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ダイジェスト版コラボ編1‐1
日に日に太陽の昇っている時間も長くなり始めたカルツィオの空。五族協和制の成功に平和と発展を謳歌するサンクアディエットでは、ヴォレットの女王戴冠に向けて着々と準備が進められている。
といっても、エスヴォブス王が健在である内はこれまでとそう変わりなく、少しばかりヴォレット姫のお稽古事が増えた程度であった。
「姫様は何処へ行かれたのだ……」
「ヴォレット様なら、闇神隊の皆様と宮殿の地下を探索すると言って出掛けられましたよ?」
朝から姿の見えないヴォレットを探して宮殿上層階を歩き回っていたクレイヴォルの呟きに、偶々通り掛った使用人が答える。なぜまた宮殿の地下などにと後を追う専属警護兼教育係な炎神隊長クレイヴォル。
この頃は以前のような近付き難い雰囲気も薄れてきた仕事熱心な炎神隊長殿を見送り、使用人も自分の仕事に戻った。
街を拡張する度に上へ上へと増築が重ねられたヴォルアンス宮殿。その地下部分は時代ごとに内装様式も違っており、時の支配者の趣味や当時の流行など、街の歴史的資料として非常に興味深いとはソルザックの言である。
地下六階層付近の水没していないエリアを探索する悠介達闇神隊を引き連れたヴォレットは、自前のリーンランプで足元を照らしながら、ボロボロに解れて目の粗い網のようになった元は立派な絨毯だったのであろう繊維をつま先でつつく。
「ユースケ、この階に隠し部屋とかはないのか?」
「んー、ちょっと待ってくれ」
おもむろにカスタマイズメニューを開いて周辺の構造を調べる悠介。既に皆が見慣れた悠介の空中に何かを描くような動作と共に、得体のしれない神技の波動が広がる。
この判別不能な神技の波動も、今やそれ自体が闇神隊長を示す波動であると多くの人々に認知されていた。
「お、近くにそれらしい部屋があるぞ」
「おおうっ あるのか!」
「おおっ ありましたか!」
わくわく顔で声を揃えるヴォレットとソルザック。二つほど上の階で見つけた隠し部屋や隠し通路には当時の甲冑らしき残骸や、現在カルツィオで流通している晶貨が作られる以前に使われていたらしき古い貨幣などが見つかり、歴史的資料として確保している。
「入り口は――あー駄目だな、完全に塞いである」
「という事は、シアの出番じゃな」
「はーい、任せて。イフョカちゃん、補佐宜しくね」
「は、はい、頑張ります」
暗い所が苦手なエイシャの代わりに治癒系探索メンバーとして付いて来たラーザッシアが、試験管のような器具を手に隠し部屋のある壁の前に立った。
完全に塞がれた形の隠し部屋には有害な空気が充満していたりという事もあるので、壁に小さな穴を開けて部屋の空気のサンプルを採取し、病気や毒性などの危険が無いか調べるのだ。
悠介がカスタマイズ能力で壁に小さな穴を開け、イフョカが繊細な伝達系風技を使って部屋の天井付近と床付近、中央付近の空気を集めると、ラーザッシアの持ち込んだ鑑定用の器具の中に納める。
器具の中に見える毒物鑑定液に色の変化は見られず、異常無しの判定が下された。
「うん、大丈夫みたい」
「そっか、じゃあ入り口作るぞー」
何時もの見慣れたエフェクトが発生し、壁に入り口が現れる。長い年月そこに留まり続けていたカビっぽい空気が流れ出し、通路の空気と交じり合って微かに風を巻き起こす。
部屋と廊下の繋ぎ目などから、ここは元々部屋ではなく廊下の一部であったらしい事を付き止めるソルザック。明かりで中を照らし出すと、ガランとした石造りの空間が広がっていた。
「奥の壁に何か見えますよ?」
地下街の探索経験が豊富なソルザックが、早速何かを見つけて壁に駆け寄って行く。なんじゃなんじゃと後を追うヴォレットに、ノンビリ続く悠介達。壁には大きな彫刻画らしきモノが広がっていた。
「ほう、これは壁に掘り込んであるのか?」
「ちょっと待ってください――うーむ、石の質が違う……しかも随分と古い」
ソルザックの土技鑑定によれば、この彫刻画はここの壁石に掘り込まれたモノではなく、余所から持って来たかなり古い彫刻画を壁に埋め込んであるモノらしい。
「描かれているのは"天地創造"でしょうかね、二つの太陽に砕けた大地――いや、大地が形成されている所でしょうか」
空に浮かぶ島のような複数の大地に神や精霊を象徴する人型の姿が、互いの手を取り混じりあっているような構図。
「この彫刻画が制作者の想像を元にした創作なのか、或いは当時の伝承などを参考にしたモノなのか、興味は尽きませんねぇ」
古代カルツィオの歴史を紐解く素晴らしい発見だとソルザックは称える。ゼシャールド先生辺りに見せれば興味を持つかもしれないという悠介に、ヴォレットも同意した。そこへ――
「やっと見つけましたよ姫様っ」
「げっ クレイヴォル」
神技の波動を追ってここまで下りて来たらしい専属警護兼教育係は、何時もの決め台詞を放ってヴォレットを捕まえる。
「お稽古事の時間です!」
「やじゃーーっ まだまだコレからがいい所なのにー!」
「じゃあ今日はここまでだな、目印付けて上に戻るか」
地下探索が楽しくて仕方がないらしくゴネるヴォレットを余所に、手早く帰り支度を整えた悠介は床に丸を描いて"シフトムーブ"の態勢に入った。
指定した床の一部を別の場所の床と入れ替える事で、その床上に乗っているモノ諸共一瞬で移動させる仕様上の反則技。
「もどるぞー、みんな丸の中に入ってくれー」
わいわいと皆で丸の中に納まり、地上階への帰還を待つ。足元から発生する光のエフェクトに包まれ、地下階の床と地上階の床が入れ替わった。
宮殿上層階の一室に帰還した地下探索隊はこれにて解散、今日の活動は終了した。
「さーて、わらわはこれから楽しい楽しい稽古事じゃ。ユースケよ、今度はスンも誘って最下層を目指すぞっ」
「ああ、弁当でも用意して行こうな」
若干、自棄気味なヴォレットを苦笑まじりで見送った悠介は、ラーザッシアを連れてスンの待つ"悠介邸"へと帰宅する。
イフョカはお疲れ様でした~と神民衛士隊の控え室に下りて行き、ソルザックは宮殿図書館の利用許可申請を出しに別館の受付へ。ヴォーマルも付き合うようだ。
「さて、帰るとするか」
フォンクランクを始め、ブルガーデン、ガゼッタ、トレントリエッタの四大国は五族共和制の理念の元に協力し合い、大きな問題も起こらず、豊かで平和な時間を過ごしていた。
しかしこの時、異変は既に始まっていた。
**
――カルツィオを見守る存在を一つの"神"と定義するならば、別の大地を見守る"神"は別個でありながら同質の存在。大地が融合すれば、それを見守る"神"もまた融合する。大地の上での出来事は基本、そこに住む者達の選択に任される。
滅ぼし合うも良し、共存するも良し。"神"は人々の選択に感知しない。ただ見守り、与え、育むのみであった。
サンクアディエットの北側に広がる海岸。何時ぞやの休暇でも訪れた事のある砂浜に集まる闇神隊一行と、同行してきた炎神隊員のヒヴォディル率いる衛士隊。珍しく隠れていないレイフョルド。
さらに、彼等と並び立つガゼッタの白刃騎兵団が五十騎にシンハ王と里巫女アユウカスの姿も見える。
「ブルガーデンとトレントリエッタは代表を見送るそうだ」
「まあ、無難じゃろうな。ここはガゼッタとフォンクランクを前面に立てつつ、後方で動いて貰った方が良い」
「だから、王様が前線に出てくんなと」
「ふっ」
地平線の先まで広がる海を正面に見ながら何時もの軽い口調でガゼッタの代表者に声を掛けた闇神隊長は、シンハのニヒル笑いを聞きながら海の上に浮かぶ巨大な影、正確には空から迫る巨大な大陸を見上げた。
「しかしでかいな」
「おそらくカルツィオと同規模の大地じゃろう」
――先日、ガゼッタ王室から各国に向けて緊急の書簡が届けられ、里巫女よりのお告げでカルツィオに嘗てない規模の大異変が起きる事が伝えられた。
それから間も無く、フォンクランクの北の空に巨大な島の影が見え始め、夜にも薄っすらとした太陽らしき光が空に浮かぶなどの異変が起き始める。
お告げの書簡を受け取った各国の王達は一体カルツィオに何が起きているのか、詳しい情報を求めてガゼッタに使者を送った。
そうして教えられた古代カルツィオの歴史、大地の成り立ちに関する真実、カルツィオは太古の昔から大地の融合を繰り返して今の姿になったという話は中々に大きな反響を呼んだ。
懐疑的な反応を示す者もいたが、それは内容を疑っているのではなく、なぜ今そんな話を暴露したのかという情報開示の目的について、何か深い裏があるのではないかという疑いであった。
しかしそれらの疑念は直ぐに払拭された。フォンクランクの北の空に迫る巨大な大陸という目の逸らしようのない現実に、里巫女アユウカスから告げられた一言。
"カルツィオの大地に住む全ての人々が団結せねば、カルツィオの人間は全てあの大地の者達に隷属させられるであろう"
