あまりに拙速だ。原発を抱える自治体のトップとして、責任を果たしたとはいえない。

 四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)の再稼働に、中村時広知事と山下和彦伊方町長が同意した。新規制基準ができて以来、九州電力川内原発に次いで2例目の地元同意となる。

 中村知事は、判断条件としてきた(1)国の考え方(2)四電の取り組み姿勢(3)地元の理解――が満たされた、との考えを示した。

 国の考え方とは首相ら政府のトップが事故時には責任をもって対処する姿勢を示したこと。四電の取り組みとは、同社が規制基準の要求を上回る安全対策を施したことが主な中身だ。

 だが、事故が起きれば最も対応を迫られるのは自治体だ。

 事故発生を前提に、住民を被曝(ひばく)させることなく円滑に避難させる計画を整えることは、安全上の「最後の壁」だ。自治体に課せられた義務でもある。

 知事の言動からは、その重責への覚悟が伝わってこない。

 細長い佐田岬半島の付け根にある伊方原発は、事故時の避難計画の不備が指摘されている。周辺住民の反対論も根強い。

 再稼働に前のめりな国や電力会社の対応を確かめたからといって、現時点で再稼働を認めるのは責任転嫁に等しい。

 来月初めには国が現地で総合防災訓練を実施する。県や周辺市町が避難計画の実効性を確かめる重要な機会だ。それも見ずになぜ「ゴー」と言えるのか。

 きのうの会見で中村知事は「原発は絶対安全なものではない」としつつ、「代替電源が見つかるまでは最新の知見に基づく安全対策を施して向き合っていくしかない」と主張した。

 ならばなぜ再稼働を認めるに至ったのか、最終決断を前に県民と対話する機会をもっと広くもつべきだったのではないか。

 立地自治体が再稼働への「同意権」を持つ根拠は、電力会社と結んだ安全協定にある。安全確保を電力会社や国任せにせず、住民の不安を軽減するのがそもそもの目的だ。

 だが、伊方町議会は再稼働の是非を話し合う特別委員会をほぼ非公開にした。愛媛県も知事らが住民の声を直接聞く討論会を開かなかった。住民に真摯(しんし)に向き合ったとはいえない。

 今後は、原子力規制委員会の審査が終わった関西電力高浜原発(福井県)の再稼働が焦点になる。九州電力玄海原発(佐賀県)などの審査も大詰めだ。

 自治体が再稼働の判断を急ぐ必要はない。住民を守るため、できることをすべてやったか。確かめるのが先である。