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はてな村定点観測所

汚物を消毒します

無党派層はコスパが悪くて当てにならない

政治・選挙業界の闇の用語集の反響

先日、「政治・選挙業界の闇の用語集」を書いたら、多数の反響を頂いた。

cyberglass.hatenablog.com

その反響の中で以下のようなコメントを頂いた。

id:cyciatrist これを見ると選挙って期間中はほとんど支持層を固める作業なんだよな。非支持層をひっくり返したり浮動票をつかまえたりするようなことはほとんどやってない

また、「街宣車の主要な目的は政策を伝えることではなく、支持者宅を中心に「選挙が近いですよ」ということを告知することにある」と書いたことに関して、同じく選挙運動を手伝った人が増田に自分の体験談を語ってくれた。

anond.hatelabo.jp

id:sds-page 無党派層とか選挙行かない人間が50%近く居るって金の鉱脈が眠っているようなもんなのになんでここに手を出さないかな

そこで今回は「選挙カーはウザい」と思っている「無党派層」を選挙運動側はどう認識しているのかを中心に書いてみる。

f:id:cyberglass:20151031094333g:plain

「風が吹く」「風が吹かない」

国政選挙があるたびにNHKなどのマスメディアでは「勝敗の鍵を握るのは無党派層の動向です」と無党派層が重要であると解説している。既存政党離れは先進国に共通して見られる現象で、日本でも調査によって違うが約60%の有権者が支持政党なしの無党派層である。既存政党を「胡散臭い」と感じている有権者は多く、政党離れが進んでいる。共産党の入党者は増えているようだけど。

この無党派層が大きく影響して今までと選挙結果がガラリと変わることを、政治の世界では「風が吹く」と呼んでいる。マスコミでも使われるので聞いたことがある人も多いと思う。

2009年の衆議院選挙では民主党に風が吹いて308議席を獲得して圧勝した。2012年の衆議院選挙では自民党に風が吹き294議席を獲得して自民党単独で絶対安定多数を確保した。小泉政権の時の2005年のいわゆる「郵政解散」でも自民党が分裂した状態で行われたが、小泉政権への風が吹き296議席を確保する大勝になった。これらの選挙では無党派層の動向が各政党の明暗を分けた形になっている。

当然、選挙事務所においても風が吹くかどうかは強く意識していて、各種世論調査の結果や選挙期間の中盤に発表される新聞各紙の情勢調査は非常に重視している。

しかし、それでもなぜ既存政党は無党派層に訴えるよりも、支持団体名簿による「支持固め」や街宣車による支持者宅へのアピールなどの戦術を中心に据えるのか。

無党派層はコスパが悪い

無党派層はマスコミなどで報じられる既存政党の胡散臭さに嫌気がさして支持政党なしである場合が多い。この層の人達を自分達の陣営の支持に取り込むには、支持団体の名簿の人々を支持固めするのに比べて、かなりの労力を必要とする。

国政選挙における無党派層の動向は、草の根の選挙活動よりもテレビ・新聞などマスコミや最近ではネットの影響を受けやすくコロコロ変わって安定しない。

私が経験した選挙では、選挙期間中に森総理の「有権者は寝ていてくれればいい」発言があって、その直後から急に民主党への有権者の風当たりが良くなった。街頭でも「民主党頑張れ」と声を掛けてくれる人も増えた。逆に郵政解散の時は民主党は抵抗勢力と呼ばれたので、民主党への逆風は非常に強く、「民主党です」と言うと無視する人が多かった。原発事故や経済悪化の責任を厳しく追及されたときも街頭での反応は悪かった。

この点、労組や宗教などの支持団体の構成員は安定して民主党に投票してくれる可能性が高いので、彼らの支持固めを行った方が基礎票を確保する上では効率が良い。労組の組織率や求心力はネットでも指摘されているとおり大幅に低下してきているが、依然として大票田であることは確かである。宗教はさらに安定している。

中央の動向やマスコミ報道に大きく左右される無党派層の人々を取り込むことをメインターゲットにするよりも、支持団体の構成員の方が容易に投票してもらえるように出来る。まずは支持団体を基礎票を固めて、その上で態度未定の浮動票の確保を狙った方が効率的である。

既存政党にとって無党派層はコスパが悪いのだ。

無党派層は投票率が低い

有権者の関心のある解散の時は無党派層の投票率も高くなる傾向にあるが、一般に無党派層の投票率は支持政党ありの有権者の投票率より低い。無党派層に訴えても投票所に行ってくれない可能性が高い。争点が見えにくい時、既に自民党の圧勝が予想されたとき、投票日の天候が悪いとき、無党派層の投票率は低下傾向にある。

宗教の場合は這ってでも投票所に足を運んでくれる。労組の組合員も選挙慣れしているのでルーチンワークの一つとして投票所に行ってくれる人が多い。無党派層の中には単に支持政党ありと表明するのが嫌なだけで「隠れ自民党支持層」「隠れ民主党支持層」「隠れ共産党支持層」がいるが、彼らも安定して投票してくれる。

