国際報道2015

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[BS1]月曜〜金曜 午後10時00分〜10時50分

特集

2015年2月9日(月)

“我が子はどこに…” 〜中国・横行する子どもの誘拐〜

子どもの誘拐が横行している中国。失踪する子どもは年間20万人とも言われるが、多くは犯罪組織が誘拐し、農家などに売り渡していると見られている。農村では、一家の跡継ぎや働き手として、特に男の子を欲しがる家が多いためだ。警察に捜索を要請しても見つからないケースがほとんどで、子供を自力で捜し出そうと必死に活動する親もいる。6年前、自宅で就寝中に1歳の息子をさらわれた伍興虎さん。同じ境遇の親たちと協力しながら、息子の写真を掲げた三輪自転車に乗って全国を駆け回り、行方を追っている。中国で頻発している子どもの誘拐の実態と、その背景に迫る。
出演:高木優(中国総局記者)

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有馬
「今日(9日)の特集です。
まず、こちらをご覧ください。
中国の子どもたちの写真。
実は、いずれも行方不明の子どもたちなんです。
情報を求めて、親がインターネット上に写真を公開しています。
中国では、年間20万人もの子どもが失踪していると言われ、大きな社会問題となっているんです。」


佐野
「正確なデータは明らかにされていませんが、この中には、犯罪組織に誘拐され、子どもを求める家庭などに売り渡されているケースが数多く含まれていると見られます。
なぜ中国で、子どもたちの誘拐が横行しているのか。
その実態を取材しました。」

中国で横行 子どもの誘拐

中国内陸部の河南省、鄭州(ていしゅう)の駅前です。
子どもを誘拐されたという親たちが先週、集まり、手がかりとなる情報の提供を呼びかけました。
こちらの男性。
妻が買い物に出たすきに、生まれて4か月の息子を自宅からさらわれたと言います。


男性
「当時、妻は私を見ると『子どもがいなくなった!』と叫び、失神してしまいました。
息子について、いまだ何の情報もありません。」



こちらの女性は、5歳のときに誘拐されたという息子を捜し続けています。

女性
「子どもが幸せに暮らしていると、知ることができるだけでいいのです。」


参加者の1人、伍興虎(ご・きょうこ)さん。
伍さんは6年前、一人息子を誘拐されました。
どんなささいな情報でもいいので寄せてほしいと訴えています。



伍興虎さん
「これが私の息子です。
これが息子をさらった男の似顔絵です。」



息子の嘉誠(かせい)ちゃんは、1歳になったばかりの冬の晩、伍さん夫婦が寝ている間にいなくなりました。
夜中に自宅前で不審な人物が目撃されていたことから、何者かが窓から侵入して、連れ去ったと見られています。

伍興虎さん
「うとうとして気がついたら、息子がいなくなっていました。
何が起こったかわからず、外に出て大声で叫びました。」

警察に届け出ましたが、6年余りたった今も見つかっていません。
伍さんは子どもの写真を掲げた三輪自転車に乗って、全国を捜し回っています。
その道中、いつも口ずさむ歌があります。

“いとしい我が子よ どこにいる
いとしい我が子よ どこにいる”

中国で横行する子どもの誘拐。
失踪した子どもの情報を求めるこのサイトには、親から寄せられた1万7,000人近くの子どもの情報が掲載され、日々増え続けています。
小さな子どもを持つ親たちの心配は尽きません。



学校の下校時間。
近年、子どもを迎えに来る親であふれ返るようになりました。

母親
「誘拐のニュースをよく目にします。
幼い子を1人で帰宅させられません。」

母親
「学校でも家でも身の安全について、子どもに毎日言い聞かせています。」

取材を進めると、子どもの誘拐の背景に、人身売買のネットワークがあることが分かってきました。

犯罪グループには、全体を統括する人物がいて、その指示で、子どもが誘拐されます。
誘拐された子どもは、世話役に引き渡され、隠れ家に留め置かれます。
そして、仲介役が見つけた、子どもを買いたいという家族との間で金額で折り合うと、子どもが引き渡される仕組みです。
最近はネット上での取り引きが増えているとされます。
専門家は、農村部や大都市郊外の男の子のいない家庭が、跡継ぎとして求めるケースが多いと指摘します。

子どもの誘拐調査団体 とう飛代表
「中国の農村の人たちの多くが、老後に養ってくれる男子を必要とします。
彼らはこの国で老後の生活を送ることに不安を抱いています。
そのため、子どもを買い求める市場は巨大化し、利潤を生んでいるのです。」




