ユニコーン(一角獣)は、結局のところ幻獣、つまり「まぼろし」である……
シリコンバレーで起きていることなら何でもありがたがる痛い日本人が多い。やれ「世界を変える!」だとか「ユニコーンだ!」とか、そういうキャッチフレーズに酔ってしまう連中だ。彼らは、ビジネスというものがexecution、つまり地道な積み重ねによって成り立っているということを知らない。
エリザベス・ホルムズは31歳の女性起業家で、19歳のときにスタンフォード大学を中退して医療機器メーカー、セラノスを設立した。
セラノスは血液検査の会社で、ごく少量の血液を採るだけで色々な疾病の検査が出来るという夢のようなストーリーだ。
同社はドレーパー・フィッシャーやラリー・エリソンなどから数次に渡って資金調達し、一時は未公開株のバリュエーションが90億ドルになった。
ヘンリー・キッシンジャーをはじめ、キラ星のような大物が役員に名前を連ねている。
ところがウォールストリート・ジャーナルの記者が「セラノス社は自社で開発したナノテイナー(極小ガラス管)を使用していないのではないか?」ということをスッパ抜いた。
米国食品医薬品局は「ひとつのテストを除きこのデバイスは承認してない」と発表、セラノスはナノテイナーの使用を断念しなければいけなくなった。
この事件が明るみに出る前から、怪しい兆候は出ていた。一例として医療の分野ではピア・レビュー(査読)と呼ばれる、研究者コミュニティによる相互チェックを行うのが常識だが、セラノスはこれまでずっとビア・レビューを拒否してきた。
もしナノテイナーが使えないのであれば、単なる血液検査の会社はアメリカに幾らでもある。スケールメリットの無いセラノスはクウェスト・ダイアグノスティックスをはじめとする大手に到底勝ち目は無い。
こんなインチキになぜコロッと騙されたか?
それは彼女がスティーブ・ジョブズばりの黒いタートルネックをトレードマークにしていたからだ。
それと「TED」などでもっともらしい高揚感のある空虚なプレゼンを繰り返し、みんなを「すごいイノベーションがこれから起こるぞ!」という気持ちにさせたからだ。
このへんはSTAP細胞をめぐるフィーバーを彷彿とさせるものがある。
それにしても、ぐずぐずしてIPOしない企業を「ユニコーンだ!」とか何とか言ってありがたがるクソな風潮に、今のアメリカは毒されている。
インベストメント・バンカー的に言えば、いつまでたってもIPOできない企業は、どこか問題を孕んでいる場合が多い。
ウーバーやエアB&Bも、法務リスクが大きすぎるからIPOできないのであって、年増のOL同様、「勝ち組」はいつの日か「負け犬」に評価が変わる日が来るものだ。