WHO(世界保健機関)の組織である「国際がん研究機関」(IARC)が26日、レッドミート(牛、豚、羊、馬などの肉)と加工肉(ハム、ソーセージ、コーンビーフ、ビーフジャーキーなど)の発がん性について発表した。
レッドミートは、probably carcinogenic to humans (おそらくヒトに発がん性あり)というグループ2A、加工肉はcarcinogenic to humans(ヒトに発がん性あり)というグループ1である。
(一部報道は、レッドミートを赤身肉と表現しているが、日本語でいうところの赤身肉(脂の少ない肉)とは意味が異なるので、レッドミートをそのまま使う。日本語で赤肉と呼ぶ場合もある)
IARCのグループ分けのたびに書かなければならないことだが、これは発がん性の強さ、がんになりやすいかどうかによる分類ではない。発がん性を示す根拠が強いか弱いか、つまり根拠となる論文が十分に揃っているかどうかによって、分けられている。だから、加工肉がたばこやアスベストと同じところに分類されたからといって、同じようにがんを引き起こし危ない、と受け止めるべきではない。
グループ1の中には、食品としてアルコール飲料も入っている。だからといってアルコールが禁止になっているわけではない。量を調節して飲みましょう、というのが常識だ。だから、レッドミートや加工肉についても落ち着いて考えたい。
欧米ではさっそく、賛同、反発、いろいろな動きが出ている。一方、日本では、既に国立がん研究センターの質の高い研究が、日本人についての指針を示してくれている。それぞれにリンクしながら簡単にご説明しよう。
IARCの発表によれば、レッドミートの消費は主に、大腸がんと関係があり、膵臓がんと前立腺がんでも関係がみられる。加工肉は、大腸がんの原因となる。10か国の22人からなるワーキンググループが、800以上の科学文献を評価して、どのグループにするか決めた。
専門家たちは、毎日50gの加工肉を食べると、大腸がんのリスクが18%上昇するとしている。発表は、「個人にとってこのリスクは小さいが、加工肉摂取の量によっては、リスクは増大する」とする。ただし、「レッドミートは栄養的な価値を持っている」とも記述する。最終的には、「レッドミートや加工肉を食べるリスクとベネフィットのバランスを保ち、最適な栄養指針を出すべく、各国政府等がリスク評価を行うのが重要だ」としている。
レッドミートや加工肉に含まれるなにが、リスクの原因となるのか、IARCのプレスリリースはなにも言及していない。今後、IARCモノグラフVol.14で詳しい評価が公表される予定だ。
これに対して、英国の市民団体Science Media Centreは、何人かの科学者のコメントを紹介している(10月23日付、10月26日付)。
The Open UniversityのKevin McConway教授が強調するのは、IARCが根拠の強さについて分類したもので、リスクの大きさについてではなく、たばこと同列だと受け止めるべきではないということ。「英国で生涯たばこを吸わない100人のうち1人が肺がんになるだろう。一方、1日に1パックのたばこを吸っていれば、100人中20人以上が肺がんになるだろう。現在、英国では100人中6人が腸のがんになっている。もし、さらに加工肉50gを毎日食べ始めたら、その数字が100人中7人になるだろう、ということ」と、具体的に説明している。
The Institute of Food Researchの前リサーチリーダーのElizabeth Lund博士は、「これは驚くべき成果というよりも、総体的な見方が必要、というものでしょう」と言っている。「食肉の消費量が増えるにつれて、大腸がんのリスクが増加するという関係があり、IARCのリポートが、どのくらいの量を安全とするのかが、興味深い。肉は鉄と亜鉛の良き摂取源であり、多くの女性はこれらの微量栄養素が不足している。10代の女性の半数は鉄不足であり、肉に含まれる鉄は、野菜やサプリメントに含まれる鉄よりbioavailableである(生体内で利用度が高い)……」というふうに、リスクとベネフィットの両方を検討する必要があることを説いている。最終的な博士の結論は、1日1回の肉をたっぷりのフルーツや野菜と共に食べ、食物繊維の多い穀物を摂り運動と体重コントロールをすれば、大腸がんのリスクは低くなり、よりバランスの良い食事となるでしょう、というものだ。
加工肉のリスクが伝えられたことで、添加物に言及した人もいる。King’s College LondonのTom Sanders教授は、添加される亜硝酸塩等が体内でニトロソアミンとなるかもしれず、ニトロソアミンが発がん性ありとして知られていることに触れたうえで、「だが、硝酸や亜硝酸はこれらの加工品においてボツリヌス菌が増殖するのを防ぐ効果を持つ」とする。
ほかにも、加工時に添加される材料のせいだろうと言っている識者もいるし、インターネットでは「がんリスク上昇は、添加物のせいだ」という主張がある。だが、IARCは、加工肉だけでなくレッドミートも検討しているので、添加物だけに帰結する話ではないだろう。加熱調理による肉や脂肪の変成もあるし、加工肉の場合には燻製する場合が多く、その影響もあるはずだ。燻製は木を燻すので発がん物質も発生する。
いずれにせよ、IARCは作用メカニズムにはまったく言及していないので、今のところはこれ以上考察するのは難しい。
どの識者も、「レッドミートや加工肉は食べるな」とは言っておらず、量をほどほどにしよう、と言っている。
今回の発表についてReutersは、「動物福祉の活動家は活気づいているし、農業関係者はものすごく怒っている」と伝えている。
米国の全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)はさっそくウェブサイトに、声明を出した。「科学は、IARCの意見を支持しない」と強気だ。
IARCのワーキンググループの全員一致の結論ではなかったことを示し、「複雑な食生活の中で単独の食品だけを取り出して検討するのは現実的でない。それに、ライフスタイルや環境など交絡因子も多い。これらについては、ほとんどの科学者が同意している」などと記述し、否定的な研究論文をずらずら挙げて論じている。
実は、日本では既に国立がん研究センターが、前向きコホート研究「JPHCスタディ」で、レッドミートや加工肉と大腸がんリスクについて検討し学術論文としてまとめ、詳しい一般向け解説も出している。
1995年と98年に計8万人の食生活などを調査し、2006年まで追跡して摂取量と大腸がんの発生率との関連を調べている。肉類全体の摂取量が多いグループ(1日に約100g以上)で、男性の結腸がんリスクが高く、レッドミートの摂取量が多いグループ(1日に約80g以上)の女性で結腸がんのリスクが上がった。
男性では、レッドミート摂取量とリスクの関係は見いだせず、加工肉については、日本人の一般的なレベルなら男女とも、大腸がんリスクとならない、という結論だ。
「現時点でわかっていること」による大腸がん予防のためのアドバイスは、「飲酒、肥満は大腸がんリスクを増大させ、運動はリスクを低下させることが確実と評価されています。これらの生活習慣に気を配ることが、肉の過剰摂取を避けることと合わせて、大腸がんの予防には大切です」である。
結局、海外の科学者の見解と一致している。量が重要なのだ。IARCの発表と合わせて、ぜひJPHCスタディにも注目してほしい。