これとは別に、契約が決まった際に不動産のオーナーが不動産屋に支払う「広告料(別名・AD)」なるものがある。それは物件を契約した人が支払う金とは別で、不動産のオーナーが不動産屋に直接支払う謝礼金のようなものだ。

「我々不動産屋は物件ごとに何か月分の広告料がついているかわかっていますが、お店に来たお客さんからはそれがわからないようになっています。たとえば、家賃10万円で仲介手数料はゼロだけど、広告費は2か月という物件があったとします。この物件をお客さんに契約させれば、我々の懐には20万円が入ってくるわけです」(T氏)

 広告料は、物件によって異なり、まったく出ないものもあれば、3か月分出るものもある。T氏の収入は、この広告料によるものだ。契約を決めた物件の広告料のうち、6割がT氏、残りの4割が不動産屋に支払われる。むろん、これはオーナーから支払われるものだが、もともとは借り主から得た金をまわしているもの。客は知らずに不動産屋に広告料を払っているのだ。

◆完全紹介制だから金持ちがやってくる

 T氏の顧客は、全員が当時勤めていたころの不動産客からの紹介によるもの。大手企業の社員からキャバ嬢、飲食店店長まで多岐にわたる。

「数百人のお客さんと知り合っておけば、いつだって引っ越しの相談が来るんですよ。ちょっと考えてみてください。いま、自分のまわりに引っ越しを考えている人っていませんか? 一人くらいいるでしょ。そういう人に、前のお客さんが『知ってる不動産の人がいるよ』ってオレのことを紹介してくれるんですよ。賃貸不動産ってどこで契約しても同じだから、契約させる力を持っていればいくらでも稼げるんです」(T氏)

 嬉しい誤算は、会社の社長や風俗嬢など、普通に店を開けていれば知り合わない客たちと知り合えたことだ。こうした職業の人たちは、駅前の不動産屋にフラッと入って物件を決めることに抵抗があるという。

「金持ちだからこそ、一回きりの関係になる営業マンに適当な物件を紹介されるんじゃないかって警戒してるんです。オレはお客さんと長期的な関係を結ぶから、騙すようなマネはしない。この手の金持ちを一回契約させると得られるバックは20万から100万円になります」(T氏)

 大学時代から今までを振り返ったT氏は「オレのような低学歴は、客を持てば独立できる業界に入れば一発逆転がある」と説く。

 契約額が大きく、客が途絶えない賃貸不動産ビジネス。彼のようなコミュ力があれば、大企業社員の年収を遥かに超えた額を稼ぎだすことも夢ではないのかもしれない。

「いま、オレみたいな仕事をしている人は、まわりに少なくとも3人はいます。全員年収は2000万円を超えている。今さら会社員なんてバカらしくてやってられないですよ。マイナンバー制も始まることだし、そろそろ法人化する予定です」(T氏)

<文・日刊SPA!取材班>