(2015年10月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
世界のほとんどの人から見れば、繁栄する韓国と、抑圧されているうえに貧しい北朝鮮との70年に及ぶ思想の戦いは大差で勝負がついている。だが、韓国与党の保守的な政治家たちにとっては、戦いはまだ終結にはほど遠い。
韓国教育省は今月、中学・高校の歴史教科書を民間の出版社が作成する現在の仕組み――現在は政府の検定に合格した教科書8冊の中から各学校が選択できる――を廃止し、これに代わる国定の教科書を1冊作成すると宣言し、政治的な大論争に火をつけた。
これにより韓国は、独裁体制下にあった1974年に導入され、5年前に廃止されたばかりの制度に戻ることになる。国定の歴史教科書のみを使う制度は現在、先進国ではほとんど見られない。
左派のイデオロギーを恐れ続ける政府
朴槿恵(パク・クネ)大統領は、既存の歴史教科書は左派に偏向していると主張している。この指摘は、北朝鮮に同情的な記述があるとか過去の独裁政権に対する批判が行き過ぎているといった、与党セヌリ党の政治家たちが数カ月前から口にしてきた不満を反映したものだ。
例えばセヌリ党の金武星(キム・ムソン)代表は「人民革命を生徒に教える意図があるように思われる」と述べている。
韓国政府が左派のイデオロギーを恐れ続けていることは、制度による強力な防御策を維持していることからもうかがえる。北朝鮮の賛美を含め、定義が曖昧な「反国家」活動を禁止している1948年国家保安法はその典型だ。
ここ数年は同法に基づいて有罪判決を受ける人が増えており、その中には北朝鮮発のツイッターの投稿をリツイートしたことが罪だとされた人もいる。
昨年12月には憲法裁判所が、野党第2党の強制解散を求めた政府の審判請求を承認している。戦争になった時に北朝鮮を支援する方法を同党のメンバー数人が議論している様子が録音された後のことだ。これは北朝鮮支持の過激派がしぶとく残っていることを浮き彫りにした出来事であり、保守派はこれを、警戒を続ける必要があることのしるしだと受け止めている。