新たに大地が広がるという一大イベントは、同規模の大地から侵攻を受けるという壮大なオマケ付きだった。必ずしも相手側からの侵略が行われるとは限らないのではないかという意見も当然あったものの、それに対しては――
「ワシは里巫女じゃ、この世界の"神"たる意思に触れ、それを通じて諸現象を視通しておる」
向こうの大地の統治者はやる気満々で、しかも意図的に自分達の大地をカルツィオの大地へ寄せてきているのだと答えた。
巨大な大地を操る程の力を持つような者達を相手に、果たしてまともに戦えるのか、取り返しの付かない被害が出る前に和平を申し入れるべきではないか、という消極的な降伏論者の声も多少は聞かれたが、大多数は戦う事を支持した。
そうして先ずは向こうの人間と最初に接触する事になるであろう北部の海岸に各国から代表で使者を送り、何らかの動きに備えて相手側の出方を見ようと待機している。
どんな相手がどんな方法で何を仕掛けてくるのか分からないので、あらゆる事態に対応できる者が代表の使者として選ばれたのだ。そんな訳で、フォンクランクからは闇神隊が出るのが必然的であった。
そして、何かあればまず国王が自ら出向く傾向のあるガゼッタからは、やはりシンハ王が顔を見せ、里巫女アユウカスも付いて来た。
「あれって街だよな、サンクアディエットよりでかいんじゃないか?」
「ワシが視た感じ、向こうは単一国家としてやっておるようじゃな」
上空から見下ろすような形で相手側の巨大な街、蜘蛛の巣を思わせる姿を目の当たりにした他の闇神隊メンバーや、ヒヴォディル達衛士隊は、ただただそれを見上げながら圧倒されていた。
**
カルツィオの大地に対してほぼ垂直の角度で接触したポルヴァーティアの大地。互いの海が繋がり、接触部分では激しくせめぎあう波が渦巻いている。
見た目こそ接触部分から急角度になっているが、どういう仕組みなのか片方の水がどちらかに流れ込むという事もなく、双方の大地は互いに平行を保っていた。
「すごい……」
「ありえない光景だな」
「あれって、ずっとこのままって事はないよな?」
「恐らく数日掛けて向こうの大地と平行になるのじゃろう。あれを見よ」
ひたすら圧倒されている闇神隊メンバーと素朴な疑問を口にする悠介に、アユウカスは徐々に角度が合わさるのだろうと推論を述べると、向こうの大地に見える海沿いの港を指し示した。整備された海岸には軍艦らしき船が多数接岸している様子が窺える。
軍港と思しき岸壁に並ぶ船にはマストや帆らしきモノが見えない。大砲など積まれていないだろうかと観察していたその時――
「ユウスケさんっ 何か飛んできます!」
目の良いスンが空を指差して警告を発した。隣で眼を細めたシンハも気付き、慌てて索敵の風を放ったイフョカがそれを捕捉する。ヒヴォディルの率いる衛士隊からも索敵の風が放たれたが、その時には既に目視で確認できる距離にまで迫っていた。
それは車輪のない動力車にも似た箱型の物体。悠介の知る乗り物で言うならば、揚陸艇のような形をした飛行機械だった。翼もプロペラも付いていない、ジェットエンジンのような炎も見えない空飛ぶ船が四機、こちらに向かって飛んでくる。
「こりゃヤバイか?」
飛来する揚陸艇モドキを見て、悠介は危惧していた事が当たったかもしれないと身構えた。
フォンクランクとガゼッタの代表者連合が集まる砂浜より、少し離れた場所に降下して来た箱型の空飛ぶ船から、何かが投下される。
降りて来たというか落ちて来たのは八体の甲冑兵士。地面が砂だったとはいえ結構な高さから降りたにも関わらず平然と歩き出す甲冑の兵士は、左腕側に盾、右腕に短弓らしき武器が備え付けられており、腰には剣を下げている。
見た目から判断するならば、あの甲冑を纏っているのは相当に大柄な人間かと思われた。
「あれ、中身ちゃんと人間なんだろうな?」
「なにはともあれ、ここは僕の出番だね」
今回、交渉担当の任を授かったヒヴォディルはそう言って前へ踏み出した。カルツィオの代表として、先ずは相手との意思疎通を試みる。アユウカスの話では多少の訛りはあれど言葉も同じ筈との事だ。
「――我々はカルツィオの大地を治める国々より集いし代表である。来訪者よ、我々は対話の席につく事を望んでいる――」
ヒヴォディルの"広伝"による対話の呼び掛けに対し、甲冑の兵士達は顔を見合わせるような動作をしたかと思うと、その内の一人がヒヴォディルを指し示すように腕を向けた。すると、その腕に装着されている短弓らしき部分に白い光が集中し始める。
警戒していた悠介は咄嗟にカスタマイズ操作でヒヴォディルの周囲に防壁を構築。甲冑兵士の短弓から光の塊を引き伸ばしたような"光の矢"が撃ち放たれ、砂を固めて作った防壁が撃ち抜かれた。
間一髪、ヒヴォディルの身体は悠介のシフトムーブによって光の粒を残しながら衛士隊の近くへと移動していたので、掠り傷さえ負わずに済んだ。
「決裂だね」
「早いな」
アユウカスのお告げで分かってはいた事だが、対話を求める相手にいきなり致死性の攻撃を放ってくる辺り、話の通じる相手ではなさそうだ。フォンクランクの衛士隊、及びガゼッタの白刃騎兵団は迎撃態勢に入った。
互いに探り合いのような攻防が続く。甲冑兵士は詳しく探ったところ、機械車のような音が聞こえるという事から、ただの甲冑ではなく機械的な仕掛けが施されたものと推測された。神技による遠距離攻撃はまったく、効果がみられない。
悠介は、それが装備品であれば何でもいいので触れてカスタマイズを施す事で、強制的に装備を解除させられる。乗り物であれば、資材化地帯にオブジェクトとして取り込む事も出来る。
とりあえず敵を資材化地帯まで誘導するべく、シンハ達が接近戦を仕掛けて乱戦を狙った。はその巨体にも関わらず身軽かつかなり丈夫で、シンハの強烈な一撃に揺らぎもしない。
他の白刃騎兵団の戦士達も、七体の甲冑兵士を相手に五十人が総掛かりでやっと互角というところであった。
やがて甲冑兵士は大きく跳躍すると、シンハ達を飛び越えて空中を滑るように進みながら悠介達衛士隊へと向かっていく。
「……っ これは、誘導するまでもなかったか。しかし――行ったぞユースケ!」
呼応するように現れた砂の防壁に、甲冑兵士が放った光の矢が次々と撃ち込まれていく。そして砂の防壁を踏み潰すように着地した。
悠介はその瞬間、シフトムーブを使って全部隊を後方に退避すると同時に、防壁上の甲冑兵士を拘束にかかる。
どんなにパワーがあろうとも、隙間無く詰めた穴に落としてコンクリートのように固めてしまえば、身動き出来なくなる筈。カスタマイズ画面を操作しようとした悠介は――
「ん? これは……」
――画面に表示された情報を確認して急遽方針転換。もう一つのやり方を適応した。防壁の上からこちらを狙おうとしていた甲冑兵士の動きがピタリと止まる。
「よし、捉えた」
カスタマイズ画面の中には、資材化地帯に入った甲冑兵士達の機動甲冑をグループアイテム化して取り込み、完全に掌握した状態が映し出されている。
「つーか、乗り物だったんだなコレ」
外観はそれほどゴツクは無いが、某むせるアニメを思い出すと謎の言葉を残しつつ、掌握した機動甲冑を解析して色々と情報を読み取る悠介。"ポルヴァーティア神聖地軍所属、汎用機動甲冑『人型戦闘突撃機』"そんな敵兵の名称が読み取れた。
「ポルヴァーティアって向こうの国の名前かな? とりあえずこっちは無力化できた」
「後は飛んでおる奴じゃの」
悠介のカスタマイズメニュー画面を横から覗き込んでいたアユウカスが、そう言って空を見上げる。旋回を続けていた箱型の空飛ぶ船が大きく軌道を変える動きを見せた。
「空襲に注意ー!」
空からの掃射という馴染みのない攻撃に戸惑う衛士隊に"空襲警報"を発しながらカスタマイズ画面を弄る悠介は、今し方頭上を通り過ぎていった空飛ぶ船型戦闘機の後に続いて突入してくるもう一機に狙いを定める。
「この辺か……っ 実行!」
低空で侵入して来た戦闘機に対して、悠介はその進行方向に砂塔を建ててぶつけるという迎撃に出た。いきなり正面に生えた塔を回避しようと機体を傾けた戦闘機は、避けきれずに側面から衝突。
ぶつかった瞬間、カスタマイズ画面で機体をグループアイテム化する事により、砂塔の一部として取り込む事に成功した。先程"機動甲冑"を無力化したのと同じ方法である。
「シンハ! 捕獲頼むっ」
一度ひっくり返して搭乗員を振り落とし、シンハ達に捕虜の拘束を頼む。
「汎用戦闘機っていうのか……なんか色々ヤバイものも付いてるな」
ポルヴァーティア軍の汎用戦闘機を砂塔の一部とみなすアイテムとして取り込んだ悠介は、機体を解析して一部に修正を加えながら砂塔に組み込んだ。即席の砲台として利用するのだ。
救出に来た残りの敵戦闘機に対して、鹵獲した汎用戦闘機の機銃『神聖光撃連弓』で反撃を始める。
