数年に1度でも結構ですので血液検査を受けられたらよろしいかと思います。
どうもありがとうございました。
(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(桂文之助)お運びでございましてお礼を申し上げます。
どうぞひとつ私んところもよろしくおつきあいを願っておきます。
まぁおつきあいを願うと言いましてもね別に皆様方と結婚を前提として…。
(笑い)おつきあいをする訳じゃございませんのでひとつ安心して聞いて頂こうというような事でございますが。
まぁどんどんどんどん季節が進んでいく訳でございまして行楽のシーズンなんという事になりますというとまぁお天気なんかが非常に気になるシーズンでございますがね。
まぁ私こう見えましても…。
こう見えましても言いましてもどう見えてるかよく分からない…。
(笑い)分からないのでございますが。
噺家なんでございますが気象予報士という資格をねちょっと持っておりましてね気象予報士。
ええ。
独自にお天気予報ができるという資格でございましてまぁ別にそんな自慢するほどの事ではないのでございますが一応国家資格でございます。
(笑い)国家試験をこう受けて通らないと頂けない事になっておりまして別にこんな所で自慢するほどの事ではないのでございますが一応世間的には難しいと言われてる資格でございまして自慢するほどの事はないのでございます。
(笑い)確か合格率が6%やった…。
ええ。
(笑い)まぁ100人受けると6人ぐらいしか通らないというような事になっておりまして。
それでお天気のお話なんかもチョイチョイさして頂くんでございますがお天気を崩すのはまぁ大体がこの低気圧と前線というやつでございますね前線。
チョイチョイ聞かはると思うんですが前線皆さんご存じですか?前線。
ね?ええ?「スズメの留まってる」?いや。
それは電線でございます。
こんなんも交ぜながらねひとついきたいと思うんですが。
前線というのはですね皆さん方忘れてはるかも分かりませんが中学校の理科の時間で習ってはるんでございますね。
で別にそんなに難しいもんじゃない。
どういうものかと申しますというといわゆる性質の違う空気がぶつかってる所を前線と言うんですね。
例えば暖かい空気と冷たい空気がぶつかってる所とか乾いた空気と湿った空気がぶつかってる所これを前線と言うんですね。
ところが塊と塊なんでぶつかってる所は面になる面にね。
前線面て言う。
その前線面と例えば地面地表でございますね面と面とが交わりますとそこへこう線ができますんでこれを前線と言う。
ね?厳密に言うと気温の高い側のほうの線を前線と言う訳でございますがまぁ前線が通過または停滞する時には大気の状態が非常に不安定になりまして強い雨ね?落雷ね?雷でございますねそれと突風このごろございますが竜巻なんかも起こりやすいので十分に気を付けて頂かなければならないのでございますがただこの前線という線は目に見える線じゃございません。
今も言いましたようにね空気と空気の塊がぶつかってる所ですからねだからそんな線が空中にこう見えたりはしない。
ええ。
ですから気象予報士の方が時々テレビかなんかでね「こちらに前線がありまして」ってな事をね言うてはりますけどあそこに本当に前線があるかどうかは分からないんでございます。
ええ。
(笑い)だって目に見えないんですから確認はできないんでございます。
でもまぁ気温ね?それから風いろんなデータを突き合わしまして「大体この辺にあるやろな」ぐらいのもんなんでございますね。
ところが今日はせっかくこのNHKホールへ来て頂いておりますんで皆さんに目に見える前線を見て頂きたいと思います。
