老いた被爆者たちにこれ以上、裁判を強いるのは酷だ。政治の責任で決着を図るべきだ。

 がんや心筋梗塞(こうそく)などの病気になったが、国に原爆症と認定されなかった被爆者たちが起こした裁判で、また国が負けた。東京地裁と大阪高裁でおととい判決が出た18人のうち、17人が原爆症と認められた。

 集団訴訟が始まった03年以降、国の敗訴は40件近い。裁判に踏み切ったことでようやく原爆症の認定を受けた被爆者は300人を超えている。

 行政の決定が司法に覆され続ける状況は異常だ。被爆者の平均年齢は80歳を超えた。安倍政権は問題の全面解決に向け、すみやかに行動すべきだ。

 安倍首相は07年夏に、原爆症認定の基準を見直す、と表明した。与党の国会議員が具体案をまとめ、翌年導入された。爆心地からの距離など、一定の条件を満たす人のがんは原爆症と認められやすくなった。

 だが問題は解決しなかった。厚労省が認定にあたり、他の病気と放射線との因果関係に強くこだわったためだ。被爆後に爆心地付近を歩いた入市被爆者は浴びた放射線量が低いとされ、申請をほとんど却下された。

 その後も国の敗訴は止まらず、厚労省は13年末に基準を再改定した。ただ実質的には、入市時期や被爆距離の条件をわずかに広げただけだった。

 今回勝訴した被爆者はいずれも、厚労省が再改定基準でも原爆症に該当しない、と判断した人たちだ。東京地裁判決は「基準は目安の一つではあるが、該当しなくても原爆症と認められることはある」と断じた。

 塩崎恭久厚労相は専門家の意見を聴いたことを理由に、基準のさらなる見直しに慎重な姿勢を示すが、問題の本質を理解してほしい。行政の考え方を司法判断に沿うよう改めない限り、いたちごっこは終わらない。

 被爆当時の行動やその後の健康状況を詳しく調べ、一定程度の被曝(ひばく)が疑われるようなら原爆症と柔軟に認める。それが、裁判所の考え方だ。

 現実に入市被爆者らにも病気は多発している。微細な放射性物質を取り込む内部被曝の影響を示唆する研究成果も次々と発表されている。

 放射線の影響が明らかに否定できない限りは原爆症と認める。そういう方向で認定のあり方を抜本的に改めるべきだ。訴訟で国と争わなければ救済されない現状はおかしい。

 被爆者との争いに今度こそ終止符を打つ。そういう指導力を安倍首相に発揮してほしい。