「面白くない」スランプ

ここ一年以上悩まされてきました。
まったく話や漫画が作れなくなってしまったのです。

話をつくるとき、まず「こんなキャラを書きたいな」とか「こんな話にしたい」とか

なんでもいい、ささいな種を土に植えるところから私は始めます。
その種が「こういう展開になったらいいな、面白いな」の妄想の水で成長して、
木になりお話になります。

ところが種を植えても一向に芽が出ない。
生えてきても、みっともなくてとても表にだせる代物ではない。
どうしちゃったのか。

種が悪いのか? 
いや、いままでどんなチープな種でも完成まで育てていたし、自分なりに楽しく育てていた。
それならば妄想の水が出てこなくなってしまったのが悪いのではないだろうか。
どうして出てこなくなってしまったのか?



「スランプ」という言葉は優秀な三割打者が使うべき言葉で、
私のような未熟者が使うべき言葉ではないのは承知ですが、
ほかに適した言葉を知らないので使わせていただきます。
この現象が「スランプ」だとして、私はどうしたらいいのだろうか。

まず順当な解決法としてよく言われていることは

  1. スランプなど幻想だ、書きまくれ
  2. あなた疲れているのよ、書くのをやめなさい
  3. インプットが足りないだけだ、他の人の作品、名作を見なさい

ではないでしょうか?
私も真っ先にこのどれかで治るものだと思いました。
いままでも、この3つのどれかで大体復活できていたのですから。

とにかく3つを試すことにします。

1、スランプなど幻想だ、書きまくれ
そもそも書けないことがスランプで、ずっと机の前にいた上での悩みでした。
一日机に張り付いても何のきっかけすらつかめない、
もうずっと私は書けないのではないのだろうか…次第に精神が病んできました。
これはだめだ悪化していく!

2、あなた疲れているのよ、書くのをやめなさい
「魔女の宅急便」のウルスラ理論です。「描くのをやめる!」
すっぱりやめました。何も考えず過ごしました。
ですがそれはそれで、描かない生活に馴染んでいきました…。まさにダメなループです。
自己嫌悪になり、どんどん自分を責めていくばかり。体調も崩すなど踏んだり蹴ったりでした。
やっぱり解決のために、なにかしていたほうが、精神的にもよさそう。

3、インプットが足りないだけだ、他の人の作品、名作を見なさい
元々映画が好きで一ヶ月30本近く見ている人間でした。
ですが、この時期は映画の他にも、興味のあった小説漫画ドラマなども片っ端から見ました。
しかし、いい作品を見ていくうちに、
「世の中にこんなにいい作品があるなら私は描かなくていいのでは…?」
と闇の思考が湧いてくるのです。

まさに何をしても自己嫌悪!!最悪です。
元々ネガティブ思考な人間が輪をかけて、ダメな思考になっていく。
そうなるといろんな人の意見や助言も頭に入っては来ませんでした。
掃除をする、運動をする、旅行にいく…世の中には
いろんな方のスランプ解決法があるとも知りました。
アドバイスを受けて試したものもあります、ですがやはり何か違うような気がするのです。



「スランプ克服の法則」 PHP新書/岡本浩一著
まさにストレートなタイトルの御本ですが、それによると

スランプに陥ると「学習性無力感」つまりやる気の起こらない状態に陥る。
研究者の中には軽度の鬱に似ている、あるいは
放置すれば鬱のほうに向かって進行し得るもの、なのだということ

(要約しました)

スランプ恐ろしい!

スランプとはいままでの努力が通用しなくなる状態、
努力の方向を変えない限り出口が見つからない状態であり、
それに気が付かず従来の努力をやっては実らないサイクルを繰り返している

(抜粋、要約しました)

そして無力感に至る…

まさにこれです…無力感陥りまくりです。
ということは「何か」を変えなきゃいけない時期なのでは?
人の解決法をやみくもに試してみてるだけではダメなのでは。
病気のように、原因を知らなければ、対処が出来ないのでは?と考えたのです。



「なぜ自分はスランプに陥ったのか」
明確な自分の答えを探し始めました。

悩んでいても一向に光が見えず、
ネットや本、さまざまなジャンル、媒体から答えを探し始めました。
そしてさまざまな意見に目を通していくうちに、気がついたことがありました。

