朝日新聞は10月14日付西部本社版朝刊で、「シャワーヘッド『水通せば殺菌』福岡の企業、新商品」と見出しをつけ、福岡のメーカーが水を通すだけでレジオネラ菌などを殺菌・減菌するシャワーヘッドを開発したと報じた。その中で、ヘッドの内部に鉱石の「トルマリン」が組み込まれ、通った水が電気分解されると記述があったが、トルマリンが水と触れただけで電気分解を起こすことはないとの専門家の指摘を受け、「通った水が電気分解される」との記述を削除するとして、24日付朝刊で訂正した。ほぼ同様の記事はニュースサイト「朝日新聞デジタル」にも掲載されていたが、サイト上にも訂正記事が掲載された。ただ、商品を開発したメーカーの社長は、シャワーヘッドに組み込んだのは「トルマリンペレット」であり、水の電気分解を起こすことのないトルマリン鉱石そのものではない、と指摘しているが、その部分は訂正されていない。
記事が紹介したのは、福岡県香春町の有限会社田川化工(大熊洋史社長)が開発したシャワーヘッドの新商品「助太刀K&D」。ヘッド内で気泡や衝撃破を発生させて細菌を破壊するとし、財団法人「東京顕微鏡院」の検査で殺菌効果があることがわかったと伝えていた。
この記事に対して、ネット上で「トルマリンが水と触れただけで電気分解を起こすことはない」といった疑問の声が相次いでいた。問い合わせが相次いだとみられる東京顕微鏡院は22日、田川化工が開発したシャワーヘッドを通した水のレジオネラ属菌の検査を実施したが、殺菌・滅菌効果の有無に関する評価には関与していない、とのコメントをホームページに発表。しかし、朝日新聞の訂正記事では、東京顕微鏡院の見解には触れていなかった。
朝日新聞2015年10月14日付西部本社版朝刊9面
シャワーヘッド「水通せば殺菌」 福岡のメーカー開発 http://t.co/7kk3MNLe9I
— 朝日新聞(asahi shimbun) (@asahi) 2015, 10月 14
朝日新聞2015年10月24日付西部本社版朝刊36面(※朝日新聞デジタルにも訂正あり)
田川化工の大熊社長は日本報道検証機構の取材に対し「電気分解を起こすことのないトルマリン鉱石をシャワーヘッドに組み込んだかのように書かれたのが、そもそもの間違い。当初の取材には『トルマリンをセラミック化したものを組み込んでいる』と説明し、記事掲載後『トルマリンペレット』に訂正してほしいと申し入れていたが、訂正してもらえなかった」と語った。
大熊社長によると、ヘッドに組み込んだのはフロー工業製の「フローペレット(トルマリンペレット)」で、3mm程度の粒子状にしたトルマリンにシリカ・アルミナ・特殊ガラスを組み合わせてセラミック化したものだという。大熊社長は「水に触れただけで電気分解の効果は起きるわけではないが、ヘッド内で水流を起こし、キャビテーション(水流で気泡が発生する現象)の原理を組み合わせることで殺菌効果が生じる」と説明している。当機構では科学的根拠の正当性や効果の有無までは判断できない。大熊氏は「新商品の効果には自信があるが、多くの方から疑問を持たれてしまった以上、新商品の発売は当面見送ることにした」と話している。
- (初稿:2015年10月29日 17:20)