二機の汎用戦闘機を相手に砂塔の一部と化した鹵獲汎用戦闘機の光撃連弓で応戦する悠介。微妙に威力を強化したり、相手の攻撃を防ぐ防壁を出したり修繕したりと忙しない操作が要求される。そこへ――
「どれ、ワシも手伝うか」
邪神との共鳴能力を持つアユウカスが悠介のカスタマイズ能力を通じて光撃連弓の操作を覚えると、もう片方の銃座について参戦した。ただし、手足が届かないのでシンハを呼んで膝に座りながらの射撃だ。実はこうしてシンハにも使い方を学ばせている。
アユウカスの参戦により、負担の減った悠介はカスタマイズ画面に捉えてある資材化地帯上の機動甲冑をとりあえず一箇所に移動させて纏めると、搭乗員は後で捕獲する事にして少し弄ったのち放置。
開いた空間に衛士隊や白刃騎兵団の戦士達と捕虜を避難させておく為の防空壕を組み上げた。
「これで墜落に巻き込まれる危険も減らせるだろ」
「相変わらず部下想い、兵士想いじゃな。しかし当たらんのう」
派手に光の矢をバラ撒いているアユウカスと悠介だが、一応狙いは付けて入るものの素人の腕では思いのほか当たらない。
相手側も自軍の機体を奪われての反撃に対して一切の油断や侮りを棄てて掛かって来ているので、二機の回避と攻撃の連携は中々に手堅い。
「なるほどね、そういう仕組みなのか。じゃあ僕も手伝おうかな」
ここで自称森の民、レイフョルドがサポートに入った。戦闘開始時から何時ものように一歩というか十歩くらい下がった位置から全体の動きと流れを観察していた彼は、機動甲冑や汎用戦闘機から敵勢の持つ力を見定め、神技での対抗手段を模索していた。
神技だけではどうしようも無いという結論には早々に至ってしまったが、幸いにもカルツィオには平穏を望む変革の使者、邪神悠介が存在する。高度な技術を誇るであろう機械類を武器として駆使する相手にとって、悠介の力は相性最悪のカウンタースキルだ。
相手の機械類を乗っ取り、上手く神技と組み合わせる事で対抗する。レイフョルドは先ず自らそれを実践すべく参戦した。
己が風技でこの空域一帯の空間を正確に認識し、敵戦闘機の動きをリアルタイムで把握して次にどう動くのか、何処を狙って撃てば良いのかを照準版に砂粒を集めて指示。
この補佐により、光撃連弓に標準搭載されている照準を使うよりも、レイフョルドの指示した予測地点を目掛けて撃つとよく当たるようになった。
風技の補佐による命中率の向上で敵戦闘機に次々と着弾し始める強化された光の矢。その内どこか当たり所が悪かったのか、一機がバランスを崩しながらこの空域から離脱して行った。
もう一機もダメージが嵩んだらしく、外装がボロボロになった機体を上昇させる。かなり高い所を旋回している汎用戦闘機。この機体に搭載されている光撃連弓の射程外まで距離をとったつもりのようだったが、悠介は攻撃連弓の性能も弄ってある。
レイフョルドの攻撃指示ポイントに従って光弾を撃ち放つと、既にボロボロだった外装を容赦なく削っていく。
この攻撃がダメ押しとなり、彼等はポルヴァーティアの大陸の空へと引き揚げて行ったのだった。
「やれやれ、引き揚げたか……」
砂塔砲台の銃座から小さくなる標的を見上げる悠介は、そう言って一息吐いた。シフトムーブで砂塔から地上に下りると、闇神隊メンバーが集まって来て労いの声を掛けてくれる。
「しっかし……あんなのが大挙して押し寄せたら、サンクアディエットでも一日で火の海になるぞ」
なんとか追い払えたが、あれが斥候に過ぎないのは分かっている。空を飛ぶ戦闘機などという乗り物はカルツィオに無い。当然、街には対空防衛の機能なども備わってない。
「まあ、今のカルツィオに存在する全ての街に言える事じゃな」
アユウカスがシフトムーブを使って砂塔砲台から下りてきた。もうすっかりカスタマイズ能力を一部だが使いこなしているようだ。シンハはまだ上で銃座に納まって光撃連弓の操作を覚えようとガチャガチャやっている。
とりあえず、戦闘機に装備されていた武器は材料さえ揃えばコピーできるので、これで対抗できるか? と腕組みで考え込む悠介。
「それはそうと、もう一つ得体の知れんモノが来ておるぞ」
「え?」
じっと警戒するような眼差しで空を見上げるアユウカスが指し示した方向には、黒く揺らめく翼を広げた存在が浮いていた。
**
黒い霧が集まって出来た様な翼は先端の方が陽炎のように揺らめき、仄かに紫掛かった光を纏っている。漆黒の翼を広げて地上に降りて来たその存在は、赤いコートを着た少女のように見えた。
カルツィオには約一名を除いてその色を持つ者はいない筈の、黒い髪に黒い瞳をした少女。顔の造詣に見られる傾向などから、人種的に悠介との関連を想像する闇神隊や衛士隊に白刃騎兵団の面々。皆が皆、悠介に視線を向ける。
「隊長、お知り合いですか」
「んな訳ないだろう」
「でも、隊長と同じ黒……」
「いやまあ確かに、見た目は同郷の人っぽいんだけど――」
少なくとも、自分が知る日本人に"黒い翼を広げて空から降りてくる"ような少女は現実には存在しない、筈だ。地上に着地した少女から翼が消えてふわりと黒髪が靡く。
闇神隊のメンバーは悠介の判断を窺っているし、ヒヴォディルもしゃしゃり出る気は無いらしく沈黙しており、彼の部下である衛士隊もそれに倣って迂闊な行動は取らず待機中。レイフョルドは何時も通り傍観を決め込むつもりのようだ。
シンハはまだ砂塔砲台の上にいて、白刃騎兵団とアユウカスは悠介がどう出るのかと見守っている。
「俺がファーストコンタクト取るのかよ……」
皆の視線に押されるように、悠介は代表で前に出ると、件の少女と向き合った。すると、向こうから声を掛けてきた。
「えーと初めまして、あたし都築朔耶といいます」
「あ、これはご丁寧にどうも、自分は田神悠介といいます」
互いに頭を下げ合い、そして驚く。
「どうして日本人がっ!」
「なんで日本人がっ!」
思わず声を揃えて同じ驚きを露にする二人。そうしてふと、悠介の顔をじっと見上げた黒髪の少女、"都築朔耶"と名乗った彼女は、何かに気が付いたような表情を浮かべながら言った。
「あれ? さっきの人」
「はい?」
出し抜けにそんな事を言われて戸惑う悠介は、思わず間の抜けた声で問い返した。しかし、次に紡がれた言葉に困惑する。
「神社でゲームしてた人」
「えっ?」
ほんの一年程前の事になる懐かしい記憶、悠介はカルツィオの"声"に喚ばれる直前の事を思い出す。確かに、自分は神社の境内でゲームをしていた。だが、『さっきの――』とはどういう意味なのか。
『もしかして、向こうはあの瞬間から時間が経ってないとか?』
足早に去っていく自分自身の後ろ姿を見送る所までしか、向こうの事は覚えていない。あの時、周囲には誰も居なかった筈だ。ハテナと小首を傾げる悠介。そんな悠介の反応に、相手も『あれ?』という雰囲気で考え込むような仕草を見せた。
頭を掻き掻き戸惑っている所に『ユウスケさん、ユウスケさん』とひそひそ声でスンが話し掛けてくる。
「ユウスケさんの世界の人って、空飛べるんですか?」
「いや、普通は飛ばない」
「隊長の住んでた世界の人間って事は、間違いないんでやすね?」
「ああ、お互いに日本人って言ってたし……名前も日本人の名前だよ。だけど――」
『俺の知ってる日本人と違うっ』と、ちょっと焦り気味な悠介。それを言うならば、カスタマイズ・クリエート能力のような力を持つ人間自体、普通は存在しないだろう。と、思考にツッコミを入れてくれるような相手もいないので、そこは自分で突っ込んでおく。
内心で一人ボケツッコミをやっていた悠介がはたと顔をあげると、こちらを観察するように見詰めている"都築朔耶"と目が合った。
「くすっ」
「ははは……」
ニコリと微笑を向けられた悠介は、照れながら微笑み返しをしておいた。フョンケが『まさかのコンプリートか』などと驚愕を露にし、スンとイフョカが緊張しているが、割と何時もの事なのでスルーしておく。
"都築朔耶"が何者かは分からない、だが言葉はちゃんと通じるし会話も出来るのだ。問答無用で謎の攻撃を仕掛けられるような事もないのだから、とりあえずゆっくり話をして彼女が何者なのか、どんな目的があって自分達に接触して来たのかを問えばよい。
もしかしたらポルヴァーティア大陸と何か関係があるのかもしれないし、元居た地球世界の事も聞けるかもしれない。
そんな事を思いつつ、悠介は改めて都築朔耶に話し掛けようとした。その時――
「せっかく興味深いお客様との邂逅だけど、最初のお客さんが戻って来たようだよ」
レイフョルドが敵襲の警告を発して地平線を指し示した。垂直に繋がるポルヴァーティア大陸の海を背に、汎用戦闘機よりも細長い姿をした機体が、かなりの速度で低空飛行をしながら真っ直ぐこちらに向かって飛んで来ている。
砂塔砲台からシンハの迎撃と思われる光の矢が放たれるが、細長の戦闘機は僅かに軌道を変えるだけでそれらを回避した。
「迎撃準備! とりあえず都築さん、危ないですから下がっててください」
