ロンドンの「アベンジャーズ」:転落バンカーがそれぞれの正義を追求
2015/10/27 07:03 JST
(ブルームバーグ):裁判官はかつらとローブを着用せず、儀式ばった重々しさはない。そんなロンドンの雇用審判所は金融街シティーを追われたバンカーらに、正義というには不十分かもしれないが名誉や若干の金銭を取り戻す機会を与えている。
ロンドン東部ドッグ島のくすんだ政府庁舎およびその西6マイル(約9.66キロ)のところにあるビルの中に、雇用審判所はある。ここで元花形トレーダーらが、かつて巨額の報酬を自分たちに支払っていた巨大銀行と闘っている。
ポール・カーリアー氏はロイズ・バンキング・グループを相手取り、ミルコ・オステンドフ氏はバークレイズを相手に訴訟を起こした。ペリー・スティンプソン氏はシティグループと係争中だ。
3人とも訴訟目的は名誉を回復し、自分の怒りを少しでも相手にぶつけることだ。英国の司法制度の中ではコストの低い雇用審判所を選び、弁護士は雇っていない。何カ月も、あるいは何年もかけて証拠を集め法律を調べ上げた原告たちは、元上司を尋問し事実を明確にする機会を心待ちにしている。
訴訟は時を経た復讐(ふくしゅう)のようにも見えるかもしれない。ある者は平均並み以下のパフォーマンスを理由に解雇され、ある者は市場操作スキャンダルに絡んで解雇された。審判所は正確な統計を取ってはいないが、解雇されたバンカーが元雇用主を提訴する件数は増えつつある。
雇用審判所で勝訴しても、原告が得られるのは平均で5000ポンド(約92万9000円)程度。シティーの金銭感覚からすると、わずかな額でしかない。しかしこれは単に金銭の問題ではない。バンカーらはこれらの裁判を息を詰めて見守っている。不運が自分の身に起こってもおかしくはなかったからだ。経歴に傷が付けば金融界で働けなくなる恐れがあることを、誰もが知っている。銀行側は解雇には正当な根拠があったと主張する。
このため、元外為トレーダーのカーリアー氏はロイズの提訴に踏み切った。ロイズに解雇されたのは不正な取引について警鐘を鳴らしたためだとカーリアー氏は訴える。9月16日、開襟シャツ姿の同氏は書類の詰まった重そうなスポーツバッグを提げて審判所にやってきた。迎え撃つロイズのチームは6人の弁護士とスーツ姿の幹部たちだ。
カーリアー氏は審判所に提出した陳述書で「(解雇が)公平ではない」と主張。判事によると、陳述書は感嘆符や大文字、怒りの言葉がちりばめられ、「極めて読みにくい」ものだった。
同氏はロイズで給料と賞与合わせ22万5000ポンドを得ていた。原告たちが審判所で勝訴すれば高等法院に訴えを起こし、未払いのボーナスを請求することができる。
原題:The Avengers: Fallen London Bankers Seek Own Form of Justice(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ロンドン Patrick Gower pgower@bloomberg.net
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更新日時: 2015/10/27 07:03 JST