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MUSIC

八代亜紀が語る、ホステスや罪人の哀しみも支えてきた歌手人生

インタビュー・テキスト:武田砂鉄 撮影:中村ナリコ(2015/10/27)

“舟唄”“雨の慕情”“愛の終着駅”……ヒット曲を数多く持つ演歌界の大御所が、この数年、新たな音楽ジャンルへの挑戦を続けている。2012年にリリースしたジャズアルバム『夜のアルバム』は世界75か国で配信され、ニューヨークのジャズクラブ「Birdland」でのライブも実現させた。マーティ・フリードマン作曲“MU-JO”ではロックにも挑んだ。今回リリースされる『哀歌-aiuta-』はブルースアルバム。寺岡呼人プロデュースの本作は、ブルースの名曲カバーに加え、THE BAWDIES、横山剣、中村中からの楽曲提供を受け、歌手・八代亜紀の心をブルースに注いだ。

人に寄り添い、共に悩み、その声を届ける。八代は、「私は表現者ではなく代弁者」と語る。八代亜紀の音楽には、哀しみの中にある人への眼差しが通底する。だからこそジャンルを越境しようとも、決してジャンルに飲み込まれない温かみを帯びる。終始微笑みながら丁寧に答える姿は、包み込むような優しさに満ちていた。

PROFILE

八代亜紀(やしろ あき)
熊本県八代市出身。1971年デビュー。1973年に出世作“なみだ恋”を発売。その後、“愛の終着駅”“もう一度逢いたい”“舟唄”等、数々のヒットを飛ばし、1980年には“雨の慕情”で日本レコード大賞・大賞を受賞する。また、画家としてフランスの由緒ある『ル・サロン展』に5年連続入選を果たし、永久会員となる。近年では、メタルフェス出演、『京都音楽博覧会』への出演、学園祭にて学生ビッグバンドとのコラボレーションなども果たす。2015年10月28日、寺岡呼人プロデュースのブルースアルバム『哀歌-aiuta-』をリリース。
八代亜紀オフィシャルホームページ
日本コロムビア | 八代亜紀

勘違いがあったからこそ、今があるの。私、勘違いだらけなのね(笑)。

―調べていて驚きましたが、八代さんが15歳のときに初めて人前で歌声を披露した地元・熊本県八代市にある「キャバレー ニュー白馬」は現存しているのですね。

八代:そうなの。これだけの規模のキャバレーが地方に残っているのはとても珍しいものですから、文化財として残そうという運動をしたいくらいです。ここが八代亜紀の原点ですからね。


「キャバレー ニュー白馬」で撮影した最新PV

―当時、18歳だと偽ってキャバレーのオーディションを受けて、お父様に内緒で働き始められたそうですね。

八代:私としては、父が苦労して立ち上げた会社を助けるつもりでした。歌手になるためのステップとして、最初は地元のバス会社でバスガイドを始めたんですが、あまり合わなくて。早く稼がなきゃという気持ちもあり、キャバレーで歌い始めたんです。でもね、父の友人が飲みに来て、3日目でバレちゃいました(笑)。

―その一件で父親から勘当され、上京を決意された。

八代:父を助けたかったことを、分かってくれなかったのね。不良になったって勘違いしたの。でもね、その勘違いがあったからこそ、今があるの。今ではその勘違いに感謝しているんです。

―上京した東京・新宿では美人喫茶で歌い始め、その次は銀座のクラブで歌われていました。でも、自分が想像されていたアメリカの「クラブ」と、日本の「クラブ」は、どうにも違っていた。

八代:ここでも勘違い。私、勘違いだらけなのね(笑)。12歳のとき、父がジュリー・ロンドン(1926年生まれ、アメリカの女優兼ジャズシンガー)のアルバムを買ってきて、そこに「クラブで歌う一流のシンガー」と書いてあったんです。そうか、クラブで歌うシンガーが一流なんだ、クラブシンガーになっていっぱい稼ぐぞ、と思ったのね。勘違いで働き始めたクラブではあったんだけど、そこで初めて自分のハスキーな声が好きになったんです。歌い始めると、ホステスさんからお客さんまで全員立ち上がって、フロアでダンスが始まったの。「あっ、自分の声はいい声だ」って初めて思えたのね。

