つなごう医療 中日メディカルサイト

愛知・岩倉母子死亡事故 てんかん発作の男性、不起訴へ

(2012年2月27日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

名地検支部 運転の79歳、自覚なく

画像(左)死亡した松原国代さん(右)長男の優希君

 昨年7月、愛知県岩倉市の県道で母子2人が死亡した9台が絡む玉突き事故で、名古屋地検一宮支部は、自動車運転過失致死の疑いで逮捕、送検された同県江南市赤童子町の元行政書士の男性(79)を不起訴にする。男性は運転中にてんかんの発作で意識を失ったが、持病の自覚がなく、発作の予見は困難で刑事責任は問えないと判断したとみられる。遺族は、不起訴の方針を不服としている。

 捜査関係者によると、男性は事故直後から一貫し「なぜ事故が起きたのか分からない」と供述。検察は、病疾患で意識を失った可能性を捜査。専門医の鑑定で、てんかんの発作が原因と診断された。

 しかし、てんかんの通院歴などは確認されず、持病と認識していなかったとされる。運転を控える注意義務を怠ったとはいえず、過失の認定は困難と判断したもようだ。

 事故で妻子を亡くした松原政輝さん(40)=江南市古知野町杉山=は今月上旬、担当検事に呼ばれ、不起訴の方針を告げられた。「過去に1度も発作がなく、自覚がなかったのは本当なのか。納得できない」と話す。松原さんの弁護人は「不服として、検察審査会への審査請求も検討する」と話している。

 江南署によると、男性は昨年7月10日、岩倉市の県道で乗用車を運転していて軽乗用車に追突後、約70メートルを減速せず走行し、信号待ちの車列の最後尾の主婦松原国代さん=当時(39)=の軽乗用車に突っ込んだ。国代さんと助手席にいた長男の小学4年優希君(9つ)が死亡した。

 江南署は自動車運転過失致死の疑いで、男性を逮捕したが、地検一宮支部は処分保留で釈放し、在宅に切り替えて捜査してきた。

高齢者 持病発見難しく

 事故を起こした男性(79)は捜査の過程で、初めててんかんだと診断されたという。未然に兆候に気づき、運転を回避することはできなかったのか。

 てんかんは、脳の神経細胞が過剰に興奮し、一時的にけいれんや意識障害などの発作が起きる慢性疾患。高齢者のてんかんの場合、数秒だけ意識を失って動作が止まる症状が目立ち、発作を記憶していない場合も多いという。居眠りや物忘れと勘違いし、家族も気付きにくい。

 静岡てんかん・神経医療センター(静岡市)の井上有史院長(臨床てんかん学)は「高齢者の症状は注意深く観察しないと発見が難しい」と指摘する。

 てんかん発作をめぐっては、2010年12月に三重県四日市市の踏切でワゴン車の運転手が自転車の男性3人に追突、電車と衝突させ死傷させる事故や、11年4月に栃木県鹿沼市でクレーン車が児童6人をはね死亡させる事故が起きた。

 運転手が自動車運転過失致死罪に問われた栃木の事故では、てんかんの予兆を感じていながら運転した運転手の実刑判決が確定したが、岩倉市の事故は、自覚がなかったとされる点が大きく異なっている。

 交通裁判に詳しい高山俊吉弁護士(東京弁護士会)は「仮に自覚していたとしても、それを立証する証拠や供述がないと過失は問えない」と話す。

 08年の厚生労働省調査では、65歳以上のてんかん患者は4万6千人と推計され、患者全体の2割。原因となる脳血管障害や糖尿病のリスクは年齢を重ねるたびに高まるため、発症率も高まる。

 高山弁護士は「障害者や高齢者にとって車は生活に欠かせない移動手段。規制を強めるだけでは解決せず、安全面との両立が課題だ」と指摘している。

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人