このホールの中にあるんですね前線がね。
どこかと申しますとこの舞台の端の線でございます。
ええ。
これが目に見える前線でございます。
なぜかと申しますと噺家が温めようという空気とお客様方の温まらない空気がぶつかってるんです。
(笑い)ええ。
ですからこの辺ね非常に大気の状態が不安定になってる。
(笑い)うまくすると爆笑の嵐になったりするんですけど時々冷たい風がピュ〜ッ。
(笑い)吹き抜けたりなんか致しますんでね我々のほうは十分気を付けないかん線やとまぁ言われてる訳でございますが。
また行楽のシーズンになりますとお天気もそうですが交通機関なんというのも気になるところでございますね。
このごろは大変交通機関が発達を致しまして速くね?快適に目的地に着くというような事になっておりましてええ飛行機でございますとかね新幹線とか速く。
まぁその反面旅の情緒なんというのはだんだんだんだん薄れていく訳でございますがまぁ便利は便利でね。
ところがそういう結構な乗り物のなかった時代江戸時代なんというのはですね乗り物がほとんどございませんので旅をするのもテクテクテクテク歩いてええ旅をしたそうでございます。
大変でございますね歩いて旅をする。
聞きましたところその時分の江戸今の東京ね?江戸から大坂まで大体15日ぐらいかけて歩いて旅をしたそうでございます。
健脚ですね昔の人は。
今ね〜?大阪から東京まで歩いて15日で行けなんてとてもとても行けないんじゃないかと思います。
ええ。
それもスニーカーとかウォーキングシューズとかそんな結構な物ない。
草鞋なんというような粗末な履物で旅をしていろいろ危険な事もあってもうほとんど大冒険だったと思うんでございますがね。
でその時分に乗り物はと申しますと馬か船か駕籠ぐらいなもんでございましてね駕籠これも時代劇のテレビドラマなんかでチョイチョイ皆さんも見はると思うんですがこれがまた効率の悪いというか不細工な物でございまして別に動力が付いてる訳やないしね車が付いてる訳でもない。
2人の人間がこう担いで1人の人間を運んでいくというね効率の悪いもんでございますよ。
ね〜。
でもまぁ安全は安全なんでございますね。
新幹線とか飛行機とかヒョッと事故になるとこれは大変な事になるんでございますがまぁ駕籠は大丈夫です。
ええ。
駕籠から落ちて即死したってそんなんあまりないんですからね安全は安全なんでございますが。
でこの駕籠屋さんというのは自前で駕籠を持ってる人駕籠屋さんというのは少なかったんだそうでございまして大概の方は親方から駕籠を借りるんだそうでございます。
レンタルしてもらう。
損料を払ってお金を払って貸してもらう。
その借りた駕籠でいわゆる商売をする訳でございます。
でございますんでお客さんが少なかったりまたねあぶれたりなんか致しますというともう駕籠の借り賃だけが損になりますんでそんな事になっては大変やというので街道筋で一生懸命駕籠屋さんがお客を呼んでたんやそうでございますが。
「へえ駕籠お供しまひょうか?へえ駕籠ええお安うしときます。
へえ駕籠お駕籠どうでやす?へえ駕籠お供しまひょうか?あっお女中。
ええ?あきまへんか?え〜お駕籠どうでやす?へえ駕籠お供しまひょうか?へえ駕籠へえ駕籠へ…。
おいおい」。
「はい?」。
「いやはいやないよ。
そんな所へへたって地べたに絵を描くなお前は。
子供か?立て立てお前。
何の絵を描いてんね?ええ?何で駕籠を担いでる絵を描いてんね?お前は。
頼りないなほんまに。
お前と俺と2人で担いでる駕籠やでおい俺にばっかり客呼ばさんとお前もあんじょう客呼べお前。