空を飛んで来たのはともかくとして、懐かしい元居た世界を思い起こさせるデザインの衣服を纏った、見るからに一般人であろう朔耶を気遣いながら迎撃準備を始める悠介。カスタマイズメニューを出して後方に避難所の防空壕を作っておく。
シンハの放つ光弾を躱しながら砂塔に向かって飛んで来た細長戦闘機が、急上昇すると同時に何かを投下した。爆弾の類かと思われたそれは、よく見ると甲冑を着けた人間の少女だった。
「やあああああ!」
使い手の身長ほどもありそうな大型メイスを振りかざしながら砂塔砲台に突っ込んでいく。その大型メイスの一撃が砂塔砲台に振り下ろされると、半ばから砕かれて崩壊する砂塔砲台。
「なかなか非常識な事をする!」
崩れ落ちる砲台から飛び降りたシンハは白金の大剣を一振りすると、特攻攻撃を仕掛けてきた甲冑少女の迎撃に出た。
大型メイスを軽々と一振りして見せた甲冑少女が名乗りを上げる。
「私はポルヴァーティアの勇者アルシア! 神の意に従い、不浄の大地を浄伏しに参上した!」
「ガゼッタの戦士シンハだ。――ふっ 対話の呼びかけに射掛けで応じておいて、今更口上を述べるか」
シンハの指摘に怪訝な表情を浮かべたアルシアは、衛士隊の後方に捉えられている汎用戦闘機の捕虜を確認すると、大型メイスを構えて奪還に踏み出した。
大型メイスと白金の大剣がぶつかり合う。両者の振るう剣圧で周囲の砂が巻き上がり、金属の打ち合う重い音が一帯に響き渡る。それも通常の剣戟音ではなく、爆発の如く尋常ではない破裂音。一体どれ程の"力"がそこに集中し、ぶつかり合っているのか計り知れない。
ポルヴァーティアの勇者を名乗るアルシアと、ガゼッタの王シンハの一騎打ちを見守る白刃騎兵団の戦士達。悠介と闇神隊は今後の状況に合わせて動けるよう敵の増援に備えるなど、ヒヴォディルと連携して衛士隊を展開させている。
「なんか、シンハ押されてないか?」
「そう見えやすね、女相手だからと手心を加えるような御仁ではなかったと思いやすが……」
「シンハとて人の子じゃ。あの娘からはお主と同じ気配を感じる」
悠介とヴォーマルのやりとりに、アユウカスが答えながら悠介達の尻をぽんと打つ。そういう仕草が一々年配者っぽい齢3005歳の少女。それはさておき、悠介は『お主と同じ』という部分に反応した。
「それってもしかして向こうの……?」
「恐らくな」
相手側の"邪神"的な存在であろうと推察するアユウカス。ポルヴァーティアでは"勇者"として扱われているようだ。と、その時、一際大きい衝突音がして砂塵が舞い上がる。
砂の幕が晴れると、そこでは衝撃波の痕を残す抉れた砂地の上でシンハとアルシアが鍔迫り合いに入っていた。
甲冑の少女、ポルヴァーティアの勇者アルシアはシンハよりもずっと小さく、悠介よりも背が低いかもしれないくらい小柄な少女だ。そんな少女が自分の身長よりも大きい金棒のようなメイスを振り回してシンハと互角以上の戦いを繰り広げている。
捕虜にしたポルヴァーティア人である汎用戦闘機の搭乗者達が神技の類を使えない以外はカルツィオ人と変わりない人間だった事を考えれば、確かに普通の人間とは言い難い。
激しい打ち合いから鍔迫り合いに持ち込んだシンハは、体格で大きく勝る利点を活かしてそのまま抑え込みに掛かった。しかし、アルシアの身体が薄っすらと光を纏うと、鍔迫り合いで押されている態勢から強引にメイスを振るう。
ギャリギャリと火花を散らしながら大型メイスと白金の大剣が擦れ合う。そうして、アルシアは殆どその場から腕の力だけで武器を使ってシンハの身体を投げ飛ばすように引っぺがした。
これには流石のシンハも驚き、着地した瞬間を狙って薙ぎ払って来るメイスを大剣で受け止めようとしたが、まるで全力突撃の騎兵にでもぶつけられたが如く勢いで撥ね飛ばされた。
白金の大剣が宙を舞い、肩から砂地に突っ込んだシンハの身体が二、三度跳ねる。
「シンハが力負けした!?」
悠介は驚きながらもカスタマイズメニューを開くと、シンハを安全な場所に移動させようとシフトムーブの使用態勢に入った、がしかし、今の一撃でシンハの身体は資材化地帯の外に出てしまっていた。
大型メイスを振りかざしたアルシアが追い討ちを掛けるべく大きく跳躍する。
「とどめっ!」
相当なダメージを受けたらしく、のろのろと起き上がろうとするシンハにメイスが振り下ろされようとしたその時、近くに突き刺さっていた白金の大剣を拾って割り込む小さな影。次の瞬間、凄まじい衝撃音と共に砂柱が上がった。
立ち込める砂煙が風に流されて浮かび上がった光景は、大型メイスを振り下ろした体勢のアルシアと、白金の大剣でそれを受け止めている紫掛かった白髪の小柄な姿。
トドメの一撃を受け止め、シンハを救ったのはガゼッタの里巫女アユウカスだった。この世界の大地を見守る存在(精霊)に与えられた力であれば、それを宿す者の近くにいる事で同じ能力を行使出来るという共鳴能力を持つアユウカス。
ポルヴァーティアの"勇者の力"とも共鳴したアユウカスが、その力を持ってガゼッタの王に助力する。小さい見た目からは想像もつかないような怪力でアルシアを押し返した。
思わぬ味方の存在にぽかん状態だった悠介は我に返ると、怪我をしたシンハの所へ駆けつけようとした。とりあえず資材化地帯まで引っ張り込めば、シフトムーブで安全な場所まで移動できるのだ。しかし――
「近付くなユースケ! 今おぬしの能力と共鳴すると、こちらの共鳴が半減する」
「うおっ マジっすか!」
慌てて回れ右した悠介は、距離を取りながらカスタマイズメニューを素早く操作して実行。資材化地帯からシンハの居る所まで板状に固めた砂板を延ばした。
「シンハっ それに乗れ!」
よろよろと倒れ込むように砂板の上へと移動したシンハを確認すると、カスタマイズ画面で砂板の端部分を自分の直ぐ傍の砂地と入れ換えて実行する。
シンハの治癒を部下達に任せてアユウカスとアルシアの戦いに注視する悠介は、カスタマイズ画面に落とし穴やら防壁やらを配置しながら援護態勢に入っていた。
大型メイスと白金の大剣による暴風雨のような激しい打ち合い。
迂闊に近づく事さえ躊躇われる攻防の中で、アユウカスは身体が小さいハンデをアルシアとの共鳴で得た"勇者の力"に加えて白金の大剣に施されている補助効果で補う事により、速度と手数、それに経験というアドバンテージを持ってアルシアを押していた。
先程のシンハとの攻防でも見せた光を纏うアルシア。逆境に曝された時に発揮される真の力といった所か、一時的に速度やパワーが底上げされる勇者のオーラ。
アユウカスの技巧に押されていたアルシアは文字通り力押しで互角の状態まで押し戻すが――
「ふむ、こうやるのか」
「なっ!?」
アルシアが力を使う所をしっかり観察していたアユウカスが同じように光を纏い、速度やパワーが増した事で再び圧倒し始めた。
だが、超重量級な大型メイスとの打ち合いは刀身に掛かる負荷も凄まじく、幾らカスタマイズによって強度を上げられている上に使い減りしない仕様になっているとはいえ、限界はある。
その強度限界を超えない限り決して磨り減らない白金の大剣は、光のオーラを纏ったアルシアの猛攻による渾身の一撃に耐え切れず半ばからへし折れてしまった。
「むっ 剣が――」
「やああああああ!」
剣が折れた事で武器を打ち付け合った時の反動という圧力を失って身体が泳いだアユウカスに、大型メイスの一撃が叩き込まれた。直接メイスを受けた衝撃で左腕と肩が砕け、悠介の頭上を掠めて後方の防空壕付近まで吹き飛ばされるアユウカス。
「アユウカスさん!」
頭上を掠めて吹っ飛んでいったアユウカスの小さな身体は、後方に纏めておいた機動甲冑の一体に激突。パーンという破裂音のような衝突音と共に機動甲冑の胸部が真っ赤に染まる。激突の衝撃でその機動甲冑も転倒した。
衛士隊の治癒係りが駆けつける様子の確認もそこそこに、アルシアを振り返った悠介は突撃を仕掛けてくる彼女の足止めに掛かった。
資材化地帯に入ったアルシアを防壁で囲んだり、落とし穴に閉じ込めたりと封じ込めを試みるが、砂防壁は簡単に粉砕され、落とし穴からは軽々ジャンプして抜け出される。一応甲冑巨人砂バージョンも出してみたが、一撃で破壊された。
闇神隊メンバーや衛士隊から攻撃系神技の使い手が援護射撃を行うも、火炎弾や水球は叩き落され、当たっても大して効いた様子が無く、氷塊や土塊は放った以上の威力で打ち返される。
「隊長、こりゃ全く効果ありやせんぜ」
「捕虜でも人質に使いますか?」
「いやあ、それやるとますますこっちの話に耳貸さなくなりそうな気がする」
「元々聞きゃーしない感じですけどね」
そうこう言っている内にも距離を詰めてくるアルシア。全力のシンハや共鳴状態で同等の力を持ったアユウカスでも止められなかった相手だ、白刃騎兵団の戦士達では総掛かりでも手に負えないだろう。
神技攻撃も殆ど効果がない以上、こちらの懐に飛び込まれれば彼女一人に全滅させられ兼ねない。
「俺がなんとか足止めするから、皆は捕虜連れて撤退する準備しててくれ」
