海を飛ぶ高速船ジェットフォイル、消滅の危機 災害時に有用も

ボーイング929の未来は? 迫る“決断”のタイムリミット

 ジェットフォイルは、「ボーイング929」という正式名称から分かるように、米国ボーイング社が1970年代に開発したもの。その後、川崎重工が、生産から撤退したボーイングより独占的建造のライセンスを取得しました。川崎重工でジェットフォイルのライセンス導入を担当した神林伸光・特別顧問によると「ライセンス取得当時に想定した需要に近い船会社、航路に販売できた」とのこと。そこで新造船の発注は止まってしまったのです。

 ジェットフォイルは特殊な構造のため、建造するには専用の生産設備と部品の供給ルートが必要です。しかし「搭載する機器のメーカーは5隻分、ウォータージェット推進機については10基分のロットがまとまらないと、生産できないと言ってきている」(川崎重工)とのこと。20年間、発注が止まったことで消えた生産体制。それを再び復活させるのは、相応の需要がなければ、採算が取れないため難しいといいます。

 1社からの単独発注で、このロットを満たすことは困難です。そこで数社がまとまっての発注も考えられていますが、船の価格が20年前に比べて高騰していることもあり、経営が苦しい離島航路の各社にとっては難しい状況になっています。

東海汽船は東京・熱海~大島間を中心にジェットフォイルを運行(画像提供:東海汽船)。

 そうしたなか、“決断”のタイムリミットも迫ります。機器メーカーや造船所は、ほかの船に応用できないジェットフォイルの特殊な生産体制を整えたまま、発注の再開をずっと待つわけにもいかないからです。

 ここでジェットフォイルの生産再開が実現しなければ、この有用な高速船を国産する技術、部品供給ルートが途絶えてしまう可能性もあるでしょう。

 なお、離島航路の高速船の場合、その公共性から、地方自治体の助成を受けている会社も多くあります。伊豆大島の災害時に示されたように、ジェットフォイルは離島の住民にとって命綱ともなる存在です。

 その新造船の発注について、行政からの支援も含めて、はたして船会社と造船所が実現に向けた良いアイディアにたどり着けるか、いま、正念場を迎えています。

【了】

Writer: 若勢敏美

1949年生。業界紙を経て、1980年海事プレス社に入社、89年雑誌「CRUISE」創刊に参画、90年から編集長。2008年海事プレス社社長、12年退任。この間取材、プライベートを含め35隻の客船に乗船、延べ55カ国を訪問。地方自治体や業界団体主催の講演会など多数出席。

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