出産は本来、人間の自由な営みに委ねられるべきものである。政治が強制的に制限するという、いびつな施策をこれ以上続けるべきではない。

 中国政府が、一人っ子政策と呼ばれた産児制限を緩める。今週開かれた共産党中央委員会の第5回全体会議で、来年からの経済方針である第13次5カ年計画の概要に盛り込まれた。

 多くの国では、家族計画への政府の関与はせいぜい教育・啓発活動までだ。1979年以来続いた一人っ子政策は食糧不足への心配によるものとはいえ、妊娠中絶の強制など深刻な人権侵害を伴い、国際的な批判を浴びてきた。

 一昨年の緩和策では「両親いずれかが一人っ子なら2人目を認める」というものだった。今回は、例外なく2人目を認めるという。一歩前進ではあるが、産児制限の制度は残る。全面的に撤廃するべきだ。

 国の富強をめざす習近平(シーチンピン)政権は、労働人口の減少と高齢化がもたらす経済成長の鈍化や社会保障負担の増大にどう対応するか、という問題意識から政策変更に踏み切ったのだろう。その観点から考えても、遅きに失したと言わざるを得ない。

 人口は、かなりの確かさで将来を予測できる。出生率が下がった中国には、経済的に豊かになる前に高齢化が進むという根本的な懸念があり、一人っ子政策の撤廃を主張する声はかねて強かった。

 なぜ遅れたのか。考えられるのは、計画出産を管理する体制が中央から地方まで膨大な人員によって築き上げられ、一種の権益化が進んだことだ。違反者に科せられる罰金が地方政府の財源になったとも伝えられる。行財政のあり方全体が絡んだ構造的な問題である。

 いまやっと制限緩和しても、経済効果はそうないかもしれない。大都市では日本同様の少子化が進み、一昨年の緩和による出生増は限定的だった。もし増えても、新たな働き手として社会に加わるのは十数年先だ。

 新しい5カ年計画には、労働人口を増やす方策として、農村人口の都市受け入れを促すことが盛り込まれた。このことだけでも、農村の土地問題、社会保障や教育の受け皿など、関連する課題が多岐にわたる。

 こうした人口移動のほか、公害など、いわば日本の高度成長期を圧縮する形で諸問題に直面しているのが、いまの中国の姿だ。習政権の国内改革がめざすべき目標は、13億人とこれから生まれる子どもたちが安心して暮らせる国造りに尽きる。