メモ代わりの更新です。
南シナ海における米海軍の「航行の自由作戦(FONOP)」は、中国の人工島だけでなく、ベトナムやフィリピンが領有権を主張する岩礁の12海里内でも実施されていたようです。
FONOPを実施するに先だって、この行為がエスカレーションを招くものではなく、国際公共財における通常活動であることを示すための2つの手段が専門家から提示されていました(過去記事)。
1つは、地域諸国に計画についての注意喚起と支持を呼びかけること。もう1つは、中国以外の国、フィリピンやマレーシアやベトナムが支配している岩礁や低潮高地周辺でもFONOPを実行することです。2つとも実行されたということですね。
1つめの地域諸国への通達は、作戦実行前に日本などへも逐一連絡があったと報道されています。2つめの、中国以外の国が実効支配する岩礁・低潮高地12海里内においても実施されたことは重要なことです。「FONOPはあくまでも外交の補完であり、中国の海空での主張に対しては国連海洋法条約に基づいて異議を唱えつつも、彼らの領有権主張について争うものではない」(Foreign Affairs)という米国の姿勢を裏付けるものです。
米国は、国際法に従った形で「領土問題には中立」であるという点を押さえておきたいところです。ことさらに中国と対立しようとするわけではありません。
他に、いくつか気づいたことをメモ。以下蛇足です。
FONOPは今後も長ければ数週間継続される見込みです。今のところ、中国側からエスカレーションを招くような反発は起きていません。イージス駆逐艦「ラッセン」に張り付いているのは052C型駆逐艦や053型フリゲート、そして海警の船艇もいたようです。海上民兵、沿岸警備隊、海軍という“三叉の矛(three-pronged trident)”によって多層的に構成される戦略を「キャベツ戦略(Cabbage Strategy)」といいます。スビ礁でも見られましたね。
いくつかのメディアで、「米艦『航行の自由』盾に強行」(Yahoo)とか「中国は、この人工島周辺を領海と主張しているが、米政府はこれを認めない意向を繰り返し表明している」(AFP)といった表現がありました。これらはいささか誤解を招くものかな、と。
「航行の自由」を与えているのも、人工島が領土を規定しないことを定めているのも国連海洋法条約(UNCLOS)であって、米国ではありません。米国が軍事力だけで自らの意見を押し通そうという印象を与えてしまいかねない表現は避けた方がいいですよね。
他方、米国はUNCLOSを実質的に遵守しているものの、条約そのものの批准はしていません。米国内でもUNCLOSを批准すべきであるという意見は強いですし、中国の三戦(法律戦・心理戦・世論戦)対策のためにも、サッサトヒジュンシロヨと思います。
南シナ海の問題は、中国が他国とは異なる解釈で国際法を運用しているところに理由の一端があります。たとえば排他的経済水域(EEZ)をあたかも領海の如く扱い、他国の船のアクセスを阻害して強制力を他国に行使しようとしたりしますね。2014年の海南島行政区発表の新規則などはその一例です。海だけでなく空の防空識別圏(ADIZ)にも同様の解釈・運用がなされています。
加えて、米中対立の背景には、UNCLOSへの理解の相違があります。中国はEEZ内での外国の軍事行動を制限する権利を有すると主張する一方、米国をはじめとした多くの国が自由に行えると解釈しています(注:UNCLOSにはEEZ内における軍事活動に関する規定はないが、米国などの解釈が多数派)。
ただ、中国が米軍のFONOPに反対するのは無理があります。UNCLOSの無害通航原則において、外国船は沿岸国の平和を害しない限り12海里領海内を通過する権利を有しているからです(第19条)。米国が南シナ海における中国の領有権を認めていようとなかろうと、国際法は平和に通過することを禁じていません。そもそも、中国は今年9月にベーリング海の米国領海を通過する際、この無害通航権を行使したばかりですから、自家撞着ですね。
南シナ海における米海軍の「航行の自由作戦(FONOP)」は、中国の人工島だけでなく、ベトナムやフィリピンが領有権を主張する岩礁の12海里内でも実施されていたようです。
