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下町のメカニックが切る VW問題は日本なら無罪放免 カタログ燃費と実燃費の乖離が問題 - ゴン川野

東京の下町で絶版車を含む世界の自動車修理をなりわいにしている「両国ホンダモーター」の頑固オヤジ小野田博さんに、世界を揺るがせたフォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車排ガス不正問題についてインタビューした。さまざまなクルマの修理と調整をおこなってきた小野田さんは、この問題をどう捉えたのか。

Defeat Deviceの正体とは

まず、気になるDefeat Device(ディフィートデバイス/無効化機能)と呼ばれるプログラムについて聞いた。

小野田 VWのクリーンディーゼルはボッシュが製品化したコモンレールシステムを採用しています。これは高圧にした燃料をECU(電子制御ユニット)でインジェクターから噴射、燃料を微粒子化して完全燃焼をうながしPM(粒子状物質)の発生を抑える仕組みです。

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問題となったTDIエンジン(Getty Images)

 一言に高圧と言っても、深海2万メートルの水圧に匹敵する1100〜2200barという超高圧で、この圧力に耐えるための加工精度、特殊な構造を実現したのがボッシュです。コモンレールシステムは高圧サプライポンプ、圧力センサ、圧力リミットバルブ、高圧インジェクタ、噴射制御ユニットなどから構成され、これら全てがボッシュのパーツで構成されています。

 制御プログラムもボッシュが作成しています。プログラムは国別及び車種別に用意されECUのEP-ROMにクルマが完成してから書き込んでいると思います。Defeat Deviceは、シャーシダイナモ上でおこなわれる排ガス試験の時だけ、正規のプログラムを動かし、クルマが公道上を走行するときは、これを無効にします。なぜこんなことをするかと言えば、ディーゼルエンジンで気持ちよく走ろうとすると、有害物質の排出レベルが上がるからです。

NOxとPM、対策が面倒なのはNOx

ディーゼルエンジンの排ガスで規制される有害物質はNOx(窒素酸化物)と、PM(粒子状物質)である。NOxはNO(一酸化窒素)とNO₂(二酸化窒素)を意味する。簡単に言えばアクセルを踏むと出るのがNOx、ノロノロ走っていると出るのがPMだ。峠道を気持ちよく走るため激しく加減速をくり返せば、ターボチャージャーが働き過給された空気中の窒素が燃焼、NOxが大量発生する。

小野田 PMとNOxのどちらがやっかいかと言えば、NOxですね。PMはDPF(Diesel particulate filter/黒煙除去フィルター)と呼ばれる装置を使って、集めておいて燃焼させることで除去できます。これに対してNOxは尿素SCR(選択還元触媒)という装置を使います。これは触媒の働きを使うのですが、尿素水のタンクを設けて、適正な量の尿素水を適正なタイミングで噴霧して、排ガスとミックスさせてやる必要があります。

 さらに、例えばタンクの容量15Lで2万キロを走ったら補充するなどのメンテナンスも発生します。VWが採用したボッシュのシステムはこれにLNT(NOx吸蔵還元触媒)を組み合わせたものです。LNTを働かせると燃費は悪化します。Defeat Deviceは排ガス測定試験の時は、尿素水を大量に噴霧してPMを抑え、LNTを正常に働かせていたと思われます。公道走行時には尿素水を控えめにしてLNTも最低限、ターボの吸気量を増やして気持ちよく加速できるようにしたと考えられます。

Defeat Deviceに対して日本は罰則規定ナシ

VWは、Defeat Deviceを搭載したディーゼル車が日本に1台も輸入されていないため問題はないとしている。ではもし日本に正式にこれらのディーゼル車が輸入された場合、巨額の罰金が科せられることになったのだろうか。


小野田博さん

小野田 日本でディーゼル車規制が厳しくなったのは2011年からで、当時、東京都知事だった石原慎太郎氏が、いすゞ自動車のトラックのNOx排出濃度が、60キロ定常走行時にJE05モード(モード=排出ガスや燃費を測定するときの走り方)時の約4倍になることを見つけて、国土交通省と自動車メーカーにDefeat Device対策を求めたのがきっかけでした。国土交通省はDefeat Deviceに対するガイドラインを策定。これにより日本の自動車メーカーは乗用車のハイブリッド化に取り組みました。しかし、国土交通省のガイドラインは、車両総重量3.5トン超のディーゼル車が対象でした。

 つまり、乗用車に適応されないため、VWは無罪放免ということになります。アメリカもEU(欧州連合)もDefeat Deviceの禁止が明文化されていますが、日本はこの点で遅れをとっていますね。それから、Defeat Deviceは完全に禁止されているわけでなく、JE05モードでの作動、エンジン等の保護及び車両の安全確保に必要、エンジンの始動時及び暖機過程時にのみ必要な場合、そして有意な差として一定時間以上の走行において20%以上のものという条件があります。

 いろいろ突っ込み所満載ですが、問題なのは「JE05モードでの作動」なら許可するという部分です。つまり燃費テストプログラムに最適化された燃焼マップを実装してもいいことになります。これは乗用車のJC08モードでも行われてることでディーゼル車もこれに準じますが、国際的な基準から見ればおかしな話です。

カタログ燃費と実燃費の乖離が問題

カタログ燃費と実燃費には乖離があることは、自動車の世界では当然のように思われており、ディーゼル車はハイブリッド車に比較して乖離が少ないことがウリだったが、Defeat Deviceを使っていればそれも当然である。この乖離については各国も問題視しており、日本でも「10モード」から「10.15モード」、そして2012年からは本格的に「JC08モード」を採用している。

小野田 カタログ燃費がいいのは、シャーシダイナモメーターと呼ばれるクルマを載せる巨大な装置の上でタイヤを回して測定してるからなんです。気温、湿度などが管理された状況下で燃費測定専門のテストドライバーがローラーの上を走行して測定します。これを路上で再現することは不可能ですから、実燃費は永遠にカタログ燃費に追いつけません。

 今回のVW事件もNOx排出量がテストと実際の走行時で大きく乖離していたことが始まりました。ウエストバージニア大学、主任研究員グレゴリー・J・トンプソン博士による研究で、ディーゼル車で実際に公道を100回走行してNOxとPMを測定したところ最大40倍の乖離が見つかったのです。ちなみに測定に使用した車載型排ガス測定システムは日本の堀場製作所製の「OBS-2200」が使われました。

 燃費やNOxを測定するためのテストサイクルは、年々、見直されて進化を続けていますが、新しいテストサイクルが実施されれば、メーカーが対策してテストの結果だけを良くしようするイタチごっこが続きます。ヨーロッパではUNECE(国際連合欧州経済委員会)によって燃費と排ガス測定を統一してテストできるWLTC(World Harmonized Light Duty Test Procedure)の採用が進められています。

 一方、EUの欧州委員会もRDE(Real Driving Emission)と呼ぶ新たな測定方法を検討しています。シャーシダイナモ上で決められたパターンを走るのではなくランダムに走行させたり、実際に公道走行による計測などが盛り込まれています。こうしたテストサイクルが採用されれば、Defeat Deviceを使った不正が入り込む余地は少なくなるでしょう。

 余談ながらウエストバージニア大のテスト結果グラフを見ましたが、VWのエンジンはかなり効率の良いエンジンのようです。上にも書きましたが、NOxとPMは相互する関係があるのでNOxの除去技術が進めば、元々CO₂の排出量も少ないし、もっと光が当たっても良いエンジンではないかと思います。VWの名誉のために付け加えておきます。

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