またネットでもよく取り上げられているように高齢者ほど投票率が高い。若者は政治的無関心層が多い(もちろん政治に関心のある若者も存在するが少数派である)。だから高齢者を狙って街宣車で支持を訴えた方が効果的である。

地方選挙では風は吹かない

地方選挙の場合はさらに無党派層の関心が低い。国政のニュースは毎日テレビなどで報道されて国会で何が争われているかを知っている人は多いが、自分の住んでいる街の議会で何が問題になって議論されているのか知らない人はかなり多い(誰も監視していないから割と適当に議事進行をやっている地方議会も多い)。

地方選挙では風は吹きにくい。何が争点であるのかも伝わりにくいので、支持固めや知人の紹介などで投票する人が多い。自分の近所に住んでいる人だからという理由で投票する人もいる。それを狙って特定地域に「○○地域で育ってきました誰々です」と出身アピールをする陣営もある。いわゆる地盤である。この地盤で投票を決める人がかなりいいる。

地方選挙の公約

「暮らし・安全安心・子育て・介護」「元気な町づくり」など公約も奇を衒ったものではなく曖昧で無難なものにする場合が多い。重大な争点を抱えた自治体ならば別だが、地方選挙で政党が国政の争点を持ち出してもあまり意味がない。そもそも地方議会で与党会派になれなければ質問で質すことしか出来ないし、公約は曖昧であった方が無難である。

東京と地方などでも大きく異なる。東京では市民運動が活発で空中戦も有効である場合が多い。しかし、雪深い新潟などでは支持団体や地縁や血縁などが大事だった。「新潟は東京とは違う。落下傘候補は警戒されるから労組の組合員に頼った方が投票してくれる確率が高い」と労組幹部が言っていたのを憶えている。やはり街宣車である。

例外はある。東京都議会議員選挙や知事選挙などが国政選挙の前哨戦になって、国政選挙並みに大物政治家が応援に来て争われることもある。いまの沖縄の基地問題やCCCの図書館問題などのように大きな争点を抱えた自治体では緊張感が違う。しかし、そういう自治体は稀だ。

ちなみに田舎の自治体の首長選挙では無投票再選の地域も非常に多い。対立候補が出ること自体がタブーであったり、仮に出馬してどんなに良い政策を掲げても住民は囲い込まれていて戦う前から勝敗が決している場合も多い。これが地方自治の現実だ。

ネット選挙が解禁されても依然として街宣車は強力な武器なのである。

選挙事務所の食事に関して

anond.hatelabo.jp

こちらの記事に昼食つきの話が出ていて、「昼食は無料で弁当が出たのだが、なにか帳面のようなものに、弁当と金額が書いてあって、サインをさせられた」とある。

公職選挙法では飲食物の提供は原則として禁止されている。しかし、衆議院選挙以外では例外的に弁当の支給が認められるケースがある。

第139条
何人も、選挙運動に関し、いかなる名義をもつてするを問わず、飲食物(湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子を除く。)を提供することができない。ただし、衆議院(比例代表選出)議員の選挙以外の選挙において、選挙運動(衆議院小選挙区選出議員の選挙において候補者届出政党が行うもの及び参議院比例代表選出議員の選挙において参議院名簿届出政党等が行うものを除く。以下この条において同じ。)に従事する者及び選挙運動のために使用する労務者に対し、公職の候補者1人について、当該選挙の選挙運動の期間中、政令で定める弁当料の額の範囲内で、かつ、両者を通じて15人分(45食分)(第131条第1項(選挙事務所の数)の規定により公職の候補者又はその推薦届出名が設置することができる選挙事務所の数が1を超える場合においては、その1を増すごとにこれに6人分(18食分)を加えたもの)に、当該選挙につき選挙の期日の公示又は告示のあつた日からその選挙の期日の前日までの期間の日数を乗じて得た数分を超えない範囲内で、選挙事務所において食事するために提供する弁当(選挙運動に従事する者及び選挙運動のために使用する労務者が携行するために提供された弁当を含む。)については、この限りでない。

ちょっと何を言っているのか分からないと思うけど、1食あたりの金額(基準額1000円)ならびに1日あたりの金額(基準額3000円)制限の範囲内で、1日あたりの数(選挙事務所1箇所45食+選挙事務所が1増えるごとに18食)×選挙運動日数の範囲内で支給できる。

衆議院選挙では弁当は支給できないが、これも抜け道があって、事務所とは別に食堂が事務所内で運営されていることにして、ボランティアおばちゃんの作ったご飯を購入したことにしてご飯を食べることも出来る。貯金箱が設置されていて、そこに50円などを入れる決まりになっていたりする。

勝った後に内緒でみんなで日本酒を飲んだりすることもあるけど…。