ええ?俺ちょっと小便してくるよってにその間あんじょう客呼ばなあかんぞ。
分かってるか?」。
「ええ?あっそう?いや呼ぶけどねはよ帰ってきてね。
頼りないよ」。
(笑い)「知ってると思うけど。
いやそれ呼ぶけどね。
へ…あっへえ駕籠おお供…。
へえ駕籠。
あっあっあっおや…。
あ〜へえ駕籠アハッ。
あっおや…。
へえ駕籠アハッ。
へえ駕籠アハッおや…。
あ〜へえ駕籠アハッ。
あっあ〜親方親方」。
「何や?」。
「へえ駕籠」。
(笑い)「何を?」。
「へえ駕籠」。
「あ〜そう?後ろへ回れ」。
「へっ?」。
(笑い)「後ろへ回れっちゅう」。
「何で?」。
(笑い)「何でて今お前『屁嗅ご』っちゅうたんやないかいな。
何のまじないになんのか知らんけど嗅がしたるよって後ろへ回りぃな。
ちょうど出そうな腹具合やわい。
あ〜出た出た出た。
早いこと嗅げ」。
「そんな。
何を言ぃな誰が屁が嗅ぎたいちゅうてまんね」。
「ほな何が嗅ぎたいんや?」。
「いえ。
別に何も嗅ぎたい事おまへんねいえ違いまんがなあの〜『お駕籠はどんなもんです?』っちゅうて尋ねてるんです」。
「お駕籠はどんなもんです?お前駕籠屋やろ?担いでて分からへんのかい?そんなもんやがな」。
(笑い)「真ん中にこう棒があって…」。
「いや誰が格好聞いてまんね。
いや違いまんがなお駕籠に乗ってやっとくんなはれとこない言うてまんねや」。
「何じゃいお前駕籠に乗れっちゅうてんのかい?」。
「そうでんねん」。
「要らん要らん」。
「そんな事言わんと」。
「要らんっちゅうねん。
家はな乗る手間で駕籠に乗る手間で歩いたほうが早い」。
「いえどなたもそうおっしゃる断りの決まり文句になってる『乗る手間で歩いたほうが早い』。
そんな事言わんと。
朝からあぶれてるんですええ。
人間の干物が2つできかかってるもう水けが抜けてパサパサになってるんです。
ええ。
ひとつね〜親方大将助けると思て乗ってもらえまへんやろか?」。
「何やて?助けると思て乗ってくれ?そこまで言われたら乗らん訳にいかんな。
よし人助け。
乗ったろ」。
「おおきにありがとさん。
ええ。
どうぞどうぞ乗ったっておくんなはれ」。
「よし。
さあ〜乗った。
やってもらおう」。
「えい。
あの〜どちらまでやらしてもらいまひょう?」。
「ウ〜ンどこでも構へんがな好きな所までやれ」。
「好きな所までてあてもなしに駕籠担がれしまへんねん。
やっぱしこうどっか行き先を言うてもらわんと」。
「何をぬかしてけつかるわれが『乗ったら助かる』っちゅうさかい乗ってやったんやどこでも構へんがな好きな所までやったらええがな」。
「いやそんなジャラジャラした…。
ほなあの〜こうさしてもらえまへんか?親方のお宅まで送らしてもらうという事で」。
「ああ。
そうしてもらうと私も助かる」。
「ええ。
お宅はどちらで?」。
「前の茶店や」。
(笑い)「前の茶店でね一服?」。
「一服やあれへんこれが俺の家や」。
「ええっ?これ大将のお宅?これ前の茶店?いえここなればここなれば乗る手間で歩いたほうが早い」。
(笑い)「せやさかい歩いたほうが早いっちゅうてるがな。
それを助けると思て乗ってくれっちゅうさかい乗ってやったんや。
やれ」。
「もう堪忍しとくんなはれ親方前の茶店そこまでそんな駕籠担ぐやなんかそんな阿呆らしゅうもない」。
(笑い)「阿呆らしゅうもない?退けこのガキは。
こっち回れ。
ええ?そのわれのな顔の真ん中に2つ黒う光ってんのそれ何や?それは。
『目でおます目でおます』?それ目か?俺はまた眉毛が落ちんように留めてある鋲かと思た」。
(笑い)「情けない目やほんま。
そんな目要らんわそんな。
