その後もヒーローズは何かと注目を集めるようになった。まずヒーローズをセンテニアルから買収したのは、当時設立されたばかりの民間たばこメーカー「ウリたばこ」だった。これも当時は世間を大きく驚かせた。しかし世論の圧力でチーム名に「たばこ」という言葉を使うことができなかっため、結局チーム名は「ウリ・ヒーローズ」となった。さらに球団の財政状況から、高額年俸を受け取る選手に対しては年俸削減の制限(当時は40%)を撤廃し、また「軍保留手当」も廃止するなど、数々の大胆なリストラ策も打ち出した。軍保留手当とは警察官などとして兵役中の選手に前年度年俸の25%を支払う制度だ。さらにチームの主軸選手を立て続けに金銭トレードで放出したが、これも大きな非難を受けた。
その後、韓国国内では後発のタイヤメーカー、ネクセンがヒーローズのスポンサーとなって球団の財政はかなり安定し、また若い選手を育てることで好成績を収めるようになると、外からの評価もガラリと変わった。「ただの商売人」などと非難されていたイ・ジャンシク球団社長も、いつしかメジャーリーグの有名経営者と比較されるようになり、またスポンサーのネクセンもブランドイメージを高めることに成功した。すると国内の多くの企業が、今年で契約が切れるネクセンの次のスポンサーに名乗りを上げ始めた。その中には韓国屈指の大手企業グループも含まれていた。
しかしイ・ジャンシク球団社長が交渉相手として選んだのは、庶民向けの小口金融で成長してきた日本系の金融会社JTトラストだった。うわさによるとJTトラストが提示した額は他の韓国企業の2倍で、他球団でフリーエージェント(FA)資格を得た選手の獲得も約束したという。ちなみにチームの拠点を木洞から高沢ドームに移せば、必要な資金は雪だるま式に膨らむ。そのためヒーローズとしても多くの資金を確保したかったはずだ。
ヒーローズは徹底したビジネスの観点でのみ動いており、日本系の金融会社にチームを売却することに伴うファンや国民の感情は全く考慮していないようだ。来シーズン、ヒーローズのファンは球場で日本企業の名前を思う存分、拒否感なく自然に叫ぶことができるだろうか。カネで買えないのがすなわち「ファンの思い」ではないか。