【寄稿】エルサレムでの新発見、ユダヤ教徒に強力な「援軍」
エルサレムの「神殿の丘」で進められている調査プロジェクトにボランティアで参加したロシアの10歳の少年が大手柄を上げた。3000年前のダビデ王時代のものとみられる「印章」を発見したのだ。「印章」は指ぬきほどの大きさの石灰岩に彫られ、片方の端には糸を通すような穴が開いている。
この印章は、1990年代後半に神殿の丘の地下から違法に掘り出された数百トンにおよぶ土や岩石の中に埋まっていた。この時、土石を掘り出したのはエルサレム旧市街のイスラム建造物や敷地を管轄するワクフ財団だ。神殿の丘はユダヤ教、イスラム教、キリスト教がいずれも自分たちの聖地だと主張している。だが、ユダヤ教にとっての聖地であるとの主張は多くのイスラム教徒から否定されている。
神殿の丘の調査プロジェクトは2005年から始まり、これまでにいくつかの歴史的な遺物が発見されている。だが、印章はその中でも最も重要なものだろう。ダビデ王がエルサレムを征服し、息子のソロモン王が最初のユダヤ神殿を建設した時代にまで遡る印章の発見は、古代のこの地にユダヤ人が存在していたことを裏付けるものだ。これはイスラム教の「岩のドーム」が古代の神殿跡の上に建設される千年以上も前のことだ。
皮肉なのは、地下モスクを建設するためにイスラム教徒が掘り出した土石が、結局はユダヤ教徒の主張を裏付けることになった点だ。
ユダヤ人は神殿の丘の宗教的なルーツを疑ったことはないものの、3000年前の印章を発見した10歳の少年のおかげで、歴史を書き直すために仕組まれた現代のプロパガンダに反論できる材料を手に入れることになった。印章は大昔に権威を証明するために使われたのと同じように、現代の世ではエルサレムが聖地であるというユダヤ教の歴史的主張を認める承認印である。
(筆者のジェロルド・アウアーバッハ氏は米マサチューセッツ州ウェルスレイ・カレッジで歴史を教える名誉教授)