中国内陸部の河南省、鄭州(ていしゅう)の駅前です。
子どもを誘拐されたという親たちが先週、集まり、手がかりとなる情報の提供を呼びかけました。
こちらの男性。
妻が買い物に出たすきに、生まれて4か月の息子を自宅からさらわれたと言います。
男性
「当時、妻は私を見ると『子どもがいなくなった!』と叫び、失神してしまいました。
息子について、いまだ何の情報もありません。」
こちらの女性は、5歳のときに誘拐されたという息子を捜し続けています。
女性
「子どもが幸せに暮らしていると、知ることができるだけでいいのです。」
参加者の1人、伍興虎(ご・きょうこ)さん。
伍さんは6年前、一人息子を誘拐されました。
どんなささいな情報でもいいので寄せてほしいと訴えています。
伍興虎さん
「これが私の息子です。
これが息子をさらった男の似顔絵です。」
息子の嘉誠(かせい)ちゃんは、1歳になったばかりの冬の晩、伍さん夫婦が寝ている間にいなくなりました。
夜中に自宅前で不審な人物が目撃されていたことから、何者かが窓から侵入して、連れ去ったと見られています。
伍興虎さん
「うとうとして気がついたら、息子がいなくなっていました。
何が起こったかわからず、外に出て大声で叫びました。」
警察に届け出ましたが、6年余りたった今も見つかっていません。
伍さんは子どもの写真を掲げた三輪自転車に乗って、全国を捜し回っています。
その道中、いつも口ずさむ歌があります。
“いとしい我が子よ どこにいる
いとしい我が子よ どこにいる”
中国で横行する子どもの誘拐。
失踪した子どもの情報を求めるこのサイトには、親から寄せられた1万7,000人近くの子どもの情報が掲載され、日々増え続けています。
小さな子どもを持つ親たちの心配は尽きません。
学校の下校時間。
近年、子どもを迎えに来る親であふれ返るようになりました。
母親
「誘拐のニュースをよく目にします。
幼い子を1人で帰宅させられません。」
母親
「学校でも家でも身の安全について、子どもに毎日言い聞かせています。」
取材を進めると、子どもの誘拐の背景に、人身売買のネットワークがあることが分かってきました。
犯罪グループには、全体を統括する人物がいて、その指示で、子どもが誘拐されます。
誘拐された子どもは、世話役に引き渡され、隠れ家に留め置かれます。
そして、仲介役が見つけた、子どもを買いたいという家族との間で金額で折り合うと、子どもが引き渡される仕組みです。
最近はネット上での取り引きが増えているとされます。
専門家は、農村部や大都市郊外の男の子のいない家庭が、跡継ぎとして求めるケースが多いと指摘します。
子どもの誘拐調査団体 とう飛代表
「中国の農村の人たちの多くが、老後に養ってくれる男子を必要とします。
彼らはこの国で老後の生活を送ることに不安を抱いています。
そのため、子どもを買い求める市場は巨大化し、利潤を生んでいるのです。」
伍さんは、農村や大都市郊外に息子がいる可能性が高いとみて、自ら足を運んで情報提供を呼びかけています。
伍興虎さん
「息子は1歳のときに家から誘拐されました。」
女性
「えー!さらわれたの?」
伍興虎さん
「はい、誘拐されました。」
女性
「まだ1歳の子どもを?」
しかし、伍さんと農村の人たちの意識には、大きな隔たりがありました。
男性
「農村部なら、お金を出せばどんな子でも戸籍に登録することができるよ。」
「農村ではやっぱり男の子が必要なんですか?」
女性
「それはそうよ。
農村は畑仕事で肉体労働なんだから、(そういう考えは)そう簡単には変わらないわ。」
さらに、伍さんの必死の思いを踏みにじるようなことも起きています。
子どもを見つけてくれた人に支払うとしている報奨金を目当てに、接触してくる人があとを絶たないのです。
これらの写真は、伍さんの息子、嘉誠ちゃんだとして、ある人物が送ってきました。
伍さんが公開している嘉誠ちゃんの写真と並べると、よく似ています。
反転させてみると…。
実は、合成したものだったとわかります。
脅迫めいた要求も届きます。
“お前の子どもは、もうすぐ死ぬ
100万元よこさないと子どもの命はないぞ”
伍興虎さん
「泣きたくなることもあります。
でも歯を食いしばって捜し続けます。
絶対にあきらめません。」
どれだけ時間がかかっても一人息子を探し出す決意の伍さん。
この問題を多くの人に知ってもらうことで、自分のような悲劇が二度と起きない世の中になってほしいと願っています。
伍興虎さん
「この問題に対する社会の関心が高ければ、息子は誘拐されなかったかもしれません。
私が経験した苦しみを、誰にも味わってほしくないのです。
だからこの活動をずっと続けます。」
“いとしい我が子よ どこにいる
一生かけても 捜し出す”