「了解」
何度目かの多重防壁をぶち破って突っ込んでくるアルシアに対し、ザッと腕を翳して立ちふさがる悠介。漆黒のマントが翻り、"判別不明"と判別される神技の波動が一帯を包み込む。
その気配を感じ取ったのか、突撃速度を若干緩めたアルシアが警戒するように大型メイスを正面に翳す。次の瞬間、悠介は足止め策を発動した。
「必殺っ ふりだしに戻れ!」
「んなっ」
悠介は足止め策として"シフトムーブ"でアルシアを一定のラインから近づけないよう無限回廊アタックを仕掛けていた。まともに戦っても勝ち目が見えないアルシアを相手に、搦め手で時間稼ぎをするのが精一杯で且つ、最も効果的な対処法。
幾ら"どんな敵をも退けられる戦闘力"を持っていようと、広くて見通しも良い砂浜で意図的に迷子にさせるような攻撃? には流石に対処のしようがない。手も足も出ないとはこの事だ。
同じ所をぐるぐると走り回らされて少し息を切らしたアルシアが切れた。
「ふ、ふざけるな! 真面目に戦え!」
「いやだ! つーかこっちゃ大真面目だっつーのっ」
胸を張ってお断りする悠介。そうしてまたアルシアを元の位置に戻す。
「それなら――」
大型メイスを振り上げたアルシアは地面を叩いて大穴をあけつつ砂塵を吹き上がらせた。僅かな間でも煙幕を作る事で姿を隠し、瞬間移動攻撃を遅らせられる事が出来れば、術者の本体を仕留めるチャンスも出来る筈だと考えたらしい。
アルシアの推測は半分まで当たっており、シフトムーブで相手を移動させるには常に相手の位置を把握しておく必要がある。
ただし、今の悠介は直接目視しなくともカスタマイズ画面にリアルタイムで表示される資材化された砂地の表面を監視していれば、誰かが歩くとそこに足跡が表示されるので正確な位置特定は難しくない。が、何事にも穴はある。
「げ、やばいっ」
砂塵の煙幕で視界を遮り、砂地に大穴を開けたアルシアはその場から直ぐに跳躍したらしく足跡も発見できない。カスタマイズ画面からも見失ってしまった。次々と穴が増える資材化地帯の砂浜。
目測で対象との距離や位置を把握しようとするよりも、カスタマイズ画面に表示される資材化地帯上の痕跡を追う方が楽で確実なのだ。勿論それは対象が資材化地帯上に一人だけの時に限る。
複数の足跡や何かの痕跡が同時に表示されれば、どれが誰やら見分けが付かない。アルシアの策は偶然にもその穴を突いた。
「隊長っ 上です!」
「っ!」
「もらった!」
跳躍してきたアルシアが大型メイスを振り下ろす。咄嗟に防壁を出そうかシフトムーブで回避しようかと行動を選ぶ悠介の頬を、何かがふわりと撫でていく。陽炎のように揺らめく微かに感触を持った黒い風。
次の瞬間、ドンッという空気の震えるような音が響き渡り、悠介の頭上から十数センチの辺りで静止する血濡れの大型メイス。円状に広がる衝撃波が砂煙の波紋を描く。
振り下ろされた大型メイスを受け止めたのは、漆黒の翼を纏った朔耶だった。
「つ、都築さん……?」
絶体絶命の攻撃から護られた悠介と、一撃必殺の攻撃を防がれたアルシアが驚愕に目を見開く。
その二人だけではなく、周囲で戦いを見守っていた闇神隊や衛士隊、白刃騎兵団と回復したシンハやアユウカス、汎用戦闘機の搭乗者だった捕虜達も驚きに目を瞠っていた。
まるで時間が止まったかのように静まり返る戦いの場。全員の視線の先では、あの超重量級な大型メイスの強烈な一撃を片手で、それも素手で受け止めている漆黒の翼を広げた少女の姿。
「な……っ」
「ねえ、アルシアちゃんさあ。ここはちょっと冷静になって話し合ってみない?」
朔耶の語り掛けで我に返ったアルシアは一歩飛び退り、油断無くメイスを構えて臨戦態勢を維持すると、警戒を滲ませながら言い放つ。
「お前も"混沌の使者"なら、容赦はしない!」
「え? なにそれ?」
「問答無用!」
朔耶に攻撃を仕掛けるべく突撃を敢行するアルシアが、ザンッと砂を蹴って大型メイスを大きく振り被る。
「いや、問答しようよ」
状況の緊迫感をまるっと無視した雰囲気で言いながら身構える朔耶。そして――
「実行~」
シフトムーブ発動。アルシアを振り出し地点に強制移動させる悠介。
「こらーーーっ!」
「あはは……」
砂浜の随分と離れた場所で素振りをしてしまったアルシアが『ふざけんな』と怒っている。後方からフョンケの吹き出し笑いが聞こえるが、とりあえずそれらをスルーした悠介は朔耶に話し掛けた。
「えーと、さっきはありがとう。一応聞いておきますけど、大丈夫なんですか?」
「うん、大丈夫。ここはあたしに任せてみて?」
まだお互いの素性も分からない、名前くらいしか知らない関係なのに、こんな大陸同士の戦いに関わっても大丈夫なのかと気にする悠介に、朔耶は詳しい事情はまた後で話すと言ってこの場を治める役を引き受けると主張した。
悠介としてはアルシアに対する有効な手立ても無い事は無いが、あれだけの反則染みた力を振るわれると現状ではそれこそ相手に瀕死を負わせて止めるようなやり方くらいしか打つ手が思いつかない。
明確に殺し合いレベルで敵対している相手に怪我を負わせる事など、なんら躊躇する必要は無い筈なのだが、そこは平和主義者な悠介。なるべく相手も自分も傷つかずに治められるなら、その方が良い。ここは自信有り気な朔耶を信じてみる事にした。
「きぃーーさぁーーまぁーーー!」
怒涛の勢いで突っ込んでくる怒り心頭なアルシアを尻目に、朔耶と話せる時間がとれた悠介は後を任せて闇神隊メンバーや衛士隊、白刃騎兵団のいる後方へと下がった。
「いやー、びっくりした」
空を飛んで来た事を除けばどこから見ても一般人だと思っていた"都築朔耶"について、悠介は『人は見掛けによらない』とはよく言ったもんだなと、自分の事を棚に上げながら呟いた。
さり気無く隊長の傍に控えるヴォーマルが、朔耶について現状で判明している情報を伝える。
「エイシャの話じゃ相当な治癒の使い手でもあるらしいですぜ」
「へえ? そうなのかエイシャ」
「はい、ガゼッタ王の治癒を手伝って頂いたんですが、物凄い治癒力でした」
「アユウカス様の大怪我も傷一つ無い状態まで治してましたよ?」
恐らくは神器の効果を得たゼシャールド氏の治癒力をも凌駕するのではないか。エイシャやスンにそこまで言わしめるのかと、治癒を受けたシンハとアユウカスに視線を向けてみれば、二人とも過言ではないと頷く。
「そういやアユウカスさん大怪我したって?」
「さっき弾き飛ばされた時にの、硬いモノにぶつかってちょっとぐちゃけたのじゃ」
不死の身ゆえ、放って置いても自己回復で元通りにはなったのだが、朔耶の放つ治癒の光は瞬く間に傷を癒したのだそうな。悠介はシンハから直してくれと渡された白金の大剣をカスタマイズで修理しながら、朔耶とアルシア、対峙する二人に注目した。
ブオォブオォと風を唸らせ、凡そ超重量武器とは思えない振り回し方をしているアルシアの大型メイス攻撃を、朔耶は悉く片手で止めている。そして絶えずアルシアに何事か語りかけていた。
どうしてもその守りを崩せないとみたアルシアは大型メイスを垂直に振り下ろし、地面を叩いて大穴をあけつつ砂柱を立てると、砂塵の煙幕を発生させた。
朔耶の視界を遮って背後に回り込もうとするが、突如発生した突風があっという間に砂煙を吹き飛ばす。それでも一瞬の内に後ろを取ったアルシアは、朔耶の無防備な背中目掛けて大型メイスを振るった。
しかし、そんな死角からの一撃も朔耶の身体に届く事なく、その十数センチ手前で見えない壁に阻まれて止まった。くるりと振り返る朔耶に、アルシアは思わず後退る。
困ったような苦笑を見せる朔耶。現在は共闘関係にある悠介達から見れば、その笑みは落ち着きと気遣いの篭もった優しい笑みだったのだが、直接戦っているアルシアには違った印象を与えたようだ。
「やあああああ!」
激高するような咆哮と共に強い光のオーラを纏い、大型メイスの乱れ打ちという常人には絶対に真似の出来ない攻撃を繰り出すアルシア。
大型メイスの攻撃範囲内は粉砕機の如く、まさに致死領域。迂闊に近づけば人間の身体などあっというまにミンチにされてしまう。しかし、その標的とされている漆黒の翼を持つ少女はそんな猛攻に髪の毛一本揺らされる事無く一歩、前へと踏み込んだ。
ドンッという衝撃音を残して乱打が止まる。朔耶に踏み込まれた事で連続攻撃の繋ぎが途切れたのだ。さらに――
「なっ――!」
一体何をどうやったのか、朔耶がスッと大型メイスを撫でるような動作をしたかと思うと、ピシッという音がして大型メイスの表面に無数の亀裂が走り、やがてボロボロと砕けてしまった。アルシアの握っていた柄の部分まで含めて完全に。
「武器が砕けたぞ」
「ふーむ。あの娘、何から何までよく分からんのう」
強力な治癒の使い手かと思えば、どんな攻撃も通さない強固な護りの力を見せ、かと思えば丈夫さでは類を見ないであろう鉄の塊のような鈍器を一撫でで破壊する。オマケに空まで飛ぶ。
