10年以上も難航した議論を経て、ようやく今月から医療事故調査制度が始まった。

 医療で「予期せぬ死亡」が起きた場合、病院や診療所が自ら原因を調べ、遺族や第三者機関「医療事故調査・支援センター」に報告することが主軸だ。

 さまざまな妥協の産物であり、特に患者・遺族側からみると多くの不満や不安が残る。

 それでも、法律による義務づけは重要な一歩である。

 それぞれの医療機関が死亡事故の原因究明に取り組み、再発防止につとめることは、遺族への対応だけでなく、日本の医療全体を前進させるために欠かせない過程だからだ。

 各医療機関は、問題が起きたときは、制度の趣旨を踏まえ、遺族の疑念を招かない公正な院内調査を徹底すべきである。

 最も心配なのは、調査すべきケースかどうかの判断が各機関にゆだねられている点だ。

 「予期された死亡」と強弁して調べもしない。そんなことがあっては真相を知る道は閉ざされる。この制度に限らず、医療界全体の信頼を損ねてしまう。

 死亡に至った経緯が患者側に具体的に事前説明されたリスクに含まれていなければ、予期された死亡とは言えまい。

 院内調査の報告書を遺族に手渡すことは努力義務にとどまった。責任追及に使われかねないと医療側が抵抗したからだ。

 肝心の再発防止策の扱いについても同様に、厚生労働省の通知は「可能な限り検討することが望ましい」との弱い表現になった。「必ずしも再発防止策が得られるとは限らない」ことに留意するとしている。

 一にも二にも、個々の医療機関と調査関係者の誠意が問われているのである。

 事故調査の大切さは、医療界も広く認めている。

 日本医師会は「院内調査委員会を指揮する委員長と、専門的な医学判断をする委員は、院外から招くことが望ましい」とする指針を公表した。ともすると閉鎖的になりがちな医療機関に「外の目」を入れるとともに、遺族の素朴な疑問を意識した積極的な活動が期待される。

 院内の調べでは決着しなかった場合に調査に乗り出す「センター」の役割も同様だ。

 人はミスをするものであり、さまざまな状況下で医療事故は起きうる。医療者への刑事責任の追及の視点からだけでは、解決しない問題も多い。

 同じ過ちが自らの施設だけでなく、他の機関でも再び起きないようにする。そのための調査制度に育てていきたい。