ええ?大体なおのれらここで商売さらしてけつかったら日に二遍や三遍『弁当使うから茶くれ』の『煙草使うから火貸せ』のと家の店へうせさらさん事はなかろうがな。
家の店へ来るような客はな金ぎょうさん持った奴は少ないわ。
うん。
住吉さんちょっとお参りした帰り腰掛けて餅食うかニシン囓って茶碗酒飲んではした銭のつり銭もめったに置いてくような客はいてへんのじゃ。
そんな細かしい客つかまえて『へえ駕籠へえ駕籠』。
屁で死んだ亡者みたいな事ぬかしやがって誰も嫌がって寄りつかへんわほんまにもう。
家の店が流行らんのはお前らのせいやほんまにもう。
一遍なその頭胴体ズズズズズッとググググッとにえ込ましてへその穴から世間覗かしたろか?お前。
ええ?頭と脚と持ってくそ結びに結ぶぞ〜」。
(笑い)「それともなにか?口から尻までズボ〜ッと青竹通して裏表こんがり火にあぶって人間の焼き物こしらえたろか?まごまごさらしてけつかったら踏み殺すぜ」。
「相棒来てくれ。
えらい親父っさん乗せた」。
「えらい親父っさんやあるか。
親方。
まことに相すまんこって。
この男昨日この街道へ降ってきよりましたんで親方のお顔をまだ存じまへんねん。
ええ。
失礼な事があったんやろうと思いますがひとつな堪忍したっとくなはれお頼申します」。
「われの相棒かわれの相棒か。
頼りないのと商売してけつかんなほんま。
前もこんなんやったやないかいもうちょっとらしいの連れてこい。
分かった。
われの相棒ならしかたがない。
今日のところはまぁ堪忍しといてやるけどこれからこんな事があったらここで商売させんでほんまにもう。
この顔よう覚えとけ。
ざまぁ見されカスめが」。
「怖っ怖い親父っさんやね」。
「怖いおや…。
他人の陰へ隠れるなお前は。
怖い親父っさんやあれへんがな何で茶店の親父に駕籠を勧めるねん?」。
(笑い)「ウ〜ンけど私知らん」。
「知らんっちゅうたかて格好見たら分かるや。
あれが駕籠に乗る格好か?あれが。
前掛け掛けてるやないか」。
(笑い)「高下駄履いて手に塵取りまで持ってるやろ?」。
(笑い)「ちょっとその辺までゴミほかしに行たんと違うか?どこぞの世界にゴミほかしに行た帰りいちいち駕籠に乗って帰る奴がいてんねん」。
「いやいやうっかり」。
「いやうっかりやうっかりやあらへんしっかりせえ情けない」。
「けどえらいものの言いようやったで『頭胴体にえ込ましてへその穴から世間覗かす』てそれは見えへんと思うそれ。
それが証拠にへそからこう覗いても腹ん中見えへんもんね。
うん。
頭と脚と持ってくそ結びに結ぶてそれちょっと結びにくいわ」。
(笑い)「口から尻までズボ〜ッと青竹通して裏表こんがり火にあぶる。
あれっ?これはできるかな?」。
「何を…」。
(笑い)「しょうもない事感心してんねやあらへんがな。
のっけからカス喰ろうてんねやもう。
縁起直しやちょっと駕籠の向きを駕籠の向きを変えとけほんまにもう」。
「駕籠屋。
行けへんのかい?駕籠屋」。
「ええ?あっこらぁまことにえらいすまんこって。
いえちょっとこれに小言を言うとりましたんでへえ。
どちらまでお供をさしてもらいまひょう?」。
「板屋橋までなんぼで行く?」。
「板屋橋?ええ。
え〜決してお高い事は申さしまへん。
ひとつねえ〜御手やってもらえまへんやろか?」。
「御手か。
御手はちょっと高いな。
そこを鬼手にしとき」。
「アハ〜ッ鬼手?御手が高いから鬼手ね?ちょっと待っとくんなはれ。
相棒。
お前鬼手っちゅう符丁知ってる?ええ?知らん?親方。
我々長年駕籠をやってまんねんけど鬼手ってな符丁聞いた事ないんですけど鬼手てなんぼのこってすか?」。
