挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
<Infinite Dendrogram> 作者:海道 左近

第二章 不死の獣たち

32/33

前話 死者の勘定

( ̄(エ) ̄)<ユニークアクセス20万突破&評価者数400人超えクマー!

(=ↀωↀ=)<読者のみんなありがとー!

( ̄(エ) ̄)(=ↀωↀ=)<<それはそれとして今日は閲覧注意!

※残酷な描写あり
■アルター王国<クルエラ山岳地帯>

 アルター王国第二の都市、ギデオン。
 その都市の東方には、<クルエラ山岳地帯>と呼ばれる山々がある。
 <クルエラ山岳地帯>は隣国カルディナとの国境線でもある。
 山々の反対側の裾野から先は荒野と砂漠であり、そこからはカルディナの領土だ。
 線を引いたように山と荒野で別れるその光景がなぜできたのか、知る者はあまりいないし、今は重要でもない。
 問題は、<クルエラ山岳地帯>が古くから山賊団の根城になっていることだ。

 山賊団は一つではない。
 幾つもの山賊団がこの山に巣食っている。
 冒険者ギルドの依頼を受けた者達によって討伐されても、また新たな山賊団が勃興する。
 それを繰り返し続けているのがこの<クルエラ山岳地帯>だ。
 その理由は二つある。
 一つは国境地帯であるために王国が大規模戦力を動かせないこと。
 国境で軍を動かせばカルディナを刺激するため、軍部主導の大規模な山狩りを行えない。
 二つ目は、この山岳地帯は王国の都市でも最大規模のギデオンと、商業国家として名高いカルディナの主要な交易路の一つであること。
 荷と金を奪う山賊団からすれば“美味しい”獲物の多いエリアということでもある。
 そういった事情から、<クルエラ山岳地帯>で山賊となる者が後を絶たないのだ。

 実を言えば、冒険者ギルドにとってはこの山賊団問題は悪い話ではなかった。
 新たに起こる山賊団とは、つまりは食い詰めて山賊に落ちぶれた者の集まり。
 ジョブレベルも下級職の途中で止まっているような連中ばかり。
 そんな山賊団なら、現役で活躍する冒険者ならば特に苦もなく壊滅させられる。
 むしろそれで冒険者の経済が回る。
 ギルドからしても討伐する冒険者からしても、悪い話ではない。
 討伐される山賊団は自業自得であるし、被害にあった村や行商人は……不幸であったと言うしかないだろうが。

 そんな血と金の匂いがする<クルエラ山岳地帯>の山賊団問題であったが、あるときから事情が変わった。
 新たに結成された山賊団の一つが、近隣の村々やギデオンから子供を誘拐し始めたのだ。
 そうして身代金を要求する。
 断れば子供は帰ってこない。
 身代金を払えば子供は帰ってくるか、あるいは死体の一部が返ってくる。
 ふざけた話だった。
 子供を誘拐された被害者は当然ながら山賊団の討伐を冒険者ギルドに依頼し、ギルドもいつものように受けた。
 ただし、街中から子供を誘拐したその手口に、ひょっとしたら腕利きがいるかもしれないとは考えた。
 ゆえに冒険者ギルドで活躍していたティアンの冒険者の中でも特に優秀な、上級職のみで構成されたパーティを派遣した。
 純竜さえも討伐しうるそのパーティ。
 多少の腕利きがいようとも間違いなく山賊団を討伐し、まだ生きている子供がいるならば連れ帰ってくる。
 彼ら自身もそのつもりであった。
 巷ではハンサムな顔で有名だったそのパーティのリーダーは、送り出す人々に笑顔で応えながら山賊団討伐に赴いた。
 その笑顔を見て、「彼らならやってくれるはず」と冒険者ギルドや他の冒険者、何よりギデオンの住民は考えていた。

 翌日、リーダーの顔の“食いさし”がギルドの入り口に置かれていた。
 「おかわり」という張り紙と、今誘拐されている子供の人数と同じだけの指と共に。

 冒険者ギルドはこの予想外の事態に慌てながらも、迅速に次の手に打って出た。
 それは複数の冒険者パーティによる人海戦術。
 百人を超える冒険者で圧倒し、山賊団を殲滅する。
 討伐に赴く冒険者の中には<マスター>が何人も含まれている。
 ギデオンの冒険者ギルドのギルドマスターはこう考えた。
 『これならば勝てる、勝てなければ……』、と。

