自称心理学に詳しいという人に食事に誘われて、ちょっとこじゃれたビストロに行った。大きくもなく、小さすぎもせず、壁にルノワールのポスターとかは掛かっていなくて、生の切り花が活けてあるような店。
テーブルについて心理学の話を振ると、フロイトはさー、とか、ユングはさーとかいってきて、むかしの人たちの学説のレクチャーをしてきた。
それはまあいいとしよう。
注文をすると、まず、小さなバスケットにフランスパンが盛られて、運ばれてくる。これに岩塩とエクストラバージンオリーブオイルをつけて食べてくださいと店員さんが言う。ためしにやってみると、本当においしい。大地の味がするというか、素材そのままの味がするというか、とにかく、うそのないおいしさ。
テーブルを挟んで座っている人は、俺、手相も見れるんだよねーとかいって、手を取ってまじまじと見つめてくる。これ、どこで読んだのかなーとおもいながら、まあ悪い気はしないので、されるがままにする。
問題は、その後だ。
すいませーん、バケットおかわりくださーい、と彼は手をあげて店員さんを呼ぶ。
は?
バケット?
ああ、この、パンを入れてあるカゴのことを、バケツだと思ったのだよね?
店員さんはパンの入ったカゴをもってきてくれる。
彼と私はもう一切れづつとって、食べる。
このバケット、ほんとおいしいよねー
え
彼、ひょっとすると、バゲットのことを、バケットと思い込んでる?
心理学に詳しくて、学問ぽい雑学のあるところをアピールしてくるわりに?
そのままサラダからメインの料理にいって、好きなクランベリーのソルベがあったから、ちょっと頼みたいと思ったけど、今日はよした。
店を出て、彼が手をつなぎたがっているのを感じたけれど、何気ない風を装って、そのまま最寄りの駅まであるいて、じゃ、といって帰ってきた。
おじいちゃん、その話もう5回目よ。 いい加減覚えましょうね。