「その前にちょっと聞いとかんならんねんけどお前の言うてる御手っちゅうなぁなんぼやねん?」。
(笑い)「ちょっと待っとくんなはれあなた言い値我々の言い値も分からんと値切んなはんな。
いや御手っちゅうのは手のこってす。
手は指が5本ね?5百5百文5百お願いしますとこない言うてまんねん」。
「あ〜それやっぱし鬼手にまけとき」。
「ウウ〜鬼手てなんぼのこってすか?」。
「鬼の手は指が3本やっちゅうさかいな3百文3百にしときっちゅうねん」。
「アハ〜ッ面白い旦那やな。
ええ?鬼の手は指が3本やから3百ね〜。
いや鬼手は辛いな〜もう一声」。
「そうか?ほな鳥手といきたいけど鳥に手は無いさかい鳥足か?」。
「えっ?と鳥足?鳥足てなんぼのこってすか?」。
「鳥の足も先がこう3本に分かれたあるやろ?けど別にこう蹴爪がちょっと付いたあるがな3百と12文」。
「もうそんな…」。
(笑い)「嫌らしい…。
もう一声」。
「ほな熊手といこか熊手。
あれはな指が4本やけど先がこうちょっと曲がってるよってこれ勘定がしにくいな〜。
お城に大手があって奉行所に捕手お茶屋に遣手で箪笥に引き手が」。
「旦那さん乗って」。
「そらぁもうおいてやめといて。
今日は手づくしでした。
さよなら」。
(笑い)「何や?あれは。
何や?手づくしでなぶっていきやがんのやがな。
ええ?のっけから乗る気も何もあれへんねや。
『旦那さん乗って』っちゅうたら『そらもうおいてやめといて』最後まで『て』やがなほんまにもうむかつくな。
もう一遍縁起直し。
駕籠の向きを変えとけ駕籠の向きを」。
「駕籠屋はん駕籠屋はん」。
「えいっ。
今度お女中や。
ヘエヘエ」。
「板屋橋までなんぼで行っとくんなはる?」。
「ウ〜ン今日はまた板屋橋が流行るな。
うん。
お女中のこって決してお高い事は申さしまへん。
ひとつね闇やってもらえまへんやろか?」。
「闇?闇高いわ〜。
そこ月夜にしなはれ」。
(笑い)「何でこんなおかしな客ばっかり続く?」。
(笑い)「いや姐さんあのね闇っちゅうのは晦日かたどって3百文3百お願いしますちゅうてまんねんけど月夜?あっなるほど十五夜かたどって百五十で行けとこう言いなはんの?」。
「そやないねんわ『月夜に釜抜く慌て者』っちゅうやろ?釜抜かれたと思てなただで行きなはれ」。
「た…」。
(笑い)「ただで行けや?女子やと思てなぶってけつかるは承知せんで」。
「まあ〜駕籠屋はん怒ったわ。
ちょっとこちの人待っとくんなはれな。
一緒に行きまひょいな〜。
今度はどの駕籠屋なぶりまんの〜?」。
(笑い)「今の手づくしの嬶やであれは」。
(笑い)「夫婦して夫婦してなぶっていきやがんねん。
もうどんならんなろくな客居とらへん。
もう一遍もう一遍駕籠の向きを変えとけ駕籠の向きを」。
「駕籠人棒の者駕籠人」。
「へえ。
おっお侍や。
駕籠人やて大層に。
へえへえ」。
「お駕籠が2丁じゃ」。
「あっ左様でございますか。
ししばらくお待ち。
もう1丁要るもう1丁要る。
芳とこ言うたれ。
走ってけよ走ってけ走ってけ。
ヘエヘエ」。
「前なる駕籠がお姫様後ろなる駕籠が乳母殿」。
「ヘエヘエ」。
「両掛けが2丁」。
「ア〜アッお〜い。
分持ちや〜。
辰とこも言うたれ辰とこも喜びよる。
早いこと行け走ってけ走ってけ。
ヘエヘエ」。
「お供回りは4〜5人付き添うてのう」。
「へえ」。
「左様なるお駕籠がここの所をお通りにはならなんだか?」。
(笑い)「へえ?あっアア〜ッお〜い戻っといで戻っといで〜。
尋ねてはんねん商売と違う商売と。
うん。
根っから存じませんが」。
「あっ左様か。
しからばいまだお通りがないと相見える。