伍さんは、農村や大都市郊外に息子がいる可能性が高いとみて、自ら足を運んで情報提供を呼びかけています。

伍興虎さん
「息子は1歳のときに家から誘拐されました。」

女性
「えー!さらわれたの?」

伍興虎さん
「はい、誘拐されました。」

女性
「まだ1歳の子どもを?」

しかし、伍さんと農村の人たちの意識には、大きな隔たりがありました。

男性
「農村部なら、お金を出せばどんな子でも戸籍に登録することができるよ。」

「農村ではやっぱり男の子が必要なんですか?」

女性
「それはそうよ。
農村は畑仕事で肉体労働なんだから、(そういう考えは)そう簡単には変わらないわ。」

さらに、伍さんの必死の思いを踏みにじるようなことも起きています。
子どもを見つけてくれた人に支払うとしている報奨金を目当てに、接触してくる人があとを絶たないのです。

これらの写真は、伍さんの息子、嘉誠ちゃんだとして、ある人物が送ってきました。





伍さんが公開している嘉誠ちゃんの写真と並べると、よく似ています。





反転させてみると…。
実は、合成したものだったとわかります。





脅迫めいた要求も届きます。

“お前の子どもは、もうすぐ死ぬ
100万元よこさないと子どもの命はないぞ”

伍興虎さん
「泣きたくなることもあります。
でも歯を食いしばって捜し続けます。
絶対にあきらめません。」

どれだけ時間がかかっても一人息子を探し出す決意の伍さん。
この問題を多くの人に知ってもらうことで、自分のような悲劇が二度と起きない世の中になってほしいと願っています。

伍興虎さん
「この問題に対する社会の関心が高ければ、息子は誘拐されなかったかもしれません。
私が経験した苦しみを、誰にも味わってほしくないのです。
だからこの活動をずっと続けます。」





“いとしい我が子よ どこにいる
一生かけても 捜し出す”


高まる市民の不安

有馬
「取材した高木記者に聞きます。
中国社会に根ざした深刻な問題だと感じました。
小さい子どもを持つ親たちの不安は大きいでしょうね?」

高木記者
「インターネットの普及で、誘拐に関するニュースに接する機会が増えたこともあって、子どもを持つ親の誰もが、今や人ごととはとらえていません。
中国人の知人に聞きますと、登下校のときだけでなく、買い物や、子どもを友達の家で遊ばせるときですら、常に誘拐の恐怖があると口をそろえます。



そこで最近は、こんな商品まで登場したんです。
子ども用の運動靴なのですが、この小さな箱、これGPSの発信器なんですね。
それをここに装着しますと、親は常に子どもの居場所を把握することができます。
親が指定した範囲から子どもが出れば、携帯電話の警報音が鳴る機能も備えられています。
北京にあるベンチャー企業が去年(2014年)9月に発売したところ、全国から注文が殺到して、今年(2015年)は100万足以上、販売する計画だということです。」


有効な手だては

佐野
「取り締まる側の警察など司法機関は、何か有効な手を打てないものなのでしょうか?」

高木記者
「警察はたびたび犯罪組織の摘発をしていますし、DNAのデータベースを立ち上げて、科学的に親と子の関係を立証するシステムの構築も進めています。
しかし、この広い中国で一度、遠くまで連れ去られてしまえば、見つかる可能性は極めて低いというのが実情です。
また、麻薬犯罪と比べますと、子どもの誘拐や売買に関する刑罰は軽く、仮に摘発されても、数年刑に服すれば釈放されるのが一般的で、金のうまみにつられて、再び罪を犯す確率が高いと言われています。
では、どれぐらいのお金が動くのか、ということですが、女の子の場合は3万人民元、日本円で60万円から。
男の子の場合はそれ以上という話を今回、たびたび耳にしました。」


誘拐を減らすには

有馬
「子どもを買うのもやむを得ないと言わんばかりの農村の人たちのインタビューがショッキングだったんですけれども、この問題、社会全体で取り組む必要がありそうですね?」

高木記者
「その通りですね。
子どもをお金で買おうという、買い手側の常識そのものを変えることこそが大切だと専門家は指摘します。」

子どもの誘拐調査団体 とう飛代表
「子どもを買う人がいなくなれば、つらい思いをする人が出なくて済むのです。
人身売買をなくすには、買う側にも厳しい罰則を設け意識を変えることが必要です。」





高木記者
「ただ、人々が老後、安心して暮らせる社会が実現しなければ、根本的な解決にはなりません。
根が深く、解決には時間がかかる問題だと感じました。
それでも救いだったのは、この問題を自分のことのように受け止めて、被害者を支える市民が少なくないということでした。
今回取材した伍さんが話していたように、子どもを誘拐され苦しむ人がこれ以上出ないような社会が1日も早く来ることを祈りたいと思います。」

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