3000年の時を生きて来たアユウカスも、あんな存在は見た事がないと唸る。
「隊長と波動が似てやすが……似た力を持つ者なんですかね?」
「どうだろうなぁ」
武器破壊それ自体はやろうと思えば悠介にも可能だが、アルシアの振り回すメイスに触れる事がまず難しい。
得物が砕け散って空になった自分の両手を呆然と見下ろすアルシアは、ハッと我に返ったように朔耶を見上げると、明らかにそれと分かる恐怖の表情を浮かべた。
「う、うわあああああ」
なんとそのまま殴りに掛かった。岩でも砕ける程の強力なパンチを放つアルシアだったが、それ以上の威力を誇る大型メイスの猛攻にもビクともしなかった朔耶の見えない壁を破れる筈もなく、やがてその身を包んでいた勇者のオーラも時間切れか光が失われる。
朔耶が何か語り掛けているようだが、アルシアはひたすら見えない壁を叩き続けていた。
「わあああああああっ!」
「んー、しょうがない。 い な ず ま――――」
ほぼ錯乱状態に陥っているようにも見えるアルシアに対し、半身に構えた朔耶の右手が青白く発光を始める。そしてそのままアルシアに向かって踏み込んで行った朔耶は、光の軌跡を引きながら右腕を振るった。
「――――目覚ましびんたーーっ」
スパーンと小気味良い音が響き、尻餅をつくアルシア。辺りに静寂が訪れ、吹き抜けていく風が小さな砂煙を運び去る。
自分の左頬に手をあて、ぽかんと朔耶を見上げていたアルシアがもぞもぞと起き上がると、握った拳を構えて臨戦態勢を取った。が、どこか虚ろで全く覇気を感じられない。その時、後方から何者かの声が上がった。
「もういいアルシア! 無茶せず戻れ!」
「俺達は大丈夫だ! 不当な扱いは受けていない!」
捕虜となっている汎用戦闘機の搭乗者が、衛士隊の列から拘束されている身体を乗り出し叫んでいる。
『知り合いなのかー』と、悠介はアルシアの反応している様子を見て捕虜達に視線を向け、咄嗟にカスタマイズ操作を行って実行。
彼らを黙らせようと槍を振り上げていた衛士隊の一人をプチ格子状防壁で囲んで止めた。少し"苛っ"としながら注意する。
「あのさ、本人らが不当な扱い受けて無いからって説得してる矢先にどついてどうするよ?」
確かに避難所防空壕から出て来たのは捕虜の勝手な行動ではあるけれど、絶対に喋るなとか動くな等の処置をとっていた訳でもなし――
「臨機応変にいこうぜ」
「は、も、申し訳ありませんっ」
平謝りな衛士隊員。その様子を見た朔耶が『いいねぇ』と悠介の判断に感心している。
一連のやり取りで表情に少し生気の戻ったアルシアは、後方に大きく跳躍して距離を取ると、上空で旋回していた高速揚陸艇に回収合図を送った。撤退の決断を下したようだ。
低空飛行で侵入してきた高速揚陸艇に飛び乗ったアルシアは、一度こちらに視線を向けてから、ポルヴァーティア大陸へと撤退して行ったのだった。
**
アルシアが撤退して行った後、翼を納めた朔耶は、悠介達に向き直ると改めて挨拶をする。
「えーと、改めまして、都築朔耶です。よろしくね」
「あ、こちらこそ、田神悠介をよろしく」
どこぞの選挙候補者のような自己紹介を返す悠介に楽しそうな表情を浮かべた朔耶は、今日ここにやって来た目的、悠介達に接触した理由を掻い摘んで説明してくれた。
「詳細は長いから省くけど――」
とある事情から精霊と重なる事により、地球のある元世界と異世界とを自由に行き来できる力を得たのだという。そして今、地球世界と異世界では、この悠介達がいる狭間世界での出来事に影響を受けているのだとか。
二つの大地が融合する事によって発生する大きな力の変動。その余波は異世界で魔力の流れを乱れさせ、地球世界でも超常現象や異常気象を引き起こしているらしい。
今後の影響を踏まえてこの狭間世界で何が起きているのかを確かめに来た所、双方の戦闘に出くわしたのだ。
「なるほど、そんな事になってたんですか……」
色々と荒唐無稽な内容ではあるものの、この世界では悠介自身がその筆頭ともいえる立場でもあるので、朔耶の説明はすんなり理解し、受け入れる事が出来た。
悠介も自身の出自や今この世界に居る理由など事情を話してお互いの情報を交換する。
ちなみに、闇神隊メンバーを始めシンハやアユウカス、ちゃっかり輪に入っているヒヴォディルも含めて、二人の会話の内容には半分もついて行けなかったようだ。
「いや、しかし、そっかぁ~……あれから一年近く経つのに、未だにあそこでゲームしてたか俺」
今なにやってるんだろう? と、元世界の自分や家族の事を想う悠介。この世界で目覚めた当初から心の奥底で感じていた納得感の正体が分かった気がした。それはそれで、もう元の世界に帰る理由も場所も無くなったのかと思うと、少々寂しい気もする。
「悠介君の家族とか、向こうの悠介君とか、今度こっちに来る時にでもそれとなく調べて来よっか?」
「え、いいの? てか、そんなに簡単に世界渡れるんだ?」
「うん、もう二年近くあっちとこっちを行き来する生活してるからね」
そうなるまでの間に過ごした異世界での生活は、周りに良い人も多く色々と恵まれた環境に居られたものの、身寄りも無い余所の世界に一人迷い込んだ不安や孤独の寂しさは常に感じていたという。
悠介も多少だが同じ経験があった。これだけ強大な力を持っていても、内面の孤独や寂しさは如何ともしがたいモノなのだろう。と、そこまで考えてピンと来た。自分や朔耶と似た境遇の人間が、もう一人居たと。更に言うなれば、自分とほぼ同じ立場の人間。
「あー、もしかしてそれであの娘の事を?」
よくぞ察してくれましたといった雰囲気で、こくりと頷く朔耶。先程の戦闘中、朔耶はアルシアに殆ど何もせず圧倒しながら、ずっと彼女に語り掛けていたし、何処か気遣っている様子が窺えた。
同じ女の子同士、アルシアの境遇に何か感じるモノがあったのかもしれない。なるほどそういう事かと、悠介は納得したのだった。
とりあえず、悠介達はこれからサンクアディエットに帰還する。こちらの世界で起きている事など、ある程度の事情を把握した朔耶も今日はこれで元の世界に還るそうだ。
闇神隊長の何時もの気の抜ける号令と、ガゼッタの王の大雑把な号令により、フォンクランクとガゼッタのカルツィオ連合軍はそれぞれの母国へと撤収して行ったのだった。
サンクアディエット、ヴォルアンス宮殿上層階の一室にて。
「うおーっ わらわも会いたかったぞー!」
「また来るって言ってたぞ」
今日も元気なヴォレット姫は、カルツィオに来訪した悠介と同郷の人、"都築朔耶"の話を聞いて悔しそうに叫ぶ。
ポルヴァーティア大陸との融合問題で地下探索どころではなくなってしまったヴォレットはしかし、明確に敵対を示しているとはいえ、垂直に繋がった大地や二つの太陽など珍しいモノが見られて概ね機嫌は悪くなかった。
現在、悠介は持ち帰った汎用戦闘機と機動甲冑のデータをカスタマイズメニュー内で解析しており、ポルヴァーティア軍の空からの攻撃に対抗する防衛兵器開発に利用していた。
「地上部隊は戦闘機についてた機銃と神技で対処するとして、街の対空防御さえどうにか出来れば暫く持つだろう」
「暫くか……それだけでは押し返せんのか?」
「いやぁ~無理だと思うぞ? 多分、斥候が持って来たのって最低限の装備だろうし」
遠距離からの迫撃砲や高高度爆撃のような戦術で来られればどうしようもないと、悠介は肩を竦めて見せる。無限の防壁と工夫でどうにか護りは固められると思うので、余力のある内に相手と交渉を行えるのが望ましい。
「交渉のう、父様もその方向で動くつもりのようじゃが、今回ばかりは一戦も交えずという訳にもいかんじゃろな」
小競り合いではなく、一度本格的にぶつかってこちらの力を相手側指導者に見せ付けてやらなくては、交渉の席に引っ張り出す事も難しいだろうと腕組みをするヴォレットに、悠介も同意する。
「ちらっと聞いたけど、向こうは一神教で纏まった信仰集団みたいだから、上が話す気にならないと難しいだろうなぁ」
「捕虜達の話か。そういえば今日はクレイヴォルも尋問に出向いておるようじゃな」
北の砂浜海岸から帰還する途中、捕虜達からポルヴァーティアについて聞いた凡その内容。大地神ポルヴァを信仰し、神の意志を遂行する執聖機関を中心に統治された、国民総信徒な神聖帝国。
捕虜達の中でも比較的階級の高い人物で協力的な者から一人づつ尋問が行われ、ポルヴァーティアの目的や、なぜ攻撃してくるのかなどの情報が聞き出された。
「ただの侵略だよ。もっとも、一等民の信徒達は殆どが"神の使命"だって思ってるだろうけどね」
不浄の大地とそこに棲む蛮族を浄伏する事が、世界を崩壊から救う神より与えられし使命。ポルヴァーティアの民は皆、幼い頃から受ける信仰教育によって思想や価値観を統一されている。
大陸融合によって浄伏された不浄大陸の蛮族は一部が上級市民である二等市民、三等市民として迎えられ、信仰教育を施されて信徒の一員となるが、大多数は下級市民として奉仕と言う名の労働を課せられているのだそうだ。
