10月15日、講談社にて収録。
・写真や記事の無断転載はおやめください。