環太平洋経済連携協定(TPP)について、政府が関税の交渉結果を公表した。

 9千余の品目のうち最終的に関税をなくす物品の割合は95%に達し、農林水産分野での撤廃率も8割を超える。日本がこれまで結んできた自由貿易協定の自由化水準を大きく上回る。

 国内の農林水産業への影響は避けられず、政府は対策の検討を急ぐ。90年代のウルグアイ・ラウンド(多角的貿易交渉)でコメ市場を一部開放した際は、「金額ありき」で6兆円もの予算が投じられた。しかし農業関連の土木工事などが中心で、必ずしも農業の強化につながらなかった。同じ過ちを繰り返す余裕は、日本の財政にはない。

 危機感を募らせた農業団体が集会を開き、農林水産分野の族議員に圧力をかける。政府・与党も選挙での支持を期待して要求に応える。そんな構図とは決別しなければならない。

 対策について、甘利TPP相は「影響を受ける損失部分を補填(ほてん)するというより、(海外市場などに)打って出ていくためにどう強化していくかだ」と強調する。一方、農協組織のトップ、全国農業協同組合中央会(JA全中)の奥野長衛会長も「予算は国民のおカネであり、消費者の理解がないものはいただけない」として、政策の積み上げで提言をまとめる構えだ。

 農家の平均年齢は66歳を超え、後継者不足は深刻だ。耕作放棄地の増加にも歯止めがかからない。そんな状況の中で、「政」と「業」の関係はいや応なく変化を迫られている。

 「農協は農家や農業の役にたっているか」との問題意識から始まった農協改革論議は、農協法の改正に行き着いた。

 全中を一般社団法人に衣替えし、各地のJAには経営に精通した人材を役員に登用しつつ自主性を発揮するよう求め、「農業所得の増大に最大限の配慮をする」とうたわれた。

 今夏に全中会長に就いたばかりの奥野氏は、大学生時代に生活協同組合の活動に情熱を注いだ経験も踏まえ、農業者の枠を超えて「消費者との連携」の大切さを強調している。

 世論調査でTPP大筋合意を評価する人が多数であることからも見てとれる通り、「安さ」を求める消費者は多い。一方で、「安全・安心」の観点から国産品へのこだわりも根強い。

 両立は簡単ではないが、こうした声に耳を傾けて国民が納得できる対策と予算を示せるか。政府・与党とJAは、政策本位の新たな関係が求められていることを忘れないでほしい。