 三日後、復活した(・・・・)<マスター>から「全滅した。ありゃダメだわ」と報告がなされた。

 彼らの報告によれば敵の大半は雑兵だったが、二人だけ桁違いに強い相手がいた。
 それは人馬種族のアンデッドと、牛頭種族の大男。
 あまりにも強く、冒険者のほとんどはその二人だけに敗れ去った。
 あるいは、アンデッドが呼び出した高レベルアンデッドモンスターに殺されたという。

 その報告を受け、ギルドマスターはこれが自分達の手に負える事件ではないと気づいた。
 同時に、最早打つ手がないことも知った。
 軍部に連絡をしたが、国境付近であるゆえに軍を動かせない。
 ギデオンに在籍し、単騎で勝ちうる【超闘士】は依頼を断った。
 そうなると、対抗する手段は冒険者ギルドにはない。
 時折、腕に覚えのある冒険者パーティが依頼を受けて出向いたが、結果は決まっていた。
 そして彼らが失敗するたびに、死体と子供の指が届いた。
 それが続くうちに……冒険者ギルドはその山賊団の討伐依頼が表示されないようにした。

 そうして一年以上、山賊団――ゴゥズメイズ山賊団と呼ばれる者達は<クルエラ山岳地帯>に拠点を置いている。

 ◆

 そこは廃棄された砦にある薄暗い地下室だった。

「当月三番、入金確認。該当素材なし。返却予定」

 篭るような湿気と身体を冒すような冷気の中で古びた机に向かいながら一人の男がなにごとかを呟いている。

「当月四番、未払い。該当素材あり。素材化済」

 いくつかの書類を見比べ、言葉をつむぎながら、手元の帳簿に何かを書きとめていく。
 それは商店の台帳のようで、手元のもの以外にも同様の帳簿が卓上には見受けられる。
 ともすれば、陰気ではあるが商店の地下で帳簿をつけているだけの男とも言える。
 実際、男はそのように思っていた。
 男の扱う商品は男が帳簿をつける隣の部屋にあった。
 男が帳簿をつけている隣の部屋には幾つかの檻があった。
 檻の中には小さな生き物がいて、それが男の扱う商品だった。

「当月五番、入金確認。該当素材あり。素材化後、“頭部のみ”返却」

 男はそう言って立ち上がり、隣の部屋へと赴く。
 男の歩く姿は奇妙だった。
 上半身は人だったが、下半身は馬のそれだった。
 人馬種族とも呼ばれる亜人種族だ。

 この世界において人馬型はモンスターのケンタウロスもいれば、亜人の人馬種族もいる。
 そうしたモンスターと亜人の境目となるのは、ジョブに就けるかどうかだ。
 モンスターはジョブに就けない。
 【ゴブリンウォーリアー】や【ゴブリンアーチャー】という存在もいるが、あれはそういう名前のモンスターであってジョブに就いているわけではないからだ。
 その証拠にジョブごとに修得できるスキルをあれらは持っておらず、ただ武器を振り回しているだけだ。
 それで言えばこの人馬種族の男は亜人の範疇だった。
 男はジョブに就いているのだから。

 檻の中の小さな生き物は全て眠っていて、男が部屋に入ったことにも気づかない。
 人馬の男は五番と札をつけられた檻から小さな生き物を取り出し、自分の部屋の石の床の上に置く。
 小さな生き物の手足に、床と繋がれた鎖つきの枷を嵌める。
 床には魔法陣が描かれていて、それは男自身が描いたものだ。
 男は懐から水晶のようなものを取り出し、目の前に翳す。

「■■■■■■」

 男が魔法陣に対して何事かを呟く。
 すると魔法陣はおぼろげに輝きだし、僅かな紫電を発する。

「ギャああアアアアアア!!!?」

 同時に、眠っていた小さな生き物が目を覚ました。
 小さな生き物の絶叫には、苦しみの色が強く見えた。
 身体を跳ね上げようとするが、鎖に繋がれている為にそれもできない。
 僅かな隙間で身体をくの字に折り曲げては、背中を石床に叩きつける。
 手足の枷とすれた皮膚は破れ、血が滲む。
 そんな状況が五分あまり続き、

