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検定中の教科書閲覧 現金渡す 文科省が指導へ
10月30日 2時02分

検定中の教科書閲覧 現金渡す 文科省が指導へ
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来年春から中学校で使われる教科書の検定が行われていたさなかに、教科書を作成している「三省堂」が公立の小中学校の校長など11人を招いて意見交換会を開き、外部に見せることが禁じられている検定途中の教科書を閲覧させたうえで、現金5万円を渡していたことが分かりました。
参加者のなかには、その後、どの教科書を使うかを決める「採択」に関わった人もいて、文部科学省は教科書採択の公正性に疑念を生じさせる不適切な行為だとして、30日、三省堂に対し公文書による指導を行うことにしています。
文部科学省などによりますと、東京・千代田区に本社がある「三省堂」は、去年8月、英語の教科書の「編集会議」と題して都内のホテルで意見交換会を開き、青森や大阪、福岡など11の府県から、公立の小中学校の校長や教頭など合わせて11人を招きました。
当時は平成28年度から使われる中学校の教科書の検定が行われていたさなかでしたが、三省堂は、外部に見せることが禁じられている検定途中の教科書を校長らに閲覧させたうえで、感想や英語の教科書に何を望むかなどを聞いていたということです。
また、校長らの交通費や宿泊費、それに懇親会の費用なども負担していたほか、「編集手当」として1人当たり現金5万円を渡していたことが分かりました。
参加者のうち5人はその後、各地の教育委員会がどの教科書を使うかを決める「採択」の段階で「調査員」などに選ばれ、意見を述べていました。
文部科学省が教育委員会などを通じて行ったこれまでの調査では、三省堂側から採択を依頼したり、採択に関わった校長らが三省堂を推薦したりする言動は確認されていないということです。
しかし、教科書採択の公正性や透明性に疑念を生じさせる不適切な行為だとして、文部科学省は30日、三省堂に対し公文書による指導を行うことにしています。
NHKの取材に対して三省堂は「渡したお金はあくまで意見をうかがった対価と考えているが、採択に関わる可能性のある方たちであり、検定途中の教科書を見せたことも含めて、極めて認識が甘かったと反省している」と話しています。

「採択の依頼はない」

三省堂の「編集会議」は、来年春から中学校で使われる教科書の検定が行われていたさなかの去年8月、東京・文京区のホテルで開かれました。三省堂側の出席者は編集や営業の責任者など十数人で、教員側が11人、さらに三省堂の英語の教科書を執筆している大学教授が1人出席しました。
NHKが入手した「編集会議」の案内状には、「今後の教科書作りのために広い視座から多角的なご意見・ご助言をたまわれればと願っております」と書かれています。そして、意見を聞きたいテーマとして「英語教育の現状と課題」を挙げ、小学校で英語が教科になるのを見据えて小中連携の現状や課題などについて聞きたいとしていますが、さらに、これに加えて「英語教科書に望むもの」というテーマも挙げ、本来、外部に見せることが禁じられている検定途中の教科書「検定申請本」を見た感想を聞かせてほしいという趣旨が記載されています。
この会議について三省堂は、「よりよい教科書作りのため現場で活躍している先生方の声を聞くのが目的の会議であり、教科書の採択を依頼するようなことはしていない」と話しています。

出席した教員は、「『今の教科書をどう思うか』とか『どんな教科書をつくってほしいか』といったテーマで議論が続くなかで、検定途中の教科書も見せられ、内容について感想を求められたが、採択で有利になるよう直接、依頼されることはなかった。会議が終了したあと、祝儀袋のようなものに入った現金を受け取って使ってしまったが、今月、教育委員会から指摘を受けて、全額、三省堂側に返した。現金を受け取ったのは軽率だった」と話しています。
また、同じく出席した校長は、「三省堂の社員から『今度、東京で開く会議でぜひ話しをしてほしい』と頼まれて会議に参加した。会議終了後には5万円を受け取ったが、会議の講演料のようなもので不適切なものだという認識は一切なかった。宿泊費や懇親会の費用は『自分で負担する』と申し出たが、三省堂側に断られた。その後、教科書の採択に関わる調査員に任命されたが、三省堂の教科書が有利になるような意見は一切していない」と話しています。
さらに、別の校長は、「全国から指導的な立場の教員が集まり、小中一貫の英語教育の重要性などについて3時間以上意見を交わした。最後に三省堂側から教科書のゲラ刷りを見せてもらって、どんな教科書がよいか意見を出し合った。三省堂の教科書が採択されるよう働きかけたことは全くないが、検定中の教科書を見せられたのは好ましくないことだったと思う。しかし、昔は出版社が学校に検定中の教科書を持って来ることがあった。どの会社もそういう営業活動をしていると思う」と話しています。

「疑われてもしかたない」

検定途中の教科書は「検定申請本」と呼ばれ、記述内容に政治的な意見がつくなど不正な影響が及ばないように外部に見せることは禁じられています。
小中学校や高校の教科書は民間の教科書会社が作り、国の「検定」で合格したものの中から各地の教育委員会が選んで使用しています。
三省堂が校長らを招いて意見交換会を開いたのは、平成28年度、来年春から使われる新しい中学校の教科書の検定が行われているさなかで、文部科学省の審議会で記述の事実関係や表現のチェックが行われていました。
検定が終わり、ことし夏、各地の教育委員会がどの教科書を使うかを決める「採択」が行われました。採択にあたっては、学校現場や地域の意見を反映させるため、教育委員会が教員や保護者を「調査員」などに任命することがあります。任命される教員は、指導主事の経験があったり、その教科の指導力があると評価されたりしているケースが多く、各社の教科書を読み比べて意見を示すことになっています。
意見交換会が開かれた去年8月の時点では、参加した校長らが教科書採択に関わるかどうかは分かっていませんでしたが、文部科学省は、採択に関わる可能性を期待して会を開いたと疑われてもしかたのない行為だとみています。

中学英語教科書 シェア3位

三省堂は明治時代に書店として創業し、直後から辞典などの出版を始めたほか、戦前から英語の教科書を作っていました。現在は、小学校から高校まで英語や国語の教科書を中心に作成していて、中学校用には「NEW CROWN」という英語の教科書を発行しています。
中学校の英語の教科書は三省堂を含めて6社が作成していますが、シェアが最も高いのは「東京書籍」で、三省堂は2位と3位を行き来する状態が続いています。
来年春から中学校で使われる新しい教科書の採択は、この夏に各地の教育委員会で行われ、三省堂の英語教科書のシェアは24.2%で3位となりました。

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