U.S. South China Sea Freedom of Navigation Missions Included Passage Near Vietnamese, Philippine Claims(2015/10/27 USNIニュース)
FONOPを実施するに先だって、この行為がエスカレーションを招くものではなく、国際公共財における通常活動であることを示すための2つの手段が専門家から提示されていました(過去記事)。
1つは、地域諸国に計画についての注意喚起と支持を呼びかけること。もう1つは、中国以外の国、フィリピンやマレーシアやベトナムが支配している岩礁や低潮高地周辺でもFONOPを実行することです。2つとも実行されたということですね。
1つめの地域諸国への通達は、作戦実行前に日本などへも逐一連絡があったと報道されています。2つめの、中国以外の国が実効支配する岩礁・低潮高地12海里内においても実施されたことは重要なことです。「FONOPはあくまでも外交の補完であり、中国の海空での主張に対しては国連海洋法条約に基づいて異議を唱えつつも、彼らの領有権主張について争うものではない」(Foreign Affairs)という米国の姿勢を裏付けるものです。
米国は、国際法に従った形で「領土問題には中立」であるという点を押さえておきたいところです。ことさらに中国と対立しようとするわけではありません。
他に、いくつか気づいたことをメモ。以下蛇足です。
FONOPは今後も長ければ数週間継続される見込みです。今のところ、中国側からエスカレーションを招くような反発は起きていません。イージス駆逐艦「ラッセン」に張り付いているのは052C型駆逐艦や053型フリゲート、そして海警の船艇もいたようです。海上民兵、沿岸警備隊、海軍という“三叉の矛(three-pronged trident)”によって多層的に構成される戦略を「キャベツ戦略(Cabbage Strategy)」といいます。スビ礁でも見られましたね。
いくつかのメディアで、「米艦『航行の自由』盾に強行」(Yahoo)とか「中国は、この人工島周辺を領海と主張しているが、米政府はこれを認めない意向を繰り返し表明している」(AFP)といった表現がありました。これらはいささか誤解を招くものかな、と。
「航行の自由」を与えているのも、人工島が領土を規定しないことを定めているのも国連海洋法条約(UNCLOS)であって、米国ではありません。米国が軍事力だけで自らの意見を押し通そうという印象を与えてしまいかねない表現は避けた方がいいですよね。
他方、米国はUNCLOSを実質的に遵守しているものの、条約そのものの批准はしていません。米国内でもUNCLOSを批准すべきであるという意見は強いですし、中国の三戦(法律戦・心理戦・世論戦)対策のためにも、サッサトヒジュンシロヨと思います。
南シナ海の問題は、中国が他国とは異なる解釈で国際法を運用しているところに理由の一端があります。たとえば排他的経済水域(EEZ)をあたかも領海の如く扱い、他国の船のアクセスを阻害して強制力を他国に行使しようとしたりしますね。2014年の海南島行政区発表の新規則などはその一例です。海だけでなく空の防空識別圏(ADIZ)にも同様の解釈・運用がなされています。
加えて、米中対立の背景には、UNCLOSへの理解の相違があります。中国はEEZ内での外国の軍事行動を制限する権利を有すると主張する一方、米国をはじめとした多くの国が自由に行えると解釈しています(注:UNCLOSにはEEZ内における軍事活動に関する規定はないが、米国などの解釈が多数派)。
ただ、中国が米軍のFONOPに反対するのは無理があります。UNCLOSの無害通航原則において、外国船は沿岸国の平和を害しない限り12海里領海内を通過する権利を有しているからです(第19条)。米国が南シナ海における中国の領有権を認めていようとなかろうと、国際法は平和に通過することを禁じていません。そもそも、中国は今年9月にベーリング海の米国領海を通過する際、この無害通航権を行使したばかりですから、自家撞着ですね。