2020年の東京オリンピックやパラリンピックの開催を控え、海外旅行客向けの宿泊施設として一般の家を活用する「民泊」が、東京都の大田区で実現することになりそうだ。大田区は「民泊」を認める条例案をまとめ、10月26日まで、パブリックコメントを募集している。
旅館やホテルなどの宿泊施設を営業するためには、旅館業法で定められた厳しい基準を満たす必要があるが、大田区は「国家戦略特区」として、規制が緩和されるエリアに含まれている。特区法では、一定の条件を満たす施設(マンションなどの個人住宅を含む)に外国人観光客を宿泊させるケースで、自治体が許可した場合、旅館業法の適用を受けないのだ。
大田区の条例案では、地域の旅館・ホテルとの役割分担などとして、「1施設への滞在期間が7日以上」という条件をつけている。また、トラブル防止のため、必要に応じて、区の職員が立ち入り調査等をできるようにするほか、外国人滞在事業のためにその施設を使うことについて、事業者が近隣住民へ説明することを義務づける、としている。
大田区は、東京オリンピック・パラリンピックを控えて、「外国人旅行客が増えることが想定される」「観光やビジネスなど多様な滞在ニーズに応え、より安心・快適な滞在環境を提供するため」と、民泊条例の目的を説明している。
このような動きを、弁護士はどう見るだろうか。旅行業界に詳しい金子博人弁護士に聞いた。
●宿泊施設が全然足りない
「大田区のプロジェクトは、専門家として支持できる内容です。応援したいですね。
今は、オリンピックとは関係なく、海外からの旅行者が急増していて、ホテル・旅館の数が足りていません。東京はもちろん、主要な観光地はどこも、宿泊施設が不足しています」
いわゆる「民泊」のニーズはあるのだろうか。
「不動産業界に目を向けると、空き室の増加で悩んでいる地域が多くなっています。
そして、一般の人の中には、自分の家の空き部屋を旅行者に貸しても良いと思っている人も多いようです。
さらに、特に欧米系の旅行者の間では、安い宿泊費で長期滞在し、『日本の日常生活』を体験したいという希望も強くなっています。旅行のイメージが、以前と比べて多様化しているのです」
不動産業界、一般人、宿泊客側に、それぞれ民泊を望む声がでているわけだ。
「そうですね。『民泊』は、このような需要と供給の中で、社会が要請しているものといえます。
民泊をめぐっては、『Airbnb』というアメリカ発のインターネット・サービスが、世界で急成長しています。日本でも、その利用が急拡大していることには、ちゃんと理由があるということです」
●旅館業法は需要についていけていない
「日本の旅館業法は、昭和23年(1948年)に制定された古い法律で、このような社会の需要に、ついていけていないのが現実です。
抜本的な改正に向けて、まず経済特区で民泊を、というプロジェクトは、支持したいですね」
制度の運用上、注意すべき点はあるだろうか。
「旅行者を宿泊させるためには、衛生、安全面での規制が必要です。
住宅地に突然『宿泊施設』が出現することもありうるので、都市計画法の用途地域の建築規制で、ホテル不可のところに『宿泊施設』ができると言うこともありえます。住宅街では、近隣に迷惑を及ぼす恐れも忘れてはならないことです。
大田区では、こうした点をクリアするために、自治体の許可制とする方針です。これは賢明な判断でしょう。
大田区のプロジェクトが成功することを期待したいものです」