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法華狼の日記

2015-10-27

[][][]『NHKスペシャル』新・映像の世紀「第1集 百年の悲劇はここから始まった」

NHKの有名なドキュメンタリーシリーズ『映像の世紀』の現代版。初回の第1集は約百年前の第一次世界大戦を中心として、世界の変動を描きだしていく。


まず残念なこととして、あまりに公式サイトの情報量が少ない*1

NHKスペシャル「新・映像の世紀」

番組本編は、残された映像の集積ではなく、偉人のエピソードのつらなりで歴史を描いている。NHK公式ツイッターによると、それこそがねらいのようだ。

その偉人のひとりとしてアラブ革命を支援したイギリス将校ロレンスを批判的にとりあげていた。しかし個人の事績で歴史を描くという観点では、映画『アラビアのロレンス』と根本的にちがわない。しかもイギリスがアラブを裏切ったことや、それにロレンスが加担したことだけなら、映画でも描かれていた。

『アラビアのロレンス』 - 法華狼の日記

ロレンスが軍事顧問のひとりだったとか、ロレンスに指示をくだしていたのは誰だったとか、自由をめざした英雄を組織に組みこまれた軍人として位置づけなおしたりはしていない。番組ではアラブ側の視点もわからない。


ロレンスに対するアラブの心情を描かなかったように、この番組は名も無き個人の痛みや喜びにフォーカスをあてなかった。ロシア革命後に旧帝国派がユダヤ人を虐殺したことが描かれたことくらい。もちろん植民地支配の問題は無視されて、日本が第一次世界大戦に参戦したことは欧米の懸念として語られるのみ。

偉人の皮肉なエピソードはそれはそれで興味深いが、それは「映像」がなくても語ることができるはず。第一次世界大戦の塹壕戦の息苦しさや、毒ガス攻撃によって被害を受ける映像は興味深かったからこそ、そこに登場したような傷病兵の証言をつなぎあわせる番組にしてほしかった。


旧体制の崩壊や理想の追求が過ちの始まりであったかのような語り口にも閉口した。

番組の最後に第一次世界大戦の評価として選ばれた言葉は、最後のドイツ皇帝ヴィルヘルム2世と、裕仁皇太子時代を回想する昭和天皇独白録。人々を戦争に巻きこんだ責任者ふたりの、廃位をせまった自国民への恨み言と、後づけで演じる平和主義。あたかも帝政のまま世界が安定していれば第二次世界大戦はおこらなかったかのように、ふたりの皇帝の言葉を引用する。

既存の秩序を崩壊させた原因として第一次世界大戦が位置づけられ、既存の秩序にこそ百年の悲劇の原因があったとは描かれない。理想が悪夢へ転嫁する悲劇を描きたいことは理解するが、だからといって自壊した秩序をもちあげていいわけではあるまい。

*1:日本固有の隠語であった「慰安婦」を、欧州軍人に対する売春の呼称にもちいたことの用語説明くらいはあるかと思っていた。少なくともコトバンクにつかわれている複数の辞書では、日本軍に密接な言葉としてあつかわれている。慰安婦(イアンフ)とは - コトバンク

switching_knswitching_kn 2015/10/28 16:20 大元にあるのは70年談話の史観なんでしょうね。

桂馬桂馬 2015/10/28 17:00 Twitter上でも揶揄されていましたが「映像の世紀」というよりも「歴史秘話ヒストリア」のような構成でしたね。
作り手側による歴史観の押し付けとナレーションによる誘導が酷すぎて閉口しましたが。(件の慰安婦も唐突すぎて「ほら、日本以外にもあったんですよ」とでも言いたげな感じでしたし)
肝心の映像もリマスタリングは良いとして、加工するのは趣旨に反しているのではないでしょうか。

全体としてNHKが作った歴史教育資料を見せられているようで、映像の持つ力を全面に押し出した前作「映像の世紀」とは全くの別物ですね。

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