“自転車革命都市”ロンドン便り<30>サイクルウエアのニューウェーブ到来 英国を賑わせる若き起業家たち
1990年代、いや2000年代も後半に入る頃まで定番だった「サイクリングジャージ=スポンサーロゴベタベタ、色も爆発でデザインめちゃくちゃ!」というあの景色がようやくだいぶ遠のいてきた昨今。その変化の立役者といえばやはりイギリス生まれの「Rapha」(ラファ)でしょう。ファウスト・コッピからエディ・メルクスの頃までのクラシックなジャージにインスパイアされたラファのデザインは多くのサイクリストに衝撃を与えました。今回の連載は、イギリス発のサイクリングウエアブランドでめぼしいところを、日本人目線でピックアップしてみました。
30近いブランドが登場
ラファの成功による「その手があったか!」という衝撃はとくに本国で大きかったようで、2010年を過ぎた頃から次々にサイクリスト自身が立ち上げたおしゃれ系サイクリングアパレルが登場。中には消えてしまったものもありますが、おそらく30近いブランドが登場してきています。これまでこの連載でもお伝えしてきたように、ロンドンの自転車人口が10年ほどでみるみる数倍に膨れ上がり、自転車がライフスタイルとして認知されたということも、多くの起業したい人の背中を押しているのでしょう。
「Vulpine」(ヴルパイン)はタウンを意識したジャケットやパンツがとくに特徴的なブランドです。センスのいい色選びや素材のよさ、丁寧な作りが印象的。創業者のニックは映像制作の仕事をしていた頃から熱心なサイクリストで、「自転車を降りてもさまになる自転車ウエア」を掲げて2012年にスタートしました。
ウィギンスがツール・ド・フランスで総合優勝し、ロンドンオリンピックも開催という自転車の波が来ていた年でもあり、ヴルパインもテレビなどで露出が増えて一躍有名に。今年からはトラック競技のマルチ金メダリスト、クリス・ホイ元選手と提携したロードバイクアパレルラインも登場。これは8ヶ月で6000万円以上の売上を記録するヒットになっているとか。
「Svelte」(スヴェルト)はこの夏まだ生まれたばかりホヤホヤの新しいウエアブランド。以前紹介したレーザーを使った自転車ライト「Blazeレーザーライト」と同じくクラウドファンディングのkickstarterでコンセプトを説明し、集まった250万円ほどで最初の生産にこぎつけたロンドンの小さなチームです。
自分たちが欲しいサイクルウエアはシンプルで上質でロゴがほとんど見えないようなもの…そんな本当によいものをできるだけ安く提供したい!というのがブランドミッション。実際に試着させてもらったのですが、デンマーク製のメリノ生地を使っている「ヘリテッジ・ジャージ」はシャリ感とやわらかさが両方あって、カットや縫製もきれいでとても90ポンドとは思えない出来でした。今後の成長におおいに期待したいブランドです!
自転車好きならではのデザイン&機能
お次は「Huez」(フエズ)。ロードレースファンならピンときますね、ツール・ド・フランスなどで最も盛り上がる舞台のひとつ「アルプ・デュエズ(Alpe d’Huez)」にちなんだ屋号にしたのは、もちろん創業者のふたりがロードバイクが大好きだから。ファウンダーのひとりロレンゾは、フエズを始める前はクレディ・スイスに勤務していたけれど、自転車で起業するのが夢だったのだそう。
「ラファはレトロ路線だけれど、自分たちはモダンなデザインで最新のウエア技術を積極的に入れていく」とポール・スミスにいた自転車好きデザイナーを引き抜いて起業。とくに2000年頃のヨガブーム以降、ラグジュアリーなスポーツウエア素材は大きな進歩を続けているので、これを活かす商品開発に努力しているそうです。ロンドンのコンランショップなどにも置かれているそのデザインはチェックしていただきたいところです。
今回直接インタビューした中ではもっとも小さな規模なのが、女性用サイクリングウエア専門の「Fierlan」(フィエーラン)。スポーツウエアデザインを学んでいた大学生がひとりでスタートさせた商品展開です。女性専門のサイクリングウエアブランドはアメリカやオーストラリアなどからもいくつか出てきていますが、フィエーランを始めたルーシーも、男性中心のサイクリングウエアビジネスでは自分が欲しくなるものが少ない、もっと選択肢があるべきというフラストレーションからこの道に進んだとか。
とくにルーシーがこだわっているのは機能性。吸汗速乾やウィンドプルーフなどはもちろんのこと、ポケットが足りなくなりがちな女性のためにビブの太もも脇にファスナー付きポケットをつけたり、絶対に透けない高密度のライクラ生地をパンツに使ったり、「身につけたときにきれいに見える」ことなど女性の細やかなニーズに応えています。
いまはまだほかの会社で働いたり、フリーランスでデザイナーをすることで収入を確保しているけれど、つい最近マーケティングの担当者と契約したところなので、「日本の女性にも着てもらえたら」とのことでした。
起業しやすい環境も後押し
このほかにも英国発のサイクリングアパレルは主なところでHowies、Shutt Velo、Morvelo、Chapeau、le Col、Velocity(女性専用)などがあり、またオンライン小売大手「Wiggle」(ウィグル)のオリジナルブランドdhbにもBlokというデザイン性を押し出したラインも登場。さらにスポーツウエア業界外からも、ファッションブランドのテッド・ベイカーが街乗りウエアラインを本格的に展開するなど、もう話題に事欠かない状態です。
ここまで賑やかになっているのは、英国が若い人やあまり資金がない人でもとても起業しやすい環境にあることが大きいと思いますが、日本でもこういう楽しい展開が起きることを願っています! ちなみに今回ご紹介したブランドは、テッド・ベイカー以外はすべて日本への発送もしています。
今回登場したブランド一覧
●Vulpine(ヴルパイン): http://www.vulpine.cc/
●Svelte(スヴェルト): http://www.svelte.co.uk/
●Huez(フエズ): http://huez.co.uk/
●Fierlan(フィエーラン): http://fierlan.com/
●Howies: https://www.howies.co.uk/
●Shutt Velo: http://www.shuttvr.com/
●Morvelo: http://www.morvelo.com/
●Chapeau: http://www.chapeau.cc/
●Le Col: http://lecol.net/
●Velocity: http://velocitycyclewear.cc/
●Ted Baker: http://www.tedbaker.com/uk/mens/editorial/raising_the_handle_bars
ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「Blue Room」を更新中。