みなさんは、岡村靖幸というアーティストをご存知だろうか。
恐らく、10代や20代の人はほとんど知らないだろう。3,40代でも「なんか聞いたことあるような」程度の人が多いと思う。ちょっと知ってる人でも、「覚せい剤で何度も捕まってる人」という認識が大半だろう。
2010年の出所以来、「もう薬には手を出さないでね」「いつまで岡村ちゃんの曲聴けるかな」なんてファンに心配されたり、2chに「岡村靖幸ってそろそろ覚せい剤で逮捕される時期じゃない?」なんてスレが立てられちゃう岡村靖幸なんだけど、最近は園子温監督の新作映画「みんな!エスパーだよ!」の主題歌「ラブメッセージ」を歌ったり、まあまあ精力的に活動している。
まあそんなことは今日の話にはあまり関係ない。そんなことはどうでもいい。
岡村靖幸を知らない人からしたら、もう何言ってんのかわけわからねえよ、っていう内容になっちゃうんだけど、岡村靖幸の最高傑作に「家庭教師」というアルバムがある。
好きなアーティストの曲でも、「うわ~ これ微妙だな~ つまんね~ 糞曲やめろよ~」と思ってしまいがちな僕が、「捨て曲ゼロ、最高の作品」と評する唯一のアルバムだ。知らない人は、一度でいいから聴いてほしい。
が、このアルバム、かなり癖が強い。
氣志團の綾小路翔も、「このアルバムが無理な人は岡村靖幸は絶対無理。逆にこれが平気な人はハマっちゃう。」的なことを言っていた。そんな、よくも悪くも人を選ぶ作品だ。
僕も最初に聴いた時は、「え? は? えっ…? え、なにこれ… きっしょ…」と戸惑った。もう数百回とリピートしてきた今でさえ、「ここはちょっときついな~」と思う部分がある。今回、僕を苦しめたのは、「そこ」だ。
事件は昨晩のことだ。
僕がいつものように岡村靖幸を垂れ流しながらアメーバピグで未成年に煽られていると、母の声が聞こえてきた。「ごはんよ~」
おっ、もう晩ごはんの時間か。今日はなんだろうな~ と思いながらリビングに向かうと、そこにあったのはカレーライス。この記事でも書いた通り、カレーが大好きな僕のテンションは一瞬で最高潮に達した。
スプーンを片手に飛び跳ねていると、父がなんだか苦しそうな表情をしながら食卓についた。母もエプロンで濡れた手を拭きながらそそくさと自分の椅子につく。
一体どうした。なんだこの空気は。まさか離婚か? 熟年離婚って奴か? と不安に震えながら、「やっぱりカレーはおいしいね~!」「おかわりしちゃお!」などと必死に無邪気に振る舞っていると、父が咳き込んだ。「今から発言しますよ~!」という合図だ。
「そういえば… 最近はLGBTっていうのか。そういうのが流行ってるらしいな。」
…は?
急に何を言い出すんだこのおっさんは。離婚じゃねえのかよ。僕は戸惑った。
が、それも一瞬のことだ。僕は決して頭の悪い方ではない。瞬時に、これは話のきっかけに過ぎないということに気付いた。自然に言葉を返す。
「ああ、セクシャルマイノリティーって奴か。」
はてなで勉強した僕に隙はない。父の意図も読めた。僕の父は、同性愛に目覚めてしまったのだろう。そうに違いない。息子としては正直ショックだけど、父の自由を尊重しなければならない。賢い僕は自分のなすべきことを把握した。父が口を開く。
「あのな… おまえ、そういう奴なのか?」
「ああ、そんなの自由だよ。好きにすればいいじゃん。別に男が好きだからって……… え?」
僕は耳を疑った。何を言っているんだこのおっさんは。カミングアウトじゃなかったのか?
もしかして僕は同性愛者だと思われているのか?
「えっ、僕がゲイだと?」
「ん… 違うのか?」
「えっ、なんで?」
「…おまえの部屋から、その、妙な男の声が聞こえたんだけど」
あっ…
おい…
岡村… おまえのせいじゃねえか…
話はこういうことだ。
岡村靖幸のアルバム「家庭教師」の中に、表題作の「家庭教師」という曲がある。
この曲、歌詞自体がちょっとアレだったりするんだけど、一番アレなのは間奏部分だ。
僕は清楚で純粋なティーンエイジャー(♀)をターゲットとしてブログを書いているので、いやらしいワードを抜き出すような下劣なことはしないけど、とにかくこの曲、間奏部分にキモイセリフが満載な上、岡村靖幸が喘ぎまくっているのだ。
「岡村靖幸マジかっけえ~ 最高だわ~」と崇拝している僕ですら、「えっ… キモすぎでしょ… 頭大丈夫?」とドン引きしてしまうほどキモイんだけど、曲を流している時もいちいち間奏を飛ばしたりはしない。たかだか数十秒だし、めんどくさいしね。
今回、それがあだとなったようだ。
父は、僕の部屋から漏れてくる「岡村靖幸の喘ぎ声」をいやらしい動画か何かだと勘違いしてしまったらしい。
父なりに悩んだことだろう。「自分の息子が同性愛者だった」未だにセクシャルマイノリティへの偏見が根強い社会において、これを受け入れることは容易ではなかったはずだ。親として、どんなに理解できなくとも息子の意思を尊重するべきなのだろうか。果たして、どうするべきなのか。僕には想像もできないほどの葛藤があったに違いない。
ここ何ヶ月も岡村靖幸をリピートしまくっていたので、父が最初に気付いたのはもう随分前のことだろう。父はそれからずっと悩み続けていたのだ。そう考えると、誤解させてしまったことがとてつもなく申し訳なくなってくる。きちんと弁解しなければ。
「あのさ、一回ちゃんと聴いてくれよ。本当にいいんだよ。」
「いや、俺は男に興味ないから。」
父はあからさまにうろたえると、足早に自分の部屋へと消えていった。
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