渡辺純子
2015年10月26日16時52分
ボン!という大きな音で、米粒が大きく膨らむポン菓子。産直所で見かけると、子どものおやつについ買ってしまう。最近はいろんな種類があり、専門のカフェもある。そのポン菓子をつくる国産第1号機は九州生まれだ。古くて新しいポン菓子の世界を探った。
ポン菓子は穀類を加熱して圧力をかけ、一気に減圧して膨らませたもの。1900年ごろ米国かドイツで機械が生まれたとされる。その国産機を開発したのは北九州市戸畑区の吉村利子(としこ)さん(89)。
大阪に生まれ、44年に国民学校の教師になった。当時は食糧も燃料も足りず、子どもたちはやせ細っていた。「消化のよいものを、おなかいっぱい食べさせてやりたい」。そんなとき、幼いころの光景を思い出した。
広場に「黒いバケモン」が来て大きな声で鳴いた。後から行くと膨らんだ米粒が落ちていた。口に入れると軟らかかった――。
吉村さんは後に図書館で調べ、それが外国製の穀類膨張機だと知っていた。「あれがあれば子どもたちを救える」。知人の手を借りて設計図はできたが、作るには鉄と職人がいる。「いま鉄があるのは福岡の八幡(今の北九州市)だけ」。そう聞いた吉村さんはおなかに設計図を巻き付け、ひとり九州へ。作ってくれるという職人を探し出し、45年夏に第1号機を完成させたという。吉村さんはその職人と結婚。ポン菓子機の製造販売を始めた。
戦後も食糧難が続くなか、ポン菓子機は全国に広がった。愛媛大の和田寿博教授によると、復員した兵士が移動販売で生計を立てるケースもあった。ポン菓子の呼び名も地域それぞれで、愛媛県では結婚式の引き出物になるという。
スナック菓子が出回るようになり、ポン菓子は一時衰退。近年、自然食品として再び見直されてきた。基本の原料は穀類と砂糖、塩。油も添加物も不要。玄米やトウモロコシ、大豆もポン菓子になる。栗も、ほっくりした焼き栗になる。
愛知県南知多町には昨夏、ポン菓子専門の「ぽんかふぇ」が開店。イチゴやキャラメルなど、いろんな味のポン菓子が並ぶ。北海道知内町の「やごし本舗」が3年前に売り出した「ドン・デ・マカロニ」は、マカロニのポン菓子(北海道では「ドン菓子」)にバターと砂糖をまぶしたもの。一時は生産が追いつかないほどの人気だった。
吉村さんは今も、長女の真貴子さん(61)とポン菓子機の出張実演に出かけている。長男の文明さん(67)は02年、東京にポン菓子機製造販売会社を設立。家庭で使える小さな「スタイリッシュ・ポン菓子機」を開発中だ。すでに試作品は完成した。「ポン!とお米が膨らむ瞬間を、一般の人にも楽しんでほしい」(渡辺純子)
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朝日新聞社会部
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