「お、かあ、さん……」

 小さな生き物――ヒトの子供は絶命した。

「思ったよりも少なかったな」

 子供が絶命した後、人馬の男は手元の水晶を見ながらそんなことを言った。
 それから子供の亡骸の首を用意してあった大型の刃物で切り落とし、袋につめて「返却予定」と書かれた籠に放り投げた。
 残った胴体は「素材」と書かれた容器に丁寧に入れる。
 それから何でもないことのように机に戻り、帳簿をつける。
 それが何の帳簿をつけているかを知れば、もはやそれは台帳ではない。
 子供の命の末路を記した血染めの呪いだ。

「当月六番、未払い。該当素材なし。“処理”。ゴゥズ」
「あァ」

 男の声を聞いて、地下室の闇の中で何かが動いた。
 それは人馬の男よりもなお大柄な男だった。
 牛の頭と鬼の牙を持つ大男。
 人馬の男にゴゥズと呼ばれた牛頭の男は六番と書かれた檻の中から一人の少女を引きずり出した。
 ゴゥズによって引きずり出された少女は、片手で吊られながらも眠っている。
 あるいはこのまま眠っただけならば良かったかもしれない。
 しかしゴゥズはその少女の頬を優しく叩いた。
 まるで、親しい者がそうするように。
 少女はそれによって目を覚まし、

「怖がらせたほうが美味ぇからなァ」

 ――生きながら貪り食われた。

 ◆

 ゴゥズが“食事”を終えた頃、人馬の男も帳簿をつけ終えた。

「ゴゥズ、あまり汚すな」
「ガハハァ、メイズよぉ、ここはもうガキ共の血やら体液やらで最低の汚さじゃねえか」
「私が言っているのはお前の臭い唾液だ」
「そうかよォ、マァ気をつけるぜぇ」

 人馬の男――メイズはゴゥズの当てにならない返答に少し溜息をついて、話を変えた。

「一先ずこれで今日までの分は終わりだ。ゴゥズ、明日の分が終わったら私達は此処を出るぞ」
「あァん? 此処を出るのかァ?」
「ああ。二日後にはギデオンであのイベントがある。そうなれば、集まった連中の中に私達を討とうとする奴もいるかもしれん。<超級>の誰もがあの【超闘士】のように無関心ではないからな。厄介事はごめんだ」
「<マスター>共かぁ。あのお遊び連中、ヤれないかぁ?」
「無理だな。上級パーティ程度ならどうとでもなるが、<超級>や超級職は難題に過ぎる。そもそも」

 メイズはそこで言葉を切り、念を押すように言葉を述べた。

「連中こそが“我々の目指す位置”にいるのだ」
「ゲェアハハハ、違ェねぇ!」

 どこかを見据えたメイズの言葉に、ゴゥズが笑いながら応じた。
 そうして男達は地下室を出る。

「ああ、そういえばよォ。さっき俺達は出るって言ったが、部下共はどうするんだァ? 今もガキ集めやら下働きで勤勉に働いている部下共はよぉ」
「ああ」

 メイズはゴゥズの疑問にその目――鬼火の如き炎が見え隠れする眼窩を輝かせながら答える。

「無論、持って(・・・)いくぞ」
「ガハハァ、全部入る(・・)といいがなぁ」

 闘士系統上級職【剛闘士ストロング・グラディエーター】人食いの牛頭鬼人ゴゥズ。
 死霊術師系統上級職【大死霊リッチ】人馬の怨念使いメイズ。

 彼の者達の名はゴゥズメイズ山賊団。
 百人近い部下を従え、上級トップクラスの戦闘力を有する……ギデオンで最も恐怖される誘拐殺人集団である。

 Open Episode 【不死の獣たち】
次の話は本日22:00投稿です。

( ̄(エ) ̄)<温度差注意クマー
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。

Ads by i-mobile

↑ページトップへ