八代亜紀
八代亜紀

―それまでは根深いコンプレックスだったんですね。

八代:だって学校の音楽の時間に、先生が「そんな声出しちゃいけないよ」なんて言うんですもの。美人喫茶で歌っているときに、レコード会社から声がかかったんですが、「200万円用意しなさい」なんて言われたのね。私、お金を出してまでレコード会社に媚びるつもり気はなかったから、「結構です!」ってけんもほろろに断ったら、「生意気な歌手だ」なんて言われましてね。

―当時は、そうやって歌手志望の若者にお金を払わせてレコードをリリースするビジネスがあったそうですね。

八代:流行ってたのよ、田畑売ってレコードを出すようなビジネスが。バスガイドのお給料が7,000円の時代ですから、200万円用意しろ、なんてとんでもない話です。ましてやお父さんに「お金出して」なんて言えるはずもない。その後、銀座の高級クラブの専属歌手として歌うようになったんですが、ここでは給料がとてもよくて、引き続きレコードを出しませんかとスカウトが来ても「結構です!」なんて断ってたの。

―「私、ある程度お金あるから」って(笑)。

八代:生意気よね。でもね、それくらい自分を持っていた、ということでもあるのね。もちろん生意気な口を利くわけではなくて、笑顔で「ごめんなさ~い」って返すの。ほら、若い女の子の特技って笑顔でしょう。みんな、覚えたほうがいいわ(笑)。


地方のキャバレーで、おじさんが「これで拭きな」っておしぼりをくれたの。私、そこで優しさを教わったんです。

―オファーを断り続けていた八代さんが、1971年、いよいよデビューされるわけですね。

八代:私としては、デビューする気持ちはなかったんです。クラブにいるホステスのお姉さんたちが「アキちゃん、あなたの歌を毎日聴けてものすごく嬉しい」って言ってくれるだけで良かったの。その頃働いている女性には、とっても悲しい事情を持った女性が多くてね。「ブランド物を買いたいからホステスをやっている」なんて子は1人もいなかった。表ではとてもキレイなんだけど、裏にまわれば、給料を取り立てに来るお父さんや彼氏がいてね。そんな女性たちに「アキちゃん、私たちみたいな女性があちこちにいるの。だからさ、レコードを出して、そういう人たちにもあなたの歌を届けて」って言われたんです。

―その言葉に後押しされてデビューを決断された。

八代:いいえ(笑)。まだまだ生意気な10代でしたから、「しょうがないな」なんて思いながら、出勤前にレコード会社に寄ったのね。そこにはレコード会社の重役さんが勢揃いしていて、「ちょっと歌ってみてほしい」と言われ、その場で歌ったの。そうしたら、即座に専属契約してほしいと言われたんです。

―デビューされたものの、当初はまったく売れませんでした。これまで銀座のお店で一目置かれていた自分からすれば、順調に歩むはずの階段を最初から転げてしまう形になったわけですね。

八代:当然、たくさん売れると思ってましたよね(笑)。やっぱり熊本の人間ですから「肥後もっこす」(頑固一徹な性格を指す熊本の方言)で、これまで応援してくれた人に「よくやった!」って言わせなきゃ、って責任感が湧いたのね。だから、トランクの中にレコードをたくさん詰めて、地方のキャバレー周りを毎日のように繰り返しました。夜行列車に乗って、知らない街で降りて、地図を頼りにキャバレーを探し出し、歌を唄ってレコードを売る。そうしたら、見事に完売するの。でも、重いトランクを引くものだから、手が豆だらけになってしまってね。

―当時、握手するのがとても嫌だったそうですね。

八代:そりゃあ、そうよ。女の子だから、豆だらけの手なんて差し出したくない。あるとき地方のキャバレーで、「握手してくれ」って手を差し出してくるおじさんがいたのね。私、握手したくなかったの。でもね、グッと握って、席に戻って行ったおじさんが「これで拭きな」っておしぼりをくれたの。私、そこで優しさを教わったんです。


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