松尾仁 - キーパーソン,仕事術,働き方,起業 10:00 PM
「おらが街」をつくる小さなコミュニティ。場から生まれる、北九州市のまちづくり。
ライフハッカー[日本版]でも度々取り上げてきた福岡市のまちづくり。官民一体となって起業を積極的に支援し、移住者が増え続ける福岡市から車で約1時間ほどにある北九州市では、小さいけれど活発なコミュニティがそれぞれに自分たちの街を活性化させるための活動を続けています。北九州市の中心地、小倉でインキュベーション・カフェを運営する一方、遊休不動産のリノベーションで街を活性化させようと活動する北九州家守舎の共同代表でもある遠矢弘毅さんにお話を伺いました。
1967年、鹿児島県生まれ。北九州大学卒業後リクルートに入社し、求人広告の企画営業に携わる。税理士事務所やIT関連企業の営業職、レストランマネージャーなどを経て、2006年、財団法人北九州産業学術推進機構のインキュベーションマネージャーに就任。2010年、インキュベーション・カフェ「cafe causa」を小倉にオープン。2012年、北九州市内の遊休不動産を活用したエリアマネジメントを行う北九州家守舎を設立。
転職で広げたネットワークを生かし、発信するための場所づくりを行う。
「起業」「まちづくり」をキーワードとした事業を遠矢弘毅さんが行うようになった背景には、インキュベーションマネージャーという職業を経験したことにありました。大学を卒業後、九州リクルート企画(現リクルート)の企画営業職や会計事務所、電力系の営業職などを経て、遠矢さんがインキュベーションマネージャーになったのは2006年のこと。起業サポートの成果が出て相手の笑顔に繋がることが嬉しくて、ようやく自分らしい仕事を見つけることができたと思ったそうです。
「転職を重ねてきたため、幅広いネットワークができた」と話す遠矢さん。遠矢さんが教えることのできない分野の知識を電話一本で聞くことのできる人々とつながっていることは、インキュベーションマネージャーの仕事においても強みになりました。次第に、遠矢さん自身が何かを発信していくというよりは、発信するためのセッティングをすることが自分の役割だと思うようになったのだそうです。
コミュニティの中で刺激し合うことで人は成長する。
遠矢さんが経営するカフェの名前でもある「causa」は、ラテン語で「きっかけ」という意味。1階は飲食店、2階はセミナーなどを開催できるフリースペースになっています。
2010年2月のオープン以降、「cafe causa」にはIT系やアート系、音楽系などさまざまな業種の人が集まり、いろいろなイベントが開催されてきました。たとえば「朝の会」。これはオープンから間もない2010年4月に始まった情報交換の時間。週に1度、朝の7時半から1時間だけ集まって、参加者が発信したいことを話す会です。
遊休不動産の活用で、街を活性化させる。
「cafe causa」に人が集まり、つながっていく中で、遠矢さんは「小倉家守構想」という遊休不動産をリノベーションによって活性化させる計画があることを知ります。北九州市で全国初のリノベーションスクールが開催され、興味が湧いた遠矢さん自身も受講生として参加することになりました。
設立メンバーは遠矢さんと建築設計事務所を主宰する一級建築士の嶋田洋平さん、北九州市立大学地域創生学群准教授の片岡寛之さん、九州工業大学の准教授であり一級建築士でもある徳田光弘さん。監査役に地元商店街振興組合の理事長を迎え、北九州家守舎は生まれました。
また、同時期に古民家を再生したレンタルスペースもつくりました。ここは開業から1年ほどは北九州家守舎が管理運営を行っていたんですが、1年ほど経ってからオーナーからカフェがやりたいという話をもらって、今では我々の手を離れ、人気の古民家カフェに育っています。
リノベーションによるエリアの活性化を目指す北九州家守舎は、地元商店街との連携を取りながら事業を進めています。北九州家守舎が運営するイタリアンレストラン「cucina di TORIYON」がある場所は、元々は火事で消失し更地になった40坪の土地。ビルを建てても採算が合わないのでオーナーが困っていたところ、底地を商店街が借り、商店街が設置したコンテナ店舗を北九州家守舎が借りて店舗営業するという仕組みがつくられました。
小さなコミュニティが強ければ、街も強固になる。
北九州家守舎では、事業で得られた収益の1/3を街に投資、還元するルールを設けています。だからこそ、「民間企業であっても"まちづくり会社"、この街のために何かをしていると多少は言えるのかな」と遠矢さんは話します。
最後に、北九州市の魅力を遠矢さんに聞いてみたら「良くも悪くも自立心が強いこと」と話してくれました。
残念なのはアピールが苦手ということですね。まちづくりの肝は、その土地でしかできないことを生かして、時代に合ったものに洗練させていくことだと思うんです。お洒落なパッケージやネーミングの商品を出したりするだけでは、東京、そして世界との勝負になるわけですからハードルが高い。その土地の出身者に「おらが街でもこんな面白いことをやっていて、でもよく見たら昔からあることの組み合わせやん。うまいこと産業にしてるな」と思わせたら勝ちですよね。小規模で事業を始めても、人口100万人ほどの政令指定都市だからこそ、その事業が受け入れられたときには、より成功するチャンスが大きいと思います。
遠矢さんが「cafe causa」や北九州家守舎で行っているのは、場をつくり、人と人をつなげること。小さなコミュニティをつくり、それぞれが強くあれば街は強固になると信じて、ほかの街の真似ではなく「おらがスタイル」でまっすぐに進む姿勢に、新しいまちづくりのヒントが見えたように感じました。
(取材/松尾仁 文/宗円明子)
Photo by PIXTA.
- 北九州本 (エイムック 2932)
- エイ出版社