カナン偵察部隊長とその部下達はポルヴァーティアの信仰教育に染まりきっていない事もあってか、その辺りの事情について多くの詳しい情報を聞くことが出来た。
ポルヴァーティア人と血縁を持つなどして上級市民入りをした二等市民であるカナン達は、やはり生粋のポルヴァーティア人からは下民の分際と見下されている事もあって、ポルヴァーティアの信仰どっぷりにはなり難いらしい。
『他の連中はこうはいかない』と忠告もくれる。ポルヴァーティアの人間は皆、執聖機関の信仰教育で一種洗脳されているような状態なので、不浄大陸の人間の話など聞きはしない。懐柔する場合も相当掛かるであろう、と。
専属警護兼教育係の仕事に戻って来たクレイヴォルから尋問で得た捕虜達の証言を聞くヴォレットは、四大神信仰が形骸化して自由な触れ合いが増えていた最近のカルツィオを例に、一つの教義に囚われた社会の窮屈さを想う。
「信仰とは、まこと便利で厄介な思考を束縛する鎖だな」
「縛られてる方は幸せ気分らしいからな」
悠介の冗談とも真理ともつかない相槌に感じ入りながら、お稽古事の部屋へと連行されていくヴォレットであった。
朝からカスタマイズメニュー内で防衛兵器開発を進めている悠介。汎用戦闘機の光撃連弓と機動甲冑の光撃弓を解析し、魔力を発生させる装置部分、凝縮させる装置部分、射出する装置部分など個別に強化、改造を施したモノを組み合わせて行く。
「やほー。こんにちは、悠介くん」
「……レイフョルド以上に唐突っすね」
悠介はカスタマイズメニュー越しにそんな感想を述べる。音も気配も予兆も無く、いきなり部屋の中に現れた朔耶はひらひらっと手を振ると、荷物で膨れた手提げ袋を持ち上げて見せた。
「はいこれ、向こうの悠介君から」
「あ、ども」
元の世界にいる自分からの荷物を受け取った悠介は、朔耶にララの絞り実ジュースなどご馳走して労う。見覚えのある懐かしい手提げ袋の中には家族写真と自分の筆跡で書かれた近況ノート、手紙などが入っていた。
「なんかね、最近になってこっちの悠介君の体験とか夢で見るみたいだよ?」
「ありゃま。それも例の双星――大陸融合の影響とか?」
「そうみたい」
自分の本体、という事になるのであろう元世界の自分からの手紙にちらりと目を通すと『生殺しは勘弁してくれ』とか書いてある。直ぐに最近添い寝しているスンの事だと分かり、思わず照れる。が、今は朔耶と向かい合っている手前、表情には出さない。
内心でそんな自分との戦いなど繰り広げていた悠介に、朔耶は耳に入れておきたい事があると言って語り始めた。
「実は、アルシアちゃんの事なんだけど――」
悠介と同じく、一つの大地を司る精霊に複製召喚された存在であろうアルシアの事情について、朔耶はアルシアの置かれている立場や、彼女がポルヴァーティアの勇者として戦う事を決意するに至った理由など経緯を説明する。
ある日突然、見知らぬ世界の見知らぬ街外れに文字通り身一つで放り出されたアルシアは、自分を保護してくれたポルヴァーティアの統治機構である執聖機関に促されるがまま、彼等が神と定める大地神ポルヴァを崇め、その使命を遂行するという名目の元に勇者の役割を担っているのだと。
この世界に自分が存在している事について、心の奥で納得しているような気持ちがあった事も、アルシアが執聖機関の言う事を信じて受け入れる理由の一つになった。
ポルヴァーティアの勇者として生きて行く上で、他に拠り所となるモノを持たないアルシアは、信仰教育で教え込まれた教義に縋る他なかったのだ。
ポルヴァーティアの執聖機関はカルツィオで言う所の旧ノスセンテス神議会のような存在だが、向こうは大陸全土を掌握して信仰と教義で支配しており、召喚される"勇者"も悉く管理しているらしい。
「あーなるほどなぁ……って――本人の所まで行ってきたんですか!?」
「うん。彼女の部屋に出たから騒ぎにもならなかったし、落ち着いて話せたよ?」
「なにその出鱈目な能力……」
割と簡単に世界を行き来しているとは聞いていたが、昨日の今日で相手大陸の中枢施設に潜り込んで来たという朔耶のフリーダムな神出鬼没ぶりに言葉もない悠介であった。
がしかし、中々興味深い話を聞けたと、朝方クレイヴォルから聞いた捕虜達の証言と照らし合わせて納得する。
その捕虜達について、朔耶に『アルシアちゃんから頼まれている』と様子を聞かれた悠介は、至って元気そうである事を伝えた。
「さて、それじゃあそろそろ御暇するね。ジュースありがとう」
「いえいえ、お疲れさんでした」
席を立った朔耶は少し離れて部屋の真ん中に立つと、ひらりと手を振って現れた時と同じく唐突に消えた。朔耶が消えるのとほぼ同じタイミングで部屋の扉が開かれ、ヴォレットが駆け込んで来る。
「ユースケは居るかー!」
「惜しい」
「? なにがじゃ?」
部屋へ入るなり向けられた謎の呟きに、小首を傾げるヴォレットであった。
朔耶と入れ違いにやって来たヴォレットは、防衛兵器の生産工場に屋内訓練場の使用が決まった事を告げる。
「それと、ガゼッタから使者が来ているそうじゃ」
「ガゼッタから?」
開かれた扉の前で仕事を横取りされた伝令が情けない顔を向けながら、『ガゼッタの里巫女一行』を名乗る使者が、闇神隊長に面会を求めているとの趣旨を伝えた。
ポルヴァーティアがカルツィオに接陸してから三日目。ヴォルアンス宮殿の室内訓練場に設けられた防衛兵器の生産工場では、大量の特殊な迎撃・防衛用の武器が量産されていた。
ガゼッタとトレントリエッタの鉱山にある採掘場から掘り出された鉱石が土技職人達の手によってその場で鉄塊などに精製され、一定量ごとにサンクアディエットへと送られる。
それらの資材を使って複製量産された"対空光撃連弓・改"が各国の首都に送られると、そこから主要な街へと運ばれて行くのだ。
武器の製作は闇神隊長がカスタマイズ能力を使ってほぼ一人で組み上げ、複製量産に必要な資材と完成した"対空光撃連弓・改"の輸送は里巫女が同じくカスタマイズ能力を使って迅速に進めている。
昨日、ガゼッタからの使者として訪れた里巫女一行より共同作業の提案を持ちかけられた悠介は、アユウカス達に連れられてサンクアディエットの街外れ、ブルガーデンとの国境付近まで出向いた所で"ソレ"を見せられた。
地面に半分埋められた角石。遥か地平線の彼方まで続くその角石は、アユウカスが"ワシとお主で反則をしよう"と持ち掛けた単純で且つ壮大な仕掛け。
『港街建設の頃から構想しておった。お主の"しぃふぅどぶーむ"を使えるよう、整備しておいたのじゃ』
『シフトムーブです』
確かに最近ルフク村から例の揚げ物が広がって魚料理が盛んだけど、等とツッコミながらカスタマイズメニューを弄る悠介は、一画面に収まりきらない国境線のようなマップアイテムに、物理耐性やら神技耐性の強化を施して実行した。
"シフトムーブ網"
アユウカスの言う"反則"とは、以前ブルガーデンの内戦に干渉したパウラの長城前での戦いで、悠介がシンハに言い放った"本物の反則"を指している。
ガゼッタの兵達が地道に角石を繋いで作った、全長凡そ2300キロにも及ぶカスタマイズ・クリエート専用の道。一度マップアイテムとして全体を掌握してしまえば、後から材料を継ぎ足す事で立派な石畳の街道にする事も出来る。
この"道"を使い、ガゼッタとトレントリエッタの採掘場で精製された資材はアユウカスの"シフトムーブ"によって一瞬の内にサンクアディエットの生産工場へと運ばれる。
この資材を使って悠介が"対空光撃連弓・改"を組み上げ、複製量産された武器はサンクアディエットに配備される分を衛士隊が街中に運び、ガゼッタやトレントリエッタの主要な街にはアユウカスが"シフトムーブ"で運ぶというサイクル。
物だけでなく人員も運ぶことが出来るので、採掘作業の効率を落とさず常に最高の状態でそれぞれの仕事が進められていた。
そろそろお昼を回ろうかという刻。ヴォレットはアユウカスと連れ立って生産工場を後にする。
「わらわ達は食事に行って来る。ユースケもちゃんと食べるのじゃぞ?」
「さて、では暫し休憩とするか。フォンクランクの宮殿で食える飯はどんなモノかのう」
「はいよ、いってらっしゃい」
二人を送り出した悠介はやれやれと首を回しながら、まだ残っている資材で"対空光撃連弓・改"を一門組み上げ、工場内に並べられた長テーブルの上に置く。
カスタマイズメニューを開き、作りかけの浮遊砲台データを呼び出して次は何処を弄ろうかと考えていると――
「あ、いたいた。悠介君、やほー」
ヴォレット達が工場を後にした直後に現れる朔耶。
「なんという狙ったようなタイミング」
「うん?」
「いや、こっちの話」
突然現れた朔耶に衛士たちが驚くも、悠介と親しげに話している姿を見て納得した彼らは武器を運び出す仕事に戻った。
ずらりと並ぶ大型ボウガンにも似た"対空光撃連弓・改"を興味深そうに観察している朔耶。
