RASETSU〜羅刹〜Text by 大路政志 工画堂スタジオ製リアルタイムSLGの柱となるだろう意欲作!従来の同社製SLGにどっぷりハマったユーザーならば賛否両論あるかもしれないが,今後,羅刹をプレイしようと思っている人は,このレビューを,購入か否かを決める参考にしてほしい。そして筆者の個人的な結論を,あえて先に述べさせてもらうなら羅刹は「非常によくできた零作目。のちに発売されるであろう次回作を最大限に楽しむために,プレイしてもらいたい佳作である」ということになる。その結論の是非はともかく,結論を導き出した過程が気になる人は,ぜひ以下のレビューに目を通してみてほしい。 工画堂の新機軸ともいえる奇抜なキャラデザインは,
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お頭選択画面では,それぞれの特性や容姿,難易度などが確認できる | ミッションとミッションの合間で,お頭を含む傭兵たちの戦闘準備をすることができる |
ミッションには,単純な敵殲滅作戦,救出作戦,護衛,占領・防衛など,さまざまな種類が用意されている |
工画堂スタジオ製の戦術級SLGには,非常に充実した背景設定が用意されていることが多い。羅刹も然りで,パッケージに同梱の48ページのユーザーズマニュアルに対し,各種設定が収録されているデータブック(設定資料集)には,152ページものボリュームがある。もちろんここで,データブックの分厚さがゲームの魅力に直結すると断言しているわけではない。また,背景設定のあまりの緻密さでゲーム本来の魅力が薄められている作品が多いことも,一人のゲーマーとして十分理解しているつもりだ。
だが,ゲームプレイのテンポが最重要要素となるリアルタイムSLGにおいては,ゲーム中にテキストなどで長々と諸設定を押しつけられてプレイの腰を折られるよりは,データブックなどに収録されているものを"知りたい"プレイヤーが自分の意志で読めるようになっているほうが理想的だ。羅刹を"攻略すべきゲーム"と考えてプレイしたいなら,データブックを読まずにサクサク遊べばいい。"楽しむべき世界"と捕らえているなら,データブックを熟読して,キャラクターや世界観に関する知識を吸収すればいいのである。
ただし,重厚な背景設定が用意されている本作だが,ゲームそのもののストーリー性は,残念ながらやや希薄といえる。せめて,キャラクター同士の会話が楽しめたり,特定のキャラ間で特殊イベントや協力技などが発生してくれれば,プレイヤーはもっと物語や世界を身近に感じることができたのだが……。
ミッションクリア直後には戦果が表示される。各ユニットの活躍度や任務達成の総合報酬額も明らかになるので,次のミッションを効率的に展開するための参考としよう |
プレイヤーの操作する主人公"お頭"は5人用意されており,それぞれに難易度の設定が違う。選択したお頭によって,ゲームスタート時の傭兵の質・人数や,ミッションクリア時の報酬額などが変化するのである。これはこれで面白い試みだと思うのだが,個人的には「若干難あり」と感じた。
まず,主人公別の難易度設定は,ゲーム初心者にとっては足かせのように思える。もし,好きな主人公の難度が極めて高かったら,初心者プレイヤーはゲーム序盤でお手上げ状態になってしまう可能性があるのだ。工画堂作品は,キャラクターの魅力を非常に大切にしており,その方針が新規ユーザーの獲得につながっていることは間違いないのだから,それを生かすためにも,まずはプレイヤーに好きなお頭を選択させて,その後に難易度設定ができるなどの配慮がほしかったと思う。
ちなみに筆者がプレイした実感では,難易度の差は序盤から中盤にかけて顕著に現れていた。最も難度の高いラティアラでプレイしたときには,序盤の資金繰りがかなり辛かった。ミッションクリア時の報酬額が低く,特別報酬を得ようにも多くの敵を撃破することが難しいので,武装や生体装甲のレベルアップが追いつかず,かなりの苦戦を強いられたのだ。
また,プレイ中に実感できる各主人公の差が,難易度(報酬額)の差でしかなかったように思える。もちろん,グラフィックスや個人的な能力もさまざまだし,キャラクターボイスも異なる。だけど,主人公によるミッション分岐や,ストーリー展開の変化が発生しないので,せっかくの魅力的なお頭たちが,"単なるコマ"として埋没してしまっているのだ。「お頭とはいえギルドのコマなのだから,一ユニットとして扱われるのが当然」といわれればそれまでだが,多くのユーザーが工画堂に求めているのは,そういったリアリティではないはず。秀逸な世界設定を生かすためにも,個人のエピソードや選んだお頭によって,そのお頭だけのエピソードが見られるなどの「ストーリー性」がほしかった。そうすることでもう少し,キャラクターに命を吹き込めたのではないだろうか?