身どもあれなる茶店に休らいおる故お通りあらば知らしくれるよう頼んだぞ。
さらばである」。
「誰がそんな者の番してるかほんまにもう。
阿呆…。
あ〜どうもエヘヘどうも。
お前もあんじょう聞いてから走れ。
「ア〜ッそらぁな…オホン何を言うねん。
お前が急げ走れっちゅうさかい汗かいて走ってん。
ええらかった」。
「ウ〜ン頼りない。
ええ?もうあのさ侍がいかんねん侍が。
お駕籠が2丁じゃ両掛けがて商売やと思うやないかい。
もう一遍もう一遍駕籠の向きを変えとけ駕籠の向きを」。
・「チャチャ〜ンチャ〜ンチャンか〜」・「姉と妹に〜年聞いて〜みたら」・「姉は〜姉だけ年が上〜」
(笑い)「当たり前や〜」。
(笑い)・「チャンチャンのチャンチャン」「けったいな唄歌うて来たで」。
(笑い)「自分の唄に突っ込んでたでおい。
ええ?昼日中えらい酔うてるがなお前。
こういう酒飲みはな性質が悪いで。
うん。
もう目目据わってしもたはるやろ?口の端に泡つけてな。
もう相手になるなや。
もう知らん顔しときや」。
「へえ駕籠」。
「言いなっちゅうてんのに」。
「いえ。
こういう人乗る」。
「乗らへん乗らへん」。
「へえ駕籠」。
「言いなっちゅうのに」。
「な何や?駕籠屋何や?駕籠屋」。
「ウ〜ンほら聞こえたがな。
いやな何でもおまへん。
どうぞお通りどうぞお通り」。
「私私通ってたら通ってたらお前のほうから声かけたんと違う?」。
「ウ〜ン見てみいや向こうにも理屈があるがな。
え〜せやない。
あっそうあの〜『ええご機嫌だんな〜』ちゅうただけ。
『ええご機嫌だんな〜』っちゅうただけだんねん」。
「何ですか?ええご機嫌だんな〜?うん。
するとお前私がええ機嫌で飲んでるか悪い機嫌で飲んでるか知ってるの?」。
「いえ。
そりゃ私知りまへんけど」。
「知らなんだらひょっと私が面白うない事があってやけくそで飲んでるとしてそんなとこへ『ええご機嫌だんな〜』っちゅな事言われたらむかつくよ。
そうでしょう?ええ?私をむかつかしてプッ喧嘩でも…」。
「もうこうなるがな。
いやいや大将そういう訳やおまへんねん。
どうぞ堪忍したっとくんなはれ」。
「ワハハハハハハワハハハハハしょ正直な駕籠屋や。
堪忍して。
ええ機嫌で飲んでんねん。
か堪忍してな駕籠屋」。
「いえ。
もうそんな堪忍するのせんのて阿呆らしい」。
「何が阿呆らしい?」。
(笑い)「お前堪忍でけん?」。
「な難儀やな〜。
どどない…」。
「お前もう『堪忍します』言うといたらええ」。
「お前が声かけるからこんな事になんねやもう。
ア〜ッあの〜堪忍します」。
「堪忍してくれる?」。
「堪忍します」。
「きっと堪忍してくれる?」。
「ええ。
きっと堪忍します」。
「クシュおおきありがと。
おおきありがと。
堪忍しにくいとこクシュよう堪忍してくれたクシュ。
けど私お前に堪忍してもらわんならんような悪い事したんか?こらっ」。
(笑い)「かなわんなもうどっからでも絡んでくるがな。
大将大将。
ほんまにほんまに堪忍したってくんなはれや」。
「ワハハハハハハすすまんすまん駕籠屋。
チョッちょっと私酔うてるね?」。
「ハア〜ちょっと酔うたはりまんな」。
「こない酔うつもりやなかったんや。
うん。
朝目覚ますとね天気がいい。
一遍住吉さんお参りしようかてご参詣済まして出てきたら後ろから『も〜し旦那さん』っちゅう。
フッと見たらお袖や〜アハハ。
知ってるやろ?」。
(笑い)「いえ。
私その人知りまへん」。
「いや〜。
知ってる知ってる知って…。
前磯屋裏に住んでた顔にパラパラっとソバカスのあるお袖」。
「いえ。
私その人知らんと思い…」。
「いやこれ言うたら分かるこれ言うたら分かる。
