アニメ業界で働く覚悟とは 総作画監督・門脇聡インタビュー後編
アニメ『終わりのセラフ』キービジュアル © 鏡貴也・山本ヤマト・降矢大輔/集英社・終わりのセラフ製作委員会

アニメ業界で働く覚悟とは 総作画監督・門脇聡インタビュー後編

インタビュー前半で、自身の仕事やアニメ業界に入ったきっかけを語ってくれた総作画監督の門脇聡さん。いいアニメ作品には「こんなに上手く描きやがって!!」と嫉妬心を隠さぬ門脇さんの口からは、将来の業界などに関して、アニメ愛あふれるコメントが飛び出しています。


アニメ業界で働くには覚悟が必要

──アニメ業界全体で、将来の人材不足が懸念されています。この状況をどのように見ていますか?

 この業界に入って残ってもらう方、どんどん成長される方、キャラクターデザインや作画監督なりを受け持つ方は、才能もやる気もある方が多いです。そういう方々が残っていけるような状態にはしていったほうがいいと思います。特に力もないのに来てしまった場合、ただ「アニメが好きだから」とか「絵を上手くなるつもりがなくて、下手だけど仕事がもらえるからいいや」という人が来るのであれば、人材不足が叫ばれているといっても、誰でも残ってほしいというわけではありません。

 色々厳しい業界ですので、覚悟もないまま、自分が今持っているスペックだけで満足したまま仕事をしていたら50歳超えてもやり続けられるのか......という事態になります。人材不足は解消されることを望みますが、まずやる気のある方に来てほしいです。普通の会社に就職して毎日定時で帰って、ゲームして、週末お酒を飲みに行って、恋人を見つけて家族を大事に......という方にはあまりおすすめしません。ファッション感覚で入ってくるにはきつい業界です。

──優秀な人に来てほしい。でもやる気のない人はおすすめしない。人材不足問題のなか、ジレンマですね。

 そうですね。ただ思うのですが、一方で業界の枠が広がり過ぎている感触も否めません。

──たしかに、放送するアニメの数が増えたり。

 そこを思い切って、縮小してもいいのかなと思います。

──1つの手として。

 また、日本が好景気になったらさらにアニメーターになる人が減ってくると思います。稼げるところで勤めたいと誰もが思うので、放送する作品数をもう少し絞ったほうがいいのではないか、広がり過ぎではないか、インフレーションし過ぎではないか、という懸念はあります。

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アニメ業界について語る門脇さん。両手は、何か歴戦の跡があるのかと思いきや、女性のようにキレイ。また、穏やかな人柄でユーモアあり。いい上司オーラがにじみ出ている

アニメ業界は、収益構造を見直す時期に差しかかっている

──こうした状況で、人材不足を補うために、国外の制作会社に制作を依頼するケースも増えたと聞きます。そうした流れや新しい仕組みについては?

 正直、不愉快ですね。

──不愉快?

「負けるなよ日本」と思います。思うけれども、人材不足は事実なので、致し方ないかなと思います。海外に出したら、作画崩れが多発するケースもありますが、そこはそれこそ総作画監督たちの頑張りどころですよね。しかし逆に、海外にも上手い方、日本の人以上にレベルの高い仕事をする方もたまにいます。

──実力のある方は、国問わず存在する。

 そういう方々を見ると「海外の方、元気だな......おい頑張れよ日本!」と最初の結論に戻ってしまいます(笑)。現在のアニメの放送数を考えると、現実的に海外に発注する流れは、TV放送の納期に間に合わせるために仕様がないと思います。

──門脇さんが将来に向けてアニメ業界に提案していきたいことなどありますか?

 円盤、つまりBlu-rayやDVDの売り上げに依存する収益構造は限界が見えていると思います。インターネット配信なども盛んになり、今まで以上にアニメを気軽に視聴できる環境になっていますので、これらの売り上げは落ちてきていると思います。既にやっていると思いますが、グッズ展開や、海外での販売をメインに据えるべきかもしれません。

──業界全体で、時代に合わせて、新しい収益構造を模索するべき時期になっていると。

 昔なら1万枚売れただろうな、というものも、売上枚数が多少なり落ち込んでいるイメージがありますので。その方向(新しい収益構造を考える方向)に舵を切ったほうがいいかなと思います。

──今まで色々とお聞かせ頂きましたが、門脇さんにとって、ズバリ「アニメ」とは?

 娯楽ですね。

──先ほど、ゲロを吐きそうなくらい描いて苦しいときもあるというお話でしたが、それでも娯楽だと言い切れる。

 視聴者側にとっては、制作側のかく汗は関係ないですからね。それは気にしていません。どなたかがおっしゃっていたのですが、僕は「一晩かぎり愛してくれたらいい」というスタンスです。その場で楽しんでくれればいいです。一夜限りの夢だと思って、みんなを楽しませるためにつくっていたい・描いていたいという気持ちがいちばん大きいところですかね。視聴者側には一夜限りでも楽しんでほしい、制作側としては一夜限りでも楽しませたい。そこが基本の関係だと思います。

──門脇さんにとって、この作画のお仕事はどんなものですか?

 体力の続くうちは、この仕事でみんなを楽しませたいと思っています。体力がなくなったら、別のことをしたいと考えていますが、何かしら死ぬまで絵を描いていきたいなと思っています。

──最後に、ここまで記事を読んだ読者へメッセージをお願いします。

 今いちばんのおすすめは、最新作『終わりのセラフ』です。そして、DVDかBlu-rayを買ってください(笑)。「円盤に頼らないように」と散々言いつつも......売れなかったら商売上がったりなので。この仕事でご飯を食べ続けたいので、気が向いたらぜひ買ってください(笑)!

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アニメ 『終わりのセラフ』公式サイトより
アニメ『終わりのセラフ』
原作:鏡 貴也、漫画:山本ヤマト、コンテ構成:降矢大輔(集英社「ジャンプスクエア」連載)
監督:徳土大介
アニメーション制作:WIT STUDIO
第2クール『名古屋決戦編』/ Second Half 'Battle in Nagoya' TOKYO MXほかにて2015年10月10日〜放送開始
URL:http://owarino-seraph.jp/

アニメ『進撃の巨人』
原作:諫山創(講談社「別冊少年マガジン」連載)
監督:荒木哲郎
アニメーション制作:WIT STUDIO
URL:http://shingeki.tv/index2.php
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