工画堂スタジオが2005年3月4日に発売したリアルタイム制シナリオSLG『ブルーフロウ』。
今回は、同社の代表作『パワードール』シリーズの世界観・キャラ性と、異色の意欲作『RASETSU 〜羅刹』シリーズのゲーム性を融合・昇華したような印象を受けるこの作品について、硬派なSLG好きで『RASETSU 〜羅刹』担当ライターでもある鳴門 敦史氏がレビュー。(編集部:飯島)
「ローダー」が出るけど『パワードール』じゃない。メンバーのほとんどが女性だけど「ドールズ」じゃない。しかして、その実体は!?
……え、これは……『羅刹』!?
本題の前にいきなりですが……
このゲームを語る上での最大のポイントは、パッケージ裏に何気なく書かれた小さな「初心者様でも安心」という一文。私はものすごく違和感を覚えたのですが……。
では、ここで工画堂スタジオが想定している「初心者様」、言い換えれば最も本作をアピールしたいターゲットとは、一体どのような層を指しているのでしょうか。
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いきなり核心を突いてしまうのはどうかと思いますが、端的に表現するならば“ハード路線”である『羅刹』のシステムを下敷きに『パワードール』の世界観を移植し、“ソフト路線”の「くろねこさんチーム」作品の風味を加えたのが『ブルーフロウ』である……といえます。
ある意味では良いとこ取り。しかし、逆説的には『ブルーフロウ』が、『羅刹』や『パワードール』、「くろねこ作品」への窓口になっている……とも。
ん? また違和感。同じくパッケージには「面倒な設定が苦手な方にも」とあります。
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▲ 『羅刹』シリーズのシステムと、『パワードール』シリーズの世界観を融合し、“ソフト路線”の味付けを行っているともいえる『ブルーフロウ』。 |
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「面倒な設定」がゲーム進行状況に影響を及ぼすのだとすると、上記作品で対象となるのは『羅刹』『パワードール』シリーズなど“ハード路線”の作品。つまり、普段こうした“ハード路線”を好んでプレイしている人はともかく、あまり縁がない人も遊んでみてください、というメッセージだと解釈できます。
だとすると、『ブルーフロウ』をアピールしたい人の条件(1)は「普段シミュレーションゲームをやり慣れていない人(あるいは、イマイチ踏み出しきれなかった人)」となります。
じゃあ、リアルグラフィック指向でも構わないのに“ソフト路線”の「くろねこ風味」を加えた理由は? これは、“ハード路線”一辺倒だと辛くて……という、“ソフト路線”好きな人への配慮ともいえるでしょう。
つまり、条件(2)は「普段“ハード路線”の作品とは縁遠い、“ソフト路線”作品好きな人」といえなくもない。
なるほど、よござんす。
では、ゲームのプレイ経験別に『ブルーフロウ』を解説してみましょう。
工画堂スタジオの新シリーズ『ブルーフロウ』とは
『ブルーフロウ』は、リアルタイムで進行する戦術級SLGです。
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▲ 主人公とともに戦うのは、表向きは「広報部隊」という肩書きの精鋭部隊。機動兵器・パワーローダーを運用している。 |
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「パワーローダー」と呼ばれる人型機動兵器を指揮して、各ミッションをクリアしていきます。パワーローダーを操るのは、女性ばかりで構成された「広報部隊」。しかしそれは表向きだけで、実際には広報部隊の仮面を被った精鋭部隊。
彼女達の特性と各パワーローダーの特徴を活かす組み合わせを考えながら、さまざまな武器と知略を駆使して困難なミッションに立ち向かっていきます。
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ステージの合間には、主人公と主人公を取り巻く女性たちとの間でストーリーが展開されます。
運命のいたずらで戦争の渦中へと巻き込まれていく少年が、どのような結末を見ることになるのか……?
