【作品解説】ルイス・ブニュエル&サルバドール・ダリ「アンダルシアの犬」

フロイト流自由連想法で制作したシュルレアリスム映画


概要


「アンダルシアの犬」は、1929年に公開されたルイス・ブニュエルとサルバドール・ダリによる共同制作の無声シュルレアリスム短編映画である。

 

ブニュエルの初作品であり、1929年にパリのユルシュリイヌ・スタジオでの期間限定公開の予定だったが、大人気となり、8ヶ月のロングラン上映となった。


「アンダルシアの犬」というタイトルに特に意味はないという。フィルムの時系列はバラバラで「むかしむかし」から、唐突に「8年後」へ移動する。その物語構造は夢の論理に従って作らており、当時流行っていたジクムント・フロイトの自由連想が脚本制作の際に利用されている。そのため映画で現れるシンボルに意味は無く、ブニュエルによれば、唯一シンボルの意味を調べる方法は精神分析だという。


ブニュエルは、ある日、レストランでダリに会い、かみそりで目を切り裂くように、細い横雲が月を横切り半月になる夢を見たと話した。一方ダリは手のひらに蟻が群がっている夢を見たという。興奮してブニュエルは「その映画を一緒に作ろう!」と叫んだという。


映画の制作費はブニュエルの母が出資し、撮影は1928年5月に10日間にわたってルアーブルやパリやビアンクールのスタジオで行われた。

 

女性が目を剃刀で切られるシーンでは、ブニュエルの75年のインタビューによると死んだ子牛の目が使われている。強烈な照明を当てて、子牛の皮膚を白く見せることによって、動物の毛皮を人間の皮膚のようにしようとしたという。


冒頭の自転車のシーンで、椅子に座っている女性が脇に本を投げたときに開いたページの絵はフェルメールの「レースを編む女」だが、ダリはフェルメールの崇拝者で作品でもよくフェルメールに言及することがある。


ブニュエルの脚本では、当初ラストシーンは大量のハエが群がる男女のシーンになる予定だったが、予算の都合で変更されることになり、男と女がビーチを歩いた後、砂の中に半分埋もれて射殺されるシーンに変更されている。


この映画には、ほかにもフェデリコ・ガルシア・ロルカやさまざまな作家たちの主題が見られる。たとえば、ロバの死骸のシーンは、ブニュエルやダリが嫌っていた児童小説作家フアン・ラモン・ヒメネスのロバの小説に言及している。

 

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