防衛省と陸海空自衛隊の武器取得関係部門を集約・統合した防衛装備庁が1日発足しました。武器の輸出や国際的な共同開発・生産を推進し、米国など他国との軍事協力を深化させるとともに、日本国内の軍事産業の育成・強化を図るのが、大きな狙いの一つです。専門家から“軍産複合体”の促進につながる危険も指摘されており、憲法の平和主義を踏みにじる重大問題です。

“死の商人”の要求受け

 防衛装備庁は防衛省の外局として、武器の研究開発・取得・補給・管理などを一元的に扱います。安倍晋三政権が昨年4月に決定した「防衛装備移転三原則」に基づき、武器の輸出、国際共同開発・生産の促進も任務にします。

 「防衛装備移転三原則」は、憲法の平和主義の下で歴代政権が維持するとしてきた武器輸出禁止の基本方針(武器輸出三原則)を撤廃し、武器輸出推進の道に公然と踏み出すものでした。

 これを受け、昨年6月には防衛省が「防衛生産・技術基盤戦略」を発表し、政府を挙げて軍事生産・軍事技術の基盤を育成・強化する重要施策の一つとして、米国をはじめとする他国との武器の共同開発・生産の推進を打ち出しました。今年4月に策定された新たな「日米軍事協力の指針(ガイドライン)」でも、米国との「防衛装備・技術協力」の「発展・強化」が明記されました。

 武器輸出推進への大転換の下、安倍政権は既に、米国への地対空ミサイルPAC2の部品輸出、英国との空対空ミサイルの共同研究、オーストラリアの次期潜水艦共同開発への受注競争参加などを進めています。こうした武器の輸出、国際共同開発・生産の動きは、防衛装備庁の発足によってさらに加速させられることになります。

 防衛装備庁が大学や研究機関を軍事研究に動員し、「産」「官」に「学」を加え、軍事生産・軍事技術の基盤強化を図る体制づくりを狙っていることも重大です。

 防衛省が今年度から始めた「安全保障技術研究推進制度」として、武器開発に適用可能な研究に資金提供をします。大学などを軍事研究の下請け機関に変質させ、憲法で保障された「学問の自由」を侵害するものとして許されません。

 防衛装備庁の発足に当たり、軍事産業の利益拡大のため、財界の要求が強まっていることも見過ごしにできません。

 経団連が「防衛装備庁の政策に産業界の考えを反映させる」ために発表した提言(9月15日)は、戦争法の成立による「自衛隊の国際的な役割の拡大」とそれを支える「防衛産業の役割」の高まりを指摘し、「政府の関連予算の拡充」、軍事費の一層の増額を要求しています。さらに“死の商人”として武器輸出を「国家戦略として推進すべき」だと求め、国の政策への介入姿勢をあらわにしています。

癒着構造はそのままに

 防衛装備庁は、5兆円近い軍事予算の約4割に当たる2兆円を握るとされます。同庁の発足はもともと武器の取得をめぐる数々の不祥事を発端にしていましたが、天下りを通じた防衛省・自衛隊と軍事産業の癒着構造はそのまま残されました。問題の大本には一切手を付けず、憲法の平和主義を踏みにじる施策に奔走することなど到底許されません。

 

武器輸出イコール軍拡なのか 結果的には安全保障も強化される 

2015.10.02 夕刊フジ

 10月1日に防衛装備品の研究開発や調達、輸出を一元的に管理する防衛装備庁が発足した。安保法制と絡める形で、「安倍晋三政権が軍拡に手を貸す」などと批判する声もあるが、武器輸出が軍拡や戦争につながることになるのだろうか。

 まず、日本の「武器輸出三原則等」を説明しよう。1967年4月21日に佐藤栄作首相(当時)が衆院決算委員会で答弁した「武器輸出三原則」は、(1)共産圏諸国向け(2)国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向け(3)国際紛争の当事国又はその恐れのある国向け−の場合には武器輸出を認めないという政策だ。

 一方、76年2月27日に三木武夫首相(同)が衆院予算委で答弁した「武器輸出に関する政府統一見解」は、(1)三原則対象地域については「武器」の輸出を認めない(2)三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする(3)武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする−という方針である。

 いずれも武器の輸出許可方針であり、武器輸出禁止政策ではない。しかも法律に明記されたものでもなく、政府内にある運用方針だ。

 この運用原則には例外が多く存在していた。米国向けの(1)武器技術の供与(2)弾道ミサイル防衛システムの共同開発・生産関係の武器輸出(3)弾道ミサイル防衛システム以外の共同開発・生産関係の武器輸出は、個別検討される。米国向けに限らないテロ・海賊対策支援等の案件についても、個別検討とされている。こうした例外措置は、その都度公表され、かなりの件数になっている。

  2000年以降には、武器の国際共同開発・生産への参加という観点から、武器輸出三原則等の見直しという議論が出てきた。そして14年4月1日、武器輸出三原則に代わる新たな政府方針として、「防衛装備移転三原則」が制定された。

 その内容は、(1)移転を禁止する場合の明確化(2)移転を認め得る場合の限定並びに厳格審査及び情報公開(3)目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保−となっており、武器輸出三原則の趣旨は守られている。

 背景には、輸出によって兵器生産量が増加すれば、防衛庁の調達価格が低下するということがある。このため、民主党政権時代にも武器輸出三原則等の見直しは継続されていた。

 日本が武器輸出国になることについて心理的な抵抗があるのもわかるが、既に米国、ロシア、英国、フランス、中国、イタリア、韓国、イスラエル、カナダは強固な軍需産業を有しており、日本が限定的に参入しても世界の大勢には影響ない。

 武器については国際共同開発することで同盟国との関係強化につながり、結果的に安全保障も強化されるだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)