工画堂スタジオのSLG作品未経験の方向け解説
ゲームは、物語部分の「インターミッション(幕間)」、次のミッションの解説と目的が説明され人員配備と武装選択を行う「ブリーフィング」、実際に部隊を指揮して目的を達成する「戦術」、この3つを繰り返して展開していきます。
解説:インターミッション
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ではまず、「インターミッション」からご紹介。
インターミッションでは、刻々と移り変わる戦況と、主人公・ユアンの心境、彼を支えて共に戦う女性達との物語が進んでいきます。
……と書いてしまうと、やたら重たい感じに取られてしまいますが(重いですけど)、一応は広報部隊だけに写真の撮影があったり、ちょっときわどいサービスショット(!!)があったりと、硬軟織り交ぜてられています。
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▲ ミッション間のインターミッション。主人公と他の女性隊員達とのエピソードが描写されていく。 |
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解説:ブリーフィング
次に「ブリーフィング」ですが、迷うと底なし沼にはまってしまうのがこの部分です。
パワーローダーに乗り込む隊員を選択し、状況に合わせた武器を選択し、どんな人員で小隊を編成して作戦に投入するか……!? 考えれば考えるほどキリがないところです。
また、それ以前に「どんな武器を使えば良いのか?」「パワーローダーはどういう組み合わせにすればよいのか?」という初歩的な疑問が湧いてくることでしょう。
戦争モノのSLG(特に史実モノ)だと、この部分が「知っていることが大前提」という初心者返しトラップとなって立ちはだかります。もちろんトライ&エラーでも克服できるのですが、その作業は耐えられないと言う意見もあるでしょう。
『ブルーフロウ』では、あらかじめ設定された武装と人員ですぐに始められる「クイックスタート」という機能があります。そのミッションをクリアするためにオススメできる武装が割り当てられますから、慣れるまではこの機能で武器の特性を掴んでみると良いでしょう。
解説:戦術
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▲ リアルタイムで進行していく「戦術」画面。ポーズ機能があるので、迷ったときはスペースキーを押して進行を止めよう。 |
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そして「戦術」ですが、リアルタイム進行でも心配する必要はありません。スペースキーでいつでもゲームの進行を中断できますし、ユニットの移動速度もそれなりに緩やかなので「展開が目まぐるし過ぎてついていけない」なんていうことは、まずありません。
操作方法についても、最初のミッションは操作説明になっています。このミッションをクリアすれば、一通りの操作方法を身につけることができます。また、新しいパワーローダーが手に入ったときには、隊長が次のミッションで機体の特徴を解説してくれます。
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ここまでしてきた解説にしても、マニュアルでは隊員の対話形式コラム「新入隊員のためのぶるふろ講座」で簡潔明快に説明されていますから、ハッキリ言ってあれこれ悩むより、先にそちらを一通り読めば何の問題もないでしょう。
「それでもやっぱり難しい」「クリアできない」という場合は、ゲームスタート時に難易度を選択できますので一段階下げてみると良いでしょう。
とは言え、正直なところ「普通」の難易度は『パワードール』『羅刹』の「普通」よりもかなり易しい内容です。
『ブルーフロウ』を一通りクリアしたら、ターン制の『パワードール』、リアルタイム制の『羅刹』を試してみるのも良いでしょう。おそらくすんなりプレイできるはずです。
『パワードール5』『(同)5X』経験者向け解説
なまじパワーローダーが出てくる分、『パワードール』の雰囲気を色濃く持っているものだろうと想像されるのはもっともなこと。確かに、武器の選択方法や隊員の成長方法は『パワードール』のそれです。
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しかし、武器に重量が設定されていないため「AP」の概念がなかったり、「見つかる」→「どこからともなく大量ミサイル」→「チャフ使い果たして成す術なく撃破」というお約束の展開はほとんどありません。隠蔽技能もないのでシビアな隠れんぼはないとはいえ、もちろん索敵が重要なことは本作でも不変です。
スモークが今ひとつ使い勝手が悪いとか、敵を発見しないと撃てないルールなのでグレネードであぶり出すことができないなど、『パワードール』での戦術が使えませんので要注意。
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▲ パワーローダーは出てくるものの、基本的なシステムは『羅刹』シリーズが下敷きになっている。 |
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『羅刹』シリーズのプレイ経験がある人向けの解説
操作方法は『羅刹・斬』とほぼ同様です。ただしマウスの操作が少々異なっていますので、慣れるまでは要練習です。
ただ、本作のターゲットは初心者に向いている分、『羅刹』シリーズをクリアした人には難易度の面で今ひとつ物足りない作品かもしれません。いきなり「難しい」から始めて丁度良いでしょう。
世界観が違うので、本作ではユニットが進化することはありません。が、なぜか『羅刹』名物「お触り機能」が継承されていますので、そちらを試してみるのも一興かと。
今思えば、『羅刹・弐』でのキャラクター激変は、『ブルーフロウ』の試金石だったのかも知れませんね……。
感想
第一印象は「何で『羅刹』で『パワードール』なんだ!? このキャラクターデザインの意味は!?」と疑心暗鬼になっていたことを素直に白状します。
しかし、マニュアルやパッケージを見て、実際にプレイしてみて、何を目指したのかを読み解くにつれて「あぁ、そうか」と文頭の結論に至ったわけです。
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▲ 難易度が適切で間口が広く、硬軟取り混ぜた作風でもある『ブルーフロウ』。この作品をきっかけに、他の一般向け作品にも興味を持っていただけたら幸いだ。 |
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悩むことなくゲームをプレイできるように導くことに関しては、これまでの作品以上に丁寧に作られています。
難易度も適切で、プレイヤーのレベルに合わせて選択できるので、SLGの記事でこの言葉を使うことはあまりないのですが「万人にオススメできます」。
間口が広い作品といえる『ブルーフロウ』をきっかけに、他の工画堂スタジオのSLGや一般向けゲームに興味を持ってもらえれば万々歳ですね。
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まぁ、あえて難点を述べるなら、独自に設定した装備は次のミッションも継承して、クイックスタートを選択したときだけ初期装備(デフォルト装備)に変わる方が良かったように思います(その場合は、デフォルトに戻しますよ、というアラートを表示してから)。
たとえ初心者でも、中盤以降はお気に入りのキャラクターも出てくるでしょうから、そうなると毎回設定を直す方が手間になると思いますし。
さて、こうなると『パワードール』『羅刹』など既存のシリーズがこの先どういう展開をするのかが気になるところですが……。(執筆:鳴門 敦史/編集部:飯島)
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