ノーベル経済学賞受賞者のロバート・マートン教授はかつて、韓国で行った講演でこう質問した。「あらゆる借金が持つ共通点は何か、分かりますか?」。ふと浮かんだ答えをつぶやいた。「返さなければいけないこと?」。マートン教授はにっこり笑って言った。「借金の共通点は一つ、借りた人が返さなければ、貸した人が貸し倒れになるということです」。考えてみればその通りだ。借金をしたからといって必ず返すという決まりはないのではないか。
歴史上で最も有名な「借金王」としては、帝政ローマ時代を開いたカエサルが挙げられる。彼の借金は軍人11万人を雇える3100万セステルティウス(ローマの通貨単位)に達した。歴史学者たちはカエサルがそれほど多くの借金ができた理由について、一度カネを貸した人は万が一でもカエサルが破産すれば返してもらえなくなるため、続けて貸さざるを得なくなるという好循環(もしくは悪循環)が生まれたと説明する。
最も多くのカネを貸していた当代きっての資産家、クラッススは、もっとカエサルにカネを貸すよう他人を説得するという「営業」までしてやった。借金をした人が破産すれば貸した側も共倒れになるという図式は、今も変わらない。
米国にはこんなことわざがある。「数千ドル(数十万円)を借りれば銀行があなたを所有するが、数千万ドル(数十億円)を借りればあなたが銀行を所有することになる」。数万ウォン(数千円)を返してもらえず気をもんだ経験のある人なら、金を貸していながら立場が弱くなることがどれほど苦々しいものか分かるだろう。これは個人同士の小銭の貸し借りにだけ当てはまるわけではない。ギリシャに融資した欧州の国々が「債務を減らしてくれなければ返済しないかもしれない」と言い張るギリシャに振り回され、世界経済が揺らいだのはわずか数カ月前のことだ。また、分不相応な住宅ローンを負い、金利が上昇すると口々に「返せない」とわめいた米国の債務者たちは、世界を襲った2000年代末の金融危機の引き金となった。