【チャタヌーガ=中西豊紀】独フォルクスワーゲン(VW)は29日、2016年末を予定している米国での工場拡張について「計画に変更はない」とする声明を発表した。不正を受けて事業の選別が進むなかで、巨額の賠償リスクを抱える米国で投資を続ける方針を示した。同日の州議会の公聴会でもVW幹部は「米工場の稼働率は維持できる」と明言した。
VWは米国唯一の工場をテネシー州のチャタヌーガ市に持ち、2400人超を雇用している。現在はセダン型の「パサート」を年15万台規模で生産している。同工場を拡張し、米国で需要が高い中型の多目的スポーツ車(SUV)を新たにつくる計画を14年に打ち出していた。
ミヒャエル・ホーン米国法人社長名の声明は「従来の計画通り総額9億ドル(約1090億円)の拡張投資を実行し、米国で新たに2000人の雇用を生む」などとする内容。29日はテネシー州議会によるVW問題に関する公聴会が開催されており、地元の不安に配慮したとみられる。
チャタヌーガ市で開かれた公聴会はVWのクリスチャン・コッシュ工場長が出席した。VWは現在、米国でディーゼル車販売を禁じられているが、コッシュ氏は米国製パサートの「20~25%がディーゼル車だ」と発言した。この分はガソリン車の生産に切り替え工場の稼働を維持するとした。
州議員からは「工場を拡張するかどうかは数千人の雇用に直結する」「不正を犯した会社の将来の約束をなぜ信じられるのか」といった声が出た。コッシュ氏は拡張工事のさなかにある生産ラインの写真をスライドで見せながら、計画にブレが無いことを強調した。
テネシー州はVW工場誘致に約3.6億ドルの補助金を出しており、工場拡張でも約1.6億ドルを支援している。公聴会の後、工場がある郡選出の議員は「米国生産はドイツのVW本社にとっても重い位置付けだと受け止めた」と述べた。
ただ、米国の一般消費者がVWを見る目は厳しい。米調査会社のケリー・ブルー・ブックによるとVWのディーゼル車の下取り価格は不正発覚から1カ月で16%減った。ガソリン車も2.9%落ちた。集団訴訟の数も数十件に上り、対米戦略はVWの重要な経営課題となっている。
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