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生活保護のリアル~私たちの明日は? みわよしこ

「生活保護で子だくさん」は罪なのか?
体験者だから語れる本音の解決法

みわよしこ [フリーランス・ライター]
【第27回】 2015年10月23日
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 その間にも、家庭の状況はさらに悪化していった。自慢の一軒家を売って借家に引っ越し、外国車も売った。それでも家計は火の車。父親が家にいるのは1ヵ月に1日か2日。家にお金を入れるのは「たまに」だ。エツコさんが中学2年の12月まで、なんとか工場で働き続けてきた母親も、中学3年の4月、持病を悪化させて入院。一家は、同居していた母方祖母の老齢年金と、母方叔父からの仕送りと、父親の当てにできない生活費だけで暮らし続けた。

 「母親の医療費が大変で、医療費貧乏だったよ。でも、母親が入院するちょっと前から、福祉の相談員のような人が、しょっちゅうウチに来るようになった。たぶん母親が民生委員さんか誰かに、『生活が立ち行かない』と言えたんだと思う」

 しかしエツコさんは、家事や妹・弟の世話を担いながら、乏しい生活費から母親の治療費の工面に苦労する中学3年生だった。

 「『お姉ちゃんなんだから』って期待されるのが、もうイヤで苦痛で、足かせで。逃げたかった。『親父を殺したら、どんなに楽になれるだろう』って、何回も思ったよ」

 エツコさんが中学3年の10月、母親は病院で亡くなった。エツコさん一家には、母親の遺体を家まで運ぶための搬送車を依頼する費用もなかった。母親が生活のために積み重ねた借金は、700万円にまで膨れ上がっていた。その借金を相続した父親は、しばらく逃げ回った末、結局は自己破産した。同居していた母方祖母は、父親とのトラブルから「泣きながら家を飛び出した」そうだ。

貧困の中での高校進学が
生活保護利用のきっかけに

 混乱の中でも希望を失わなかったエツコさんの行きたかった高校は、自転車で片道2時間の距離にあった。通学の交通費を考えると、断念せざるを得ない。エツコさんは、自転車で通える範囲にある「ヤンキー高校」を受験し、首席で合格した。しかし、高校進学に必要な制服など数多くの費用を用意することは困難だった。そこでエツコさんは中学校に事情を話し、生活保護ケースワーカーと面談。実情を話し、父親と子どもたち3人で生活保護の利用を開始することになった。

 エツコさん中学3年の3月だった。近隣の住民から相談を受けていた児童相談所も助言を行い、父親は別世帯扱いとなった。エツコさんを「世帯主」とする姉弟3人の世帯に、生活保護で給付された生活費は、1ヵ月11万5000円。なんとか暮らしは成り立つはずの金額だった。生活保護の医療扶助が利用できるようになったので、治療できずにいた弟の虫歯も治療を開始できた。

 「ケースワーカーは中年の男性で、よく相談に乗ってくれる、いい人だった。最初から『いつかは脱却するための生活保護だから』と言って、ウチの収入の状況がどうなったら生活保護を切られることになるのかを教えてくれて。高校時代の私のバイトも『働き損』にならないように、『収入認定で持っていかれないように、この金額までセーブして働いて』とかアドバイスしてくれてた」

 エツコさんは家庭を支えながら高校に通い、マクドナルドで毎日、1日3時間、時給1000円のアルバイトにも励んだ。しかし父親は、たまに帰宅してはエツコさんにお金をせびり、しばしば酒に酔って他人の車や塀を壊した。エツコさんは、生活保護費から弁償費用を工面することになった。

 「何回も、『高校辞めて働きたい』と、ケースワーカーに言ったよ。すると『でも、女の子が家族を養う仕事をするのは大変だよ。結局は水(水商売)になる。おじさんの目の前で、水はやってほしくないなあ。高校を出たら、事務でもなんでも、会社に入ればいいんだから』って言われて」

 エツコさんが高校を卒業した1993年は、「バブル経済」が終わり、就職氷河期にさしかかったところだった。正社員としての就職が叶わず、しかたなく派遣社員になったエツコさんは、仕事ぶりを認められて正社員になったが、結局「派遣上がり」は正社員と差別されつづけることに嫌気がさして退職。その後、さまざまな職業を転々とし、新聞販売店の正社員となった。

 その間に、2歳下の妹が中学を卒業してクリーニング工場に就職。4歳下の弟も、中学を卒業してスーパーに就職した。エツコさん18歳の11月、姉弟3人の収入で、一家は生活保護から脱却した。

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みわよしこ [フリーランス・ライター]

1963年、福岡市長浜生まれ。1990年、東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了後、電機メーカで半導体デバイスの研究・開発に10年間従事。在職中より執筆活動を開始、2000年より著述業に専念。主な守備範囲はコンピュータ全般。2004年、運動障害が発生(2007年に障害認定)したことから、社会保障・社会福祉に問題意識を向けはじめた。現在は電動車椅子を使用。東京23区西端近く、農園や竹やぶに囲まれた地域で、1匹の高齢猫と暮らす。日常雑記ブログはこちら


生活保護のリアル~私たちの明日は? みわよしこ

生活保護当事者の増加、不正受給の社会問題化などをきっかけに生活保護制度自体の見直しが本格化している。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を紹介しながら、制度そのものの解説。生活保護と貧困と常に隣り合わせにある人々の「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

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