[NEWS REPORT]
TPP交渉推進の陰で生贄にされる農協の解体シナリオ
2014年6月12日
政府が6月にまとめる新たな農業強化策や新成長戦略で、農協の見直しが焦点となっている。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に反対する全国農業協同組合中央会(JA全中)にきついお灸を据えるのが狙いだ。「農業協同組合」はついに解体されるのか。
TPPに関する要請書を受け取る安倍首相(右)とJA全中の萬歳 章会長(Photo:時事)
噴出した解体論議
農協(JA)のイメージは、都会に住む人から見れば「お米や野菜を安定的に届けてくれる親切なお百姓さんの組合」といったところだろうか。その一方で、日本のTPP交渉参加の反対集会でムシロ旗を立て、国会前で「絶対反対!」のシュプレヒコールをあげている圧力団体でもある。JAグループの職員は20万人を超える。
政府の規制改革会議(議長=岡素之・住友商事相談役)は5月22日、JA全中による指導制度の縮小・廃止、企業の農業参入の規制緩和などを骨子とする農業改革案をまとめた。改革案では農地取得が可能となる農業法人に企業が100%出資できるようにするとしている。
既に、イトーヨーカ堂やイオン、ローソン、住友化学、トヨタグループ、大手商社などが農業に参入しているが、現在の農地法では食品関連など一部の企業を除いて出資比率25%以下に制限されており、実現すれば企業の農業進出が加速。農協の地盤沈下が進む。
一方、農協組織の見直しでは、「中央会制度の廃止」をうたっている。JA全中は農協法に基づき、全国約700の地域農協を指導する権限を持つ。指導料として年間約80億円の賦課金を集めるほか、監督権も持つ。この構造がJA全中を頂点とするJAグループのピラミッド型組織の根底にある。
「組織の理念や組合員の意思、経営・事業の実態と懸け離れた内容だ。JAグループの解体と受け止めざるを得ない」。全中の萬歳章会長は規制改革会議の改革案に猛反発する。自民党の農林族議員も「日本の農業が崩壊する」「選挙を戦えない」などと批判。党独自の対案をまとめることを決めた。
JA全中が4月に自ら発表したJA改革プランでは、地域農業で中心的な役割を果たす「担い手農家」を理事に登用することや、食品メーカーの運営参加、農産物の輸出額を2020年までに10倍超に増やすなどの目標が掲げられた。しかし、株式会社化が検討されている全国農業協同組合連合会(JA全農)改革や肥大化批判がある金融事業の見直しには踏み込まなかった。
赤字の本業・農業関連事業を支えているのは、生協や中小企業など他の協同組合では認められていない金融事業だ。戦時統制団体である「農業会」をルーツとする農協は食糧管理制度(食管)を利用し、政府から組合員の農協口座に振り込まれるコメなどの販売代金を農協貯金として貯め込んだ。また、会社や役所、農協に勤める兼業農家の給料やボーナス、退職金などの農業外所得や、農地売却代金の受け皿になった。
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