8月終わりのこと。米大リーグのあるチーム関係者が、マーリンズのダン・ジェニングス監督のところへ歩み寄って、スマートフォンを差し出した。
「これを見てくれ」
画面に映り込んでいたのは若きイチローの姿だ。当時、22歳。ジェニングス監督は「イチローが投げていた」と笑みを浮かべる。
「しかも、結構いい球を」
■ジェニングス監督から「投げられるか」
1996年7月、イチローは東京ドームで行われたオールスターゲームの第2戦で登板したが、そのときの映像が今年、一部の米メディアで話題となり、やがて米球界全体に広まった。それがジェニングス監督のところまで届いたというわけだ。
その後、ジェニングス監督はニンマリして、イチローに声を掛けている。
「投げられるか?」
そのときのことをイチローがこう振り返った。
「監督からはちょっと前に言われてたんですよ。状況によっては、そういうこともあるかもと」
“状況”とは、延長戦で投手を使い果たしてしまったり、大差がついて試合が決まり、負けているチームがそれ以上リリーフ投手を使いたくなかったりするような場面だが、「なかなかそういうシチュエーションがなくて」とイチロー。実際、そのままシーズンが終わるかと思われたが、10月4日の最終戦、七回に差が開き、おあつらえ向きの展開となった。
「今日は最後だし、4点ビハインドでしたから」
声を掛けたのは、イチローの方だという。ジェニングス監督によれば、八回表、先頭打者のイチローが、ネクストバッターズサークルで打席に入る準備をしているときに、話しかけてきたそうだ。
“You thinking about it?”
意訳すれば「この裏から、僕に登板させることが頭にありますか?」ということだが、監督はといえば、きょとんとしていたようだ。
「びっくりしてましたよ」とイチロー。「監督は自分でそうはいったものの、という感じだったんじゃないですかね」
ただ、監督の決断は早かった。
「行ってこい」
■日本では侮辱的行為と捉える向きも
さて、こうして野手が登板することは、日本では侮辱的行為と捉える向きもあるようだ。
イチローもその点を懸念しながら、マウンドに上がった。
8月終わりのこと。米大リーグのあるチーム関係者が、マーリンズのダン・ジェニングス監督のところへ歩み寄って、スマートフォンを差し出した。
「これを見てくれ」
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