「書きたい!書けない!なぜだろう?」 マリサ・デュバリ著

ハリウッドのシナリオのスペシャリストの方の著書です。
この御本の「スランプのしくみ」の項目抜粋します。

斬新なアイデアやワクワクするような新しいイメージが浮かんだ時、
それについて考えをめぐらしたり紙に書きだす前に、合理的な左脳が厳しく検閲する。
それが続くとライターはスランプに陥る。
創造的な右脳が素晴らしいアイデアを思いついても、
表層意識が「くだらない」と却下するのである。
そうなると私達は落ち込んでだんだん不安になったり、
消極的になったりして行き詰まってしまうのだ。

私にとって、しっくりくる答えだと思いました。
確かに私は良い作品を作りたいと思うばかり、
アイデアの段階、冒頭でいうと種の段階ですら
「面白くない」と脳内で何度も却下をしていました。
次第に自分には良いアイデアがない…と悲しくなり、
ますます何も思いつかなくなる一方でした。
良い物を作りたいと思う心が、余計に妄想の水を枯渇させていたなあ、と。


またもう一冊
新インナーゲーム W.T.ガルウェイ 著
突然ですが、テニスの上達法の本です。
テニスやってる方にはすごい有名なのだそうですが門外漢ですみません…
存じ上げませんでした。

ですが、書かれている上達法は何事にも通じることだと思います。

自分をセルフ1とセルフ2に分けて考える。
セルフ1は自分。「いいぞいいぞ」とか褒める言葉や
「なにやってんだダメじゃないか!」と叱責する言葉を投げかけてくる存在。
セルフ2は自身。つまり身体、本能です。

セリフ1の言葉は勝負に勝ちたいとか、失敗の恐れから発せられるものであり
その言葉が強ければ強いほど、セルフ2は萎縮して上手く行かなくなっていく。
テニスもそうなんですね。
ダメ出しコーチが居たら、そりゃだんだん萎縮しますよね…。

セルフ2を信じることを推奨している本です。
プロ選手がベストパフォーマンスになる「ゾーン」の話をよく聞きますが、
「身体が勝手に動く」や「自分を客観視しているようだ」など人それぞれですが
そこに言葉や思考はないのだと。
まさに「考えるな、感じろ」です。

セルフ2を信じて、楽しんでやることこそ上達の近道だと教えてくれます。
そして、まさにこのセルフ1が自分のなかで大騒ぎして、
邪魔をしていたのだと気が付かされてしまったわけです…。


なるほど、
自分で否定の言葉を投げかけて、
自分で勝手にスランプに陥っていたのか。
そりゃ、ちょっと描くのやめたり、作品みたり、描きまくっても解決しないや!!
必要なのは自己改革だったのだから。

それならば、
「自分の考えを否定しない、自分のアイデアを肯定して、楽しんでやる」と
いい流れに持っていけるはず。

でもなんで、こんなに重責を感じながらやっていたんだろう。
そこで思い出したのが、以前に観たTEDのあるプレゼンでした。


世の中のすごい人たちがプレゼンでいろんな知識を教えてくれる「TED」
その動画の一つ、ベストセラー作家のエリザベス・ギルバートさんのプレゼン
「創造性をはぐくむには」
 
エリザベス・ギルバート “創造性をはぐくむには”
https://www.ted.com/talks/elizabeth_gilbert_on_genius?language=ja

NHKでも紹介された有名なプレゼンです。
和訳タイトルはちょっと内容と齟齬があるような気もしないですが
元タイトルは「Your elusive creative genius」
20分くらいの面白いプレゼンなのでぜひ観ていただきたいです。

「作家がスランプの重圧で悩んで死んでいくのはおかしいのではないか。
古代ギリシャローマでは創造性は作家のものではなく、
ジーニアスという精霊が与えるものという考えであった。
失敗しても作れなくても、それはジーニアスのせい。作家が悩むことではない」

作家と作品との精神的な距離がありました。
創造性は自分の中にあるものではなく、ジーニアスという考え。

以前拝見したときは、
こんな考えもあるのか、面白いな、程度の意見でしたが、
今ではすごくずっしりくる動画に変化していました。

重責を感じる必要なんてないじゃないか、楽しんで物を書こう!!と
思わせてくれました。
おいでジーニアス!!!