河内の狭山の治右衛門さんの孫。
そ〜ら分かった」。
「いえいえ」。
(笑い)「分かりまへんねん」。
「分からへんの?難儀」。
「いやこっちが難儀やがな何言ってなはんな」。
「『ちょっと間見ん間に別嬪になったな。
ええ?ええのんができてんねやろ?』『阿呆らしいそんなんいてたら苦労しますかいな。
ここで働いてまんねん。
上がっとくんなはれ』。
三文字屋へ上がって『酒持ってこ〜い』っちゅうやっちゃ。
ええ?床柱を背にご馳走ぎょうさん並べて飲んだよ。
うん。
銚子がね銚子が17本。
うん。
残った肴竹の皮へ包まして…。
あっお前らも言うといたるうん飲みに行って残して見栄はって残す事はないみんな持って帰ってきてやったらええ。
ね?向こうも助かる家の者も喜ぶっちゅうやっちゃ。
『勘定は〜?』言うたらポチも入れて2分1朱や。
な〜安いな〜駕籠屋アハハ。
あ〜お前嘘やと思てるな?」。
「そんな思てしまへん思てしまへん」。
「思てる。
ええ?『この酔いたんぼ2分1朱もよう使うかい』っちゅうな顔して嫌な目で見ちょる。
う嘘でない証拠ええ?三文字屋の料理じゃ。
な?海老の鬼殻焼きイカの鹿の子焼き卵の巻き焼き。
焼き焼き焼きっちゅうやっちゃアハハハ。
ハ〜ッハ〜クションハ〜クションプ〜ッ。
1つやろう」。
(笑い)「食え」。
「いえ。
もうもう結構です」。
「そんな事言わんとお前1つやろう。
食え」。
「お前も1つもろたら」。
「ようそんな事…。
ハクションプ〜ッ」。
(笑い)「薄汚い」。
「何?」。
「いや〜何も言うてしまへん。
何も言うてしまへん」。
「聞こえた。
聞こえたはっきりと聞こえた。
薄汚いとぬかしたな。
お前らそんな料簡やさかいこんな所で『へえ駕籠へえ駕籠』いうて言うてんならんのじゃばか。
ウ〜ン?あんじょう包め」。
「ウ〜ンせやさかい声かけなっちゅうてるやろ?こんな事させられんねやほんまにもう。
大将。
懐へ入れときまっせ」。
「すまんすまん駕籠屋。
私私ちょっと酔うてるね?」。
「ああ。
だいぶと回ったはりまんな」。
「こない酔うつもりやなかったんや。
朝目覚ますと天気がええ」。
(笑い)「『一遍住吉さんお参りしようか』。
ご参詣済まして出てきたら『も〜し旦那さん』っちゅう。
フッと見たらお袖や〜アハハ〜。
知ってるやろ?」。
(笑い)「いや。
そやさかい私その人知りまへん」。
「いや。
知ってる知ってる。
前磯屋裏に住んでた顔にパラパラっとソバカスのある…。
あっ河内の狭山の治右衛門さんの孫」。
「知りまへん」。
「おかしいな。
私よう知ってんねんけどね。
ウ〜ン『私ここで働いてまんね。
上がっとく…』。
三文字屋へ上がった。
『酒持ってこ〜い』っちゅうやっちゃ。
ご馳走ぎょうさん並べて飲んだよ。
銚子がね17本。
ね?残った肴竹の皮へ包まして『勘定は?』言うたらポチも入れて2分1朱や。
安いな〜駕籠屋アハハハハ。
お前嘘やと思てるな?」。
「いや思てしまへん思てしまへん」。
「思てる。
嘘でない証…」。
「また出してきたがなあれ」。
「三文字屋の料理や。
な?ええ?海老の鬼殻焼きイカの鹿の子焼き卵の巻き焼き。
焼き焼き焼きっちゅうや…。
ウ〜ンハ〜ッハ〜クションハ〜クションプ〜ッ。
1つやろう」。
(笑い)「食え〜。
ええ?いらん?誰がやるか〜。
あんじょう包め」。
「ほんまにお前を恨むでお前。
一声声かけたがために俺これ何遍させられるね?これ」。
(笑い)「いつ終わんねん?これおい。
懐入れときまっせ」。
「さあ〜すまん駕籠屋すまん。
私ちょっと酔うてるね?」。
(笑い)「よっぽど回ったはりますわ」。
「こない酔うつもりやなかったんや。