「これって武器よね? あの箱型飛行機とかについてたやつ?」
「そう、その強化改良版。こういう兵器って今までカルツィオに無かったモノだから、後々問題が出るかもしれないけどね」
今はポルヴァーティアというカルツィオの民が一つになって当たる必要のある"敵"の存在が、強力な武器の力を全て外に向ける状況を作り出しているが、共通の敵が居なくなった後が問題だ。その辺りの危惧には朔耶も共感を持つらしい。
「でも、カルツィオって結構広いわよね。街もあちこちに散らばってるみたいだし、武器の配布とか間に合うの?」
このサンクアディエットを防衛する為に必要な数を揃えるだけでも、数日掛かってしまうのでは? という朔耶の疑問に対し、それは問題ないと答える悠介。
カスタマイズ能力を駆使する事で、特定の区間だが荷物を輸送する際に距離も重量も無視出来るうえに、生産作業も時間を大幅に短縮できる。
材料と条件さえ揃っていれば、毎秒二門ほどの速度で複製が可能。一時間もあれば7000門近く複製生産できるのだ。
「なにその出鱈目な能力!」
「いやいやいや」
驚く朔耶に、貴女の能力も大概出鱈目だと突っ込まずにはいられない悠介なのであった。
**
対ポルヴァーティア軍迎撃用"対空光撃連弓・改"の配備が大急ぎで進められているサンクアディエットの街。
今日も夜明け前から工場に赴き、兵器開発に勤しむ悠介は"対空光撃連弓・改"が予備も含めてある程度の数が揃ったので、作り掛けだった浮遊砲台に手を付けていた。汎用戦闘機の浮遊装置を組み込んだ空飛ぶ台座。
対空光撃連弓は街の区分けに使われていた防壁や、一般的な建物の屋根などにも台座を取り付けて設置しているが、病院などの施設は攻撃対象にされないよう設置を避けている。
他にも設置できる建物の無い場所があり、そういった空白地帯には上空に浮遊砲台を設ける事で弾幕の隙間を埋めるのだ。外周付近にもぐるりと浮かべられる浮遊砲台。
これは悠介の元居た世界にある対空砲のように砲弾が目標近くで爆発するといったような仕掛けが無いので、命中精度は無視して密集させた砲台からひたすら撃ち続ける高密度対空射撃で対抗しようという試み。
正に『数撃ちゃ当たる』の戦法だが当たらなくてもいいので、とにかく街の上空には近付けさせないようにしたい。
「――よし、こんなもんかな」
浮遊装置とは別個の部品となっていた推進装置がまだ解析中なので汎用戦闘機のように自由に飛びまわるという所までは行かないが、ある程度の移動は可能。
砲手二人と"対空光撃連弓・改"を乗せて安定した浮力を保つ砲台。浮遊砲台を完成させた悠介は、複製量産する為の資材が今日はまだ届いていないので、一旦小休止に入った。
「おう、新しい機械が完成したのか。朝早くから勤勉じゃのう」
「おはよーございます、アユウカスさん」
朝食を済ませたアユウカスが工場にやって来た。彼女の"シフトムーブ"による資材の瞬間輸送という補佐が無くては、複製量産作業は成り立たない。早速資材のシフトムーブ輸送を始めて貰い、浮遊砲台の量産体制に入る悠介。
やがて出勤して来た衛士隊も作業に加わり、複製生産された浮遊砲台が運び出されて行く。そうして、対ポルヴァーティア戦に向けて街の防衛体勢を整えていった。
垂直に繋がっていたカルツィオとポルヴァーティア。双方の大地は日に日に角度を浅くしながら融合を深め、カルツィオの北の空から見下ろすようにその姿をさらしていた聖都カーストパレスは、徐々に遠く霞掛かった地平線の彼方へと消えていく。
太陽のように大地の周りを回らない月は既に融合を果たし、一回り大きくなった新しい月がカルツィオとポルヴァーティアを合わせた大地の中心付近へと移動して上下軌道を安定させていた。
明け方頃、サンクアディエットでは北の海岸線に展開されていた哨戒部隊や、ブルガーデンの要塞都市パウラからもポルヴァーティア軍と思しき機影が迫っているのを発見したという一報が届けられ、ヴォルアンス宮殿内は伝令や衛士達が慌ただしく走り回っている。
この時間帯に珍しく眠っていた悠介も直ちに宮殿へと呼び戻され、アユウカスと並んで宮殿内から迎撃と防衛の任に就いた。
「状況は?」
「現在ポルヴァーティア軍は海岸線を通過、数は凡そ120、例の汎用戦闘機よりも大型らしいですぜ」
「多いな。ふーむ、機動甲冑とか積んでるのかな……」
「向こうの指揮官がまぬけならそれもあり得るじゃろのぅ」
悠介の隣に座って早速自分のカスタマイズメニューを開いたアユウカスが、シフトムーブ網の掌握を始めながらフォローを入れる。やはりここは当初の推測通り空からの大規模な攻撃が来るものと考えた方が良いだろうと。
その時、宮殿内に敵の接近を告げる"広伝"が響き渡る。
「――北方向上空より接近する敵影を確認!――」
「隊長、ご指示を」
「ん、じゃあ敵が高度を下げ始めたら一斉攻撃で」
とにかく近付けさせない事が重要なので、無理に引き付ける必要は無い。撃墜は考えなくて良いのでひたすら撃ち捲くれという指示を出す悠介。サンクアディエット中に伝えられた闇神隊長からの指示に従い、北側に面する対空砲が一斉に光弾を打ち上げた。
飛来したポルヴァーティア軍の航空機部隊は悠介の狙い通り、圧倒的な弾幕によって街に近づく事さえ出来ず、何機か街の周辺に不時着する機体を出しながら撤退していった。
引き上げていくポルヴァーティア軍に気勢を上げるサンクアディエットの衛士達。"対空光撃連弓・改"の射手を務めた衛士が祝砲代わりに光弾を撃ち上げる。
宮殿上層から確認した街の様子や、各所より送られてくる状況報告を受け取った悠介は、一先ず追い返せたかと軽く息を吐く。今のところ、街の何処にも被害は出ていない。
外周付近に不時着した戦闘機にはエスヴォブス王が指揮下の衛士団から部隊を向かわせているようだ。
「さて、本番はここからじゃのう」
「ですね。どうせ地上からも来るだろうしなぁ」
悠介とアユウカスがポルヴァーティア側の動きについて予測していた時、新たな敵部隊が海岸線を超えたとの報せが入る。
今度は最初の部隊に見た大型の戦闘機が30機に、機動甲冑らしき人型を積んだ細長の機体が20機、それに後部が箱型になった汎用戦闘機と思しき機影が40機程だという。
「また多いな……どう思う?」
「そうですなぁ、お二人の考えるとおり、最初の部隊が空からの攻撃で牽制しつつ――という所でしょうか」
意見を求められたヴォーマルは機動甲冑の規模如何で地上からの攻撃部隊か、或いは地上部隊の足掛かりに拠点を作りに来た可能性も考えられると推測する。
汎用戦闘機の仕様について捕虜から得ている情報によれば、あれは資材運搬などにも利用されるという事だったので、後部が箱型になっている汎用戦闘機は陣地を構築する為の資材を積んでいるのかもしれない。
「歩兵満載とかだったらやだなぁ」
「まあ、その可能性もありやすがね」
相手がなるべくリスクを抑えようと考えているなら、機動甲冑のような便利な地上戦用の兵器を持っているのに、態々歩兵の投入を行うとは思えない。
「棄てたい兵でもいるなら別ですがね」
「向こうの統治形態を考えるに、それはなさそうじゃのう」
「なるほど」
カナン達のように使い捨て出来る兵を投入したとして、信仰教育による思想統一に縛られていない彼らにポルヴァーティア軍の兵器を持ったままあっさり寝返られても堪らないし、下手に損害を出せば執聖機関の威光にも傷がつく。
"浄伏"と称した他大陸への侵攻は基本的に"楽に勝てる相手"にしか仕掛けて来なかったので、ポルヴァーティア神聖軍はこれまでの戦いで損害らしい損害を被った事もなかったようだ。
今回のように一方的な"浄伏"が進められない展開は、ポルヴァーティア側にとってはかなり異例の事らしい。
「交渉の糸口はその辺りになる訳か」
「アユウカス殿の言っていた"新しい事実"って妥協案ですかい?」
「まあ、あれは妥協という程の甘い話でもないんじゃがの」
四大神信仰の欺瞞が暴かれ、身分差も緩和された今のカルツィオのような自由な文化に、ポルヴァーティアの閉じた信仰体制が影響を与えられる可能性は低く、逆にポルヴァーティアの民は今まで存在しなかった"異文化"に影響を受けるであろう事は必至。
ポルヴァーティア側にとって、自分達の支配下に置けないカルツィオは隣に存在しているだけで、じわじわと浸透してやがて体制を崩壊に至らせる毒のようなモノだとアユウカスは語った。
「ワシらが飲み込まれん限り、勝算はある。向こうは身動き取れなくなるからの」
「ああー確かに、カルツィオくっつけたままじゃあまた別の大陸にちょっかい出しに行く事もできないわな」
「そういうコトじゃ」
丁度話が一段落する頃、空の敵部隊が別方向から接近中との報せが"広伝"で響き渡る。悠介は即座に先程の要領で撃ち捲くるよう指示を出すのだった。

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