オープニングでは,ムービーによる生体装甲の戦闘シーンや,お頭たちのイメージイラストが流れる。サイバーかつセクシーな「羅刹」の世界観が,うまく表現されたオープニングといえるだろう |
各ミッションは基本的に最大8人まで参加できるが,場合によっては16人以上のユニットを操作することもある |
ゲーム初心者にとってはやや取っ付きにくい印象のある本作だが,ひとたびゲームを始めると,そのテンポのよさと戦術性の高さに気付くことになる。単に"敵を殲滅せよ"という内容のミッションにしても,お頭を含む傭兵の質や武装の射程距離,着用している生体装甲の種類や侵攻ルートの違いによって,戦果は大きく異なってくる。ミッションはリアルタイムで進行するので,敵小部隊の殲滅が少し遅れただけで,敵の発見が少し遅れただけで戦況が一変してしまうのだ。
傭兵などのユニットに関しては,ゲーム中盤あたりから(ドーピングで能力をアップすることで)能力差が目立たなくなるが,レンジ(有効射程距離)や連射性能,攻撃力の異なる武装の組み合わせ一つで戦況に大きく影響するので,準備段階から気が抜けない。また,生体装甲は白兵型,主力型,威力強襲型といった具合にカテゴライズされており,それぞれに有効的な活用法が設定されている。さらに,それら生体装甲には,敵の攻撃との相性が細かに決められているので,限界まで成長させた生体装甲を着用していても,弱点を突かれれば大ダメージを被ることになるのである。
安易なパワープレイに走らず,限られた条件でいかに迅速に任務を達成できるか? そういうストイックなプレイスタイルを心がけ,遊技から競技へとプレイの性質をシフトすれば羅刹というSLGは最高の遊び場となるはず。"一度や二度の全滅は当然。三度めの挑戦のための下調べだ"くらいの意気込みでプレイするのが,このゲームの正しい遊び方なのかもしれない。
"イラストレーションを含めた秀逸なキャラクターデザインと,微に入り細に入るデータ群が生かされた戦術級SLG"という,工画堂お得意の作風に仕上がっている羅刹。工画堂ファンならばそれだけで"買い"の一本だが,筆者的には若干"もったいない"という印象が強く残った。キャラクターや世界設定は魅力的なのに,それらとゲームが有機的にリンクしていないため,今一つキャラクターに感情移入できず「ハマれない」のだ。当サイトスタッフのMurayama氏は,本作をプレイした後に「将棋というゲームは高度に知的で面白い。でも"銀"や"飛車"に愛着を抱けないよね」といっていた。まさにその通りだと筆者も思う。羅刹はデジタルエンターテイメントの最高峰ともいえるPCゲームの一つなのだから,もっともっと娯楽性を追求してもいいはずだ。ストーリー性に富んでいてもいいはずだ。いや,むしろ,そうでなければならないのだ。
基本的なゲームシステムは水準以上のクオリティーだし,キャラクターや世界設定という重要な素材は,すでに高レベルのものが用意されている。だからこそ,工画堂には,ぜひとも次回作を開発してもらいたい。もし発売されるならば,それは確実に前作を上回る作品に仕上がるはずだ。同様に"もったいない"と感じている羅刹ユーザーを代表して,筆者はそう断言する。
傭兵ギルドでは傭兵の雇用・解雇ができるほか,ライセンスを取得することも可能 | ミッションには,単純な敵殲滅作戦,救出作戦,護衛,占領・防衛など,さまざまな種類が用意されている | |
各ミッションは基本的に最大8人まで参加できるが,場合によっては16人以上のユニットを操作することもある | 難度が高いとされているお頭を選択した場合,最もツラいのが最初のミッション | 武器庫では,武装の購入・変更をすることができる |
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