朝目覚ますと天気がええ」。
(笑い)「『一遍住吉さんお参りしようか』。
ご参詣済まして出てきたら後ろから『も〜し旦那さん』っちゅう。
フッと見たらお袖や〜アハ〜。
知ってるやろ?」。
「知ってます」。
(笑い)「よう知ってます。
前磯屋裏に住んでた人でしょ?顔にパラパラっとソバカスのある」。
(笑い)「河内の狭山の治右衛門さんの孫でしょう?」。
(笑い)「何やお前よう知ってるなお前」。
(笑い)「『ちょっと間見ん間に別嬪になったな』『私ここで働いてまんねん。
上がっとくんなはれ』。
あんた三文字屋へ上がんなはった。
ええ?『酒持ってこい』っちゅうやっちゃ。
ご馳走ぎょうさん並べて飲みなはった。
銚子が17本やね。
残った肴竹の皮へ包まして『勘定は?』言うたらポチも入れて2分1朱や安うおまっしゃないかいな。
『駕籠屋お前嘘やと思ってるやろ?嘘でない証拠』。
懐から包み出してきて海老の海老の鬼殻焼きイカの鹿の子焼き卵の巻き焼き。
焼き焼き焼き。
ハクションプ〜ッ。
1つ食え」。
(笑い)「『いらん?誰がやるか。
包め』。
包み直して懐ん中へ入れて他に何ぞおましたかいな〜?」。
「そない言うたら私の言う事が無い」。
(笑い)「もう無かったらよろしもう帰んなはれ帰んなはれ。
おかみさんおかみさん待ったはりまっせ」。
「あっ駕籠屋えらい事言うた。
嬶待っとる。
うん。
家の嬶は貞女ですよええ嫁はんや。
あっ家の嬶とのねそもなれそめの話をしよう」。
「いや。
もうもう…」。
(笑い)「もうよろしい。
そんなん聞いてたら日が暮れる」。
「まぁそう言うな。
私ね毎晩酔うて帰る。
うん。
『先寝えよ』っちゅうのにね寝よらん家の嬶。
うん。
針仕事しながらね私の帰るのを待ってる。
ね?『今頃家の人はどないしてはるやろ?今頃は今頃は今頃は…』」。
・「半七っつぁんチ〜ン」・「どこにどうして〜エエござろうぞ」「なんてハハハハ。
私と越路太夫とどっちがうまい?」。
「ウ〜ン知りまへん。
越路太夫てねそんなん聞いた事ないから分かりまへんわ」。
「愛想のない駕籠屋や。
たとえ知っても知らいでもや『いやあんさんのほうがお上手です』と言うてみい。
『ワ〜ッ駕籠屋のべんちゃらには負けた〜。
ハハ〜ッしゃいなら』。
シュ〜ッと去のうと思てたんや」。
(笑い)「お前が去ねんように去ねんようにする」。
「阿呆な事おっしゃらんように」。
大騒ぎでございます。
お馴染みの「住吉駕籠」で失礼を致します。
(拍手)
(打ち出し太鼓)2015/10/24(土) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
日本の話芸 落語「住吉駕籠」[解][字][再]
第355回NHK上方落語の会(9月3日(木)、NHK大阪ホールで収録)から桂文之助さんの「住吉駕籠」をお送りします。
詳細情報
番組内容
第355回NHK上方落語の会(9月3日(木)、NHK大阪ホールで収録)から桂文之助さんの「住吉駕籠」をお送りします。【あらすじ】住吉神社で客待ちをする駕籠(かご)屋のところにはいろいろな客が声をかけてくるがなかなか商売にならない。そこへやってきた堂島の相場師を客にしたのはいいが、この客が騒動を巻き起こす。この相場師、駕籠に乗ったのはいいのだが…。
出演者
【出演】桂文之助,高橋まき,桂米輔,桂米左,桂佐ん吉,増岡恵美
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz
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