いじめの問題は、積極的な取り組みが必要だ。だからこそ「あってはならない」と考えず、むしろ「あって当たり前」ととらえるべきではないか。

 文部科学省が、小中高校と特別支援学校で昨年度に起きた、いじめの調査結果を発表した。

 岩手県矢巾町で中学生が自殺した問題を受け、調査のやり直しを求めていた。件数は調べ直す前より3万件増え、前年度並みの18万8千件になった。

 いじめ自殺が社会問題になると増え、年がたつと減る。再調査しなければ、そのサイクルを繰り返すところだった。

 新たに計上されたのは、からかいや仲間外れ、短期間で解決したものなどだという。

 いじめ防止対策推進法は、被害者本人が苦痛を感じるものはすべていじめと定義している。矢巾町の場合、いじめをトラブルと考え、解決済みと判断していた。できるだけ幅広くとらえることが大切だ。

 留意すべきは、件数がいじめの発生数ではなく、学校が認知した数であることだ。それは氷山の一角に過ぎない。

 認知件数は、学校や自治体が発見に力を入れるほど増える傾向にある。件数が多いことは、それだけ努力した成果と受け止めたい。

 都道府県の件数のばらつきもこれまで問題になってきた。

 子ども千人あたりの件数を見ると、前年度、最大の自治体が最小の83倍だったのが、今回は31倍になった。再調査で縮んだが、開きはなお大きい。

 いじめがゼロと報告した学校は全体で42%もある。本当にないか。見逃してはいないか。点検してもらいたい。

 対策推進法が施行されて2年たつ。学校に義務づけられた、いじめを防ぐ基本方針と対策組織はほぼ全校でつくられた。

 だが、矢巾町の中学校のように、形だけで実際には機能していない例もあるのではないか。教職員全員で話し合い、共通理解をつくることが欠かせない。

 NPO「ジェントルハートプロジェクト」の調査では、いじめを「解決できる」「ほぼ解決できる」と答えた中学校教員は4分の1強にとどまる。

 被害者に「君が弱いからだ」と責任転嫁する。「大丈夫か」と聞き、「大丈夫」と答えたので解決したと思い込む。そんな例も少なくない。教職員らの研修の拡充も求められる。

 子どもを見守るのは学校だけではないが、教職員がいじめの7割近くを発見していることも今回の調査でわかった。学校の役割は大きく、責任は重い。